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世界はこう変わる

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2012年6月19日

核のいらない戦略兵器 サイバー戦

軍事技術の革新は歴史を変える。遊牧民族は、人が馬に乗って矢を射る戦法でユーラシアを1000年ほど支配したし、ヨーロッパの白人は中国から伝わった火薬を鉄砲や大砲に使って大植民地を築き、米国は原水爆で世界覇権を唱えた。日本で言えば、堺の商人などから火縄銃を大量購入した織田信長、豊臣秀吉が他の大名を圧倒し、戦国時代を終わらせている。
そして今ふたたび、軍事技術大革新の足音が聞こえる。相互抑止が発達したため、国と国の間ではもはや「実用に適さなく」なった原水爆に代わり、サイバー戦、電磁波兵器、そして人間の頭脳操作といった技術が、重要になってきた。

これは、原水爆を保有せず、米国による「核の傘」も確かではなくなってきた日本にとっては、大きな意味を持っている。最近、これらの問題について勉強する機会があったので、現段階での知識と認識をまとめておく。

1.サイバー戦
(1)サイバー戦とは、インターネットを伝わって相手のコンピューターに潜り込み、情報を盗んだり、相手の情報を密かに書き換え、攪乱することを意味する。これまでは、ロシアの好き者とか中国の軍関係組織が米国やその他の国防機関のコンピューターに対して悪さをしかけていると思われてきた。もちろん、ロシアも中国も、政府は関与を否定したので、これは「サイバー・テロ」と呼ばれていたのだが。

(2)ところがそこに、「米国とイスラエル政府は、イランの核兵器開発を妨害するため、2008年からイランのウラン濃縮工場のコンピューターにヴィールスを送り込み、遠心分離機を大量に破壊している」という情報を、アメリカの新聞記者がこの6月、著書で明らかにし、米国政府もそれを否定しなかったため、世界の論壇は沸いた。一国の政府が相手国のIT網を攪乱することは、もはやテロや秘密工作の域を越え、正規の戦争行為に等しくなってくるからである。これは、「サイバー戦争」と称される。

(3)イランのウラン濃縮工場での事故については、それが起きたときから、米国、イスラエルによる工作ではないかとの報道はあったのだが、今回はそれが米国政府の関係者から意図的にリークされたものらしく(オバマ大統領が大統領選に臨むにあたって、外交面での「成果」として自慢できるように)、そのために議論がかまびすしくなっている。

(4)サイバー戦が脚光を浴びるのには、それだけの理由がある。サイバー戦は、相手国の経済を麻痺させる、戦略的な破壊力を持っているからだ。例えば相手国の電力網を攪乱すると、大規模な停電を起こすことができる。これは一国の経済活動や軍事的抵抗を麻痺させるだろう。また金融機関のLANを攪乱しても、その国の経済活動は止まる。そこまで行かずとも、列車や飛行機の官制センターに潜り込めば、列車同士や飛行機同士を衝突させることもできる。乗っていた飛行機が突然操縦不能となって、高層ビルにつっこまされる事態も起こり得る。社会や経済がコンピューターに依存すればするほど、それを逆手にとられた場合のリスクは大きくなるのだ。

(5)米国は自らサイバー戦の能力を開発しているが、他方では米国自身がサイバー戦を仕掛けられると最大の被害を蒙りかねないこともよく認識している。米軍は高度にIT化されていて、フロリダの本部からアフガニスタン上空の無人機にリアル・タイムで爆撃指令を出せるほどなのだが、連絡網を攪乱されると、世界最強の米軍も烏合の衆と化してしまう。
ホワイト・ハウスでこの件を担当したことのあるRichard Clarkeが「世界サイバー戦争」という本を出していて、早くもこのなかで、サイバー戦能力を国際的に管理・規制する案を提示している。例えば民間施設・インフラに対するサイバー攻撃を条約で禁止し、違反を監視する国際フォーラムを設立して、違反国を制裁する等である。

(6)日本は、自前のサイバー能力を開発(防御・自衛のための攻撃の両面で)するべきだろう。まず日本の電力網、原発、金融網、GPS、自衛隊通信、警察通信等のインフラを、テロリストや他国軍のサイバー攻撃から守るための手段を、まず第一に開発せねばならない。
他方、相手国の電力網を破壊するような戦略的・攻撃的なものは日本として開発するには不向きだろう。米国等から、関連技術の提供依頼はあるだろうが。
サイバー戦の防御・攻撃能力の開発は、次の電磁波兵器開発と共に、防衛省だけでは対処できない。関係各省(防衛省、外務省だけでなく、経済産業省、国土交通省、総務省、金融庁等)を糾合して取るべき対策をリスト・アップし、工程表を策定する必要がある。

