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世界はこう変わる

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2018年12月20日

Politico-militaryな世界情勢 MK3第6号

「安全保障研究ギルド "MKⅢ"(MK3を改名)」によるニュースレター第6号を発行しました。MKⅢのメンバーは次の4名。この号は、だいたい7月から11月までをカバーしています。


(同人名:あいうえお順)
河東哲夫 Japan World Trends代表(欧州及び総括)
小泉悠 未来工学研究所特別研究員(ロシア及び周辺)
近藤大介 講談社週刊現代特別編集委員(中国、朝鮮半島)
村野将 岡崎研究所研究員(米国)

なお、日本版Newsweek11月13日号は、「世界7大火薬庫」と題する特集で、世界の政治情勢を分析。ここにMKⅢのメンバーが揃踏みをしました。これからも、MKⅢをそのように使っていただければ幸甚です。
 
目次
大国・大国間関係の動向
1)よろめきつつも指導権を維持する米国・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
2)米国の悪意をもろに受け、よろめき始めた中国・・・・・・・・・・・・・・3
3)西側に閉め出され、ソ連回帰の道をまっしぐら――ロシア・・・・・・・・・3
4)メルトダウンするヨーロッパ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
5)米ロ関係―「新冷戦」にトランプを引き込む米議会・国防省・マスコミ・・・6
6)煉獄に置かれた米中関係・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
7)「中ロ同盟」虚実・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

その他の動き
1)原油市場をめぐる米国、サウジ、ロシア、イランの虚々実々・・・・・・・・9
2)米国は、民主化・レジーム・チェンジに代わって、「国際極右連合」結成へ?・9


大国・大国間関係の動向
(以下原案は河東が起案。各同人が修正・追加)

1) よろめきつつも指導権を維持する米国
米国は格差拡大、移民数の増大、党派対立・金権政治の激化等、もろもろの問題をどうすることもできず、末期のローマ帝国を思わせるような「ガバナンス喪失」の状況にある。そしてそれに、トランプの衝動的な性向が油を注いでいる。Kakistocracyという言葉があるが、今の米国はその社会の中で最悪の分子が権力を保持している気味がある。但し、トランプを支える中西部の白人中産層は良識を失ったわけではなく、トランプを盲目的に信奉しているわけでもない(「記者、ラストベルトに住む」金成隆一)。
また、何度も言うように、世界における米国の地位を支える柱の一つ、「ドルの力」はまだ安泰である。ロシア、中国、欧州等は、「ドルを使わない国際決済」の方法を開発しようとしているが、中ロ間においてさえその貿易の90%近くはドル決済である。
なお、ドルがこれだけ普及しているのは、中東原油への支払いがドルで行われてきたことによるが、この面では次第に風向きが変わるかもしれない。と言うのは、米国の中東原油輸入量は減少しているので、中東諸国は理論的に言えば、欧州とはユーロ、中国とは元で取引がしやすくなっているからである。ただ実際には、ドルでの決済が選好され続けるだろう。大量、安価、しかもほぼ24時間ベースでのドル決済を可能にするインフラ(CHIPSと言う)が米国に整っているためである。

2)米国の悪意をもろに受け、よろめき始めた中国
米国が統治能力と社会の活力を失う中で、中国がいよいよ米国を上回ると言う者が多いが、こちらも米国を上回る構造的問題を抱えている。外国からの直接投資と、それがもたらす貿易黒字は、中国の経済成長の「シードマネー」(2016年でも中国の貿易黒字は5107億ドルに達する。これは人民幣に転換されて不動産・インフラ投資に回り、高度成長を演出してきた)となってきたが、これが縮小のトレンドとなれば、不動産価格は暴落、それによって不良債務が激増して銀行が融資能力を大きく失う等、経済の逆回転を起こしかねない。これまで中国経済の活力を支えてきた民営企業には、財務状況悪化から政府に支援を求めて国有企業の傘下に入るものが増えている。西側マスコミでは中国での起業ブームが喧伝されているが、成功するのはほんの一握りで、死屍累々の状況が続いている。さらに、7月からのアメリカとの貿易戦争が、「雪上加霜」(火に油を注ぐ)という結果を生んでいる。

