Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界はこう変わる

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2008年01月19日

最近の中央アジア情勢の特徴(07,12)

(以下は2007年11月14日、IIST・中央ユーラシア調査会(第81回)で自分が報告したのを活字に起こしたものを、同調査会のお許しを得て掲載するものである)

 『中央アジア情勢』
                          河東 哲夫/かわとう あきお
                           (Japan-World Trends代表)

1. 中央アジア諸国にみられる専制性の強化

中央アジア情勢の1つの分水嶺に差し掛かっている訳ではないのだが、いくつか新しい傾向も伺えるので、それらをまとめてみたのがきょうの報告だ。内政からみると、1つは専制性の強化がみられる。ウズベキスタンでは11月6日に自由民主党の大会があり、そこでカリモフ大統領を大統領選挙に担ぎ出すという決定がなされ、カリモフ大統領は非常に感謝してそれを受けた。大統領選挙は12月23日とクリスマスの直前で、何が起きようと西欧諸国は対応できず、敢えてそのような日を選んだのではないかという気もする。有力な対抗候補はいないので、今の状態では憲法で三選が禁じられているにも関わらず、カリモフ大統領が三選されると思う(注:その後三選された)。

カザフスタンでも同じく、専制性の強化が伺われる。1つは5月に大統領の娘、ダリーガの夫でアリエフという個性の強い男が、ナザルバエフ大統領と2人で話をし、大統領になる野心をあらわに示してから、ナザルバエフ大統領はアリエフをオーストリアの大使とし、2度目の追放をした。一回追放して戻し、再度オーストリアへ追放している。それでも足りず、アリエフが騒いだため、ナザルバエフ大統領は5月末に突然、議会に乗り込んで1日で憲法を変えてしまい、ナザルバエフだけは大統領を終身務めてもよいということにしてしまった。

さらに8月には総選挙があり、おそらく足きり条項のせいだと思うが、与党1党だけが議席を全て占める結果となった。私は12月のロシアの総選挙でも同様のことが起こりかねないと思っているが、カザフスタンはこのように、かなりソ連的な体制に後戻りした。カザフスタンは2009年にはOSCE(欧州安全保障・協力機構)で議長国を務めるということで運動していたが、それについては諦めたらしく、2011年を目指すなどというニュースが出ている。

キルギスに関しては、現在、日本に来ているバキーエフ大統領は昨年末、議会との間ですったもんだして決まった憲法改正を最高裁判所、憲法裁判所を使って覆してしまった。要するに、昨年末の憲法改正は大統領の権限を弱める改正だったのが、それを覆した。そして10月21日には、バキーエフ大統領がつくった憲法改正案を国民投票にかけて勝利してしまった。そして新しい憲法が国民投票で認められたので、それに従って、ということになっているが、バキーエフ大統領はある日突然、テレビ出演し、「議会を解散する」と宣言した。これはかなり超法規的な措置だといわれ、議会の総選挙が近く行われる(注:12月に行われて与党が勝利した。そして大統領周辺の人事、選挙結果とも、南北に分かれるキルギスの利権のうち、大統領系の南部のみが優遇されていることを示している)。

キルギスの情勢がこれまで1年ほど荒れていた大きな原因は、議会と大統領の間の利権闘争で、議会の連中がポストを保持したくてがんばっていたというのが実状だろうが、このようにかなり超法規的なことをしている。そして北部の利益代表といわれるクーロフ首相を一連の過程において除去したので、北部の声というのが今、抜けたままのように私にはみえる。

タジキスタンについては昨年(2006年)、大統領選挙が行われ、ラフモノフが再選された。彼は今年になってからロシア的なものを除去しようとし、自ら改名してラフモンとなった。大統領選挙の前に彼はかなり野党を抑圧して力をなくさせた。現在は一部ニュースによれば、ラフモン大統領に対する個人崇拝的な風潮が高まっているという。タジキスタンは1990年代、内戦を経て、その中でラフモン大統領が勝ち抜いたので、側近との間では戦友的な感じがあり民主的にみえたが、それがもう薄れてきたということだ。ラフモン大統領は自分でタジキスタン史を書いたことになっており、それを学校で皆が強制的に学習しているのだそうだ。このように、トルクメニスタンのニアゾフ前大統領のときと似たような現象が起きつつある。

