Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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論文

2006年11月25日

我々が忘れてしまった日中関係

我々が忘れてしまった日中関係
(神奈川県日中友好協会でのスピーチ)
                               2006,6
                                河東哲夫
 私は外務省を退職し、大学で国際関係を教えているが、学生たちにどこの国の話を聞きたいかと問うと米国やロシアと応える比率は数パーセントで殆どが中国と答える。かっては外務省でも、私の属したロシアスクールがチャイナスクールに比べて人気が高かったがこれも今では様変わりである。これからは中国とアジアが重要なので、私も最近中国語の勉強を始めた次第である。本日は外務省に35年間勤めた私が、自分の専門分野でない中国或いは日中関係を、横から斜めから見て、或いは歴史の軸で縦に見て話しを進めてみたい。
 戦後長らく一般の日本人は中国を意識せずに生活することが出来た。ところが1997年から1998年頃より中国を意識せざるを得ないようになったのである。1997年に世界銀行のレポートで中国の経済成長がやや大げさに発表され、世界の対中観を変えてしまったことがきっかけである。そこで勉強しなおしてみると、日本の歴史は常に中国の影の中で推移してきたことがわかる。大化の改新は、唐が高句麗を攻めるという緊迫した国際情勢と無関係でないし、我々は古今集は「純日本的」だと教え込まれたが、梅の香りをめでるという美的感覚も実は中国伝来のものである。そして経済的には、日本から輸出された銅が中国経済の拡張を常に助けていたのである。
 他方、中国については過大評価も見られる。中国が何千年もの単一民族国家であった、というのは恐らく事実ではなく、中国は実際には多民族国家なのである。現在の大きな版図を有するに至ったのは、内部に遊牧民族を抱えるに至ったからである。そして現代を見ると、中国の経済成長の大半は都市の再開発や輸出に依存している。これからも自力で高成長を続けられるかどうか、確かではないのである。
そして政治体制は共産党の一党支配である。この体制は経済成長が右上がりの場合はよいが、経済やその他の状況が、下降線を辿り低迷してくると問題が生じてくる。共産党がすべての失敗の責任を負わされかねないからであり、実例は1991年のソ連にある。だから中国も多党化、民主化を図りたいのだろうが民主化は非常に難しい。中国の指導者も、ロシアなどが民営化、民主化の過程で既成の利権や資源の奪い合いが激化して国内が不安定化したことを知っているだろうから、おいそれとは実行したくないだろう。
 そして中国では、価値観が「漂流」している。中国は歴史上、自分の伝統を何回も断絶させてきた。現在の中国では、「より多く稼ぐこと」、これが主要な価値観になっている。高度成長時代の日本によく似ている。
 日本人には、日本についての過大評価が見られる。ペリー提督来航の時もそうだが、外国人にとっては、アジアでの主要なプレイヤーは一貫して中国だったのだ。日本は中国への寄港地という位置づけだった。第二次大戦では米中は同盟関係にあったから、もし中国共産党が天下を取っていなければ、中国は戦後一貫してアジアのリーダーの立場を維持したであろう。国民党政府の予算の70%は米国の援助で支えられていたのである。
また、日本は兵力を外交に使ってはならないという制約を背負っている。軍備を持たぬ制約を知った上で外交に当たらなければならない。ODAを有効に利用することもその一つだ。インドやロシアとの関係を強化し中国に圧力をかけたらと言う人もいるが逆効果である。真正面から対話していかねばならない。そのためにも靖国参拝は早く決着をつけねばならない。日本は過去の戦争で加害者であるか被害者であるかなどについて、国内世論はまだまとまっていないようだが、この論争には早く決着をつけなければならない。中国の機嫌をとるためではない。世界における日本自身のためである。
今のところ、東アジアはStatus quo、つまり現状維持でいく、というのが基本潮流である。日米がそうだし、中国も経済発展を続けるためには何よりも平穏な国際環境を必要としているのである。中国は拡張主義であるという人がいるが、歴史上漢民族王朝が拡張をはかった例はそれほど多くない。中国は台湾を武力で取り込むだろう、ということも言われるが、少なくとも現時点では中国側にその兆候は見られず、台湾指導部も完全な独立を宣言して中国を挑発することは、米国などが許容しないであろうことを十分心得ている。朝鮮半島についても、中国は現在の構図を大きく変えようとは思っていない。
 だから、日中も共存共栄で行くべきである。襟をただしてつきあうことは必要だが、感情的になる必要はない。中国も日本との関係を良好に維持することに利益を持っているのだから、問題は話し合いで解決できるだろう。
中国と日本は同文同種というが違う。日本は自由な民主主義の国である。これは戦争で大きな犠牲の結果与えられた貴重なもので大切にしなければならない。中国人は戦前の目で日本を見ている。現代日本を知って貰う為、もっと大勢の中国人に日本に来て欲しい。
 国際関係は大きく変化した。日本国民及び日本政府は冷静に且つ好き嫌いでなく国益を考えた対応をしてゆかねばなるまい。
                                    以

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