3)西側に閉め出され、ソ連回帰の道をまっしぐら――ロシア
結局、低位に貼りつきながら、原油価格高騰に助けられて生活水準をじわりじわりと上げてきたロシアが、大国の中では皮肉なことに最も安定しているのかもしれない。とは言え、9月10日の統一地方選挙では、22個所での改選知事のうち実に4個所で与党「統一」の候補が敗れている。また年金支給年齢引き上げで、男性などは平均寿命約70歳のうち年金をもらえるのが5年間だけという悲劇的状況になろうとしており、プーチン大統領への支持率は9月で66%に下落(レヴァダ調査。昨年8月は83%)している。
1905年は生活苦に日本への敗戦が重なって、「血の日曜日」事件に象徴されるような騒擾状態が現出したが、今回も当局が北方領土問題の処理を誤ると同様の事態を招きかねない。11月以来、フランスのパリ等で、SNSでの煽動による騒擾事態が相次いでいるが、同様のことが2011年12月モスクワ等でも起きているのである。
プーチンの任期は2024年までだが、彼は三選を禁じている今の憲法を変えてまで留任をはかることはしないだろう。従って、「プーチン後」について、ロシア内外で議論が始まっている。その中で蓋然性が高いと思われるのは、カザフスタンの例にならってプーチンが国家安全保障会議(軍、諜報、警察、外交を総括)議長に就任、かつての中国の鄧小平にならって(鄧小平は表のポストは避け、共産党中央軍事委員会主席の地位を長く保持した)国家の実権を握って院政を敷くというものである。彼は自負心が強いし、また彼の下で確立した利権構造を司る者達もトップの変更を望まないからである。
その場合、飾りの大統領として有用なのはメドベジェフ首相、またはソビャーニン・モスクワ市長であろう。最近のモスクワでの下馬評では、「プーチンの後継=ソビャーニン」という声が高まっているようだ。11月23日、クリミアで拡大幹部会が開かれたが、インフォーマルな議論の場ではプーチンの座ったテーブルにソビャーニンが同席し、メドベジェフの姿は見られなかった。出席した記者は、「ソビャーニンのところに挨拶に来る者が最も多かった」と書いている。
ソビャーニンは、石油で豊かなチュメニ州の公務員叩き上げで、同州知事を務めた後、2005年プーチン第2期の大統領府長官に抜擢、2010年以来モスクワ市長として、街の美化、IT基盤の強化等に務めて、住み心地の良さでモスクワを世界6位の座(11月カナダのResonance Consultancyの格付け)に引き上げた功績を持つ。その性格は名前の発音に近い「側用人」的で、手堅いが前面には出ようとしない。しかもメドベジェフと違って、下僚への抑えは効く。プーチンが院政を敷こうと思ったら、理想的な「側大統領」になるだろう。
なお、トランプ米国が内向きなのをいいことに、ロシアが恣に外国に進出を強化している。カネを使って進出する中国と異なり、ロシアは十八番の「力」、つまり傭兵を使う。既に中央アフリカ共和国には傭兵会社Vagner等から1000名を超える傭兵が派遣されているし(内戦状態の同国政府から、政府ベースで援助の要請があったのを受けたもの)、エジプト、リビアにもロシアの兵力が存在する。そしてイェーメンにもロシアの傭兵の存在が云々されている。イェーメンは良港アデンを擁し、冷戦時代にはソ連海軍も拠点を構えて、ペルシャ湾、紅海それぞれの入口、そしてインド洋ににらみを利かしていたものである。
ロシアは近年、隣国のベラルーシに対して、ロシア軍の基地設置を認めるよう圧力をかけ続けている。これは「NATOの増強」に対抗するためのものであるが、ロシアに内政干渉されることを恐れるルカシェンコ大統領は、ロシアの圧力をのらりくらりとかわすとともに、米欧諸国にすり寄っている。ロシアは基地設置を呑まなければロシア製兵器を供与しない、あるいはベラルーシ製兵器コンポーネントを購入しないといった圧力を掛けているが、ベラルーシは小規模ながら中国製兵器の導入や中国との兵器共同開発に乗り出しており、中国のプレゼンスがロシアのレバレッジを侵食する傾向が見られる。
またアフガニスタンでは、トランプ大統領の本音が米軍撤退であることを見透かして、関与を強めつつある。最近数年にわたってわたりをつけてきたタリバンの代表を11月9日、モスクワに招待。中国、パキスタン、イラン、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの代表と共に、アフガニスタン和平についての話し合いの場をスタートさせた。これにはアフガニスタン政府、米国の代表は参加しておらず(米国大使館からは傍聴に来たのみ)、ロシアのアフガニスタンへの復帰を印象付けるものとなった。
これらの動き、特に傭兵はどこまでロシア政府の意向を反映して動いているものかはわからない。例えば、軍は傭兵会社を嫌っているが、Vagner社の場合、社長のプリゴージンがプーチンに個人的に近いため、手をつけられないでいるのである。中国の場合、各省、各企業が海外でばらばらにカネを出しているが、ロシアの場合、武力を持つ組織が多くて、その動きはばらばらになり得る。危険なのは、傭兵に極右勢力が入り込んでいることで、彼らを訓練する基地はロシア国内にある。国内を不安定化させる勢力になり得るのである。現に11月、連邦保安庁は、傭兵企業E.N.O.T.社を全国で取り締まっている。
中央政府のコントロール下にない暴力装置としては、チェチェン共和国首長カディロフが擁する私兵も、モスクワ等で恐れられている。15年2月ロシアの野党指導者ネムツォフの暗殺には、彼らの関与が云々されているし、湾岸諸国等で彼らはカディロフの命を受けて反カディロフ分子等の暗殺を恣に行っている。
冷戦時代のソ連は、米国に異常な対抗意識を燃やし、米国の嫌がるところに進出するのを常としていた。「米国も同じことをやっているではないか」というのが、彼らの理屈だったが、今のロシアも経済力を欠き、自分の行動を擁護してくれる同盟国もないのだから(2014年ロシアがクリミアを併合し、東ウクライナに武力進出して以来、旧ソ連諸国の多くはロシアへの警戒姿勢を強めている)、控えるのが身のため、国民のため、と思う。

