Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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街角での雑想

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2010年7月 8日

アメリカより中国の方がいい――本当にそれでいいのか?

この頃安全保障関係のセミナーに出ると、「アメリカはもう落ち目だ。日本は、中国との冷戦思考的な無用の対立は止め、中国との同盟でやっていけばいいじゃないか」という声が高まってきたのを感ずる。

そりゃ、戦前日本の映画王・梅屋庄吉が「日中手を携えて、西側の植民地主義勢力と闘う」ために、今なら数千億円に及ぶかもしれない援助を孫文にしたことを思うと、そうだな、そういうやり方もあったのだなと思う。

だがそれでも、本当にそれでいいのかと思う。アヘン戦争以来の屈辱を晴らさんものと、西側への輸出で稼いだカネを軍備につぎ込み、南シナ海や黄海での支配権を確立せんとしているのは、中国なのだ。「遅れてやってきた国民国家」とでも言おうか?

とかく高姿勢でアグレッシブに見えるアメリカ人に比べて、中国人はものわかりが良く見える。だが中国は、公安警察が共産党の支配を力で支える、日本とは異質の社会だ。今の日本の若者は、そのような社会には耐えられないだろう。

それに、米軍が日本から撤退して何が起きるかというと、尖閣列島はもちろん、沖縄、種子島、奄美大島あたりまで次々に「中国の歴史的版図」だとして、中国に取り上げられていくかもしれない。

「これからは中国。米国はもう落ち目」というのは、中国企業の株価をつりあげて儲けようとした欧米投資会社の宣伝に影響され過ぎたのではないか? 中国が日本の貿易相手ナンバー1? そりゃ、数字ではそうだ。だが日本から中国に輸出した部品、半製品は中国で組み立てられ、そのうちかなりは米国市場に輸出されているのだ。これを足せば、米国は日本製品の最終仕向け先としては今でもナンバーワンだろう。

日本では、「中国でいいじゃないか」という底流の声は、幕末の攘夷運動を思わせるどす黒い情念を帯びつつある。このような人たちにとって、これまで日米同盟を司ってきた者たちは学校時代の優等生、今はエリート、支配階級で、あたかも植民地の地元エリートのように宗主国におもねっては利権を貪ってきた存在なのだろう。

そして「アンチ・エリート」は、中国を御旗に立てて親米の旧エリートを追い出し、自ら権力の座につこうとしているのではないだろうか?

革命は人民の名において行われが、結局は少数の新しい権力者によって私物化される。今のように、日米同盟を基礎として中国とも友好・協力を深めるという路線と、米軍を追い出したあげく米国の市場を締め出され、中国にも足元を見られてムシラレ放題というシナリオと、どちらがいいかの選択は、少数の新しい特権者ではなく、国民全体にやってもらいたい。

コメント

投稿者: Anonymous | 2010年7月 9日 18:29

 こんにちは。私は親中でも反米でもありませんが、これら中国脅威論は本当に起こりうることなのでしょうか。また、これらが現実化した場合、日本の自衛隊はただ指をくわえて眺めているしかないのでしょうか。また、そのとき、国連は無力なのでしょうか。脅威論を煽ること自体、GSなど投資銀行が中国市場の重要性を煽るのと同じ策略とは考えられないでしょうか。
 少数の新しい権力者によって私物化されるのであれば、現在の体制も少数の権力者によって私物化されているのですから、私物化自体はどう転んでも避けられないですね。
 米軍を追い出さなくても、米軍が出て行こうとしているのを、日本が必死に引き留めているというようなことはないのでしょうか。
 最後に、中国におもねることで日本を私物化しようとしているアンチ・エリートたちとは具体的に誰ですか?民主党の幹部達ですか?彼らがそのような行動に出て、中国が日本固有の領土を国際違法行為で奪取していくことを許容するという行動に出るのであれば、我々国民は彼らに政権を任せることはできませんが。

投稿者: 河東哲夫 | 2010年7月10日 00:46

私も以前は中国脅威論をなだめる方でした。それはこのブログの以前の論文を見ていただければわかると思います。それは2年前までの中国は、「東アジアの政治構図は現状のままでいい、米国等との自由貿易が確保され、中国が安定した環境で成長していくことが最も重要だ」という立場をとっていたからです。

ところが世界金融危機で米国が退潮したと思い込んだ中国の一部人士(特に軍その他)は自らの力を過信して、米海軍を周辺海域から押し出すことを目標として掲げ始めました。同時に南シナ海などでは、いくつかの島をめぐってインドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピンなどとの抗争のトーンを高めています。
私は中国との協力関係を止める必要など全然ないと思うし、強化すればいいのですが、他方軍事はそれとはまったく別の論理で推移し、両国政府をのっぴきならない立場に追い込むことがよくありますので、その場合、中国に日本とは軍事力でものごとを簡単に解決できると思わせないだけの備えが必要なのだと思っています。声高に中国脅威論を叫びますと、今度は世論が過度にそちらに振れ過ぎて、手がつけられなくなる危険はいつも念頭に置いています。だからこそ、これまでは中国脅威論に水を差してきたのです。

