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街角での雑想

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2009年8月10日

スーパー外交官 映画「アマルフィ」を見て

先週、封切りになったばかりの日本映画「アマルフィ――女神の報酬」を見てきた。日本の外交官が活躍する(フィクション)映画だと聞いたからだ。2001年頃のあの悪夢のような、外務省をめぐる一連のスキャンダルから、外交官のイメージはどこらへんまで回復してきたのか、見たいと思った。
日本の経済が自民党にせよ民主党にせよ、どちらでもろくなものにはならない中で、戦後のバンカラ通産省役人たちを描いた「官僚たちの夏」が再び話題になるなど、官僚の役割を再評価する動きが出てきている一環かなとも思ったのである。

この「アマルフィ」は、妻を昔、冷酷な日本政府に殺された男が、折しもイタリアに来訪した日本の外相相手に繰り広げる広壮な復讐劇、そしてそれを徒手空拳で阻止する日本人外交官「黒田」(織田裕二が演ずる)の胸のすくような活劇だ。撃ち合いもベッド・シーンもないが、緊張感抜群。

ローマの日本大使館での会議の場などが出てくる。さぞかし堅苦しく官僚的な雰囲気に描くのかと思っていたら、結構実際の活気も出ていて、よく調査してあるなと思った。でも、今ローマにいる日本の実際の大使は映画よりもっとシックだけど。

黒田のような若くて、優秀で、人間味があって、カッコいい、という外交官も(タマには)本当にいる。イラクで殺された奥大使のような。だが、あの黒田のように、これまで長く日本にいたのに、イタリア語が錆びついてもおらず、着任早々わずか2~3日で観光地から観光地へ勝手知ったるごとく飛び回るというのは、どうも・・・。
それに、外相が来る直前で準備に多忙を極める大使館の仲間をほったらかして、本来は地元警察に任せておくしかない誘拐事件の捜査に自分でかかりきりになるというのは、スタンドプレー直前だ。

後は台本の問題だろうけど、クリスマスの周辺に日本外相のイタリア訪問が設定されていたり、大使館が大レセプションをやったりするが、これは実際ではあり得ない、基本的な誤りだ。ヨーロッパでは、クリスマス2日くらい前から正月まで、外交日程は成立しない。休暇に出てしまう要人が多いからで、街も閑散とするのだ。クリスマス・歳末商戦でにぎわう日本の師走と同じだと思うから、日本は実際にも年末・年始の外交を仕掛けて、相手の国から実は非常にいやがられている。

そして、日本の外相が「バルカニア」という欧州の小国の軍事政権にODAを与えたことで、その国でNGO活動をしていた日本人女性が殺され、それをその外相がもみ消したことになっているが、それは実際にはほぼあり得ない。大臣が具体的なODA案件を決めているわけではないからだ(形式的には大臣の責任になるが、実際に案を練っているのは課長、またはそれより若いレベルだ)。

日本では官僚が政策オプションを作り、政治家はその中から選択し、国会で議論・採択し、国民に説明する。すべてのことを大臣がやる時間はない。

まあ、そんなことに気が付きながら見ていた。でも良くできた映画だ。音楽もいい。
そして一番感銘を受けたのは、この映画を作った人たち、俳優たちには、ヨーロッパや白人に対するコンプレックスがもはや全く見られないということだ。まあ、そうだよな。日本の社会の現状は世界の中でも随分いい線いってるものな、と思った次第。

あと、外交官が実際にはどんな仕事をしているのかもっと知りたい方は、僕が書いた「外交官の仕事」草思社をご覧ください。

http://www.amazon.co.jp/%E5%A4%96%E4%BA%A4%E5%AE%98%E3%81%AE%E4%BB%95%E4%BA%8B-%E6%B2%B3%E6%9D%B1-%E5%93%B2%E5%A4%AB/dp/4794214537/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1249836726&sr=1-1

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