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世界はこう変わる

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2015年4月19日

ロシアが核兵器で脅すので世界中核武装 ということにならないように

(これは3月31日の「Newsweek」(日本版)に掲載されたものの原稿です。少し違います)
 ロシアのクリミア占領から1年経った。ヴラジーミル・プーチン大統領は、3月15日テレビで放映されたドキュメンタリーで当時の緊迫した様子を明らかにした。その中に「ロシアの行動にどのような反応が返ってくるかわからなかったので、軍にしかるべき指令を与えた」と言い、「それは核兵器を臨戦態勢に置いたということですか」と聞かれて「そうする用意があった」と答えた 。

これは西側マスコミに、プーチンは核を使う用意があったと報道され、世界を驚かす。ロシアは核を本気で使おうとする国なのだ、というわけだ。プーチンは、昨年2月21日ウクライナ政権が倒れたのは米国の差し金で、ウクライナ新政府はクリミアのロシア黒海艦隊本拠地セヴァストーポリ制圧を狙ってくるだろう、ここを取られたらロシアは黒海の制海権を失うと思い込んでいたようだし 、しかも米国がイージス艦を黒海に派遣してきたので、プーチンは核戦争にまで至るのを心配したのだろう。

 だがそれは、米国の力を過大評価し、米国の意図を読み違えたものでなかったか。プーチンが核兵器使用におおっぴらに言及したことで、オバマ大統領が就任時目標としていた「核のない世界」は幻想として吹き飛んだ。彼が来年計画している国際核安全保障首脳会議も、その構想を随分変えなければなるまい。ロシアは昨年11月から、この会議には出ないと言っている 。広い領土を僅か約30万の職業兵 で守らなければならない(他に40万以上の徴兵兵士がいるが、兵役期間は僅か1年で使い物にならない)ロシアとしては、核兵器はなくてならない抑止手段なのである。

 新しい状況の中、米ロの核兵器をめぐっては、これから次の課題が生ずる。まず相互に叩けるだけの長距離、いわゆる「戦略核兵器」の数を制限した新START条約が2021年に失効した後をどうするか、という問題である。そして双方ともその前に、老朽化した現有戦略核弾頭をどのくらい更新・近代化するか目安をつけなければならない。ミサイルと弾頭の更新は多額の予算を食う。

次に中距離核ミサイル復活の問題がある。同型のSS20をソ連が1970年代、西欧を攻撃可能な位置に配備して大問題となり、1987年米ロが条約を結んで相互に完全廃棄を誓ったものなのだが、そのために今のロシアは中国、北朝鮮、イランなどが保有するだろう核ミサイルを抑止する手段を持っていない。米国は既に、ロシアが中距離ミサイルを新たに開発・実験中だとして抗議を繰り返している。このミサイルは、もし極東に配備されると日本も射程に入る。

もう一つ、戦術核兵器の問題がある。ロシアはこれを1000~2000発保有していると推定され 、西欧には米軍の戦術核兵器が200程 、ドイツをはじめ数カ国に配備されている。ドイツはこれについて発射要請権を持っており、米国が同意すれば実際に使用される(または米が提議してドイツが同意を与える場合もある)。これまでは冷戦は終わったとして、撤退を求める声が欧州で高まっていたが、これも逆に保持・近代化の方向に進むだろう。

肝心のアジアでは、中国、北朝鮮が核配備を増やしているのに、米国の核の傘は薄くなってしまった。潜水艦発射の巡航ミサイル「トマホーク」から核弾頭が撤去されたからである(2013年前 )。日本への核攻撃を抑止するものは、米軍爆撃機の爆弾、潜水艦発射の弾道ミサイルくらいしかない。日米でミサイル防衛システムMDを開発中だが、百発百中でない上に、海上発射の巡航核ミサイルには対処できない。米国は宇宙配備等、非核の戦略兵器を開発中だが、まだ未知数だ。

そして1970年NPTに署名し、核兵器を持たないことを誓わされた日本は、プルトニウム保有の権利を米国から獲得して、これを僅かな抑止手段としているのだが、原発撤廃を進めるにつれ、これも再検討の対象になってくるだろう。日米原子力協定は2018年には期限を迎える。核の面での抑止力を確保しておかないと、日本は中国やロシアによる「核の威嚇」に弱い国となる

プーチン大統領は、持ち前の負けん気から核をひけらかしたのだろうが、実際には冷戦後閉まっていたパンドラの箱を再び開け、ロシアの立場を悪くしてしまった。米国との無茶な軍拡競争が命取りになったソ連のようにならないといいが。

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