Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2009年06月09日

もうアメリカとの宴はお開き  だから絞るところは絞って Ⅰ

60年代後半からの安価で良質な日本製品の洪水的な輸出で、アメリカの製造業はずいぶんやられた。それだけでなく、アメリカでは企業が労働者の年金を大きく負担させられるから、アメリカの製造業はそれも嫌で、ずいぶん国外に流出してしまった。いわゆる空洞化というやつだ。

そこで起きたことは、僕の学生に言わせれば「それはネズミ講のようなことじゃないですか」で、
日本は製品をアメリカに輸出して代価をドルで受け取る―ーー
日本の輸出業者はそのドルを日本で円に替えるー―ー
日本銀行はそのドルを買って外貨準備とする――ー
その大量のドルを運用するにはアメリカ国債がいちばん潤沢で信頼できるので、日本銀行は多額の米国国債を買う――ー
米国政府は国債を買ってもらった分、歳出を増やし、その分景気が刺激されるーーー
景気がよくなると需要が高くなるが、アメリカ国内の製造業は空洞化しているので、輸入が増えるーー
すると日本はアメリカにますます多くを輸出して、ますます多額のアメリカ国債を買うーーー

このサイクルが本当に怖くなるほどの高みにまで、どんどん続いていったのだ。日本人はそれでずいぶん豊かになった。
日本の場合、このネズミ講は1985年のプラザ合意で瓦解したが(その後2000年代前半から盛り返す。この時は日本銀行が多額のドル買い介入を行って、円レートの上昇を抑制したのだ)、90年代後半からは中国がそれを継ぐ。そして中国はアメリカの国債保有額で日本を抜いたと喜んでいたら、サブプライム不況でアメリカとのネズミ講がこわれてしまったのだ。

日本も中国も、国債という紙によって実力以上にかきたてられたアメリカ人の消費需要ーーつまり幻に踊っていたのだ。これを、「振込詐欺アメリカ」と名付けた週刊誌があったので笑ってしまったが、日本も中国もアメリカにだまされたのではない。いつかはこうなることがわかっていて、それでも儲かるから止められなかっただけなのだ。

まあ、こんなこと、専門家はとうにわかっていると言うだろうが、新聞・雑誌をみていると、どうもそこらへん本当にわかっているのかわからない。いつまた景気が盛り返すかとか、景気の底に達してもそのまま長期間推移するL字型回復なのだとか、グラフの形ばかり議論していて、本当はパラダイムがすっかり変わってしまったかもしれないことは議論しない。そして歴史的視点が浅いような気がする。
ずっと右肩あがりの経済というのは、世界史上、存在したためしがないのだ。だいたい、フランクが言うように、産業革命以前の世界経済はほとんど成長しなかったものではないか。産業革命の成果、つまり製造業の多くを失ったアメリカや日本は、今や産業革命以来の発展の道を逆回しにたどり始めたのではないか? 

それは多くのことを意味する。肥大した政府、至れり尽くせりの社会保障体制はもう維持できなくなる。「縮みの思想」が必要になってくる。それは貧乏じみたものではなく、「足れりを知る」というわりと前向きのものだ。そして、カネ、カネ、経済、経済の掛け声のなかでもう絶滅に瀕している文化とか思想というものを思い出し、もう少し大事にすることを意味する。              河東哲夫

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