Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界文明

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2015年4月20日

アドホック社会 の到来

(これは4月14日発行の「Newsweek」(日本版)に掲載されたものの原稿です。題名、内容とも少し異なります。
 
 日本にいると感じないが、今の世界は暴力が氾濫、まるで世界大乱。中東では西側の介入が現地の権力を空白化させ、昔ながらの部族、そしてISISなどテロ勢力もからんだ利権の奪い合いが広がる。欧州では急増した異民族を吸収・同化しかねて、反目が高まる。そして米国では、キング牧師の名演説「私には夢がある」以来、50年余もかけ営々と克服してきたはずの人種差別問題が、警察と黒人の対立という形で噴出している。これら問題は、産業革命に成功した国とそうでない国々との間の格差、そして産業革命に成功した国の内部における格差が引き起こしている。

他方、産業革命、そして続くIT化革命に成功した先進諸国の内部では、文明の次の発展段階とも言うべき、別の性質の変化が起きている。人々をまとめる(・・・・)ものが変わってきたのである。中世の農耕社会では、人々は農村共同体にまとまり、それは名主・領主を通じて大名・幕府あるいは国王に通じていた。産業革命は農村から労働力を都市に集め、彼らは所属する企業を通じて政府との関係を結ぶようになった。企業や労働組合が、中世の名主・領主の役を果たすようになったのである。戦後の日本はその典型例で、大企業は社員の住宅、年金の面倒も見、まるで大企業本位社会主義の様相を呈している。

梁山泊――アドホック社会の出現

この大企業というもののあり方が、米国を皮切りに大きく変わる。それはアウト・ソーシング、そしてITの普及が起こしている。日本のメーカーは自分の系列で部品を調達するだけでなく、販売まで系列に大きく依存しているが、自国生産の競争力を失った米国は、世界全体を自分のサプライ・チェーンと見なした。自分の工場をろくに持たずに工業製品を設計、それに適した最高の部品を集めて低賃金国で組み立て、グローバルに販売する。アップルやクアルコムのような企業がその典型である。

そして先進国の企業は競争力で劣る部門は売却、優れる部門ではグローバルなスケールで他社を吸収合併し、「選択と集中」を進めている。フィンランドのノキアは携帯電話部門をマイクロソフトに、オランダのフィリップスはAV部門を船井電機などに売却した。ここでは、大企業はブランドの供給者、そして投資銀行化しているのである。

そして製造業においては、ベンチャーの立ち上げが容易になっている。耐久消費財の生産にはこれまで、莫大な投資を要した。それが現在では、生産は外注(但しかなりのロットがないと取り合ってもらえない)、運転資金は短期の低利ローンですませることができるので、新しい商品を思いついたら、技術、財務、営業などの専門家を数名集めて事業を立ち上げ、軌道に乗ったら大企業に売却、チームは次のアイデアを求めてまた散らばっていくというようなやり方(agile manufacturing)が可能になっているのだ。企業間、そして人間同士の関係は、その時々の目的達成のために集まってはまた散っていく、系列や終身雇用とは異なる「アドホック」、あるいは梁山泊的なものになってきたと言えよう。本社と下請け、社内の先輩・後輩関係など上下の関係で律せられている日本の企業は、水平の関係で効率を追求する米国型「アドホック製造業」に押され気味、今や製造業でのイノベーションは米国で起きる時代となった。

「神の領域」を侵す新技術

それだけではない。今、科学技術の最先端では、原子工学、遺伝子工学、光合成の利用など新エネルギー源の開発だけでなく、脳波と機械のインターフェース、そして人工知能の開発が進む。これまでは「神の領域」とされていた聖域に、煩悩を抱えたままの人類が土足で踏み込もうとしている。人工知能が進んで来れば、映画「2001年宇宙の旅」のように、コンピューターやロボットが人間を支配、虐殺しようとする局面も出て来るだろう。

工業化以前の社会が起こす紛争、そして先進技術が起こす問題、我々はいわば前と後ろを見すえながら、進んでいかねばならない。植民地主義以来、アジアは欧米が作りだす枠組み、そしてパラダイムに対応するだけだったが、経済力を蓄えた今、アジアは文明の先端に立ちつつある。日本人も構想力を磨き、グローバルに発言をしていく時だろう。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/2986