ではトルクメニスタンでは何が起きているかというと、昨年11月にニアゾフ前大統領が心臓病で急死したことになっており、2月にはベルディモハメドフが大統領に選ばれた。ニアゾフ前大統領のころ、警護局長を務めていたレジェーポフという男が後見人として付いていて全てを支配していると皆が思っていたところ、ある日突然レジェーポフが逮捕された。すでに判決が出たと思うが、同時にレジェーポフと共にいろいろな非合法なビジネスをしていた大実業家もトルクメニスタンでつかまり、同じく牢屋に入れられているようだ。これについてはどうも、一緒に商売をしていたニアゾフ前大統領の息子に裏切られたのだといわれている。ベルディモハメドフは今のところ、うまくやっている。ニアゾフ時代の手厚いいろいろな社会保障的なこと、例えば水道や電気が無料だったりすることの維持を宣言し、全方位外交をさらに強化している。そして人事もかなりいじっており、10月には内務大臣、そして保安大臣、これはKGBにあたるのだが、この両方をいきなり更迭した。その後もとくに内政は揺れておらず、おそらく力があるのだろう。

2. 大規模な出稼ぎによる送金と対外借り入れ
中央アジア、ロシアは、一種のマーシャル・プランを受けている段階にあると思う。イラク戦争が起きたのを契機に石油価格が一気に上昇し、それによって湾岸諸国が潤っただけでなく、ロシアやロシアを通じて中央アジア諸国も潤ってしまったというのが現在の段階だろう。そのバブルが現在、はじけつつあるというのがロシアや中央アジアの状況だ。

もう1つ中央アジアのブームだが、タシュケントについては、カリモフ大統領の経済政策が西側の機関によって悪いことにされているが、実際には繁栄しているようにみえる。1つは出稼ぎの送金があり、もう1つはカザフスタン、ロシアについては対外借り入れがすごい。したがって国によって異なるが、オイルマネーのお下がりによって繁栄しているところがある。

出稼ぎ送金の規模については、プレスの情報だが、2006年第二四半期の規模で、ウズベキスタンへは2.1億ドル、つまり200億円程度とみられ、年間1000億円ほどが流れ込んでいるということだ。これはウズベキスタンの予算の30%程度で、大変な規模だ。日本でいえば、20兆円、15兆円程度がロシアから流れ込んでくるという感じだ。そしてタジキスタンにも1.9億ドル、キルギスには1.0億ドル程度の出稼ぎ送金があるとみられている。GDP(国内総生産)での依存率は、タジキスタンが12%、キルギスが10%となっている。

そしてもう1つの資金源は、先ほど申し上げた対外借り入れだ。国内の金融機関が整備されていないため、国内の資金がどんどん外国に流出し、必要な長期資金は外国、とくにユーロ市場から借り入れてくる。短期で借りて、国内では高利で長期、貸している。1997年にバブルが崩壊したときのアジアと同じことをやっている。それが住宅ローンの形でどんどん流れているのが、カザフスタンだ。そのカザフスタンで問題が生じているのだが、これについては後ほど述べる。カザフ人は住宅ローンをもらって、ウズベキスタンやタジキスタンにやってきて、不動産を買い占めているらしい。ウズベキスタンで住宅、アパートを1人で数件買占め、住宅価格が1年で2倍になるほど上昇している。

また最近、インフレが一部の国で激しくなっている。ロシア、カザフスタンがそうで、カザフスタンではパンの価格が9月に、急に2倍になったそうだ。これは一時的なもので、その後は治まったが、世界的な穀物価格高騰の影響があったとみられる。またウズベキスタンでも8月にいろいろな公共価格が上昇し、10月にはドルが急激に上がったのだが、ウズベキスタンについてはむしろ季節的な要因があったと思う。綿花の収穫期なので農民に現金が支給され、それが市場に出てきたことが原因だろう。いずれにしてもロシア、中央アジアの産油国はこのように、バブル崩壊の一歩手前にある。