2.電磁波兵器
(1)電磁波兵器は、サイバー戦のための一兵器とも言えよう。電磁波をレーザーのように集中して浴びせ(レーダーは電磁波を用いているので、敵性物体を発見すれば、レーダー中心部から高出力の電磁波を集中発射すればいいのである)、敵性ミサイルを破壊したり、方向誘導能力を破壊したりするのである(つまりMDの一種である)。敵性軍艦、航空機の方向感を狂わせたり、通信能力を奪うことも可能である。

(2)それだけの破壊力を持たせるには、ずいぶん電力が必要になるだろうと思うのだが、このあたりについては具体的な数字が入手できない。Economist誌によると、米国の空母艦載機Boeing EA-18G Growlerという戦闘機が、電磁波を発射して陸上の車両を妨害することなどができ、また英国の軍需企業BAEが開発した「電磁波砲」は艦船に積載すると同時に30隻の小型舟艇を無力化することができるのだそうだ。またさらに、米国はニューメキシコのKirtland空軍基地で「電磁波発射ミサイル」(飛んで行って、敵国ミサイルに近づくと、電磁波を発射するのだろう。今開発されているMDのように体当たりするよりは、命中率が高いだろう)を開発中で、近くWhite Sands Missile Rangeで試射するのだそうだ。ボストン近郊に本社のある軍需企業Raytheonは、電子レンジのように兵士の肌を熱くさせ、逃散させてしまう電磁波照射兵器を開発中なのだそうだ。

(3)電子技術を持つ日本にとっては、この電磁波兵器も魅力的なものだ。たとえば「電磁波発射ミサイル」で北朝鮮などから飛んでくる核ミサイルを確実に無力化できるようであれば、日本は核兵器を持たずに、核保有国と同等の立場に立つことができるようになる。

3.人間の頭脳を外部からの電波で「操縦」する技術
(1)人間の頭脳はコンピューターのようなものであり、記憶細胞の間は微細電流と化学物質で結ばれている。その微細電流とinterfaceを確立することができれば、人間は心に念ずるだけで外部の機械を操作できるようになるだろうし、また逆に外部の者が発した電波で脳が操作されてしまうことも起こり得る。米国、ソ連とも、脳波を用いての交信(テレパシー)、脳波操作の研究を一時活発に行っていた。ものの本によれば、これらの研究は、米国のDefense Advanced Research Projects Agency (DARPA)(国防高等研究計画局)で今でも行われているのだそうだ。

(2)現代は、あらゆるモノにコンピューター・チップが埋め込まれ、あたかも草木に魂が宿るかのように、すべてのものが情報を発信している。これからの課題は、このようなモノと人間のココロを直接結び付けるインターフェースの開発だろう
たとえば昨年12月2日、ロシアの「独立軍事概観」誌で国防省第46研究所所長のVasily Burenok退役少将は、「これからの防衛は通常の意味の兵器を越え、モノから心に至るまで、生物・非生物を問わず自然のあらゆる存在、マクロ・微小を問わずあらゆる知識を動員したものになるだろう」と述べている。そしてアメリカでは、2006年刊行されたJonathan D.Moreroの"Mind Wars, Brain Science and the Military in the 21st Century"が、こうした問題を初めて総合的に扱っている。

(3)長ったらしいが、いちばん知りたいことはほんの少ししか書いていない、このいかにもアメリカ的な本を読むと、結論としては、人間の脳を外部から操作する研究は未だ初期段階にある、肝心の脳の働きが未だ十分に解明されていないので(例えば特定の部位が特定の機能を独占的に「担当」しているのか、あるいはすべての「事務」を脳全体で調整しながら処理しているのか等)、外部からの操作にも限界がある、使えるようになるまではあと50年はかかるだろう、ということで、「なーんだ。先の話しか」というところなのだが。

(でも将来は、PC同士の情報のやり取りのように、人間の脳の中身をそっくり入れ替えてしまうこともできるようになるのだろう。ワン・クリックでアインシュタインみたいになれたら、幸せなのか、それともすごく不幸なことなのか)


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