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世界はこう変わる

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2020年6月27日

ロシア旬報第3号 軍事 2020年2月から6月

(今でも、旧ソ連圏でのできごとについては、ロシア語、英語のニュース、論評を毎日読んで、自分でデータ・バンクを作っている。それをベースに四半期ごとに若手の専門家の参加を得て勉強会を開いている。そのデータ・バンクを旬報として、簡単なコメントつきで公開することにした。あと何年できるかわからないが、お役に立てば幸い。日付は新しい順に並べてあるが、乱れているところもある。情報源として、IとかKとかの略号があるが、これはイズヴェスチヤとコメルサントの略。何もないものはwww.centrasia.ruあるいは日経の記事である)

 ロシアの軍は、2010年代初頭からの編成替え、防衛予算大幅増強による装備の近代化を遂行している中で、原油価格低下、コロナ禍からの資金不足に再び見舞われようとしている。いくつか新兵器は登場しており、中でも中距離巡航ミサイルはロシア周辺部の軍事バランスを変えるものだが、全体として開発は遅れ、西側の制裁で先端技術部品及びコンピューターの入手が滞っていることは、ロシア軍事力をこれから大きく低下させることになるかもしれない。

1.コロナの影響
この期間は、コロナがどこまでロシア軍を機能不全にしたか、興味あるところであるが、全体像は見えない。4月22日のJamestownによれば、16日にチュメニの高等軍事工科学校でコロナが発生した、あるいは軍は16カ所の軍病院にコロナ診療部を建設予定、そして5月9日に予定されていた戦勝記念日軍事パレード演習に参加していた幹部候補生が集団感染したというような記事はあるが、4月21日のJamestownでは、3月30日現在、軍では3名しか感染が確認されていない。
他にラヴロフ外相が、コロナが蔓延している間はロシアもNATOも軍事演習を控えることをNATOに提案してNATO側に拒絶されたという報道があるし、3月23日のBloombergが報じるところでは、ロシア軍が西側国境での演習を中断し、ペスコフはこれを「コロナ情勢関連」だと述べた事例、そして6月1日参謀本部運用局長が「今年、ロシア軍はNATO諸国の近辺での大規模演習を予定していない。NATOもロシア周辺での演習を削減するべきだ」との趣旨を述べた事例がある。

2.国防費増頭打ち
3月2日TASSが発表したインタビューでプーチンは、2010年代初頭以来の国防費増加は天井を打ち、(予算書に「国防費」と明示された分では)ロシアは世界で7番目、サウジ・アラビア、英国、フランス、日本にも抜かれた、と述べている。米国との真っ向からの競争は避けること、「非対称的な」対策を考えること、とはプーチンの口癖で、このために極超音速で敵陣に突っ込む核ミサイルとか、原子力エンジンで恒常的に空中を浮遊して待機している巡航ミサイルとか、夢物語で体裁を繕っている。この方が費用がかからないから、というのがプーチンの言い分なのだが、実際にはできないこと、意味のないことを追及しているうちに、他のやるべきことがおろそかになる現象が見られる。

3.中途半端な軍備近代化
ソ連時代のように、兵器の技術面での後れが目立ってきた。対米関係でロシアが唯一対等性を誇示する核ミサイルについても、長距離ミサイルの老朽化が著しい。しかしSS-18、SS-25等を代替するべきYars, Sarmatの生産、開発は遅れていて、弾頭の数で米国と張り合えるようになるのは2020年代末のこととなるだろう。2021年には戦略核弾頭を双方1550個ずつに限った「新START条約」が失効するが、ロシアは今の状況でこれの改定交渉に入ると足元を見られて不利な立場に置かれそうである。
ロシア軍の電子化を支える人工衛星システムGLONASSも、現在24の衛星が機能しているうち、半数は寿命を超えている(4月27日Jamestown)。しかも衛星の電子部品の多くは西側製で、現在はクリミア併合後の禁輸措置の対象になっている。
対ロ制裁措置による先端技術の輸出禁止は、他の分野でもロシアの軍備に被害を与えている。前号で紹介したが、昨年末に進水した巡洋艦Aldar Tsydenzhapovの場合、hydro-acoustic機器(潜水艦用だろう)Zarya-2が、米国のDSP Block and Analog Devices社から部品を購入できず、機能していない由。