3. アフガニスタンからの脅威増大、安保でのロシアへの傾斜
そして、アフガニスタンでタリバンが盛りかえし、それに押されてイスラム・テロ分子が北上してきたため、中央アジアへの脅威の増大も伺える。これが中央アジアをロシアの方に傾かせている。安全保障が脅かされても、中央アジア諸国は欧米には安易に依存できない。人権問題を云々され、極端な場合にはレジームチェンジまでされかねない、と思い込んでいるからだ。

そこで中央アジア諸国は、安全保障面ではやはりロシアに傾斜していく。その具体的な現れが、CSTO(集団安全保障条約機構)というワルシャワ条約機構の後身が10月中旬にドシャンベで首脳会議を開き、CSTO平和維持軍をつくることを公式に決めたことだ。そして、「緊急事態委員会」というのもつくられ、これはCSTOの安全保障理事会のようなものだ。緊急事態が起きた際には担当大臣らが集まって対策を協議する。そして在タジキスタン・ロシア師団、これは第201自動車化狙撃師団というものだが、この装備の近代化をロシアが決定した。同時に現在、この201師団が持っている装備、これはアフガニスタンの戦争で使ったものらしいが、これをタジクの軍に譲渡することが決まった。このように、アフガニスタンでタリバンが伸びてきたことに対する手当てが行われているのだと思う。

ただいろいろなニュースをみると、ではロシアはアフガニスタンで作戦をするのかというと、「それだけはやめてくれ」といっているようだ。セルゲイ・イワノフ元国防相などがそうだ。これについては、アフガニスタン情勢のトラウマがあるからで、さすがのロシアもアフガニスタン侵入の二の舞にはしたくないようだ。

そしてもう1つ安全保障面で面白いのは、中国が煮え切らないというのが伺われることだ。例えば8月にウラルの山脈で、7000人ぐらいの規模の上海協力機構(SCO)の共同軍事演習があった。これに関しては、ロシア軍参謀総長のバルエフスキーが、SCOの共同軍事演習をCSTOとの共同軍事演習にしてはどうかということを、1年前からいっている。にもかかわらず、共同軍事演習は実現しなかった。ニュースに出ている訳ではないが、私はたぶん中国が抵抗したのだと思う。なぜかというと、中国の方がアメリカに対する経済の依存度がロシアよりもはるかに大きく、アメリカを怒らせるのは怖いためだ。だから煮え切らないのだと思う。そのようなことをはっきりという中国の専門家もいた。

そしてもう1つの表れとして、同じ時期にドシャンベで行われたCISの首脳会議で、CSTOとSCOとの事務局間の協力に関する文書というものに署名している。私は国際組織の事務局間の協力に関する文書締結が大々的に報道されるというのは、外交ではあまり聞いたことがない。通常なら組織間の協力に関する文書にするのだが、そのレベルを落とし、敢えて事務局間としたのはやはり、中国の腰が引けているようにしかみえない。

中央アジアに対して腰が引けているのは中国だけでなく、米国もそうだ。アメリカは中央アジアには本格的に関与せず、バイの関係維持でとどめている。アメリカはウズベキスタンを失ってから、カザフスタンに中心を置いているが、中央アジアに対する総体的な戦略がない。キルギスでの基地は、まだ維持している。タジキスタンでは8月26日に、アフガニスタンとの国境のピアンジ川にかかる橋をやっと完成させた。これは米国防省の持っているお金で非常に早く建設してしまった。日本が無償資金で建設しようかと思っていたところ、横からアメリカが手を伸ばして持っていったものだ。そしてアメリカは今、トルクメニスタンとの関係を進展させようとしており、国務省の高官が何度か訪問し、ベルディムハメドフ大統領も国連総会に出席して、ニューヨークでライス国務長官と会談している。