4)メルトダウンするヨーロッパ
 EUは船長を失い、漂流を始めようとしている。BREXITで麻痺している英国はもちろん、与党党首を辞任することで権力をかろうじてつなぎ止めているドイツのメルケル首相は指導力を大きく後退させ、唯一残っているかに見えたフランスのマクロン大統領も反政府の自然発生暴動の結果、権威と指導力を失っている。イタリアが財政赤字問題でEU総体と対立を続ける中、欧州中銀ECBは来年11月、総裁交代の時期を迎える。
 7月のNATO首脳会議をきっかけに、EU諸国はトランプ米国との対立色を鮮明に打ち出してきた。一時はトランプにすり寄ったマクロン大統領も「欧州軍を作って、米国からも身を護る」決意を表明。ドイツのハイコ・マース外相も、ドル決済を回避するメカニズム創設を呼びかけている。いずれも受けを狙ったポピュリスト的発言であり(但しドルを使わない決済システムは整備されるだろう)、現場では緊密な米欧協力が続いているはずなのだが、物は弾み、反米、反欧的発言が自己増殖してコントロールを外れるようなことがないよう、注意してもらいたいものだ。

5)米ロ関係―「新冷戦」にトランプを引き込む米議会・国防省・マスコミ
米ロ関係では、7月16日ヘルシンキでの首脳会談が注目されたが、会談後の記者会見でトランプがロシア非難を避けたことで議会、マスコミをますます反ロの方向に追いやるという、失敗の結果に終わった。11月中間選挙で下院の多数を民主党が占めたことから、対ロ制裁法案(ロシアの大銀行との取引を禁じることでドルの使用をロシアに禁じ、ロシアを世界貿易から締め出す効果を持つもの)が再び上程されるものと思われていたが、棚上げになっている。11月25日にはアゾフ海でウクライナ舟艇がロシア艦船から銃撃を受ける事件が発生したが、米国内での報道はさほど盛り上がっていない。おそらくモラー特別捜査官による、トランプの「ロシア・コネクション」捜査が佳境に入り、こちらの方が反トランプには効果的だと、民主党は考えているのだろう。民主党は、反ロを反トランプの道具として使っているのである。
米ロ関係で興味深いことは、「軍縮・軍備管理」という、議会も反対できない分野で米ロ関係が動く可能性があることである。つまり10月20日、トランプ大統領は、1987年に米ソ首脳が締結した「中距離核兵器全廃条約=INF条約」からの脱退意向を表明、それをフォローするかのように10月23日、ボルトン安全保障問題補佐官が訪ロして、プーチン大統領とも会談したことがそれを意味するのである。
INF条約は、1970年代末、ソ連が中距離核ミサイルのSS-20を欧露部に配備、これに対抗して米国が中距離核ミサイルのPershing-2を欧州に配備したのを受けて、相討ちの形で双方完全撤廃を実現したものである。しかしその後、中国が中距離核ミサイルを百基以上所有し、日本等、米国の同盟国を照準下においたのに対して、米国が十分な抑止力を提供できておらず、ロシアもイラン、北朝鮮、中国等が配備した中距離核ミサイルを抑止する手段を持たないという状況が現出した。
現在は米ロ双方とも海上、海中、あるいは空中から発射する中距離核ミサイルを保有しているが(INF条約が禁じているのは陸上配備のもののみ)、中国にINF撤廃・削減を迫るだけの迫力はない。そこで、米国はINF条約からの脱退という行動で中国に圧力を加え、米中ロシアによる核削減交渉を始めようとしているのである。その趣旨はボルトンがモスクワで記者に対し、「INF廃棄はロシアのことだけ考えてのことではない。日本、台湾、韓国、豪州等が中国のミサイルに対して持つ懸念も考慮して、特に中国を含む多国間条約を結ぶことが狙いだ」と述べている(10月24日付www.theduran.com)。
