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2021年4月16日

英国が抜けて小粒になったEU  そして英国は

(これは3月24日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第107号の一部です)

EUは国家ではないのだが(政府に相当する欧州委員会はEUとしての単一の財政、外交(貿易問題を除く)権限を持たない)、それでもイメージとしては、「米国に並ぶGDP総額を持つ、隠然たる大経済勢力」だと僕は思ってきた。2019年のEU諸国のGDP総額は約18.5兆億ドルで、米国の21.4兆ドルの次、中国の14.7兆ドルを上回っていたのだ。
それが、2,8兆ドルのGDPを持つ英国が抜けたことで、2019年の総額から英国分を引くと15.6兆ドルとなり、第3位の中国に今年は抜かれるのではないかという存在になった。

これはどういう意味を持つか? まず、東欧・南欧諸国がEUからもらってきた補助金は減額されるだろう。現行の7年間のEU中期予算では格差是正の補助金で7年間総額約3500億ユーロ(約47兆円)、「共通農業政策」(価格補助金等)で7年間総額約3364億ユーロの支出が予定されていた。例えばポーランドは前者の格差是正の補助金を年間110億ユーロ受け取ることになるのだが、これは大きな金額だ。英国は毎年EUに約170億ユーロを拠出してきたので(自分でも補助金を受け取っていたが)、7年間で1190億ユーロ。これだけ減れば、補助金支給額もかなり減るだろう。

もっともEUはドイツの後押しで、7500億ユーロの「(コロナからの)復興基金」を創設。これを東欧・南欧諸国にばらまく構えでいるので、これら諸国にとってのEUの魅力は薄れない。ドイツは、英国が抜けたあとのEUをいわば身請けしたのだが、今年9月の総選挙で政権が変わると、このEUへの積極姿勢が維持できるかどうか。復興基金の原資は金融市場で起債して集めるのであり、その債券にはドイツ政府の保証がついている。ドイツ国民が他国のために身銭を切ることを、どこまで容認するか、注目点だ。EU支持者の多い若い世代の支持を受ける「緑」党が票を伸ばせば、EUにとっては吉と出る。
(注:この「復興基金」設立をドイツの議会で承認する手続きは、現在ドイツの司法裁判所によって差し止められています)

海外での地位はどうか? 繰り返すが、欧州委員会に外務・安全保障政策上級代表はいるが、同委員会には貿易問題以外の外交権はない。海外では、EU大使というのもいるにはいるが、ドイツ大使やフランス大使の力には及ばないし、途上国でもEUとして実施できる経済協力(ODA)資金は微々たるもので、各加盟国がばらばらに司るところなのである。
EU諸国の安全保障については、これはNATO、つまり米欧同盟(主力は米軍)によって維持されている。米軍抜きのEU諸国だけの合同軍というのも、書類上は存在するが、実際に動くのは稀、普段はアフリカなどでEU各国の軍が勝手に行動している。

以上、英国が抜けたことでEUが崩壊したわけではなく、実態はこれまでとあまり変わらない。ただイメージ的には、これまでのヘビー級からライト・ヘビー級に移行したということだ。

英国は完全にマージナルになったかに見えるが、英語がうまいし、かつての帝国の名残で世界の論壇を支配し続けている強みがある。007ではないが、英国のMI6は米国のCIAと同等、あるいはそれ以上という、レジェンドに囲まれた隠然たる存在だ。そして旧英連邦諸国、特にインド、豪州、ニュージーランドあたりと一緒になって物申したり、軍艦を動かしたりするだけで、身の丈以上のインパクトを世界に与える。そして何と言っても、EU全体に等しい、国連安保理での拒否権つき一票を保持している。ロンドンの金融市場は、世界のマネーの洗濯場であることも止めないだろう。ロンドンは、マン島、バハマ諸島等のタックス・ヘブン・ネットワークへの「どこでもドア」なのだ。


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