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経営学

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2012年10月 1日

ロシアへの日本の直接投資

この頃は、ロシアの良さが目立ってしょうがない。彼らは人の工場に火をつけたり、ガラスを割ったりはしないからネ。それに12月に野田総理がロシアに行くので、これから関心が高まってくるだろう。と思っていたら、ロシアの雑誌「「アジア太平洋のロシア」(2012年8月末に公刊)に便利な論文が載っていたので翻訳を掲載しておく。ロシアに対する日本の直接投資の現状をまとめたものだ。在ロシア大使館の井出敬二公使が書いたのだそうだ。工場も実際に見て回って、よく働いてますね。


「日本の対外直接投資とロシアの経済発展」

はじめに
私は2010年9月以来ロシアの日本大使館で働いているが、約2年間のロシア勤務の間に、ロシアにおける日本からの直接投資の状況を見る機会に恵まれた。これまでサンクトペテルブルグのトヨタ、JTI(日本たばこインターナショナル)、トリアッチ「アフトヴァズ」での日産・ルノーの活動、カルーガの三菱自動車、ヤロスラヴリとケメロヴォのコマツ、クリンの旭硝子(AGC)、味の素ジェネチカ研究所(AGRI)、モスクワのIHIとジル社の合弁であるAAT(自動車部品製造)などを訪問し、視察することができた。

日本の対露直接投資の累積として公表されている数字は、2011年末時点のものとして、ロシア側公式統計では約11億米ドル,日本側公式統計では1338億円,17億ドルであるが、それは、日本から第三国を経由してロシアにもたらされた直接投資を含んでいないので、実際にはもっと多い。

サマラ州トリアッチ市のアフトヴァズでは日本、フランスとロシアの企業による非常に興味深い協力が進められている。ルノー・日産アライアンスは、アヴトヴァズ社の50%以上の株式を取得する意向を表明したと承知している。既に日産・ルノーは,自社の技術者をアフトヴァズ社に派遣し、生産ラインを作り直して,新しい自動車を生産しようとしている。私は本年2月にアフトヴァズ社を訪問し、アフトヴァズ大学(アフトヴァズ社の研修施設)において、ロシア人従業員を対象に、日本人と一緒に働く際の留意点、日本人の社会文化について講演をしてきた(写真参照)。2月時点で既に30名程度の日産の技術者がアフトヴァズの工場で働いており、更に70名程度が増えるということであった。直接投資とは、単にお金を送るだけの場合もあるが、人と人が一緒に働き、新しいものを創造していくこともあるのである。

1. 統計は何を示しているか
 ロシアに外国からいくらの直接投資が流入しているかについては、ロシアの公式統計には二つの統計がある(共にロシア統計庁(ROSSTAT)のウェブサイトに掲載されている)。
第一は、中央銀行が作成する国際収支統計による、ロシアが外国から受け入れた直接投資の状況であり、グラフ1(赤色の棒)の通りとなっている。これによれば、2008年の750億ドルをピークとして、その後下がっているが、2011年には再び上昇して528億ドルとなっている。以下このデータを国際収支統計とよぶ。

もう一つの統計は、ロシアの各種の投資報告をもとに計算したものである。ロシアが外国から受け入れた直接投資の状況はグラフ1(青色の棒)の通りとなっている。2007年の277億ドルをピークとし、2008年の金融ショックの後低下したが、2011年には再び上昇して181億万ドルとなっている。このデータを報告集計統計と便宜的によぶことにする。
前者の国際収支統計が後者の報告集計統計に比べてかなり多額になっている理由はよく分からないが、前者には銀行を含む与信機関からの投資が入っており、後者には入っていないなどの相違も一つの理由と見られる。前者の国際収支統計による対ロシア直接投資の内訳を見ると、2008年まではEquity capitalとReinvestment of earningsが増えており、2008年の後はこれらの二つの項目は減少したが、Other capital が増えている。

2.ロシアへの直接投資をしている国々
 ロシアが受け入れている直接投資の投資元の国は、ロシアの公式統計によれば、2011年末の累積(ストック)で、グラフ2のとおりとなっている。日本は累積で第8番目の国となっている。キプロス、オランダ、バージン諸島からの直接投資が多いが、これらは多かれ少なかれタックスヘイブンを利用しており、元は様々な国からの資金である。その中にはロシアからの資金も入っており、ロシアからの資金が環流している面もある。
 ロシアへの多額の投資を行っている国としては、オランダ、ドイツ、英国、フランスが挙げられる(これらの国にもタックスヘイブンの領土はあるのだが)。日本企業からロシアへの直接投資についても,第三国にある子会社を通じてロシアに投資している例は少なからずある。日本は欧州に子会社を設立している。