これは、対ロ強硬派で鳴るボルトンを前面に立てて、実際にはロシアと軍備管理・軍縮で手を握り、中国に圧力をかけるという巧みな外交になり得るとも見えるが、中国が交渉に応じると見る米国内の専門家は殆どいない。条約多角化はあくまで実現しないとわかった上で、軍事的対抗手段を用意するエクスキューズとして述べているものであろう。
INF以外にも、米ロは2021年2月には失効する「新START条約」(双方の戦略核弾頭数を1550ずつに制限するとともに、厳しい相互査察を定めている)をどうするか、失効するに任せるか、更新するか、新しい条約を結ぶかの選択に迫られている。

6)煉獄に置かれた米中関係
12月1日、ブエノスアイレスでのG20の場で米中首脳会談が開かれたが、共同声明が出されることもなく、結果は、「関税の25%への引き上げを3カ月猶予する」という米国の口約束に対して、中国が米国農産物への関税撤回等を一方的に差し出す、中国にとって惨めな結果に終わった。トランプはこれからも、「関税引き上げ猶予」を武器に、中国から譲歩を搾り取る戦術を2020年の大統領選挙まで続けるつもりだろう。
一方10月4日ペンス副大統領はハドソン研究所でスピーチを行い、中国はあらゆる面で米国に挑戦する姿勢を強めていると非難。マスコミはこれをもって、米中新冷戦の開始と形容した。トランプ周辺にはムニューチン財務長官のように対中柔軟派もいるので、今後対中対決一本槍で推移するわけでもなかろう。また中間選挙前、あるいは12月初めのように、対中貿易紛争が株価を下げると(12月の株暴落は、長短金利の逆転、つまり米国景気の先行き不安によって起きた面も大きい)、トランプはすぐツイッターで「中国とはそれほど悪くない」と発信。株価を維持している。前述のように米国では、彼を支持した中西部の白人中産階級の多くが株で資産を運用しているのである。
 かくてトランプは、中国という選挙の餌をくわえたまま放さない。そのような不安定な状況では、中国は「対米輸出基地」としての意味を失う。外資は中国への新規投資を控えるとともに、生産を米国あるいはアジア諸国に移しつつある。外資系企業による中国からの輸出が、輸出全体の43,7%を占めている現状(2016年JETRO)、そして中国の対米貿易黒字は2016年でも2507億ドルに上り、貿易黒字全体の49%を占めている現状では、これは中国の外貨獲得能力を大きく減じることとなろう。外貨準備は減少傾向にあり、一時喧伝されたAIIB(アジア・インフラ投資銀行)もほとんど俎上に上らなくなった。
  米中関係においては、これから中距離核ミサイル軍縮が大きなテーマとして浮上するだろう。日本では北朝鮮のミサイルに神経質になっているが、実は中国の方が日本に到達する核ミサイルを100―300基程度配備していると見られ、はるかに大きな脅威なのである。
しかし中国にとってINFはその核ミサイル戦力の95%にも相当するものなので、削減には容易に応じないだろう。米国は通常弾頭の巡航ミサイルを多数配備して中国の防空能力に余計な荷重をかけたり、潜水艦・艦船搭載の低出力核兵器を配備することで、中国の脅威に対処することになるだろう。これを日本本土に配備する構えを見せると、1980年代初めに西独で起きたような強い反対運動を引き起こす。
なお、北朝鮮の李勇浩外相が訪中し、12月7日に習近平主席と会談。軍事同盟国としての親密さをアピールした。金正恩の韓国訪問も後れるもようであり、その中ではウラジオストクで近くロシア・北朝鮮首脳会談が行われるのではないかとの観測があることが目立つ。

