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政治学

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2017年6月15日

日本外交の行き詰まり

(これは5月24日発行したメルマガ「文明の万華鏡」第61号の一部です。これを書いた後、日本の対中、大韓外交で動きがあり、事態は少し息がつけるものになりました)

安倍総理は本当に外交でも頑張っていると思うが、日本が抱える基本的な限界と言うものがあって、今まさに日本はそのブラックホールに吸い込まれ始めた感じがしている。そのきっかけは、北朝鮮対策で中国の力を使うために、トランプが対中姿勢を対決から協力に180度転換してしまったことにある。今週発売されているNewsweekにも書いたのだが、そうなると日本が米中関係の波間に翻弄される将棋の駒、あるいは「大きな台湾」のようになってしまうのだ。

貿易問題での米国の攻勢から逃れるために習近平がトランプに示した「百日計画」の中には、米国の投資銀行等の金融企業が格付け業務、中国企業の外債保証等をできるように規制を緩和するというくだりがある。これは、中国自身の利益にもなることだ。例えばAIIBはこれまで単独融資での案件は3件しか成立していないのだが、その背景には人員が少ないこともさることながら、AIIB発行の債券が西側資本市場での格付けを得ることができず、起債できないまま、資金が十分でなかったということがある。今回、米英の投資銀行は中国本土でちょっとした利権を得るのと引き換えに、西側資本市場でのAIIB債券発行を請け負うのではないか。米国はそれで、AIIBへの積極的関与を開始する。

一方アジア開発銀行ADBは、これまで日本と米国が同等の拠出率で動かしてきたが、現在米国の理事は空席のまま。TPPもそうだが、トランプがオバマと何でも反対のことをやろうとすると、かけがいのないもの(アジア開発銀行は日本では全然知られていないが、筆者がウズベキスタンで大使をしていた時のアジ銀の存在感は大きかった)を失って、次の選挙でしっぺがえしを食うことになるだろう。

日本外交の目下の窮状は、これが一つ。そしてもちろん、北朝鮮ミサイルに対する日本の無力さが二つ目にある。三つ目は、ASEANの団結が中国の外交攻勢で瓦解したことだ。ASEANは戦後日本の外交の大きな柱。ベトナム戦争後の米国が東南アジアから手を引いた後を受けて、日本はODAを大々的に供与して、ベトナムの覇権拡大を防止、直接投資でタイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンなどの経済発展と政治安定化を実現、そして最近では南方から中国を牽制するバランス勢力として盛り立ててきたのだが、それができなくなっている。

そしてそのODAなのだが、戦後日本外交の大きな道具となってきたのが、そのご利益が最近曲がり角ではないかということがある。日本のODAには無言のメッセージがあった。それは、「日本は自力で先進経済を樹立した、非欧米では唯一の国。ただのカネは上げられないが、これからの自力での発展を可能とするインフラは作ってあげましょう。ただ、それも低利子の長期融資しかあげられませんが」というもの。ところが中国は、「他人のカネ、他人の技術で急速に発展」というモデル、つまり外国からの直接投資に依存して発展する他力本願のモデルを他の途上国に知らしめてしまった。だからこの頃では中央アジア諸国の一部などは、「円借款はもういらない。(返さなくていい)直接投資をしてくれ」ということを言ってくる。そして中国とか韓国のように、あらっぽい決断をする国の企業は、わりと簡単に直接投資をして(ほとんどが数年で失敗、撤退している)、優柔不断な日本の影をかすませる。これに対処する方法はない。条件の悪いところへの直接投資を、日本の企業に強制することはできないからだ。

トランプ的な米国にとっては、アジアが中国に席巻されてもかまわない。アジアを席巻して大きくなった中国と優遇的な条件で商売ができればかまわない。そうなると、アジアではこれまでの国際法とは一味も二味も違った基準が幅を利かせることになるだろう。主権国家は平等という建前(これは西側でも建前に過ぎないのだが、建前があるだけでもましだ)は、「アジアは一つの家族」という建前にすり替わる。中国は家父長、各国はそれぞれの格付けを中国に与えられ、中華秩序Pax Sinicaの中で暮らすようになる。その中では、昔「おとうさん」をなぐった不良息子・日本はいつまでも勘当の身。中華圏という家の外を、「私は罪人です」というプラカードを胸に下げて、モノ欲しそうな目で歩き回っていないといけない

まあ、テニスをしていても、こちらが苦しい時には相手も苦しい。あるいは相手が本当に強くても、思い上がってラケットを振り回し過ぎ、ミスする時もあるだろう。そういう他力本願しかないような、難しい局面に日本の外交は今ある。
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