欧州諸国からロシアへの直接投資については、2011年のEU諸国からロシアへの直接投資統計(Eurostat)を見ると、イタリア(約9億ユーロ)、オーストリア(約6億ユーロ)、ドイツ、フィンランド、ルクセンブルグ(それぞれ約5億ユーロ)の直接投資がなされているが、他方、ベルギー(約15億ユーロ)、オランダ(約10億ユーロ)、英国(約2億ユーロ)の直接投資金額はマイナスとなっている。つまり投資のdisinvestment(引き揚げなど)が,新たな直接投資金額を上回っている。EU27カ国全体からロシアに対する直接投資は2008年280億ユーロ、2009年84億ユーロ、2010年79億ユーロであったが、2011年になって23億ユーロのマイナス(つまりdisinvestmentが新規の投資を上回った)になったのである(グラフ3)。このことは、ヨーロッパ経済危機により、欧州企業が金融ポジションを固める動きをとったこととも関係しているのかもしれない。

3.日本の対外(ロシアその他向け)直接投資の動向
 日本の対露投資の推移はグラフ4(毎年のフロー),グラフ5(各年末のストック)を見ていただきたい(日本側統計によるもの)。また最近の日本企業の製造業分野での主な直接投資を表にまとめたので参照願いたい。最近増加傾向にあることは喜ばしい。
日本銀行が公表している直接投資残高データによれば、2011年末時点での日本の対露直接投資残高(ストック)は1338億円であり、その内訳は製造業(Manufacturing)408億円、非製造業930億円となっている。

製造業の内訳は、一般機械器具(General machinery)206億円、木材パルプ(Lumber and pulp)51億円、輸送機械器具(Transportation equipment)30億円が明記されており、以上の三項目の計は287億円となる。輸送機械器具とは、自動車産業への投資を含むものであろうが、既にロシアに工場を設置し、自動車製造を開始しているトヨタ、日産、三菱自動車は、第三国経由の投資もあるため、実際にはこの30億円よりも遙かに多い。残りの121億円は、ゴム・皮革(Rubber and leather)、鉄・非鉄・金属(Iron, non-ferrous, and metals)、精密機械器具(Precision machinery)である。興味深いことに、石油(Petroleum)分野での投資に関するデータは、日本銀行の表では一件も取り上げられていない。つまりサハリンI,IIへの投資は、この1338億円という投資残高には含まれていないのである。

非製造業の内訳は、金融・保険業(Finance and insurance)500億円、卸売り・小売業(Wholesale and retail)318億円となっている。これで計818億円であるが、残り112億円は建設業、運輸業、不動産業、サービス業に投資されている。(グラフ6参照)。
このロシア向け直接投資残高(2011年末時点)は日本の対全世界直接投資残高額(38兆9393億円)の内の0.34%に過ぎない。日本の対外直接投資は、米国、オランダ、中国などに向かっており、ロシア向けはまだまだ大変少ないことも事実である(グラフ7)。
2011年末時点で、日本の対外投資累積金額は、ドル換算ではロシアには1725百万ドルだが(第三国経由の日本の対露投資は含まない)、インドには15416百万ドル(8.9倍)、香港には17127百万ドル(9.9倍)、ブラジルには33982百万ドル(19.6倍)、タイには35178百万ドル(20.3倍)、ケイマン諸島には67982百万ドル(39.4倍)、中国には83379百万ドル(48.3倍)、オランダには84950百万ドル(49.2倍)、米国には275504百万ドル(159.7倍)となっている。グラフ7を見つつ、2000年代に中国が日本からの多額の直接投資を引き付け、もって中国の経済発展につなげたことを想起したい。

