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世界文明

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2021年7月 9日

コロナに乗じた強権主義国家への懸念

(これは6月23日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第110号の一部です)
僕の家内はデンマーク人で、コロナが広がった時、「日本はどうしてロック・ダウンしないのか。デンマークでは厳しいロック・ダウンしているのに」と言った。

北欧での自由、民主主義の度合いは世界で最も高い部類。それが、多数国民の安全が危うくなれば個人の権利をさっと制限してしまう。政府は、それができる憲法上の権限を持っている。それが自分達のためだということを、多くの人が認識しているから、文句も少ない(飲食店などへの補償措置もあるのだろうと思うが調べていない)。今ではデンマークでの感染率は低くなり、普段の生活と自由を楽しんでいる。

日本は敗戦国で、戦前の超国家主義への反省もあるから、国民に対する政府の強制力は大きく制限されている。憲法には非常事態の時の政府の権限を定めた条項もないから、2011年の福島原発事故の時も政府は往生したし、今回コロナ禍でも政府は「緊急事態」と称しながら、実際はお願いと補償措置の二本立てをベースとするしかなかったのだ。
そこで政府は、このコロナ禍での経験を「絶好の機会(加藤官房長官は「格好の機会」と言うべきだった)」として、緊急事態条項を書き込むための憲法改正を考え始めたようだ。僕は以前から憲法改正賛成で、その中で自衛隊のことも書き入れたらいいと言ってきた。

しかしこの「絶好の機会」という言葉を見て、待てよと思い始めた次第。上記のように、日本では国民と政府の間の距離感覚がおかしい上に、政治家の大多数もきちんとした民主主義の感覚を持っていないのだ。国民には、政府は自分たちが作り自分たちが支え自分たちが使うものという意識がない一方、政治家は権力に安住して世論から乖離するか、逆に世論にべったりすり寄ることで権力を得ようとする

戦前の超国家主義の要素を体内に残す自民党、そしてマルクシズム・反米のDNAを持つ野党。この両者の間では、現実的な政策論議が成り立たない。緊急事態・非常事態をめぐる憲法改正でも、政府に強制権を認めることの是非が、議論の焦点になるだろう。欧米であれば、強制権を認めるのは当然、但しどういう場合にそうするか、ということが議論の焦点になるのだが。だから日本では、いったん強制権が是認されると、あたかもすべてのことで政府は強制権を持つことが認められた、ということになってしまう。国民の健康を守るための強制権ではなく、強制権のための強制権になってしまう。こういう異常さを解消しないまま、政府の権限を強化するのに、自分は大きな懸念を持つ。

もしオリンピックが曲がりなりにも遂行され、9月に総選挙になれば、自民党が勝利するのだろう。その時自重心を持った政治家は、自民党にいるだろうか? いけいけどんどんで、進むのでないだろうか? 実際には自民党も野党も、ポリエチレンでできているように透き通っていて中身がなく、押せばプチプチとつぶれてしまう存在なのに。


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