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世界はこう変わる

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2007年12月15日

これから荒れる? グルジア情勢

さっき随分詳しいグルジア情勢解説を書き始めたら、うっかりして消してしまったので、すっかり嫌気がさしている。そこでポイントだけ書いておく。

これまでロシアとの関係が緊張してきた上、9月には内政が急に流動化して遂には非常事態宣言、1月5日に前倒しの大統領選挙となった経緯の半分くらいは、これまでのブログに書いてある。
なんでこれだけグルジアの情勢に注目するのかと言うと、グルジア国内のアプハジアと南オセチアがグルジアから独立したいと言い、これをロシアが支援することでグルジアとの戦いとなり、それを奇貨としてロシア内守旧派がロシア大統領選挙をうやむやにしてしまう可能性があるからだ。

★なぜ9月から急に情勢が・・・
僕も含めて世界中のマスコミは、グルジア情勢の何たるかもわからずに、やれ民主派のサアカシヴィリ大統領が急に悪鬼のごとくになって、正義に燃える野党の民主派を棍棒で弾圧したとか書き立てている。だが僕は、旧ソ連諸国で起きていることの本質は、民主主義と権威主義の争いなどではなく、民主主義の装いをした権威主義が守旧派の利権に挑戦している、要するに国民は二の次で、エリート内部の利権争いなのだと思っている
そこまではいいのだが、ではなぜ9月にオクルアシヴィリ前国防相は旧友のサアカシヴィリ大統領に反旗を翻し、事態流動化の引き金を引いたのか?

★ベレゾフスキーとパタルカツィシヴィリ
この事件の背後には、パタルカツィシヴィリというユダヤ系グルジア人実業家がいる。彼は90年代大混乱のモスクワで、後に政商となるベレゾフスキーと自動車輸入ビジネスを始めてのし上がる。そしてベレゾフスキーだけではなくグシンスキーやアブラモヴィチなど他の政商の御用も務め、かつソ連外相を辞めた後しばらくモスクワに住んでいたシェヴァルナゼ元ソ連外相の何でも屋でもあったのだ。後にはテレビ局社長にまでなりあがっている。
ベレゾフスキーがプーチン政権と対立して国を追われると、パタルカツィシヴィリも国外に出て(訴追されそうになったので)グルジア国籍をもらった上でビジネスに乗り出した。時、あたかもシェヴァルナゼがグルジアの大統領になったばかりで、パタルカツィシヴィリは大いにグルジア国内の利権を手に入れただろう。世界のメディア王マードックを語らって、グルジア一の民放テレビ「イメーディ」を作り上げもした。

★パタルカツィシヴィリによる政治運動
で、このパタル氏。9月の政変ではごく初めの頃から集会にも出て、野党をアジっている。「資金は俺が出してやるからな」と。そして彼は自身でも大統領選挙に出ると言い(結局、候補にはなれず)、大統領職を廃止し、将来は立憲君主制の下に10の地方からなる連邦を作り、ロシア・米国との間で等距離外交を行う、という綱領を作った(支離滅裂な感じがする)。

★そこでわからないことは・・・
そこでわからないことを箇条書きにする。
①9月のオクルアシヴィリ発言は、パタルカツィシヴィリあたりに唆されたものだろう。
ではパタル氏の企図は何か? 政権がシェヴァルナゼからサアカシヴィリに代わったことで、利権を失っていたことの復讐か? 
②それとも、パタル氏は昔の相棒、今はロンドンに亡命している政商ベレゾフスキーの命を受けて動いたのか?
③もしそうであるなら、ベレゾフスキーの企図はどこにあるのか? サアカシヴィリ大統領を刺激して一層過激な反ロシアにの立場に追いやり、ロシアとの戦争を起こさせて、プーチン政権の邪魔をしようとしているのか?
それとも、彼はひそかにプーチン政権との和解をはかり、グルジア情勢を荒らして戦争の口実を作り、もってロシア大統領選挙延期をしやすくし、それを手土産にモスクワ復帰をはかろうとしているのか?
わからない。

★当面注目しておくべきことは・・・
①1月5日の大統領選。野党は弱体で分裂している上に、準備もできていないので、サアカシヴィリにとっては戦いやすい。予定通り秋に選挙をしていれば、サアカシヴィリの人気は更に落ちていたかもしれない。9月の騒動を彼はうまく利用した。

②11月にロシア軍はアプハジアからの撤退を完了した。予定を1年前倒ししたのだ。兵士の殆どが現地人であったそうで、もしグルジア政府軍と戦うと簡単に投降し、ロシア人将校と兵器を政府側に渡してしまう懸念があったから、ロシア軍は急いで撤退したのだ、と言われている。
サアカシヴィリ大統領はアプハジア地方出身で、今でも家があると言われているので、ロシアとしては彼が本当に戦争をしかけてくるかもしれない、ヤバい、と思ったのだろう。

③サアカシヴィリが大統領に再選されると、力の政策に訴えてくるかもしれない。彼は第一期目も、就任早々南部のアゼリ自治共和国のドンに難癖をつけ、しゃにむに追い出してしまった実績を持っている。
そして力はある。グルジアのGDPは一応伸びていて(07年は名目で15%成長、但しインフレ11%予想)、税収が増え、08年国防予算は7,23億ドルで、GDPの7,2%にも及んでいるらしい。3,2万人の軍隊は全員が職業兵士で、7万の予備兵もいると言う。結構手ごわい軍隊で、指導者は使ってみたい誘惑に駆られるだろう。

グルジア、ロシア双方とも戦争への伏線を張る
アプハジアでは、チェチェンの勢力がロシア軍に混ざっていた、とサカシヴィリは11月に言っている。要するに、ロシアはアプハジアで真剣に騒擾を起こそうとしている、というわけだ。
もう一つの少数民族地区、南オセチアではグルジア政府は40%の領域しか支配しておらず、親露的な別の政府が60%の領域を支配している。⇒グルジア政府の方からは、戦争を起こす口実はあるということだ。
他方、ロシアの方からも、グルジアに「しかける」だけの理論固めは既に十分。最近もある雑誌に軍人が書いたが、「グルジア政府はNATOの助けも借りて、アプハジア、南オセチア問題を解決しようとしている」と言うだけで、十分だろう。

⑤「ロシアは08年初めにもアプハジア、オセチアの独立を認め、グルジアに宣戦布告をさせる」という噂がモスクワで流れているらしい。だがそんなことをすれば、タタールやらブリヤートやらヤクートやら無数の少数民族の自立要求に火をつけて、ロシアは分解してしまうだろう、という見方もある。

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