4.日本の対露直接投資のいくつかの特徴
 日本の対露投資について、いくつか気づきの点を指摘したい。

 第一に指摘できることは,日本の対露直接投資は最近活発になってきており,公式統計での数字は第三国経由の直接投資を含まないため,実際の投資額は,はるかに多いということである。サハリンI,IIへの投資やJTI、AGC(旭硝子)の投資も含めれば,正確な数字はわからないが,100億ドル程度にものぼるかもしれない。となると,オランダやドイツに比べて,日本からの対露直接投資金額が大きく劣っているとは言えないだろう。実質的には日本は対露直接投資の国として、上位5位には入っていると言って良いのではないかと考える。

第二に指摘できることは,日露間の貿易関係を反映し、長年の貿易パートナーとしての信頼関係があるからこそ、直接投資が活発になってくるという関係が指摘できる。日露間の貿易を見れば、日本からロシアへは自動車、建設機械などの機械類、ロシアから日本へは石油、ガス、金属、石炭などの資源が大きな比重を占めている(グラフ8)。これらの貿易品目に関連した分野での投資が活発に行われることは自然の流れである。したがって、投資を活発化させる前段階として、貿易関係を活発にさせることは引き続き重要である。
なお、日本と中国との間の貿易関係は非常に発展しており、2011年では往復の総額3440億ドルであり、日本・ロシア間貿易(往復総額308億ドル)の11倍、ロシア・中国間の貿易(往復総額835億ドル)の約4倍ある(グラフ9)。
また日本が中国に現地法人を設立し、その売り上げは中国国内では2900億米ドル、日本向け輸出は790億米ドル、第三国向け輸出は651億米ドルである(2010年、経済産業省のデータ)。つまり貿易関係が発展しているからこそ直接投資がなされ、またその直接投資により貿易が更に促進されるのである。このように貿易と投資との間の緊密な関係を忘れてはならない。

第三に、上述の点とも関連するが、ロシアへの直接投資の分野は,ロシアが優位性をもつ分野である天然資源と1億4000万人を擁する市場という性格に大きく規定されている。すなわち,資源開発関連とロシア国内市場向け分野が有望ということが言える。日本からの直接投資はサハリン(資源開発関連),サンクトペテルブルグ(国内市場向け)に集中していたが,最近は国内市場向けという観点から,大市場であるモスクワ及びモスクワの周辺のヤロスラヴリ,カルーガ,トゥーラ、トヴェリ、リペツクなどに多様化している。市場とは具体的に言えば輸入代替可能な食品,日用品,流通,そして自動車分野である。
日本の対中国,アジア直接投資について言えば,大量の廉価で優秀な労働力を利用して加工貿易をするために巨額の直接投資がなされ、更に現地の所得の増大にともない大きな市場ができたことが大きな意味を持っている。他方ロシア極東部,シベリアについてはそのような条件は残念ながら不十分と言わざるをえない。したがって,ロシアが優位性をもつ天然資源関連での協力を探求していくことが引き続き重要である。天然ガスについては,世界各地での開発が進んでいるため,需給が緩んでおり,ロシアの天然ガスの開発,輸出もスピーディーに進めることが必要である。

第四に言えることは,それでも日本の外国向けの直接投資全体の中でロシアが占める割合は残念ながらまだまだ非常に小さいということである。それはロシア側にも投資受け入れ環境を改善するなどの努力が必要と言える。世界銀行と国際金融公社が出版している「Doing Business」報告書2012年版によれば,ビジネスのしやすさのランキングで,ロシアは世界183カ国の中で第120位となっている。今後,ロシアがビジネス環境を更によくすることを期待している。

 第五に指摘できることは,日本とロシアの相互補完性である。つまり,資源開発と製造業分野でも,日本の技術力がロシアで期待されていると言える。この関連で、日本の技術がエネルギー効率の面でも非常に優れていることを紹介したい。単位GDPを生産するにあたって、日本が使うエネルギーを1とすれば、EUは1.8,米国は2.1,中国は8.3,ロシアは16.8である(グラフ10)。勿論産業構造、地理的特徴の相違などもあるので(知的集約産業はエネルギーをさほど使わない、ロシアは寒冷地で国土も広い)、単純な比較は慎むべきだが、それでも日本のエネルギー技術がロシアにとり非常に有益であることは間違いない。食品,外食の分野で,日本企業の競争力は世界的に必ずしも強くないのだが,ロシア全土における日本食の人気が非常に高まっていることから,将来,日本企業がこの分野でも投資し,本物の和食をロシア人に提供することを期待したい。