4.銀行も国防費を負担
他方、ロシアの軍備を侮るべきでない、いくつかの要因もある。公称の国防費が頭打ちでも、別の形で軍需産業を潤すことはやっている。2月19日のJamestownによれば、プーチンは軍需産業の負債を帳消しにする布告に署名している。内容は秘密だが、総額で7000億ルーブル程度の銀行への負債を帳消しにしたものと思われる。負債総額は2、3兆ルーブルと推定されている。

5.日本もロシアの中距離核の標的に
いくつかの注目するべき新兵器も登場している。特に、シリアでも用いられた陸上・海上発射の中距離巡航ミサイルKalibrは、ロシア極東の陸上、あるいは艦上に容易に配備し得るものである。射程は1500キロあり、日本も標的になる。また極東に配備していなくとも、爆撃機に搭載して極東に送ることも可能なので、中国、北朝鮮に続いてロシアも、日本を核攻撃する能力を確保したと言える。もはやロシアに、日本のMDを批判する資格はない。
他方、米国が低出力核弾頭W76-2を開発していることに、ロシアは神経質になっている。これを巡航ミサイルや中距離弾道ミサイルに搭載して極東方面にも展開すれば、日本に拡大抑止力を提供できる。ロシア外務省のスポークスウーマンのザハロヴァは、「右は核の敷居を低くする(ロシアは大出力で報復するしかなく、そうなると全面核戦争になる、という意味)」とコメントしている。
ただロシアの方も、敵の巡航ミサイルを探知、撃墜できるS-350を近く実戦配備しようとしている。

(以下は2-5月のデータ・ベース)
★20、5、18 James
ロシア、戦略核老朽化して、更新スピード遅い。これでは米国との交渉で、MDも含める等の強い交渉はできない。
・ICBMではSS-18(R-36M2)が46、SSー25(Topol)が45で、ICBMの30%。
・新型ICBMのYars(RS-24)はVotkinsk工場で年間12ー16基しか生産できないもよう。
・液体ICBMのSarmat(RS-28)開発中だが、クラスノヤルスクの工場は2020年代半ばまでは生産できないだろう。そのときでも、年間10基程度。
・核原潜ではソ連時代の7隻をボレイ級7隻で更新の必要。しかし政府は年内に8隻完工の計画だったが、実際には4隻にしかならないだろう。
・ターボプロップ重爆撃機Tu-95MSを55機、ジェット爆撃機Tu-160を11機更新の必要。新型Tu-160Sの開発状況不明。
・Tu-22M3を核用に改造することも進行中。現在30をかいぞうしようとしており、最初のものがテスト中。
しかし問題はクズネツォフ・エンジン工場が2018年は4基のエンジンを作ったのみ。2019年からの契約も22基にとどまっている。軍は不満。
・→2030年にかけてロシアの戦略核発射基は500以下にとどまるだろう。いずれにしても、米国と量的な競争ができるようになるのは、2020年代末。
・→今のところ、口で攪乱。たとえば高速グライダーのAvangard。
しかし5月現在、配備された高速飛翔体は、2基のみ。これはソ連時代のSS-19(UR-100N UTTH)に装着。Yarsには重すぎる。
→AvangardはICBMの更新をむしろ妨げる。

★20、4、27 James,Pavel Luzin
GLONASS、更新後れている。西側の制裁で部品輸入できず、ロシアの製作者も能力をかき、費用ばかりあがっている。
・GLONASSは2012年12月、軍がRoscosmosに移管。民用も兼ねている。2012ー2020年の開発計画を実行。
・現在24の衛星が機能。うち23は古いGLONASS-M。寿命は7年で、23のうち13はそれを越えている。
2011年以降、GLONASS-Kを導入。寿命は10年。しかし2個発射したのみで、機能しているのは1個のみ。
さらに新しいGLONASS-K2開発中。
・しかしGLONASSの70%は西側電子部品。クリミア制裁対象で輸入停止。
・国内産業、能力欠く。2012ー20年、51億ドルを予算からつぎ込んだが。

