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世界はこう変わる

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2008年11月09日

プーチン首相の帰趨をめぐるロシア国内の諸観測

ロシア経済は、原油価格の高騰、西欧資本市場からの借り入れで(石油資金が流入してインフレ気味のロシア国内より利子率が低い)建設・消費を膨らませ、株式市場に西側の資金を誘致しては8%内外の成長を享受してきた。

だが既に書いたように、この右肩上がりのスパイラルが今では後ろ向きに回り始めた。
グルジア戦争などで西側の資金はロシア株を売り払い、5月以来ロシアの株式は80%も下落した。

そのため、株を担保に銀行融資を受けては事業を拡大してきたロシアの企業が困り始めた。
銀行が、不良債権化することを恐れて、おいそれとは貸さなくなったからだ。政府から公的資金を注入された大銀行も、同じく焦げ付きをおそれて中小銀行に資金を回さない。大銀行は、注入された公的資金をドルに代えては、価値の保全をはかっている始末だ。

これまで低利で借りることのできた西欧の資本市場は、サブプライム問題のために目詰まりを起こし、ロシアの企業はここで新規の起債ができなくなっている。そしてこれまでの借金の返済は次々に期日が到来するのだ。

こうしてロシアの企業は投資・運転資金に不足し、ローンに大きく依存してきた建設、消費も下落している。生産下落、操業停止が連鎖反応を起こし始めてきたようだ。企業はこの機会とばかりに、これまで種々の理由で抱え込まざるを得なかった余剰人員をリストラし、後ろ向きに走り出している。

この中で11月5日、メドベジェフ大統領が初めての年度教書を読み上げた。現在の経済困難はもっぱら、「アメリカが使いすぎた」からということになっている。それはそれとして注目を浴びたのは、この教書発表が2度も延期されたこと、そしてメドベジェフが大統領の任期を現在の4年から6年に延ばすよう(もちろん憲法改正の手続きを経てである)提案したことだ。

「メドベジェフはショート・リリーフ。その後は憲法を改正して大統領任期を6年とし、大統領選挙をしてプーチンを再度大統領とする」というシナリオは、この1年くらいモスクワではささやかれてきた。
だから、「ははーん。噂はやっぱり本当だったのか」ということなのだが、それとほぼ同時、ロシアのマスコミの中にはプーチン首相辞任の観測を流すものが出てきた。

「早く辞任しないと、経済悪化の責任をおしつけられる。この頃のプーチン首相は極度に疲労している」ということなのだ。辞任しないでいると、経済悪化で暴動が起こったり、宮廷革命が起きてどのみち辞任せざるを得なくなると書くマスコミさえある。
そして彼の次のポストとして、世界オリンピック委員会次期委員長の座を提案する向きもある。
次の首相としては、セルゲイ・イワノフ副首相、グルイズロフ下院議長、シュヴァーロフ第1副首相、クドリン副首相の名が早くも上げられている。

一筋縄ではいかないロシア情勢。上の誰かが何かをもくろんで、こうした記事を殊更に書かせているのかもしれない。この動きには、いくつか解釈の仕様がある。

①プーチン大統領復活を狙う勢力に対して、メドベジェフのリベラル路線徹底を望む側近達が対抗するため、プーチン首相辞任説を流している。現に、辞任説を流しているのは、リベラル系と目されるマスコミだけだ。

②プーチン首相は本当に大統領返り咲きを狙っており、経済悪化の責任を取らされないうちに辞任して、大統領選に備えようとしている。その準備として、こうした記事を書かせている。

他にも解釈の仕様はあるだろう。だがプーチン大統領時代の経済成長が原油価格高騰のおかげであるならば、その下落のプロセスをうまくコントロールするのもプーチン首相の仕事だろうと思うのだが。
Copyright ©河東哲夫

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