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街角での雑想

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2017年7月22日

危機不感症がもたらすシュールな浮遊感 安倍政権失速の中の日本

(これは4日発売のNewsweek日本語版に掲載された記事の原稿です)

今の世界で起きることは多すぎて、何でもすぐ忘れられる。最近の例は北朝鮮のミサイル。「やっぱり何も起こらなかった」というわけで、日本はまた脳天気だ。しかし地震と同じで、今激しく動いている国際政治のプレート達は、いつ日本を激震に巻き込むかわからない。

お隣の韓国の文在寅・大統領は、北朝鮮ミサイルの盾になる、米国のTHAAD(高高度での迎撃ミサイル)の追加配備を断り、日本とは慰安婦問題をまた蒸し返す構えだ。そうやって対米・対日関係を棚上げすれば、韓国は北朝鮮、中国に対して弱い立場に追い込まれよう。

米国は、北朝鮮の核ミサイルが米本土に届く性能を獲得しようとしているのに、韓国や日本が北朝鮮から報復攻撃を食らうのを慮って武力行使ができない。そこで米国は、北朝鮮の扱いを中国に完全に依存して、朝鮮半島からは実質的に押し出されつつある。そしてその中国は南シナ海の人工島の守りを着々と固め、トランプ周辺を懐柔して米軍の手を縛る。

そのトランプ政権は、オバマ・チームからの事務引き継ぎがなっていないし、側近、そして議会共和党の内部が割れていることで、内外政とも一貫した、練れた政策を打ち出せずにいる。ロシアとは関係改善をめざしていたが、今や議会はロシアが「大統領選に介入した」ことに対して新たな経済制裁法案を審議している。

シリアでは、米ロが協力してISIS掃討を進めてきたが、これが最終局面に近づいた今、米軍はシリアで作戦する大義名分を失いつつある。それでも、シリアを割る形で、その南部に基地を確保しようとしているが、シリア政府軍はロシアの支援の下、その妨害に動いているので、米ロの軍事衝突もあり得る。7月7日にハンブルクで始まるG20の場では、初めてのトランプ・プーチン会談が行われることになっているが、今や前向きのモメンタムは失われている(7月22日注:米ロ首脳会談の結果、シリア南西部の米軍基地周辺はde-escalation地帯として停戦が合意された)。

トランプ大統領は5月20日、サウジ・アラビアを訪問し、オバマの対イラン宥和がもたらした同国とのしこりを解消したが、これでサウジが気を強くしたのだろう。6月5日には湾岸アラブ諸国協力会議の一員であるカタールと、突然外交関係を断絶する挙に出た。

カタールは中東、アフガニスタンの米軍を指揮する司令部、そして中東最大の空軍基地がある のだが、トランプはそれを知らなかったの如く、ツイートで断交を支持、カタールはテロを支援しているとして一方的に非難した(後で言い直したが)。更に21日、サウジのサルマン国王はムハンマド・ビン・ナエフ皇太子を「解任」し、息子のムハンマド・ビン・サルマン副皇太子を昇格させた。これも、トランプの感触を探ってからのことだろうが、サルマン新皇太子のあからさまな反イラン姿勢、そして性急な経済改革路線は、サウジの内外政治・経済を破滅させかねない。王家の内紛や、イランとの衝突は、世界の原油供給に破滅的な影響を及ぼすだろう。

脳天気の浮遊

この中で、日本は脳天気の浮遊状態にある。北朝鮮のミサイルが飛んでこなかったことで、「危機」に対する免疫が日本人にはできてしまった。「危機? 北朝鮮のミサイルも降って来なかった。何も悪いことをしなければ、危機など起こるはずがない」というわけだ。もはや北朝鮮のミサイルでさえ、憲法改正に向かって日本人を駆り立てるものではなくなった。

安倍政権は加計学園問題ですっかり勢いを失ってしまったが、「安倍の後はどうなる?」と日本人を脅してみても、もう効かない。危機不感症になってしまったのだし、安倍長期政権でも日本は特に良くも悪くもならなかった、誰が総理になっても構わない、ただ信用できる人でさえあれば、というわけだ。

この奇妙な浮遊感。多分足元はすっかり崩れているのに、目に見えるものはこれまでと変わらないからだろう。VR(仮想現実)ならぬVS(仮想安定)を見る者につける薬はない。
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