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経済学

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2021年11月 6日

国債は 今すぐ全部返さなければならない借金 なのか?

(これは、10月26日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第114号の一部です)

矢野・財務省次官が「政治家によるバラマキを批判する論文」を文芸春秋に出したことで、話題になっている。おとなしい岸田氏が総理になったから、そして安倍総理の盟友麻生氏が財務大臣でなくなったから、ここで財務省の立場を明らかにしておこう、ということなのだろう。これが、役人のやることとしてノリを外れているとは思わない。こういう風に議論は表に出してやってくれた方が、財務省に陰に陽に変な圧力をかけられるより全然いい。

矢野次官が書いているように、「コロナになったから皆さんに10万円ずつ」(今回ではなく昨年のこと)というのは、僕もおかしいと思った。子供の世話で出勤できなくなり収入を失った母親とか、時短で収入を失った飲食店、その従業員、そして食材卸しの人たち、イベントができなくなって収入を失った文化関係者などへの補助金をもっと手厚くしてほしかった。でも、ああいう危急の時、そんなきめ細かいことをやるだけの人員は政府にいないのだろうと思って、筆者は10万円すんなりもらって、カネに困っていそうなオーケストラに全部寄付しようと思った。思ったが考え直し、寄付は2万円だけにして、残りは子供たちにあげてしまったが。

国債発行を抑制するべきことに、異論はない。しかし、議論が「国債=悪者。国債=未来の世代からの借金」という方向に行くのはやめてほしい。社会保障費、医療費、防衛費、その他その他、支出が必要なものはどんどん膨れ上がるばかり。その中で国民の金融資産が2000兆円もあり、企業の留保も500兆円弱あるのだったら、「そこから(銀行を通じて)少し借りて、期限が来たら借り換えて、利子だけ払っていこう。元本の所有権は企業・個人に残したまま、カネは予算歳出を通じて社会の中で回させてもらう」ということで、国民にとってみれば、税金で取り上げられるのより何倍もましなのだ。

問題は、政府が借り過ぎて、市場金利を上げてしまったり、借金がかさむ日本経済への不信感からドル融資に上乗せ金利をつけられたり、円が信認を失って大幅な円安になり、日本国内にインフレや金利上昇をもたらすことだ

だから国債累積の問題は「借金は悪い。すぐ返せ」の道徳論ではなく、金利上昇を起こさないように、その範囲で発行・返済していくという技術論だと思う。矢野次官は文芸春秋の論文で、「年度ごとの財政赤字は、成長率から金利を引いた分の黒字幅」以内に止めろ、と言っている。もっと一般の読者にわかりやすい言葉で言ってほしいのだが、解釈すれば、「税収増分から国債利払い分を除いた額」以内ということだろうか? これでは、成長率がゼロに近い時には――こういう時こそ財政拡大で景気を刺激しないといけないのだが――、国債は発行できないことになる。要するに彼は、読者を煙に巻いているだけということになってしまう。

財務省が国民の支持を得ようとするのは当然だが、煙に巻いたり、「将来の世代に借金を残すのはいけない」という論理でだましたりするのはやめてもらいたい。国民が借りているのではなく、財務省が借りているのだし、今財務省が借りて使ってくれなかったら、将来の世代の生活は今より多分悪くなるのだから。

(ところで、中世から近世のヴェネツィアやオランダ、英国では「永久国債」というのがあって、これは満期がないのです。利子だけ。借り換えで恒久的に転がしていく日本の国債、この永久国債に似ていると思います)

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