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2015年8月10日

ユーラシアを理解するために 11 完  域内を横断する他の主要要因 中央アジア5カ国の特徴 相互関係の力学

中央アジア5カ国の特徴・相互関係の力学
中央アジア5カ国の情勢を詳述することはここでは行わない。主要な特徴を列挙するにとどめる。
 
(a)国家としての体裁を短期間で一応整えた国々
まず最初に我々が念頭に置くべきことは、中央アジア5カ国は独立した主権国家であり、国毎に差はあっても一応国家としての結構を備えているということである。日本は「中央アジア+日本」という協議体を作っており、共同の外相会議等を開いてきた。それは、中央アジア諸国がASEANのような力のある集合体になって、ロシア、中国等に対する自立性をはかって欲しいからなのであるが、それが「中央アジアを十把一絡げに扱う」という姿勢に見えると、反発を受けるであろう。

(b)「カンダタ」の心理――中央アジア5カ国間の協調と摩擦
・問題は、中央アジア5カ国は求心力よりも遠心力を備えているということである。歴史上、中央アジアはこの5カ国に分かれていたわけではないのだが、ソ連時代からこの5つの行政区画に分かれ、5つの利権構造を形成してモスクワからの補助金、助成金を取り合ってきた仲にある。そのため、域内を貫く鉄道、電力、郵便等においては緊密な調整と協力を行っているが、新たな利益をロシア、あるいは他の大国から得る際には5カ国間の競争、足の引っ張り合いとなる。5カ国はいずれも「カンダタ」であると言ってよい。かつてはCAS(Central Asian Cooperation)のようにトルクメニスタンを除く中央アジア諸国だけの協議体も存在したのだがが、2004年にはこれにロシアが参加を表明、2005年には欧州経済共同体と合体させられ消滅してしまった。

・ウズベキスタンとカザフスタンの間には、中央アジア地域の最有力国はどこかをめぐって、ほぼ常に首脳間の張り合いがある。例えば2013年、ロシアは「ユーラシア経済連合」の早期結成を狙って、カザフスタン、ベラルーシへの圧力を強化した。これに対して、「カザフスタンのナザルバエフ大統領は抵抗。2013年6月には数年ぶりに隣国ウズベキスタンを訪問してロシアに対してタグマッチを組むことを提案した」式の報道が散発的に出たのだが、カリモフ大統領はこの報道のラインでは行動していない。筆者が識者から聞いたところでは、右報道はロシア側の依頼で数名の者が書いたのであり、ロシア側はこれによってナザルバエフ大統領を抑え込むことを意図している由であった。つまりロシアと国境を接していないウズベキスタンはカザフスタンよりも自立外交を展開しやすい地位にあり、ロシアと一対一で対した方がより多くのものを得ることができるし、地域における自国の地位も高めることができると考えているのだろう。

・また国力で劣るキルギスとタジキスタンは、ウズベキスタンからよく「いじめ」に会う。双方とも、ウズベキスタンから供給を受ける電力あるいは天然ガス等に対して料金を払わないと、冬の最中に供給を止められたりするのである。またカリモフ大統領はかつてタジキスタンのラフモン大統領を、ロシアとかたらって政権の座に「つけてやった」という意識があるようで、タジキスタンに対する出方は強圧的なことがある。

・中央アジア5カ国の間の国境問題は原則的には片付いているが、実際に国境線を引く作業がまだ残っている。ソ連時代には5カ国の間に国境はなかったため、その後政治的に合意した国境線が実際には農家の真ん中を貫きかねないようなケースが多々残るからである。また国境線においては時々、国境警備隊同士の撃ちあいが起きるが(トルクメニスタン関係では少ない)、これは国境を争うものより、おそらく麻薬取引等の利権に絡むものであろう。

・水利権が中央アジア5カ国の間では、常に大きな外交問題となる。天山山脈、崑崙山脈、パミールから流れ出るシルダリヤ、アムダリヤの両水系は、下流のウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタンの綿花・水稲栽培にとって不可欠のものであるが、上流のタジキスタン、キルギスはエネルギー源として水力発電への依存度が大きい(下流諸国は石油・天然ガスを豊富に持つ)。電力需要が最も高まるのは冬季であるので、上流国は冬季にダムからの放水を増やして発電を増やす。すると綿花栽培のため最も水が必要となる夏には、ダムの水が涸れてしまうのである。

従って特にウズベキスタンが、キルギスのカンバラタ・ダム、タジキスタンのログン・ダム建設に反対して強い国際的な運動を続けている。2012年ウズベク当局は、タジキスタンへ通ずる鉄道を改修と称して撤去してしまったが、これはおそらくログン・ダム建設用資材の運搬を阻もうとしたものだっただろう。カザフスタンにはシルダリヤが流れているため、ダムの問題はカザフスタンにとっても深刻な問題であるはずだが、カザフスタンはキルギス経済に食い込んでいることもあって保護者的姿勢を取ることが多く、従ってウズベキスタンの反対ばかりが目立つこととなっている。

(c)利権
旧ソ連諸国ではかつては共産主義、現在ではイスラムが前面に出ているため、宗教やイデオロギーでものごとが動いているように一見見える。しかし、経済のパイが小さい国で最も重要な要因は利権、つまり誰がどの富の源泉を支配し、誰がその恩恵を受けているかという問題である。このような世界では、反政府集会が自然発生することは稀で、ほとんどの場合は有力者が「日当」を払って参加者を動員しているのである。

これら諸国の政界、経済界では、国内の利権が複雑に入り込んでおり 、日本が経済援助をする場合にはこの利権構造に不用意な干渉をすることにならないよう、細心の注意が必要である。例えばウズベキスタンでは、農業・灌漑は「サマルカンド・クラン」の利権下にあるので、経済協力を担当する大臣がその人脈に属していない場合、日本による協力の推進は問題をはらむということである。

そして最近のように中国の経済進出が急だと、中国に近い要人とロシアに近い要人の間で対立が生じ得る。特にウズベキスタンやカザフスタンのように、指導者が老齢で継承を控えている国々では、この点が要注意である。
                                  (完)

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