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経済学

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2013年5月25日

日本の 匠の技 神話への不安

この頃は、なにか世の中がマニュアル化、非人間化していて、それは店などでのサービスに如実だ。表面上はやり過ぎと言えるほど恭しいのだけれど(両手で胸を抑えてお辞儀するのは近年のことだ)、やり方がどうも優等生的、つまりココロが伴わない。マニュアル通りにやることで頭がいっぱいで、それからちょっと外れたことを言おうものなら、相手はフリーズ、または聞こえなかったふりをする、というか、まるでこちらが人間ではないように「聞こえていない」のだ。これなら、ロボットや自動販売機と変わらない。社会でのしつけがちゃんとしていないからマニュアルに頼り、心が伴わないのだ。

同じ伝で、この頃はどうも「日本には『技術的優位』があるから」という言葉に不安を感ずる。マニュアルに丸投げしているのと同様、「技術的優位」という神話にすべてを丸投げして、迫っている危険を見ていないのではないかと思うからだ。

僕が使っているサングラスは30年前、ドイツで買ったものだ。日本で買った老眼鏡は、1年もすると柄の蝶番がゆるんでしかたないが、ドイツ製のサングラスはいつまで経ってもぴっしりしている。「匠の技」と言っても、日本だけではないし、ドイツや米国の方が優れている時もあるということだ。そして日本はI-Pad、スマホで大きく出遅れたし、ロボットでは優位だと思い込んでいたのが、ボストンのI-Robotなどにお株を奪われている。今では世界の海中に米国製を中心とするロボットが2万も遊弋して水質検査や探査をやっているし、アフガニスタンではロバの形をした四足ロボットが重い荷物をかついで山道を歩こうとしている。1970年代は日本発の新製品が世界を風靡したが、今ではスマホだけでなく、無人電気掃除機「ルンバ」までが米国発だ。つまり技術水準は外国も高くて、勝負どころはアイデア(I-Padなど誰でも考えつくものだ)を製品化してプロモートする、企業としての迅速さにあるのだろう。

そして何回も書いたが、世界の製造業は産業革命の新しい波と言えるほど、革新の時代に入りつつある。センサーの普及は、これから多数の新しいビジネス・モデルを生み出すだろう。天然ガスからの水素の抽出とその水素を使う燃料電池の普及、脳波とコンピューターのインターフェース、量子コンピューター、常温核融合等、物理・宇宙の法則を活用した新技術、これまでの思考の枠をはみ出た新しい技術の開発と商業化で、日本の企業はどこまで優位を持っているのだろうか。

1960年代から日本はモノづくりに優れてきたことになっているが、新しい基本技術はたいてい米国から輸入したものではないか? 1960年代からの日本は、1ドル360円という円安と、超勤を厭わない日本人労働者の勤勉さ――つまりチープ・レーバー――に支えられて、モノづくりでの優位を築いただけではないのか? それは、奴隷の境遇に近い。

日本は既存の技術の延長上に優れたものを作り出すのは得意だが(多分、そういうやりかたが投資効果が最も高いからだろうが)、日本の企業がそうやって築いた優位を、米国は「方式を変える(例えば、テレビをデジタルに変えることで、日本が営々と開発したハイデフィニション技術を一時、無意味なものとした)」、「プラットフォームを取る(任天堂がゲームのプラットフォームとしての地位をアップルのIPadなどに取られたことで、日本のゲーム産業は下火になった)」、「生産を外注する(Ipad,Iphoneなどがそうだ)」ことで、根底から崩してしまう。日本の大企業は画一的なプラットフォームを大量生産することで大きくなったが、アップルのようなゲリラ的な動きは自分ではできない。リスクが大きすぎるからだ。何か新しいものに賭けて、もし駄目で倒産すると、日本、世界で何万人もが路頭に迷う。

日本のものづくり大企業は、これからの全く新しい時代のビジネス・モデルを早急に作らないといけない。多分、これからのモノづくりは、大量生産での「プラットフォーム」作りと、少量多品種の「アプリ」生産に分化するだろう。大企業は「プラットフォーム」を作り、それを利用するアプリを作る(作ると言ってもアイデアだけで、開発には3Dプリンター、生産には外注を多用する)敏速な中小企業を周りに「飼って」おく。建設で言えばゼネコンが、サブコンに時には融資もしながら、相身互いで生きていく――そういったモデルだ。

そして、世界のパラダイムを変えてしまうような変わった製品を考案し、販売するような中小企業も「飼って」おくべきだ。うまくいくようなら、大企業が大量生産を始めればいい。「日本人はイマジネーションに乏しいから新しいことを思いつかない」のではない。奇抜な変人は沢山いる。思いついてもそれを実現してくれる体制が乏しいから、日本発のパラダイム変化が生まれないのだ。

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