このように安保面でロシアへの傾斜がみられるが、では中央アジアが完全にロシアに傾斜するかというとそうではなく、安保以外の問題では大国たちを天秤にかけている。まず一番目立つのが、トルクメニスタンだ。ベルディムハメドフは行くところ行くところで天然ガスのパイプラインを引くことを約束して帰ってくるので、いったいどうなるのかと思っている。今トルクメニスタンから出そうとしているのは、カスピ海の岸に沿って北上し、カザフスタン領内を通ってロシアに抜けるパイプラインをつくろうというものだ。もう1つはトルクメニスタンからウズベキスタンを突っ切ってカザフスタンを抜け、そこから中国領へ天然ガスを持っていくパイプライン構想が進展していることになっている。さらにもう1つ前からあり、トルクメニスタンからアフガニスタン、イランを通って、パキスタンないしインドに行くという構想だ。しかし全てやっていれば当然、トルクメニスタンの天然ガスが足りなくなる訳で、ひどいやり方をしていると思う。

またアメリカとの間で面白いことがあったのだが、9月27日にトルクメニスタンをアメリカの第5艦隊の司令官が訪問している。これは中近東のペルシャ湾辺りを遊弋している艦隊だ。したがって、現在のイラン情勢をみると、これは非常に面白いと思う。第5艦隊が南と北から挟み撃ちするような感じになり、イランにとってはやはり気持ちよくなかっただろう。そしてトルクメニスタンで目立つのが、8月の上海協力機構首脳会議に初めて参加したことだ。しかし、メンバー国としてではない。ロシアからは散々、「メンバーになれ」と慫慂されたのだが断り、ゲストで参加した。このようにニアゾフ前大統領の時代よりは少しオープンになったという感じだ。

またタジキスタンだが、外国の援助がここに集まっているようだ。ウズベキスタンと比べてやりやすく、地政学上、非常に重要で、アフガニスタンと新彊地方の中間にある、麻薬取引が盛んと言われるなどいろいろある。今年西側が10億ドルの融資を行い、中国は6億ドルの融資をプレッジしてトンネルなどを掘っているところだ。そして2月と8月にアメリカの海兵隊とタジクの国境警備隊が共同演習をしている。マリーンというのは海軍ではなく、緊急展開部隊のようなもので、どこに行ってもよいのだが、これは面白い。反面、ロシアが今、タジクと摩擦があり、ログンダムをつくるプロジェクトからロシアアルミニウム社長のデリパスカが放逐されている。ただデリパスカが手がけているタジクのアルミニウム工場は利権がものすごく入り組んでいて、誰もわからず、わかれば殺されてしまうような状態で、デリパスカが放逐されたことは必ずしもタジクとロシアの関係悪化を示さないと思う。現に、CIS首脳会議をドシャンベでやっている。


4. マルチ面での動きとカザフ、ロシア経済の現状
次にマルチの面での動きをみると、CISの首脳会議が10月初めに行われたが、私の印象では盛り上がりに欠けた。盛り上がったCIS首脳会議などというのは、これまでもないのだが。モスクワの論壇では相変わらず、CISの死ということがうんぬんされている。例えばウクライナのユーシェンコ大統領は同時期にパリへ行ってしまった。またCIS発展のためのコンセプト、これはCISの今年の議長国であったカザフスタンが苦労してまとめたそうだが、これにグルジアとトルクメニスタンが署名せず、アゼルバイジャンは一部留保という結果に終わった。また出稼ぎ労働者の地位に関する合意文書にも、署名しなかった首脳がたくさんいる。これらはロシアへの出稼ぎに対する経済的依存度が大きい国々だ。

そして同時期に行われたCSTO会議だが、これは参加国がCISより少なく、ロシア、ベラルーシ、アルメニア、カザフスタン、ウズベキスタン、キルギス、タジキスタンでワルシャワ条約機構には到底、及ばない。これが先ほど申し上げた平和維持軍創設文書に署名した。これによっておそらく、グルジアに派遣されているロシア軍がCISの平和維持軍という法的なステータスを得ることができるようになるのだろう。そうすると、ヨーロッパとの間で現在問題になっている欧州通常戦力(CFE)条約の再交渉におけるロシアの立場を有利にすると思う。その布石も打ったのだと思う。そして緊急事態委員会設立文書の署名があった。