7)「中ロ同盟」虚実
中ロと言えば、圧力を強めてくる一方の米国に対して、しっかり団結・対抗していることになっている。しかしそれも、虚々実々である。まず、両国ともドル決済からの訣別を叫ぶわりには、両国間の貿易ですら、それを実行できていない。ロシア側のデータ(10月19日付www.rt.com)では2017年、ロシアの対中輸出の9%をルーブルで決済、対中輸入の15%を元で決済しているに過ぎない。
最近中国は、シベリア、ロシア極東への融資を強化していると言われる。2012年には双方が10億ドルを拠出して「ロ中投資基金」を設立。これまで25件に60億ドルの融資を行っている(9月25日Financial Times)。しかしウラジオストックのあるロシア人専門家が言っていたが、「中国の投資なるものは、どこにも見えない。神話だ」という側面もある。また北京在勤のロシア人銀行家は、「中国の商業銀行はロシアと関わって米国に制裁されることを恐れ、対ロ案件への関与を断る時がある」と述懐している(9月14日付www.lenta.ru)。中国としても、背に腹は代えられない。
中ロは時々派手な共同軍事演習を行う。しかしそれも、虚々実々なのである。両国は9月、バイカル湖近辺で、中国から3000名余が参加しての大規模共同軍事演習を行った。しかし、これはロシア軍の大規模演習「東方」の一部であり、全体としてはロシア軍数万名(ロシア国防省の公式発表では29万7000人を動員したことになっているが、実際には5万人がせいぜいと見られる)が展開して、戦術核の使用をも想定して大軍の侵攻を撃退する大規模な演習を行っていたのである。これは、中国軍以外の相手は考えられないものであった。実際に、極東配備のロシア軍は、常に中国方面をも警戒しているのである。また、中国人民解放軍も、陸軍の共同演習に、1980年代の装備で臨み、対ロ不信感を覗かせた。
更に、米国は中距離核ミサイル削減交渉を中国にも仕掛けようとしている。中国の中距離核ミサイルの削減は、実はロシアにとっても願ったりなのである。中国の中距離核ミサイルはロシアの主要部分に到達するが、これに対してロシアはこれまで抑止・対抗手段を持っていなかったのだから。つまり米中ロシア三国の交渉の場で、ロシアが米国の立場を暗に支持する場面も出てき得るということで、これは中ロを離間させる要素となるのである。そのことは、ロシアの識者が既に指摘するところとなっている。