 第六に指摘できることは,日本の大企業の本格的な対露直接投資はまだ始まったばかりなので、確実に育てていく必要があり、そのためには日露双方の努力が必要である。日系企業(中小企業)のロシアへの初期の直接投資においては,うまくいかないで撤退した例もあった。最近始まった日系大企業の直設投資については,撤退例はまだない。直接投資が成功するためには相互理解が必要である。直設投資の多くの場合,日本人が現地に来て一緒に働くことになる。(そうでない場合もあるが。)となると,日本人とロシア人がいかに一緒に働くかについて共に学んでいかなければならない。
私がJTIのサンクトペテルブルグ工場を訪問した際には,同工場では現在は日本人スタッフは働いておらず,日本以外の世界の様々な国の人達が働いていたにもかかわらず,「改善」、「整理」、「整頓」などの日本の標語が工場内に貼ってあったことは興味深かった(写真)。

 第七に指摘できることは,日本と欧州の企業が協力してロシアに進出しているので,日本人,ロシア人,欧州人の多様な国の人々が一緒に働く例が出てきている。それは,日産とルノ-(フランス),三菱自動車とプジョー・シトロエン(フランス),ユニチャームとSCA(スウェーデンに本拠を置く製紙メーカー),旭硝子とベルギーのガラス製造分野での協力である。上記以外の日本企業でもロシアにおけるオフィスの責任者がドイツ人、フランス人、イギリス人という例も出てきている。欧州は伝統的にロシアと厚みのあ
る関係を持っているので,その強みを活かして工場進出などの様々な仕事は欧州人が行い,同時に日本の高い技術力を活かすような工夫がなされている。私は、欧州経済危機が今後の協力に対して否定的な影響を与えないように祈っている。

5.対露直接投資増大のための日本側の努力
 ロシアにある日本大使館、日本総領事館、日本政府関係機関、日本のビジネス界は、ロシアへの直接投資増大のために積極的な活動をしている。
 日露政府間では貿易経済に関する日露政府間委員会や日露投資フォーラムという会合が開催されており、政府高官及びビジネスマンも参加している。
 モスクワにおいては日本企業約200社が参加しているジャパンクラブという組織があるが、同組織は、毎月一回、日本大使館で会合を開催し、種々の情報・意見交換をしている。その機会に、ロシアの地方の行政府やビジネス関係者に来てもらい、当該地方への投資、貿易その他の経済関係促進のためのプレゼンテーションを行ってもらっている。最近ではカムチャッカ地方、ペルミ州、ヴォロネジ州、ブリヤート共和国、ロストフ州にプレゼンテーションを行ってもらった。また駐ロシア日本大使とビジネスマン達が一緒になってロシア各地を訪問し、現地の知事、経済関係者などとも意見交換をしている。

 またロシアで活動する外国ビジネスマンにとっての査証関連手続き、滞在関連手続きの簡素化について意見交換するため、日本大使館とロシア外務省領事局がイニシャチブをとり、日本のビジネスマン、連邦移民局も交えて意見交換も行っている。私は、このような会合開催のために努力を払っていただいたロシア外務省領事局と連邦移民局に厚く感謝している。
 モスクワにはジェトロ、ロシアCIS貿易会のオフィスもあり、日露の貿易・投資関係増進のために努力している。

日露間政府間の合意に基づいて、1994年にモスクワ、サンクトペテルブルグ、ニジニイノヴゴロド、ウラジオストク、ハバロフスク、ユジノサハリンスクに「日本センター」が開設された。同センターでは、ロシアのビジネスマンに日本経済の経験を伝えるための専門家による講座や、成績優秀者に対する訪日研修を実施している。日本企業の対露投資に際して、ロシア側パートナー選びの支援や、コンサルタント・サービスの提供、分析サービスの提供なども行っている。私も、最近サマラにおける訪日研修者らとの交流を行い、日露経済関係の現状と展望について意見交換をしてきた。この会合はニジニイノヴゴロドの日本センターとサマラ州政府が組織し、サマラ州政府関係者やビジネス関係者が参加したが、とても良い会合であった。

6 今後の挑戦
(1) グローバライゼーションへの対応

 経済のグローバライゼーションはものすごい勢いで進んでいる,現在,既に日本の自動車メーカーは,ロシアへの自動車輸出を,日本からのみではなく,米国,英国などの工場で製造した自動車もロシアに送り込んでいる。ロシアで組み立てを行っている日本の自動車メーカーや建機メーカーが輸入する部品も,日本製だけではなく,米国製,中国製、その他の地域での製品が混ざっている。それは製造コストと為替(円高)を踏まえて,産地を問わず安くて良いものをもってくるとの観点である。

