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街角での雑想

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2016年10月30日

ロシアとは、じっくり前向きに 領土での拙速譲歩は尖閣、沖縄に響く

(これは、25日付Newsweek誌に掲載された記事の原稿です)

 プーチン大統領の12月来日を前にして―シリアで米ロが武力衝突すればそれも吹っ飛ぶだろうが―北方領土問題の落とし所についての論議が賑やかだ。やれ歯舞、色丹の2つだけでいい、やれ国後、択捉は共同開発ができれば十分等々、「取らぬタヌキ」そのものだ。だが、日本を取り巻く大国間の力関係、そして日ロの国内情勢をよく見るならば、領土問題を今すぐ最終解決できないことは、誰でもわかる。大事なのは、だからと言って島を放り出したり、ちゃぶ台返しでロシアと敵対したりせず、領土問題を「時効」に持ち込ませないこと、そしてロシアとの関係で日本のためになるものは活用することを肝に銘じつつ、前向きに付き合っていくことだ。

ロシアと言えばすぐ、スターリンとか「おそロシア」とか食わず嫌いの人が多いが、ロシアは日本のすぐ隣にあるヨーロッパ。成田から飛行機で2時間弱のウラジオストックは日に日に整備されて美しく、生活も落ち着いている。関係の増進は、日ロ両国にとってプラス。ロシアは人口僅か600万強のロシア極東部の経済を強化して、中国(東北部だけでも人口1億2000万強)に席巻されるのを防ぐことができるし、日本もロシアとの関係を良くしておけば、ロシアが中国と束になってかかってくるのを防止できる。

 日本人はよく、「腹に一物持ったままでは本当の友人にはなれない」という人間関係の原則を国と国の関係にも適用する。ロシアと友好関係を結ぶためには「小さな島のことなど忘れろ」とまで言う人がいる。しかし、国と国の関係は人間関係とは違う。「腹に一物持ったまま手を握る」のは、古今東西日常茶飯事。中央アジアなどでは、友好国同士、今でも国境の画定交渉を延々と続けている。

日本が北方領土返還要求を捨てずとも、ロシアは日本との友好関係を中国に対するカードとして使えるし、中国より払いのいい日本に石油やガスを輸出したいのである(日本は既に国内消費の10%弱をロシアから輸入している)。反対に日本が国後、択捉を諦めたところで、ロシアはいつも日本の肩を持ってくれるわけでもない。

 「日本は戦後、歯舞・色丹の返還だけでソ連との平和条約を結ぼうとしたが、米国が捩じ込んで国後・択捉も要求させ、それによって日ソ友好を阻害した。冷戦の終わった今、米国の圧力はもはやない」という議論があるが、これは対米自主路線に見えて実は対米依存の骨頂だ。なぜなら国後・択捉は1855年に日ロが国交を設立した際の下田条約で日本領と認められて以来、1945年ソ連軍による占領とその後の日本人住民の強制追放まで一貫して日本の実効支配の下にあったからだ。

日本は別に、米国に言われて返還要求をしてきたのではない。自分のものだからそうしているのだ。自国の領土を安易に譲る国家は世界で相手にされない。日本の場合、尖閣、竹島だけでなく、沖縄にさえ手を伸ばしてくる国が出てくるだろう。

 領土問題は、常に「交渉が進んでいる」状態に維持しておく必要がある。でないと、相手の実効支配を黙認したかっこうになり、法的に不利になる。ロシア本土でインフラなどをロシアと50:50の負担で建設したりして、ロシアをいつも引き付けておくことが必要だ。

北方領土については、「最初に歯舞・色丹の返還。次に国後・択捉の返還交渉」という二段階論は、非現実的だろう。ロシアは歯舞・色丹の返還で最終決着だ、と主張するだろう。共同開発は、ロシアの実効支配を認めた形-つまり起り得る刑事・民事上の係争をロシア法に基づき裁き、ロシアの官憲が判決執行を担保する―では、呑めない。開発すると言っても、旧島民の地権も考えねばならないだろう。

プーチン・ロシアは、日本が考えている程世界で孤立もしておらず、経済が崩壊間際なわけでもない。安倍政権の側も、民進党の内部の足並みが乱れている今は、「領土問題での成果」がなくても総選挙を打てる。だから12月プーチン訪日で重要なことは、領土問題の最終的解決を焦ることなく、「日ロ関係と領土問題解決を前向きに進めて行く枠組み」をしっかり、じっくり合意することだろう。

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