ちなみに平和維持軍というのは前から案があり、去年6月にミンスクでも、CSTO首脳会議で議論したが、署名できなかった。このCSTOの平和維持軍というのは、CSTOの域内で展開する限りでは国連の承認は不要だ、と彼らはいっている。そして平和維持軍に加え、集団緊急展開軍を近代化することを決定したそうだ。集団緊急展開軍というのはかなりバーチャルなもので、ロシア軍の中の何人かが集団緊急展開軍用として任命され、タジク軍も任命されるエンティティだそうだ。計1500人ほどで、2001年にすでに編成されているという。これを近代化する。これはおそらく、在タジクのロシア軍の近代化をいっているのだと思う。

結局、上海協力機構については、中国は経済、テロとの戦いに特化したものでよい、中央アジアにおける中国のプレゼンスは安全保障に及ばなくてもよいという姿勢を示してきた訳で、中国としてはそれでよいのだと思う。新彊地方の向こうの中央アジアが政治的に安定していれば中国はそれで十分で、中央アジアがロシアに治められていようが、アメリカが出てくるよりはましという感じだと思う。
そしてもう1つ、最近目立つことは、ロシア、カザフの間で微妙な摩擦が続いていることだ。ロシアの政権がズプコフ首相の登場によってめっきりソ連化した。そのようなズプコフ首相にはカザフスタンが目ざわりかもしれず、ますます摩擦が起こるかもしれない。例えば11月に上海協力機構首脳会議がタシケントで開かれ、そこでロシアがエネルギークラブをつくろうという以前からの案を推進し、全然進まないためにズプコフ首相が不満を述べたそうだが、カザフスタンのマシモフ首相は、「エネルギークラブもよいが、エネルギー戦略を採択しよう」といったのだそうだ。これはよくある構図なのだが、ズプコフ首相はこれによって、かちんときたというニュースがある。そして同じ場で非常事態回避センターというのをつくろうという話が出ると、同じくカザフスタンのマシモフ首相が早速自国に招致すると宣言した。すると満場が沈黙、ズプコフ首相は「この話は元々ロシアがやることになっている」といってマシモフ首相を抑えたともいわれる。

そして11月には、ルフトハンザがユーラシアのハブを設けるという話が出た。これは貨物機用で、貨物機というのは少々時間がかかっても構わないので、燃料を少なく積むことによって貨物をできるだけ多く積むことになっているそうだ。すると中継点が必要なので、その中継点をユーラシアの真ん中のどこかに設けたいということで、ルフトハンザはそのハブをアルマトイに置くことを決めた。するとロシアがこれに反発し、ルフトハンザの貨物機のロシア領空飛行を禁じてしまった。ルフトハンザは早速、膝を屈して交渉を始め、ロシアは「クラスノヤルスクないしノボシビルスクをハブにしろ」といい、「付属設備もルフトハンザの金で修理しろ」、「冬になって使えなくても知らない」という感じのようだ。このようにカザフへのさや当てがある。

またアジア開発銀行(ADB)が11月初旬に確かドシャンベで中央アジア地域協力プログラムの会合を開いた。これは以前からあるプログラムで、中国が入っていてロシアは入っていない。新彊地方を念頭に置いて中国が入っており、アゼルバイジャン、モンゴル、アフガニスタン、中央アジア諸国、そして6つの国際金融機関が入っている。これこそ日本がやろうとしているマルチの中央アジアの域内協力を促進するためのプロジェクトに、融資するというものだ。その具体化が発表され、それは6つの運搬ルートを整備するというものだ。これは中国からコーカサス地方までで、コーカサス地方から西欧へは西欧がプログラムを持っている。新聞に出ていたが、合計で確か1兆円か2兆円程度のものだという。ADBだけでなく欧州復興開発銀行(EBRD)やその他も、資金を出すことになっている。そして、研究所を設立することで合意している。これは非常によい動きだ