★20、4、24 Centrasia
戦車T-14(アルマ・アタ)、マントゥロフ産業・貿易相、テレビで、最近シリアで戦闘体験したことを明らかにする。
★20,4,27
空挺部隊、北極圏降下訓練
北極圏への集団降下は史上初。バレンツ海にあるフランツヨシフ諸島のアレクサンドラ島
に着地。3日間島に滞在。
★20、4、22 James
プーチンはショイグに、22日までに軍がコロナでできることをまとめろと命令。
・16日には、チュメニの高等軍事工科学校で、コロナ発生。
・軍は軍事病院の16カ所に、コロナ診療部を建設予定。うち8は4月30日までに建設予備。
・ペンザでは、車両消毒システムを開発。これまでの2分を30秒に短縮。
★20、4、21 James
軍はコロナ消毒とか、軍医の病院への派遣とか活躍。
他方、3月30日現在、軍では3名しか感染していない。ゼロと言う者もいる。
・戦勝記念日パレードは9月3日の終戦記念日とか、11月7日(1941年に最初の軍事パレード)という説。
しかし9月にするには、7月には練習を始めなければならない。450都市で11、6万もの兵力を使う大事業。
しかも9月にはKavkaz2020大演習のようなイベントも計画されている。
・春の徴兵は4月1日から13日に実質的にのばされた。新兵は5月20日以後、配置先に運搬されるが、その後2週間の隔離。
新兵は13、5万人。
・軍需産業も生産のテンポが遅れて、兵器引き渡し、予定通りにいかないかもしれない。
★20、4、16 James
5月9日軍事パレードは、1995年エリツィンが始めたもの。ソ連時代は1965年、1985年、1990年の3度しかなかった。
郊外のAlabino軍事基地には赤の広場のレプリカがあり、そこで何ヶ月も練習している。今回はコロナで、その練習ができなくなった。
★20、4、9 Jamestown
北極防衛強化。2月11日、ジニチェフ緊急事態相、北極に危機管理センター、いくつか建設中と言明。
・北極防衛では、Wrangel島が1911年以来、重要。1924年には米国と争っている。
1992年、施設は一時放棄されたが、2014年にはVoyenniy Gorodokをここに建設。レーダーを再開。Sopka-2Sband Air-Route Radar Complex(ARRC)。
これは、ステルス機、無人機等探知。
★20、4、7 Jamestown
新防空ミサイルS-350 Vityaz(INF)、最初のものがレニングラード州の訓練センターに配備。
S-300PT/PSの後継機。
射程は60(六十)キロ(S-500は600キロ)。種々のミサイルを発射して、巡航ミサイル、航空機、短距離弾道弾等に対処。360度カバー。
・ロシア軍は現在、約50のS-300PT/PSを所有。2021ー27年に、S-350 で代替する。製造はAlmaz-Antey。
・S-400は高価で、輸出に向かない。
★20、4、1 Jamestown
カリニングラード防衛強化のため、BM-21 GradをTornado-S多装ロケット・システム(MRLS)に交替。これはBM-30 Smerchの改良版。GLONASSと接続。
2016年に形成された第11バルト沿岸陸軍団に配備。射程は20ー120キロで、67Haをカバー。
★20、3、23 Bloomberg
ロシア軍、西側国境での演習を中断。ペスコフは、「コロナ情勢関連」。
国内でのコロナ対策強化のためか、軍にコロナが発生したためか、それともNATOがDeender演習を中止したためか。
★20、3、18 James
旧式艦、とりあえず装備更新でもたせる。それは1155型フリゲートにあてはまり、太平洋艦隊のシャポシュニコフ元帥号がそれだ。古い10センチ砲AK-100をA190-01Sにかえ、それによってステルス能力も高める。KalibrかTsirkon巡航ミサイルを装備する。これは陸上の目標(射程1500キロ)も狙える。
・11356型フリゲートは老朽化したので、20386型コルヴェットと代替する方向。11356型は、エンジンがウクライナのZorya-Mashなので、無効化したこともある。
★20,3,10 News
2月26日には「巡航ミサイルキラー」の異名。S350を配備。最高高度30キロ、最大距離60キロの範囲。あらゆる空中の対象物。