今の自衛隊の兵力だけでは南方諸島を守る力は足りないでしょう。静かに強化されてきましたが。ですから在日米軍(特に海空陸全軍種の揃った海兵隊)は、日本自身の防衛のために本当に必要になっていると思います。

米軍は、日本が本気で出て行ってくれと言えば、出て行くでしょう(その場合、市場は随分閉めるでしょうが)。それがアメリカのいいところです。しかし今の情勢では、アメリカも本音で日本の基地を益々必要としています。日本での基地なしには、彼らの展開能力はその迅速性、持続性を大きく阻害されるからです。

「アンチ・エリート」云々は仮説です。しかしいろいろな政治的主張の裏には、ポストや利権をめぐっての日頃の不満が隠されていることもよくあるので、書いたまでです。匿名の方が、他人の具体的名前を求めるのも理解に苦しみますが。

投稿者: 田村良太 | 2010年7月12日 00:30

 こんばんは。申し送れました。田村と申します。コメントに対していくつか質問させていただきます。
 文中に、中国は米海軍を周辺海域から押し出すことを目標として掲げ始たとありますが、具体的にはどの時期に出されたどのような形態の目標ですか。また、押し出しているといる事例は何なのでしょうか。
 また、今の自衛隊の兵力だけでは南方諸島を守る力は足りないとお考えのようですが、私個人の考えとしては、自衛隊の海上と航空の防衛力は、長期戦を想定しない、防衛という面だけ捉えれば十分であると考えています。具体的にどのような状況に陥った場合、南方諸島を守る力が足りなくなるとお考えですか?中国陸軍が上陸し、地上戦までも繰り広げるとまでお考えですか?中国が、安保理常任理事国の立場を利用して、武力不行使原則に違反してまで、南方諸島を違法奪取するとお考えでしょうか。もしそうお考えであれば、なぜそうなりうるのかを教えてください。
 また、在日米軍(海兵隊)は日本に必要とありあますが、確かに、私も在日米軍自体の存在は、必要であると考えております。しかし、沖縄の海兵隊までは必要ないと考えています。なぜなら海兵隊は抑止力として機能していないし、また将来においても機能しないと考えるからです。河東さんは、中国の日本領土侵略に対して海兵隊が有効であるとお考えのようですが、基本的に米国は実効支配の及ぶ他国の領土問題については一切干渉しないという立場を取り続けています。また、中国や北朝鮮、ロシアの核攻撃からの本土防衛に関しては、弾道ミサイル防衛システムに関する領域ですので海兵隊は関係ありません。以上の点から、海兵隊は絶対に必要とまでは言えないと考えています。事実、海兵隊は一年中日本にいませんし、現在も、海兵隊抑止力の空白期間は存在しています。なぜ中国は攻めて来ないのでしょうか。海兵隊抑止力肯定論から言えば、海兵隊が沖縄に戻ってくるまでの空白期間は海兵隊が存在しないも同然なのですから、爆弾の一発くらい落とせると思うのですが。そんなことをすれば、海兵隊が中国を攻撃するというのであれば、これから先海兵隊が日本にいなくても、同じ論理で中国に対して攻撃してくれると思うのですが。
 また、海兵隊は米軍再編にともない、グアムに移転するようですし、この点からも今後の海兵隊動向が気になります。
 河東さんのお考えをお聞きしたいです。宜しくお願いします。

(返事書きますが、週末くらいまでお待ちください。いろいろ用が集中していて)
 
 
 

投稿者: 河東哲夫 | 2010年7月19日 00:57

中国海軍はグアム島以西では制海権を確立することを目標とし、その方向で装備を整備しつつあります。どこで誰が何を言っているかというのは、インターネットでも沢山出ておりますので、ご自分で検索ください。
上の中国海軍の意図がどこまで真剣か、また何年で実現されるかはわかりませんが、実際の装備と行動はエスカレートしてきております。
それは長年抑えられてきた中国にしてみれば、止むにやまれぬ行動でしょうが、こちらにしてみればいろいろな国の主要航路が通っているこの海域、しかも公海を中国の「歴史的影響範囲」とされ、通航の権利と政治をからめられたりするのは困るわけです。
南方諸島防衛については、戦闘機の数、性能、現地での滞空時間などの問題があります。まだ自衛隊の方が優位でしょうが、この差はかなり急に縮まっているでしょう。
中国はもちろん国連や国際世論を気にするでしょうが、国益がかかると思ったり、自分が国際世論上有利な立場に立ったと思えば、行動に出るでしょう。その場合、安保理常任理事国ですから、制裁などは拒否権で葬ることができます。
中国脅威論をあおることは良くありません。中国をかえって敵にしてしまうでしょう。しかし米中どちらに軸足を置くか(両方ともというのは無理でしょう)は、国内で議論するべきだし、自衛隊には中国に対する抑止力となるだけの装備、兵力を備えてもらう必要があると思います。
海兵隊が沖縄に今何人いるかは知りませんが、基地があり、訓練場がある以上、いつも要員がおり、それは抑止力になりますし、有事には日本を守ってくれるでしょう。南方諸島にいずれかの国のコマンドが侵入して制圧された場合、これは海上自衛隊、航空自衛隊で除くことはできないでしょう。揚陸作戦能力、装備を持っているのは海兵隊です。

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