富山紀行 No.1 「ほくほく線」
6月に、富山の商工会議所に講演でよばれて行ってきた。富山というと、僕は40年前の学生時分に1泊して通り過ぎたきりなのだが、それ以来、僕にとって「地方都市」の原風景となっていた。全国同じような退屈な駅前風景のなか、古びた市電のレールがループを描いている。そして安旅館のこたつで食べる鍋料理。それだけだった。
だが今の日本はどこも、都市は小奇麗になっている。仙台とか広島とか、その瀟洒な街並みには本当に魅せられる。富山もその点、昔とは様変わり。それにこの街はけっこう大きく、駅前から乗るポートラムという、モダンな市電を2両つなげたような電車も、スピードをあげ延々と終点の港まで20分ほども走る。そしてその間ずっと、市街地が続いているのだ。だから富山は、日本海側の中心になる風格を持っている――と書くと金沢とか秋田などから猛然と反発の声があがるだろうが。ああ、そして街はずれを流れる神通川も川幅が広くて、けっこうな大河なのだ。
ホテルに着いて窓を開けると、三味線の音がした。真向かいの大きな公民館のどこかで練習しているのだが、この北陸で奏でるはなぜか陽気な沖縄音階。江戸時代、富山は廻船の寄港地だったし、沖合では薩摩の船が中国からの船と密貿易をやっていたとの説もあるので、沖縄文化がけっこう流入していたのかもしれない。
僕は地方に行くときは、街を足で歩き回るだけでなく、県庁、市役所、日銀などの方にも会って、その地方の経済、社会を勉強することにしている。どの地方も、経済史、郷土史を調べると特色があって面白いのだ。で、富山について見聞きしたことをここに書き連ねてみる。
付け加えておくと、北陸は保守王国と呼ばれており、議員の数も多いそうだ。富山にも「自由民主会館」というのがそびえているが、これは東京の民主党本部くらいに大きいのだ。
住みやすい富山
富山に移住した人の話を聞くと、人付き合いはけっこう大変らしいが、それでも富山は大変住みやすいところらしい。例えば持ち家率は全国最高水準で、家の大きさは全国一なのだそうだ。
共働き率が全国でも最高水準だと言うから、女性にとってもいいところだろう。そして道路整備率は全国でも最高水準、かつ渋滞が少ないので、自動車族にはこたえられない。
ほくほく線
富山へは、鉄道でどう行くか御存知ですか? 東京から行くのだったら、長野、直江津経由で北陸線、と思われるでしょうが、普通使われる最短路線はなんと上越新幹線の越後湯沢で「ほくほく線」の特急「はくたか」に乗り換えて、直江津からJRに入って計3.5時間という路線。合計400kmもある。
この「ほくほく線」、面白いことに途中までほとんど直線なので、「はくたか」は無人駅ばかりのレールを時速160キロでぶっとばす。山岳地帯を直線で突っ切るのだから、ほとんどがトンネルだ。この鉄道は地方自治体などによる第三セクターとして運営されていて、JR以外では日本最長の10kmの赤倉トンネルや、泥火山と言われる粘土の塊、鍋立山に難工事の末通した9kmの鍋立山トンネル、そしてトンネル内での追い越し車線など、調べてみると至極面白い鉄道なのだ。何か今でも、こういう鉄道があるとはどこか信じられない。
この路線、上越・信越本線の中間地帯の開発も兼ね、もう戦前から誘致運動があったらしいが、採算性が問題で、着工したのは1968年(一部は信濃川発電所建設用の専用線も利用したらしい)、開業したのは1997年、まだごく新しい路線なのだ。だが採算が問題になるどころか、第三セクターが手がける鉄道としては全国でも珍しく黒字を続ける。東京から富山、金沢への最短経路として使われているからだが、2014年には信越新幹線が直江津まで伸びるらしく、そうなるとほくほく線は活路を他に求めざるを得なくなるだろう。
富山から東京への最短経路は、長野経由のものだろうが、途中に立山山塊が立ちはだかる。だがトンネルだらけの「ほくほく線」を作れたのだから、富山―長野線を作れば北陸―東京間は本当に短くなるだろう。今、3時間半かけて旅行しているが、直線の250kmに鉄道を敷けば1時間になる。
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