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政治学

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2023年5月24日

日本自衛隊は台湾防衛に参加するか  Economist誌の意見

5月10日付Economistが"Will Japan fight?"と題して、自衛隊は台湾防衛のために出動するのかどうかを論じている。多数の関係者にインタビューした上で、日本側が抱える問題点を列挙し、ことは簡単ではないと指摘している。
5月22日付Time誌はその表紙に岸田総理の写真を掲げ、「日本は数十年にわたる平和主義を捨てて、使える軍事力を備えた国(true military power)になりたいと考えている」と小さく添え書きしたのが、日本では「Timeは、『日本は軍事大国化をめざす』と報道した」と大騒ぎになった。
それに比べてこのEconomistの記事は、その冷静さで際立っているのでご紹介する。まず、その要旨は次のようなものだ。

・台湾をめぐって中国と戦争が起きるリスクが高まっている。日本は2027年までに防衛予算を倍増し、長距離ミサイルを取得しようとしている。しかし日本は、本当に戦争するのだろうか?

・日本は最前線にいる。南西諸島の南端は、台湾から111キロしか離れていない。最近シミュレーションを行ったCSISの報告書は、「日本は台湾防衛の扇の要(linchpin)である」と結論づけている 。

・しかし、米国に似て、日本は有事に何をどうするかを曖昧にしている。近年の防衛政策の変化(注:安保関連法採択や国防費の増額等)は、日本が台湾防衛に全面的に参加することを必ずしも意味しない。

・中国の台湾侵攻時には、日米同盟は深刻な試練(複数)に直面しよう。米軍が台湾を防衛するために、日本の基地を使用することには日本の同意が必要になる 。「その時、日本がイエスと言わなかったら、日米同盟は終わりになる」と兼原信克・元内閣官房副長官補は言う。
次に日本は、自分では何をするか決めなければならない。国会は台湾有事を「重要影響事態」と認めて、米軍を燃料、医療品、輸送等、非戦闘分野で助けることができる。
さらに日本自身が攻撃対象にされた場合、自衛隊は出動することができる。
第三国が武力攻撃を受けた場合でも、2015年採択された安保関連法では、国会がそれを存立の危機事態だと認めれば、自衛隊は出動できる。

・出動を決めた場合でも、展開の場所、目的等の決定は厄介だ。関係者は(注:日米のいずれとも明記していない。双方なのだろう)自衛隊は盾、つまり日本自身と米軍基地の防衛を担当することで、米軍=槍が台湾防衛に専念できるようにすることを想定している。その場合でも、自衛隊は東シナ海の要所(choke points)(注:南西諸島の間の諸海峡、あるいは中国本土から台湾に向けての艦隊派遣を牽制?)に潜水艦を配備することを求められるかもしれない。台湾海峡までは含まないだろうが。
そして以上の限定的なケースでも、日米両軍は緊密に協力せばならない。特に空軍において。

・もともと日米安保条約は、そのような(共同)戦闘を想定して作られたものではない。日本は軍事パートナーとしてよりも、基地提供国と見なされていた。(NATOが有事には単一の指揮系統を有するのに対して)自衛隊と米軍はそれぞれ別個の指揮系統を保持している。これは米韓関係とも違っているところである。

・戦争に備えるなら、同盟体制を変革しなければならないのだ。日本は自衛隊に統合司令部を設置して、米国のIndo-Pacific Command(INDOPACOM)に対応させようとしているが、機能するまでには数年かかるだろう。米軍の体制も改革を必要としている。在日米軍の司令部United States Forcces Japanは、日本との連絡と、軍のメンテを担当するが、実際の作戦は遠いハワイにあるINDOPACOMが指揮するのである。東京が攻撃されたり、米軍の通信が阻害されたら、問題が起きる。

・そして改革は、政治的な現実を考慮して行われなければならない。日本は米国に捨てられるのを恐れる一方で、(戦争に)引き込まれ過ぎるのを恐れている。岸田総理は国会で、指揮系統を米国とシェアしたり、米国に引き渡すことは考えていない、と述べている。

・結局のところ、台湾有事の日本の参与ぶりは「どうなるかはわからない」のである。しかし、どうなるかがわかった時は、日米は既に失敗しているのかもしれない。

以上に異論はない。よく取材しているし、取材先の発言を捻じ曲げてもいない。ただ、いくつか補足したい。

1) 日米が台湾防衛体制を整えることは中国に対する抑止として機能するが、中国が開戦を決意した場合には、在日米軍基地、自衛隊施設などが事前攻撃の対象となる。例えば南西諸島の住民の間ではこの危険が既に認識されており、ミサイル配備に反対する動きが出ている。

2) 台湾有事の際の米軍の活動については、Economistの記事が指摘する以外にも、日本の民間港湾、飛行場の使用等、未決の問題は多々ある。そもそも日本有事の際でも、自衛隊は一般道路では道交法を守らなければならない。

3) 自衛隊、及び台湾軍の下士クラスには、実際の戦闘を忌避する者が増えている。これは中国軍も同様であろう。

4) 台湾有事の場合、台湾海峡を民間船が数カ月にわたって通航できない状況が続くだろう。同海峡は、中国の港にとってほぼ唯一の南方とのシー・レーンであり、中国経済は機能を停止するだろう。そのことを日米は勘定に入れておくべきだろう。

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