その他の動き
1) 原油市場をめぐる米国、サウジ、ロシア、イランの虚々実々

米国の中間選挙、そしてサウジ・アラビアの反政府ジャーナリスト、カショギ氏がトルコで暗殺されたことは、原油市場にも響いた。11月5日、米国政府は、イラン原油の輸入停止制裁措置は、中国、日本、韓国等8カ国・地域に限っては180日の実施猶予期間を与えると発表した。トランプとしては、中間選挙を前に国内ガソリン価格が大きく上昇するのを何としてでも防ぎたかったのであろう。これでまた、彼のやることは場当たりで、いろいろなことを十分先読みした上でのことではないこと、彼の気まぐれで同盟国等がどれだけ迷惑しようが知ったことではないことが明らかになった。
これで原油価格は大きく下げた(なおロシアは、こうなる前から「イランの原油をロシアの機械等との物々交換で引き取る。イランの原油をロシア国内で使い、その分余ったロシア原油を輸出する」用意があることを表明していたが、それは実行されたとしても、輸出減少分の10分の1程度にしかならなかったはずである)。
 イラン制裁が骨抜きになった上、原油価格まで下がったのを見たサウジ・アラビアは怒った。ロシアと語らって、原油減産を実現しようとしたのだが、これがトランプに効いた。前述のように、国内ガソリン価格上昇を防ぎたいトランプは、トルコでサウジの反政府ジャーナリスト、カショギ氏が暗殺された件で、サウジ・アラビアの関与を断言するのを控えたのである。サウジは減産に出ることはなく、一時1バレル79ドル(ドバイ)にまで上昇した原油価格は、12月初めには60ドルを一時割る水準まで下落した(その後12月8日、OPECとロシアは結局、減産で合意したが、原油価格はさして上昇していない)。

2) 米国は、民主化・レジーム・チェンジに代わって、「国際極右連合」結成へ?
米国の主流はこれまで、海外の途上国・旧社会主義国における専制体制を内部から崩すことが世界のため、そして米国の安全保障に資するものと考えてきた。レーガン時代には当時のCIA長官の肝いりで、それまでCIAが行ってきた海外での「民主化工作」をNGOに委託することが開始された。議会は共和・民主両党のイニシャティブで、毎年約1億ドルの予算を国務省等を通じ、「民間団体」のNational Endowment for Democracyに渡し、この財団が更に多数の民主化NPOに助成金を配布する構造を作り上げた。
これらNPOはロシア等旧社会主義諸国、そしてイスラム諸国等の野党勢力を資金・ノウハウの双方で支援、「選挙の開票結果を不正だとして騒ぎ立て、その勢いで政権を打倒する」レジーム・チェンジの手法を確立した。こうしたNPOの工作だけで騒動が起きたわけではなく(2003年グルジア、2004年ウクライナ、2011年エジプト等)、その国に不満がたまっているからそうなったわけだが、SNSで大衆を集会に駆り立てる手法はこれらNPOが伝授したものである。
しかしトランプ大統領は、このような海外での工作活動に批判的で(「どうでもいい海外のことに無駄なカネを使っている」という、国内の批判を反映)、外国の「主権」を尊重することを打ち出している。そのためか、今年度の予算には上記NEDに対する1億ドルの助成金が含まれていないとの報道がある。それは事実かもしれないが、共和党、民主党とも民主化のためのNPOを傘下に抱えている。共和党ではInternational Republican Institute、民主党ではNational Democratic Instituteであり、大統領選などではこれらの団体が党に選挙運動資金をキックバックしているとの報道もあるので、NEDへの支出は表向き廃止されたとしても、いろいろな予算項目に潜んでいるに違いない。来年のNEDの会計報告を見れば、その点は明らかになるはずだ。
面白いのは、米国が民主化とは正反対の方向での海外活動を始めたことだ。それは、ネオナチの糾合である。トランプの戦略問題補佐官だったスティーブ・バノンは、極右Alt-Rightの幹部だが、欧州を動き回って、各国の極右勢力との渡りをつけている。ハンガリーのオルバン首相は、その右翼・専制主義的な言動でEU諸国の顰蹙を買い、ロシアへの接近を強めてきたが、彼は最近トランプ米国に近づいている。彼は11月、バノンを選挙参謀格として抱える旨公言している。
そして面白いことに、ロシアも欧州の極右勢力を以前から助けて、モスクワで国際会議を何度も主宰している。そしてここには米国の白人民族主義団体の代表も出席しているのだ。
かつてソ連は、国際共産主義運動を主宰して自分の力としたが、今では国際右翼運動で同じことをやっており、これに米国のバノンが呼応している。ここには自由も民主主義もなく、ただ「権力・金権獲得」の4文字しか見えない。
 
(他にも、モルドヴァ、アルメニア、ベネズエラ周辺等、紛争がらみの場所は世界にいくつもあるが、ここで今回は筆をおく)

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