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世界文明

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2014年2月16日

第五の産業革命 日本は準備ができているのか

米国を中心に技術、ビジネス・モデルに画期的な変化が起きつつある。日本はこれまで「技術で稼いでいる」という神話の下に生きてきたが、実際には超過勤務、単身赴任等を厭わない滅私奉公に支えられた面が強く、今米国の勢いの前にその化けの皮がはがれつつある。

産業革命後、世界のGDPは数百倍にもなったのだが、それはいくつかの波を経ている。第一の波は英国における繊維・紡績産業で、第二の波は同じく英国における鉄道建設を契機とした製鉄等重工業の発展(ここで株式会社制が普及した)、第三の波は19世紀末米国で始まった電気の使用と自動車の登場である。第三の波によって、高価な耐久消費財が大量に生産されるようになり、GDP額を飛躍的に引き上げた。特に第2次世界大戦後は、米国で大都市郊外に中産階級のための宅地が大量に開発され、住宅が究極の耐久消費財として米国経済を支えるようになった。そして第四の波はIT化である。

今起きていることは、第五の産業革命、あるいは科学技術パラダイムの革新と呼べる。これは世界全体のGDPを大きく膨らませるというよりは、むしろ米国等の先進国に所得が還流する効果を及ぼすことだろう。

(生体とITの結合が富を生む)

日本では4Kとか8Kとか(要するにテレビの画面を一層精細に、立体に近くするという話し)、既存のパラダイムの延長上の話しが多いが、米国はそのパラダイム自身を壊して革新することが得意である。またそこに、最大の利潤が転がっている。

「新しいパラダイム」の主戦場は、「人間の脳」の活用、代替、モノとの結合である。無人運転は言うに及ばず、アマゾンがやろうとしている無人小型ヘリによる配達(ピザ配達を考えている者もいる。米国もフランスも、ロボットを兵士として用いる技術を開発中である。

米国はserendipityを評価する国で、軍用技術の開発において自由な発想を重視する。国防総省の下にあるDARPA(国防高等研究計画局)は、少人数でありながら外部の者を年限を限って開発プロデューサー的に雇用することで、全く新しい発想での技術開発を可能としている。日本の防衛省傘下にある技術研究本部は人数不足、予算不足に泣き、多くを企業の開発部門に依存している。しかし、企業の方ではパラダイム転換を伴う新技術を防衛省に自ら提案することはないようだ。日本に多数ある国立の研究所は多数の研究員を雇っているが、彼らは特権にあぐらをかいている面がある。

「人間の脳」の解明、活用は、最も切実、かつ実用的なところでは、義眼、義耳の開発につながるだろう。つまりカメラを脳の視神経に直結して、光信号を脳内の信号に変換して伝達すれば、目が見えるようになるのである。筋肉の弱った人のための筋肉補助装置は既に開発されていて、これはサイバーダイン社のロボットスーツ「HAL」である。「前に進みたい」というような人間の意志を脳波から読み取って、体を行きたい方向に動かしてくれるのだそうだ。

このような状況は、小回りの利かない日本の大企業にとっては、危機的な状況と言える。米国の法制や金融、そしてマインドはイノベーションや新企業、新ビジネスの立ち上げに非常に適しているからである。これまでは労組が賃金・年金水準を過度につり上げるだけでなく、新規設備の導入にも抵抗してきたが(リストラにつながるからである)、その労組もベンチャー分野には存在していない。

そのため米国では、ベンチャーで製造業を始めて、短期で世界の最先端に立つ例が多い。2013年にGoogleが買収したロボットのBoston Dynamicsは、その好例である。また電気自動車生産の先駆者として有名なTesla Motorsについても、買収のうわさが絶えない。

そして、このような新しい技術は、インドやロシアのように経済基盤が弱くとも知的レベルは高い国でも開発することができる。彼らはそれを台湾や中国の企業に生産を外注することで、世界の市場を制覇できるのである。このような新しいベンチャーは、社会の既得権益層の抵抗を受けることが少ない。ロシアの国営企業はこのような技術革新に関係ないし、インドのカーストもIT企業ではあまり意味がないのである。

アップルは米国に工場を殆ど持たないが、iPadは米国での定価約500ドルのうち150ドルがアップルの利益となる(組み立てている中国人労働者が得ている分はわずか8ドル。部品を提供している日韓の企業の取り分が約150ドル。米国内の流通部門が得ている分が75ドルである)。

米国は、ドルが国際通貨なので、最適の部品を世界中に発注し、最も労賃の安い国で組み立て、それを輸入して国内での販売利益を得る、というビジネス・モデルを使いやすいのである。このようなモデルが貿易赤字をもたらしても、「外貨」ドルはいくらでも印刷できる。印刷しても、それほど減価しない。

こうして、現在のビジネスでは「頭脳を握る」ことが非常に大切になっている。日本は、学校での競争をできるだけ避け、偏差値による固定した序列を社会に持ち込んだが、これが男性の多くを「草食化」してしまっている。世界の競争で、日本は非常に不利な立場に立つことになってしまったのだ。

全力で逆境から脱出しないともう助からない。大枚をはたいて外国企業を買収しても、取締役会では買収した相手に議論の主導権を取られている日本企業は多い。総理や与党をすげかえれば何とかなると思っている日本人が多いが、何ともならない。企業が、そしてその中の幹部や社員が一人でも多く変わらないと、何ともならないのである。

(以上は、メール・マガジン「文明の万華鏡」第21号に掲載したものを一部短縮しました。全文は「まぐまぐ社」より発行している、「文明の万華鏡」をご参照ください)

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