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街角での雑想

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2017年9月12日

マンネリ化した日ロ首脳会談救出法

(これは9月5日付Newsweek誌日本語版に掲載された記事の原稿です。実際の首脳会談では、マスコミの関心は北朝鮮制裁にロシアがどこまで加わるかに向けられ、北方領土問題への関心は低調でした。「来年5月末、両首脳がロシアで会うための調整が行われることになった」ということは、プーチンが来年3月の大統領選挙に出馬するのを認めたことに他なりませんが、それは特にニュースになりませんでした)

9月6日、ウラジオストクでは恒例の東方経済フォーラムが開かれて、これもまた恒例化した日ロ首脳会談が行われる。安倍総理、プーチン大統領が会うのは、今年もう3回目。あと半年後に大統領選を控えるプーチンが、領土問題で今譲れるはずもなく、会談はつなぎの意味しか持たない。安倍総理に力がある時だったら、マスコミも提灯記事を書いただろうが、加計学園事件以来、流れは逆。マスコミはアラさがしに転じている。今回首脳会談でマスコミが目をつけるのは、何だろう。
 
まず「北朝鮮の核ミサイル開発に、ロシアは技術や情報を提供している。最近は石油製品の輸出も増やして、北朝鮮制裁の抜け駆けをしている。けしからん」という、日本国民の懸念を、総理がどこまでプーチンに伝え、ロシアの行動を変えさせることができるか。そしてもう一つは、北方4島を対象とした「経済特区」設置を、8月23日メドベジェフ首相が決定したが、これは日ロで共同経済開発を話し合っている時に信義則違反ではないか、という日本人の怒りを総理がきちんとプーチンに伝え、落とし前をとるかどうか。さしずめ、この二つだ。

しかし、首脳会談で取ろうとするものを無暗に増やすべきではない。外交はgive and take。向こうに非があると思っても、先方はそれを非と認めず、改めるためには日本から何か代償を求める。そして代償を払って右の二つに何か色をつけさせたところで、事態はさして変わらない。であれば、この二つは首脳会談で「解決」することは狙わず、場外で一方的に日本の立場を発信していく方が、うまいやり方ではないか?

中国が北朝鮮に圧力をかけているのを、ロシアが帳消しにする行いに、中国は怒るだろうし、アジアでのロシアの信用は益々地に落ちる。日本は官民そろって場外で、ロシアが北朝鮮に対してしていることをどんどん暴き、世界に知らせて行ったらいい。

北方領土に経済特区を設けることは、ロシアが島を実効支配している以上、日本としては止められない。主権行使がけしからんというのだったら、徴税も公共投資もやめろということになる。日本はこの件で声を上げてエネルギーを消費するより――ロシアのマスコミは「日本がまたヒステリーを起こしている」と報道して、ロシア国民の対日感情を悪化させるだけだ――、首脳会談の場でも場外でも「共同経済開発のためには、この経済特区のような発想をさらに推し進め、日ロ間だけの特別の体制を作り上げよう」と言っていればいいことだ。

 今回の首脳会談の問題は、もっと根本的なことにある。両首脳の足場が以前より弱くなっていることだ。安倍総理は来年秋自民党総裁に再選されない可能性もでてきたし、プーチンも西側で言われる程強くはない。むしろ逆で、石油価格が長期低落していく中でロシア経済はお先真っ暗な状況だし、プーチンは来年3月再選を果たすにしても、その直後からレーム・ダック化する可能性が指摘されている。というのは、三選が憲法で禁じられている上、プーチンはロシア人標準では「後期高齢」にさしかかるので、側近、エリート達は「プーチンの次」を視野に蠢き始めるからだ。

日ロ首脳は、双方とも長期政権ということを前提に、共同経済活動とそのための特別な法制度制定を足掛かりにじわじわと領土問題を解決に向けて進めて行こうということだったのに、そのプロセス半ばにしていずれかの首脳がいなくなるということになりかねない。共同経済活動という取っ掛かりが消えると、ロシアは「領土問題は解決ずみ」というソ連時代の強硬姿勢に再び戻ることになるだろう。共同経済開発での合意を焦れば、それは安倍総理にとってはかえって致命傷、プーチンにとっても足をすくわれる材料になるだろう。

 だから、両首脳には「日ロ関係増進は両国の戦略的利益に適う。そのためにも北方領土問題を解決する必要がある」という認識を、具体的な文書、声明、装置、制度として残していって欲しい。トランプが世界をかきまわす中、日ロ関係が有する戦略的な意味合いは、双方にとって増大している。もし朝鮮半島が統一されて米軍が撤退し、核つきの経済大国が出現することともなれば、日ロ関係の持つ意味合いはますます増える。

 経済面でも、ロシアの不得手、あるいは危機感を持つ第4次産業革命、脱石油経済での協力を打ち上げれば、ロシアは官民をあげて日本に注目することになるだろう。
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