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世界はこう変わる

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2007年09月14日

ズプコフ大統領かグルジア戦争か

安倍総理が辞任を表明したその数時間後、同じ12日モスクワでは、フラトコフ首相が辞任を表明、プーチン大統領はその後任にズプコフ金融監督庁長官を指名した。ロシアの金融監督庁はできてからまだ5年しかたたないが、日本の金融監督庁とは少し違って、マネーロンダリングなどの金融犯罪摘発を主な仕事にしているようだ。

そのような仕事、つまり国税庁とか関税委員会とか権力と金が関係するところは昔からKGB要員が出向していたものだ。だが、ズプコフ氏の経歴や顔を見る限り、KGBの匂いは感じない。KGB出身者は不思議と目が少し潤み無表情な、いわゆる「魚の目」をしている者が多い。
ズプコフ氏は1999年9月、当時のプーチン首相の指揮の下で第2次チェチェン戦争が始まりつつあった時、テレビの討論番組に出て、無駄な流血を避けるためにチェチェンの独立容認を真剣に考えるべきだ、と述べたことがあるらしい。だとすれば、非常に合理主義的志向をする人物だ。

ズプコフ氏は、故エリツィン大統領と同じスベルドロフスク州の農村出身。しかしレニングラード(今のサンクト・ペテルブルク)の農業大学で経済学を専攻し、博士号まで持っている。その後農場の現場から叩き上げ、レニングラード州近郊の農園長などを経て90年代初期にサンクト・ペテルブルク市政府で対外関係部次長の職についている。当時、対外関係部の部長はプーチン氏で、ここで初めて接点ができたらしい。その後プーチン大統領とは親しく、少人数しか出席しない内輪の誕生日パーティーにも出ていたらしい。
西側の専門家は、彼のことをプーチン大統領とその側近の「会計係」ないし執事のような存在と考えている。そしてセーチン大統領府副長官に近いと言う。

僕の知人のある専門家は、セーチンはヴィクトル・イワノフ大統領府副長官(日本で言ったら官房副長官のようなもの)、ナルイシキン第一副首相、パトルシェフFSB議長、ヌルガリエフ内相、ウスチノフ法相、ミロノフ上院議長、セルジュコフ国防相、そしてフラトコフ前首相とも近く、あわせてセーチン閥を作っていると言うが、セーチンとウスチノフ法相は子供同士が結婚しているから近いのは事実だとしても、他の組み合わせについては?がつくものも多い。
但しズプコーフの娘とセルジュコフ国防相は結婚しているから、両者の関係も近いのだろう。

考えてみると、8月の鉄道爆破、サンクト・ペテルブルクの利権の多くを握っていた暴力団組長の逮捕、石油会社「ルスネフチ」社長グツェリエフの弾圧、これらは全てズプコーフ首相任命の準備だったのかもしれない。どのように糸がつながっているのかは、まだわからないが。

ま、そんなことはどうでもいいのだが(だんだんソ連時代の「クレムリン学」のように隠微になってきた)、我々にとって重要なのは、このズプコーフという人が何で首相に指名されたのか、そして彼は次の大統領になるのかどうかである

ロシアの政治ロビースト、ニコノフ氏はマスコミに、「ズプコフの首相就任は、プーチン大統領が一度辞任してからまた返り咲くための態勢を準備する一環だ。」と述べるとともに、「但しズプコフが大統領になるとは思わない」と付け加えている。

「ガゼータ」紙は、首相を早くフラトコフからイワノフ第一副首相かメドベジェフ第一副首相に替えろ、という圧力をかわすために、プーチン大統領周辺がズプコフを担ぎ出した、との見方をとっている。

ズプコフ新首相はもう66歳、プーチン大統領より十歳も年上、ということで、大統領になるのは難しいのではないかと当初は思われていた。
ところが彼は13日、「首相として業績を上げることができれば、大統領選出馬もあり得る」と言ったのだ。
これは重要なことだ。セルゲイ・イワノフ、メドベジェフの2人の「候補」は影が薄くなる可能性が出てきた。もしかすると、ズプコーフ氏が大統領になって、しばらくすると「疲れた」とか何とか言って辞任してしまい、またプーチン政権第2期が始まるーーーこんな姑息なシナリオさえ見えてきた。これからロシアは貿易黒字がゼロになり、外国での資金借り入れも難しくなり、国内ではインフレが激しくなろうというこの時に、ご苦労様なことだ。

外国では、もっと過激なシナリオを早々と打ち出した者がいる。ワシントンのロシア問題専門家アンダース・オスルンド(元はスウェーデンの外交官)。彼の意見では、ズプコフはこのままずっと首相として居座り続ける。で、大統領となるのはーーープーチンなのだ、というのである。

プーチン大統領は小泉さんと同じでポストに恋々としないところがあるが、側近の方はかき集めた利権に恋々としているので、ボスのプーチンには残って欲しい。それに上に立つ者が国全体のことを決めていると思いこんでいるロシアの大衆も、プーチンが代わることには疑問を持っていて、次の大統領候補に殆んど反感さえ持っている(国の権限が上御一人に集中した体制ではよくあること)。

そこで、「いや、俺は絶対辞任するんだ。三選を憲法が禁じているのだから、民主主義的交代の前例を確立するんだ。」と言っていたプーチン大統領も、「いや、皆さんがそこまでおっしゃるんだったら、例えば国家が非常事態になるような場合には三選でもいいですよ」というところまで下りている。

そこでアンダースが言うには、その非常事態に近くなるんだ、それはグルジア戦争なのだ、というのである。グルジアーーー知る人ぞ知る黒海沿岸のぶどう酒とオレンジあふれる国である。何でここが戦争になるかというと、それは2004年、サーカシヴィリ氏が大統領になって以来、ことごとにロシアにたてつく態度をとり、アメリカの手厚い援助の下にNATOにも加盟する構えを示していること、そしてまた領内にアプハジア、南オセチアという分離勢力を抱えていて、これら勢力はロシアの支援を受けていることがあるからだ。

8月にはグルジアの首都トビリシ(ものすごく小奇麗で趣のある街です)から60キロのところに空からミサイルが降ってきて、不発のまま地面にたたきつけられた。グルジアはこれをロシアの挑発だと言い立てたのだが、ロシアはそれを言いがかりだとしてはねつけた。

このような情勢の中、グルジアの新聞は、ロシアとの関係が緊張し始めたことに警鐘を鳴らすとともに、8月下旬ロシアが国境沿いに軍を動員したと報道したのである(未確認)。

ロシアとグルジアが戦争? 普通、そのようなことはあり得ない。スターリンがグルジア出身であったように、グルジア文化やグルジア人はほとんどロシアの一部として、ロシアでは何のわだかまりもなく受け入れられてきたからだ。

だが、アプハジアや南オセチアで騒動が起こり、これにロシアが介入「せざるを得なく」なるというシナリオは十分あり得るだろう。それにグルジアの北のイングーシ共和国(イスラム文化圏だがロシア領)では最近、ロシア系住民が殺される事件が相次いでいる。イングーシの隣、チェチェン共和国のカディロフ大統領はロシア紙「コムソモリスカヤ・プラウダ」へのインタビューで、これは(ロンドンに住んでプーチン政権転覆を企てる)豪商ベレゾフスキーの差し金なのだと指摘している。

それが事実かどうかはともかく、わざわざグルジアと戦争など起こさなくても、ロシア領内のコーカサス地方に紛争の種は多数あるということだ。日本はホントに平和でいいですよネ。政権移行は平和にやりましょう。

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