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街角での雑想

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2010年8月29日

日本経済自縄自縛からの脱出 ⅩⅡ 「福祉で成長」はできるのか?

(1)福祉以上に有効な公共投資の対象は?
社会保障を充実させることで内需を拡大するのは、もちろん可能だ。介護などは大いに雇用を創出する(青年たちが介護職につくのを好まない場合には、外国人の出稼ぎばかり増えて所得は国外に漏出する)。

だがこうしたサービスだけで経済を拡大するには、限界がある。サービス部門が膨張し過ぎた経済は貿易赤字に陥りやすい。サービス部門の雇用者が得た所得が消費にまわると、国内でのモノの生産が追い付かない分、輸入が増えるからだ。それは円のレートを下げ、インフレ要因になるだろう。インフレになれば、サービスでいくら所得を得ても、その価値はどんどん下落していくことになる。

それに経済を拡大するためには、社会保障以上に効率的な公的投資の対象があるだろう。たとえば戦後営々として構築されてきた社会インフラはこれから修理・更新の時期を迎える。小泉政権以来敵視されてきた不要不急の公共投資とは異なって、これは待ったなしの対応を必要とする。そして建設というものはやはり多くの雇用、そして資材への需要を生み出し、それを通じて投資・消費の双方を盛り上げる。地方においては、与党への票集めもしてくれるだろう。
他にも、社会保障以外で効率性・乗数効果の大きな投資対象はいくつかあるだろう。

(2)社会保障体制の合理化
ここまで述べたことを一言でまとめると、「社会保障体制整備のために増税」という、経済を縮小させてしまうような政策を取るより前にまず、国債を使ってでも「生活水準・住み心地の向上による経済成長⇒ 税増収による社会保障体制の整備」を考えてほしい、ということだ。
もし社会保障への支出増をどうしてもやるのなら、その前に次のことをやってほしい。

①現役世代への保障強化
現在の国民年金制度は、若年層に不当な負担がかかっており、改革が必須となっている。年金受給層のうち、一定水準以上の年収を有する者は、国民年金受給を一時停止する等の制度を設けるべきである。その場合、所得に対しては税率を下げてもらいたい。

②公的部門の労働組合の財務・活動の透明化
社会保障システムに勤務する公務員・半公務員には、きちんとした待遇が与えられるべきである。しかし数年前に表面化したように、労組が前面に出てコンピューター画面に向かう時間を制限しようとしたり、民間企業にくらべて明らかに楽な待遇を求める場合には、人事院、国会、マスコミ等で議論されてしかるべきである。政治家、官僚にならって、組合幹部の収入もガラス張りにされるべきである。

③社会保障の一部を民営化
日本の社会保障は、支出額の金額ベースではおそらく世界一か、少なくとも3位以内にはあるだろう。人口がわりと多く、所得水準は高いからである。
そしてそのような巨大な給付システムを、役人が業務として行うのはある意味では滑稽になってきている。

なぜなら英国が17世紀後半から急速に国民国家としての体裁を整えた時、何がその過程の本質だったかというと、それは欧州でも一番高率の物品税を丹念に徴収しては数え上げる官僚体制を作り上げ(官僚の数は飛躍的に増大した。そのあたり、「財政・軍事国家の衝撃」ジョン・ブリュア 名古屋大学出版会 大久保桂子訳に詳しい)、その金で世界一の海軍を作って植民地を広げるということにあったからである。つまり国民国家とその司祭としての官僚機構は、戦争のための徴税・徴兵機構としての側面を強く持っていたのである。

戦争をやる必要がなくなった現在の先進国家は、当時からの惰性で徴税を続けているが、その多くは社会保障として国民に再び戻している。産業革命の結果、社会が中産階級化して民主主義が広まったことで、政治家は選挙で勝つため社会保障を次から次へと拡充するようになったからである。

だが税を国民にまた還元するくらいなら、最初から徴収しなければいいではないか、今の時代なら「政府」と称するメカニズムの殆どは民間企業に任せてしまえばいいではないか――このような議論が出て不思議でない。

もちろん身障者のような人々のためには、政府が金持ちや企業から徴収した資金を回す必要があるのだが、自分で十分稼いでいる人間のために、政府が莫大な人員と費用をかけて国民皆保険、国民皆年金のようなことをやる必要はあるのか

既に医療・介護の現場はほとんど民営化されている。あとは年金事務・失業保険等の現場を民営化するのが適当かどうか、ということだ。生命・損害保険各社は、利益率の高い生命保険ばかりでなく、年金・失業保険もできないものか。

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