たとえばタイにおいては,日本の自動車メーカーは多くの自動車を製造している。2012年の自動車生産能力(見通し)によれば,全体で268万台だが,その内の約80%(約214万台)を日系企業(トヨタ,三菱自動車,日産,ホンダ,いすず,スズキ)が占めている。タイがこのように自動車製造大国になったのは,税制面での優遇,部品の完全引き下げ,産業基盤の整備などがある。またタイという国が外国企業を歓迎することがある。タイで製造される自動車の半分は輸出に振り向けられ,アジア,オーストラリア,中東に輸出されるという。タイで作られた日系自動車は日本に輸出もしている。

 ロシアは,NZ,ベトナムとのFTA交渉を行うと伝えられており,将来ASEANとのFTAを締結することも議論されている,もし将来ロシア・ASEAN間のFTAができ,無関税で製品が輸入されるとすれば,たとえばタイで製造された自動車が無関税でロシアに輸入される可能性もあるだろう。
 これはロシアにとり新しい挑戦でありまた機会でもある。このような事態に直面してロシアが行うべきことは,WTO、FTA、関税同盟も含めた対外経済関係を調整し、外国からの直接投資をうまく利用しながら、諸外国との厳しい競争に対抗するために自国産業の競争力を高める努力を更に払うことである。

(2) ロシア国内向けの投資を増やす工夫
ロシアは巨額の経常収支黒字をあげながら、同時に(というかその裏腹に)ロシアから外国への資本流出も巨額にのぼっている。石油・ガス輸出でロシアが得た資金を、ロシア国内の開発、産業育成のために振り向ける仕組みを確立することが必要である。ロシアの官民自身も資金は持っているので、ここで問題になるのは、資金をどこからもってくるか、投資ファンドの金額をいくらまで大きくするか、ということだけではない。製造業の生産ノウハウをロシアに持ってくることが極めて重要である。この観点から、日本からロシアへの直接投資の意義は、その金銭的多寡にあるのではなく、日本企業の生産技術や経営ノウハウをロシアに持ってくることが特に有意義であることを強調したい。中国、韓国が日本の技術ややり方を積極的に取り入れ、自国の経済発展につなげたことはよく知られている。必要なのは、資金をうまく取り込み、製造業の発展に利用できるようにするためのロシアの対外経済関係の構築である。そのためには、国内金融制度の改善、国内諸インフラの整備、勤労者・労働者を引きつける工夫が必要となってくる。

(3) 経済関係発展のための一層の良好な環境
過去の日ソ、日露間の政治関係と経済関係を振り返って、次のようにまとめる識者がいるので紹介したい。(岩城成幸氏論文、"ロシア経済の現状と日露経済関係"2005年。)すなわち、「1907年の日露協商、1925年の日ソ国交修復条約、1941年の日ソ中立条約、1956年の日ソ国交回復、1973年の田中首相訪ソ、1991年のゴルバチョフ大統領来日」を挙げて、日ソ、日露関係に周期的に変化が起きているというのである。またそのことを背景にしつつ、過去半世紀の経済関係を振り返れば、「1960年代半ばの「日ソ経済協力の幕開け」、1970年代のデタントの下での「大規模経済協力の進展」、1980年代~90年代の「日ソ経済協力の停滞」の時期を経て、日露経済関係は2001年頃からようやく停滞からの脱出を試み始めた」とされる。
我々が真に停滞から脱出するためには、政治、経済、社会・文化面でも大いに仕事をしなければならない。それは紛れもない事実である。その点で、日本側関係者~政府もビジネス界も~は、ロシアの友人、パートナーと共に一生懸命働いていく所存である。
(本稿の意見にわたる部分は,筆者の個人的意見であり,日本大使館,日本政府の公式見解を示すものではない。)


