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街角での雑想

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2010年9月 5日

日本経済自縄自縛からの脱出 Last ――増税より国債の方がまし

最後に、増税か国債増発か、の問題について一言。日本人の「国民負担率」は本当に低いのか、という問題にもつながる。

日本の国債の殆どは国内で消化されているので、ギリシャの場合ほど心配の種にならないことは、世界中で認識されている。しかも日本国債の半分くらいは政府系機関が保有しているので、やたら投げ売りなどしないだろう。
もっとも1985年の特例法で、赤字国債にも「60年償還ルール」(一度発行した国債を完全に償還するまでには60年かけていいということ。例えば10年もの国債は償還期限が来ても、償還額の6分の5相当について借換債が発行される)が適用されることになっているので、今年のような野放図な新規発行が積み増しされていくと、財政は崩壊し、高率のインフレが社会を襲う。外国資本は日本国債の先物を大量に売り抜け、暴落のあと買い直してそのサヤを稼ごうとするだろう。

しかし、「だから増税だ。日本人の国民負担率(税+社会保障負担分をGDP値で割ったもの)は他の先進国に比べて低いのだから、増税できるのだ」と言われると、ちょっと待ってくれ、と言いたくなる。それは、次の諸点に基づく。

日本の国債が一度に「取り付け」に会うことはないだろう。持っているのは個人より、政府系機関、銀行、生保などだから、彼らは国債を投げ売りしようとはしないだろう。売り始めれば値が下がるので、まだ手持ちの国債の値打ちをどんどん下げてしまうことになるからだ。たとえ市場金利が上がっても、銀行・生保などの大口需要家が国債を投げ売りしない限り、国債が不良資産化することはあるまい。

❷現在、国債の累積額が家計の金融資産総額を超えると破局が来るかのように喧伝されている。だが2003年のSNA統計では、ストック・ベースでの国民資産は8144兆円あり、企業の内部留保も銀行を通じて国債に回っているので、家計の金融資産総額相当がそれほど絶対の危険水域になるわけではあるまい。

❸「日本人の国民負担率が低い」(2008年度で40.6%)というのは言葉の魔術で、われわれの生活実感にまったくあわない。筆者も引退してみると、税金や健康保険料を払うために稼ぎ、稼ぐとまたそれに課税される、健康保険料、住民税がはね上がるという羽目に数年はまり、余裕はまったくなかった。なぜそうなるかというと、外国なら税金や社会保険料の中に入っているだろう分を、われわれは別の形で十分すぎるほど払っているからだ。

たとえば特別会計を構成している独立行政法人、特殊法人がわれわれに課している高速道路料金、視聴料、自動車免許関連の諸料金は、外国ならば(多くの場合)税金で賄われているものだ。特別会計による純支出は毎年100兆円以上にものぼるが、そのうちかなりは国民から料金を徴収した分だろう。税収、国債発行分と合わせてこれだけでGDPの40%に相当する。これに年金・健康保険料金を合わせると、GDPの約60%となって、ドイツ、オランダなどの水準(50%強)を抜くのだ。

われわれは意識しないが、実はこれに生命保険料を加えるべきだ。日本の生命保険は、家庭での働き手が夫一人だけだった時代、夫が若くして死亡した場合の家族の生活を維持するためのもので、社会保障を肩代わりしていたようなものだ。「他の先進国」なら妻も良い収入を得ているか、十分な生活保護が出るかするので、生保加入率はそれほど高くない。日本の生保は世界でも飛びぬけた加入率となっている。それは多数の生保外交員によって支えられているので、彼らの雇用を確保するためにも生保は高収益の商品を開発してきた。そのために、日本の生保の保険料は非常に高い。

一部文献では、日本の生保は毎年約40兆円もの保険料を集めているとされるが(「生命保険のカラクリ」岩瀬大輔 文藝新書)、これは政府の税収にほぼ等しく、これも「国民負担」の中に加えれば、日本人の国民負担率はGDPの70%弱%にも及ぶこととなる。これは「他の先進国より低い」どころか、世界一のデンマークの71.7%(2007年)と並ぶほど高いのだ。

ただ筆者が自分で大手生保、そして簡保の保険料を足してみたが、さすが40兆円には及ばなかった。上位3社と簡保を合わせて約13兆円ほどである。だがそれでも、これ以上の負担をすればわれわれは顎が上がる。既存の負担の枠内で付け替え、あるいは合理化をはかってもらいたい。

財務省は増税した方が今後の国会審議が楽になるのだろうが、国民にしてみれば予算が足りない分はその都度国会で審議をして決めてくれた方が、全体の財政規模が際限なく膨張していく歯止めになる。増税をしても、政治家から歳出増への圧力がかかって、財政はあっという間に再び赤字となり、臨時の支出増のためには国債発行がすぐ必要となるだろう。

❹デンマークの場合、高税率などで国民の貯蓄を吸い上げ、それを社会保障に回している。日本の場合、国債で国民の貯蓄を吸い上げ、それを社会保障に回している。国債で「借りた」金は、60年間でやっと完済されるので、実質的には税金と変わらない。その間にも銀行から貯蓄は引き出されているが、その程度の支払い能力は十分ある。そして既に述べたように、溜まった国債が一度に取り付け騒ぎに会うこともない。
つまり社会保障は、税でやろうが国債でやろうがどちらでもいいのだが、景気維持、財政規模膨張への歯止めという観点からも、日本には今のモデルの方がいいだろう。

コメント

投稿者: 高月 瞭 | 2010年9月 5日 10:24

財務省をはじめマスコミや経済評論家の多くは国の借金900兆円オーバー生まれたばかりの赤ちゃんでも一人当たり700万円の借金を背負っているとはやしたてていますが、日本全体の借金ではなく政府の借金です。ところで誰から借りたのかを語れるエコノミストは少ないのです。国債を買っているのは主に超過預貯金に悩む銀行であり、預託された生保などを運用するために苦労している保険会社などです。とすれば金融機関に預金していたり、生保に運用を委託している国民は借金ではなく債権者です。聞くところによれば銀行は150兆円以上の過剰貯蓄と言う負債に悩まされています。デフレが益々深まっていく日本では企業は投資に資金調達をせず国民は不安な将来に備えて貯蓄するものですから、金融機関は世界で最も長期金利が安いがCDSスプレッドの低い安全な日本政府銀行に的預金してでも利息を稼がなければ金融機関というビジネスが成立しないわけだそうです。
デフレ離脱には戦力の逐次投入ではなく毎年50兆円以上の国債を発行して政府支出を増やし民間企業が活躍できる環境を作ってやらなければ、純金融資産260兆円の預金通帳を持ったホームレスが生き倒れになるような状態になります。

投稿者: 河東哲夫 | 2010年9月 5日 16:06

同感。国債で住宅でも良くすればいいのだと思います。それにしても、どうせ生き倒れになるなら、そんな預金通帳一度でも持ってみたい。

投稿者: 高月 瞭 | 2010年9月19日 19:23

日本が純金融資産260兆円以上保持していることは、日銀資金循環表から国家のバランスシートをダウンロードすると誰でも見ることができます。またこの数値は対外資産と対外負債の差額すなわち対外純資産と一致します。
日本は過去20年以上世界最大の純債権大国でそこから得られる所得収支はサービスと財貨の貿易収支よりはるかに多い15兆円にも達するのです。

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