★20、3、2 Kremlin.ru
TASS 20の質問。プーチン、インタビュー。
昨日ドナルド(トランプ)が電話してきて、730億ドルの防衛予算を承認した、コストが高いのでしょうがない、すまない、と言った。
・今やロシアの国防費は世界7位。米、中、サウジ、英国、フランス。日本にも抜かれた。
・しかしこれまで米国に追いつくことばかりやってきたロシアは史上初めて、米国の先にでた。超音速ミサイルだ。
・軍備は戦うために整えているのではない。相手が襲おうという気持ちにさせないようにやっている。
★20,3 軍研・小泉
最上位文書「ロシア連邦国家安全保障政策」は6年ごとの改訂。20年中に改訂。
○パトルシェフ。省庁間委員会の席上。「国家安全保障戦略」に加えて「社会経済発展戦略」を策定。
○今後20年間を想定した策定、5年ごとに改訂。
○国防支出。2019年度予算における予算項目02「国防」には9881億8831万8300ルーブル。
○予算注解によると実際の配分額は、2兆9142億1320万ルーブル(対GDP比2.8%、連邦予算全体の16.2%)。公表額のほぼ3倍。
○印象的なのは航空機調達。14年を頂点として減少。19年はわずか20機と2010年代前半並の水準。従来、航空戦力近代化の柱となっていたSu-30SM調達がついにゼロ。
○石油企業の資金、軍の飛行場に12カ所の燃料補給コンプレクスが建設。石油企業による投資は合計180億ルーブル。
○バイカル・アムール鉄道に第二支線を建設。
★20、2、27 Jamestown
軍需産業、能力を欠く。プーチンの宣伝する新兵器、生産できない。
Viktor Alksnis(野党評論家に転出)が「極秘」で指摘。重要部品は輸入、基礎となるコンピューター生産できず。
特に海軍が深刻。シリアに意味のある艦隊、派遣できない。空母クズネツォフはタグ・ボートに伴われて帰還したが、数週間前も別の軍艦が同様の状況。エンジン・ストップ。1968年製。
重巡洋艦ナヒモフ元帥は1999年以来、ドック。
★20、2、23 FT
グルジア外相Zaklaliani、アプハジアでのロシア軍増強を指摘。米国、EUに対抗を求める。EUはBREXIT等で、関連予算が減少する。
・ロシアはアプハジアにS-300、最新型レーダー、クリミアにS-400を配備して、黒海とそれを越える地域を制圧するに至っている。
★20、2、19 Jamestown
プーチン、軍需部門の負債を帳消しにする布告に署名。内容は秘密。総額で7000億ルーブルと推計。実際の負債は2、3兆ルーブルのはず。
国防省はR&D費用を企業に押しつける上に、兵器生産を前払いしてくれない。
そして注文の個数は減っているのに、値下げ要求はきつくなる一方。
・19年12月24日、プーチンは国防省幹部会でスピーチ。2020年には兵器・設備の70%を近代化する目標を達成できるだろう。現在68、2%だと言う。
2019年には戦車と装甲車624両、143の飛行機とヘリ、8の水上艦等を入手。
2020年は戦車・装甲車を565両、106の飛行機、4連隊分のS-400、14隻の水上艦、3隻の潜水艦を入手予定。
・陸軍装備の近代化が一番遅れている。
★20、2、13 James
NATOの12日国防相会議では、ロシアのINF増加が議論の的。
・ショイグは参謀本部大学でのスピーチで、2012年以来、長距離巡航ミサイル配備数は30倍、その標的をリセットするのに要する時間はかつての1、5ヶ月から3時間になったと豪語。
・これは、「米国より先にINFを配備することはしない」と言ってきたプーチンに恥をかかせるもの。
★20、2、12 Jamestown
ロシア軍、ドローン隊との戦闘部隊を配置し始める。初めてに南部、東部軍管区。今のところ、発見とジャミング能力のみ。そのうち破壊能力も。
能力の高い契約兵のみが従事。
★19、2、12 Jamestown
2日、陸上版Kalibr開発指令発出。5日、ショイグが確認。
年末までに量産態勢に入れる可能性。
★20、2、4 Center
国防費は12年、GDPの2、7%、以後増えて16年に4、4%で頂点。以後減って19年2、7%に。

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