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【囲み記事】
辞書:直接投資とは何か
直接投資とは、外国の企業に対して、永続的な権益を取得する(経営を支配する)ことを目的に行われる投資である。国際収支統計について定めたIMF国際収支マニュアルでは、直接投資は親会社が投資先の企業の普通株または議決権の10%以上を所有する場合、もしくはこれに相当する場合を直接投資であると定義している。
具体的に直接投資として認識される投資とは、海外の投資先の企業に対する株式の取得、貸付、債券保有、不動産の取得、海外子会社の再投資収益などである。
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【囲み記事2】
 問題点:外国企業からみてロシア側に改善してほしい点:
1. 企業の税負担が重すぎる。現在の税負担はGDPの35.6%で、分野によっては40%を超えている。特に設備投資を行う企業には軽減する。
2. 電力、ガス、輸送料金が高過ぎる。このままでは製造業が競争力を失う
3. 改革を必要とする金融システム。ロシア企業の65%が外資系銀行に預金をしている。ロシアの銀行はロシア企業に長期融資をしない。相当する数字はブラジル4%、中国8%、インド14%、南アフリカ29%、アルゼンチン60%となっており、ロシアの数字が一番悪い。
上記1~3は、ナビウーリナ経済発展大臣が、今後ロシア経済が発展するために克服が必要と述べた諸点である。(RBK daily2012年4月24日記事参照。)
4. 投資開始,工場設置などの手続きが煩雑である。工場設置のためにロシアの役所に提出した資料は積み上げると数メートルになったという話もある。
5. 工場用地に道路,水道,ガス,電気などは敷設されていないため,右敷設に関する手間が大きい。(アジア各国が外国企業の工場を誘致する場合,これらは既に整備されている場合が多い。)
6. 工場でのトラブル発生などに対応して,日本から急に出張者がロシアに来る必要がある場合に,査証取得の手続きが煩雑である。この点は2012年1月に署名された日露査証簡素化協定が発効すれば改善が見込まれる。ロシア側で批准がまだ行われていないので、なるべく早く国家院による批准がなされることを期待している。
7. 外国人ビジネスマンにとり,ロシア国内の(出張先の)滞在日数に制限がある場合があり撤廃を望む。また労働許可取得,滞在登録手続きも不透明で,煩雑である。
8. 輸入手続き,税関手続きの簡素化。税関申告に際して不適当と思われるHSコード,輸入価格による申告を一方的に求められる。税関手続きが不透明であり,膨大な書類や根拠のない調査,対応を求められることがある。
9. 安定的で廉価な輸送サービスを提供してほしい。鉄道貨車(含む完成者輸送用の鉄道貨車)の不足の問題の解消。鉄道料金などの輸送コストの問題の是正。
10. 知的財産権の保護の強化。
11. 外国人が居住し,出入国する際の快適さを高めて欲しい。特にロシア内陸の地域に住むことは、生活、習慣の異なる日本人にとり難しい場合もあるので、ロシア側の地方行政府、パートナーとなる企業側でも特に配慮を払ってほしい。
12. 外国からの工場進出が続いている土地においては,安定的な労働力供給が確保されるように配慮してほしい。
13. 部品に対する関税が、完成品に対する関税よりも高い場合があり、そのような場合、ロシアでの製造業進出をディスカレッジするので、関税を見直してほしい。
14. 腐敗の問題にもっと取り組んでほしい。
15. 日露間の少量ロットの物流に大きな隘路がある。かつては混載コンテナーがあって、小ロットでも比較的手ごろな運送料で日露(日ソ)間の貨物のやり取りが出来たが、いまはそういう輸送サービスがすたれて、中小企業の小額ビジネスの実現に大きな障害となっている。
16. 法律などの変更においては、事業環境に影響を与えることから、産業との対話を通じて意見を反映し、中長期的な視点での改正をお願いしたい。
17. 各種トラブルに対処するための法制度の確立。
(了)

コメント

投稿者: 高月 瞭 | 2012年10月12日 11:10

ロシアとの関係は、サハリン2でロイヤル・ダッチ・シェルと三井物産、三菱商事の三社が組んで天然ガス開発を行いましたが、完成間近にガスブロムが強引に割り込んだ悪しき経験があります。原因は環境問題だとか牽強付会も極まります。とかく外国で事業することは必ず危険を覚悟で行わなければなりません。対中投資で日本は多くの企業が移転しましたが、最早サンクコストと割り切り撤退すべきでしょう。
これからしばらくは日本は自国のインフラの老朽化や改善のための内需を中心とすべきでグーバライゼーションからナショナルエコノミックスに転換するべきと愚考します。

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