次はカザフスタン経済の現状だが、これがロシア経済の今後を暗示するものになっている。外国から借りて、消費者ローン、不動産ローンで経済を膨らましている。ロシアもまさに現在、そのような構図にある。カザフスタンの場合、この3年で銀行貸し出しは年間60%以上増加し、不動産関連が主ということだ。現在、累積の民間対外債務が850億ドルで、カザフのGDPにほぼ等しくなっている。利子のネットの支払いが、経常収支の58%という書き方で、これは新聞記事なのでよくわからないのだが、どう考えても経常収支は赤字だと思う。一方、貿易収支はまだ黒字だ。今年上半期の輸出は218億ドルで、輸入は148億ドルだ。ただ輸入が毎年50%増えているので、来年50%増えるとすると、すでに今年の輸出額を超える。したがって、貿易黒字も来年は赤字になる可能性がある。

サブプライムでユーロ市場における利子率が高くなったので、カザフの銀行は借りにくくなった。そこで資本の流入が止まってバブルが崩壊、9月初旬には不動産価格が30%下落した。スタンダード・アンド・プアーズは10月8日に、カザフの格付けを1つ下げ、BBBマイナスにした。フィッチは下げてないのだそうだ。ただ外貨準備と国民基金を合わせて400億ドルまだあるというが、外貨準備は9月に50億ドル減ったということだ。ナザルバエフ大統領は、おそらく10月だと思うが、閣議で経済が危機にないことを強調し、同時に40億ドル相当の公的資金を銀行に注入している。これについては、注入したのか市場に提供したのかわからないのだが、それだけクレジットクランチになっている。同時にカザフではインフレが亢進して、これまで年間、8%程度だったのが、本年9月で2.2%インフレになった。とくにパンは10月に小売価格が2倍になったそうだが、これは通常のインフレではなく、いろいろなファクターが混ざっているのだろう。投機もあると思う。そして国際穀物価格が上がっているのも大きく響いているだろう。カザフは小麦生産の半分を輸出しているのだそうで、輸出価格が上がれば国内価格も上がる。そうでなければ皆、輸出されてしまう。そして政府は老人、障害者、貧しい人に補償支払いを始めたというニュースが出ているが、これは本当かどうか確認しておらず、わからない。11月現在、9月の値上げ騒ぎは静まっている。当局は「人民による投機監視の復活」を提案したらしく、これはソ連的だ。

ロシアでも9月に食料品価格が急激に上がったので、それによってロシア政府は食料品会社と協議したうえで、1月末までの主な食料品価格の値上げを10%以内に収めるという業界との協定書に署名した。10%なので、事実の追認のようなことになるのだろうが、非常にソ連的にみえる。ほぼ同時に、10月22日、マシモフ首相がズプコフ首相に電話し、食料品価格の上昇を「調整」したというニュースがある。この辺になると、関税同盟ではないが、価格同盟、CIS価格同盟で、計画経済の復活になりかねない。利権が絡むのでおそらくそうはならないだろうが。そのような状況にある。
(以上)

コメント

投稿者: キエフ | 2008年02月12日 23:02

カザフの経済状況、興味深いですね。これ(銀行の借金問題)についてもっと知りたいのですが、何かいいソースありませんか?ロシア語、英語でもかまいませんので。

(河東より:小生が参照しているのは、www.centrasia.ruが主です。他にもカザフスタン中央銀行や統計委員会のホームページに何かあるでしょうが、おそらく随分以前の数字だろうと思います。他に、IMFやIBRDのホームページをご覧になると、良質の資料が載っていることがあります)

投稿者: キエフ | 2008年02月13日 20:57

ありがとうございます。少し拝見しましたが、非常にレアな情報が載っていました。数年前では考えられないぐらいの情報量ですね。助かります。昔はRFEとかぐらいしかなかったです(5年以上前ですが…)。

コメントを投稿





トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/319