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論文

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2006年11月26日

アイデンティティーに悩む台湾

                              平成17年3月25日
                                                  河東哲夫

 3月6日より9日まで台北に赴き、学識経験者、ジャーナリスト等7,8名と懇談して得た印象を次の通りまとめました。初めての台湾行きでしたが、ちょうど北京の人民代表大会に「反国家分裂法」が上程された時期にぶつかり、台湾の置かれた地位を如実に見聞することになりました。
要約についで各論においては、諸懇談における先方の言葉を「」で示してあります。懇談先の名前は伏します。

要約
(1)冷戦の終了と戦後体制の見直し
 韓国と同じく台湾も、冷戦が終わったのと時期を一にして、かつての南ベトナムのような国家構造が見直され、経済発展を経た社会もそれを求めていたのだ。要するに、日本を含めた東アジア諸国も、冷戦の終了の影響をもろに受けたことになる。
 台湾においても、国営企業中心だった経済 が見直されて民営化が進められている。

(2)台湾のアイデンティティー
 
  つまり言ってみれば、台湾もまた、冷戦のあおりを受けた「分裂国家」に似ている。中国本土との規模の差があまりに大きいため(但しGDPでは台湾は中国の3分の1)、分裂というよりは分離か統合か、という問題設定になるのだが。
  しかるに中国は、経済発展のために平和な国際環境を望み、台湾海峡に波風を立てたくないというのが当面の立場だとしても、台湾の「分離」を公に認めることはできず、今般の「反国家分裂法」のように縛りをかけてくる。他方、日米にとっては、伸張著しい中国に対するバランサーとしての台湾の意義は益々高まっているにしても(軍事的には台湾は、中国海軍が外洋に出て行くのを抑える蓋のような地理的位置にある。また台湾沖のシーレーンは、日本、米国、中国それぞれにとって、非常に重要な経済的意味を持っている)、台湾の独立を後押しして中国との武力紛争の危険を冒すことまではしたくない。
  台湾市民の圧倒的多数は、現在の経済的繁栄と民主主義は本土との統合によっては維持できないと本音で信じており(実際、台湾では権威主義的な雰囲気は全く感じられない。リベラルで繁栄している、というのが、台北の印象である)、できることなら独立したいのだろうが、上記のごとき中米日間の微妙なバランスの間で現状を維持していくことが望み得る最大限であることも認識している。だから、世論調査をしてみると、市民の95ー98%は「現状の維持」を望んでいる。
  こうして独立でもなければ本土との統合でもない、一種不思議な存在が世界に存在することになった。世界史に類似の例はあるだろうか? 「日本と米国が台湾の安全を保障していてくれるのは、有り難い。感謝する。しかし、そのために台湾はがんじがらめになってしまった。」というのが、台湾住民の持つ実感である。

(3)中国の反国家分裂法
  小生が台湾外交部を訪問したのは、北京の全人大に反国家分裂法が上程される1日前であった。しかし、外交部の対応は冷静なものだった。
  本法はもともと、昨年12月総選挙の際、陳総裁が「独立」達成のための憲法形成を票稼ぎの手段としてアピールしたことに端を発しているが、総選挙での敗北で陳総統が独立についての立場を後退させたばかりか、議会での多数獲得のため、独立反対の親民党に歩み寄ったにもかかわらず、中国国内での動きが既に止まらなかったものである。
  本法は採択されたが、事態が直ちに武力紛争に至るわけでもなく、台湾側は「不快だが、これでゲームのルールが明文化されたようなもので、かえってやりやすい」とさえ述べていた(但しこれは少々やせ我慢の感あり)。他方、小生のガイド(女性)は中国の動きに素直に反発を示し、「こんなに圧力をかけられるとやっぱり・・・」と言っていた。

(4)内政
  台湾の内政は、「本省人」(国民党以前に、主として経済的理由から本土から台湾に移ってきた中国人)と「外省人」、豊かな北部とそうでない南部、独立か本土との統一志向か、といういくつかの対立軸を中心に展開している。台湾での日本の統治はうまくいったことになっているが、実は血なまぐさい反日闘争もあったのであり、日本の敗戦後入ってきた「外省人」=国民党勢力があれほど本省人を敵に回すことをしなければ、台湾人の対日感情は今とは違ったものになっていただろう。

(3)経済
  台湾では税負担が低いようで(国民負担率がGDPの34%程度の由)、政府は毎年財政赤字に悩んでいる。累積公的債務は、GDPの34%程度に達している。
 また、東アジアの先進地域では出生率が軒並み低下している。台湾、及び韓国が1,1(1000人中、新生児が1,1人)、香港が0,9と、既に日本を下回っている。

(4)両岸関係
 (イ)台湾からの投資は、中国への海外からの直接投資の10%弱を占めている。これに、「一国二制度」を取っている香港(戦後の香港を作り上げた戦前中国のせつ江財閥は、台湾とも少なからぬ関係を有していた)からの投資を加えると、実に50%強に達する。かつて「中国が台湾・香港を併呑するのではなく、台湾・香港の資本が中国を席巻することになるだろう」と言われていたのが、数字の上では実現している。
  しかし、ここまで入れ込むと、接収、国有化等のリスクにさらされ、台湾はかえって弱い立場になりかねない。現に最近になって、「台湾現政権に近い」企業が中国当局から不利な扱いを受けている。しかし、対中国投資は経済的に魅力であり、台湾当局もこれを止められない、というのが実態である。
 (ロ)北京の中央において台湾の利益を代弁するロビーは特にない、大企業は地方政府と協力し、商業上の紛争は地元の裁判所で解決している、という。台湾からの投資が、「本省人」の多くの出身地である福建省に集中していることを見ると、おそらく地縁・血縁による庇護を期待しているのだろう。中央政府は地方の利権が固定化せざるよう、地方の政・軍トップを出身地に関係なく頻繁にローテーションさせる政策をとっており、外国からの投資の貴重さが薄れてきた場合には、中国への台湾の投資の安全性は必ずしも保証できないものになる。

(5)華僑という要素
  ASEAN諸国において台湾は、中国と華僑の奪い合いをしてきた。台湾は香港とも提携し、『世界客属総会』を立ち上げ、秘密結社的に相互扶助を行っていた時代もある。当時の華僑には、国民党の支持者が多かったのである。台湾は、華僑にパスポートも出していたのである。しかし、『大中華』を念頭に、すべての華僑を出身地に関係なく面倒見ることは、民進党の党是に反する。
  中国は、ASEANの華僑を自由に操れるところまではいっていない。『世界客属懇親会』開催のような形で声をかければ華僑は参加するが、それも旧世代が中心になっている。

各論

社会の雰囲気
(1)台北の中山空港周辺の土地区画は、韓国の仁川周辺より整然としている。多雨だろうに、なぜか灌漑用と思える池が無数に散在していて、近畿地方によく似た光景を呈している。ここも韓国と同様、日本が統治していたにもかかわらず右側通行になっている。
(2)中山空港には新しい現代的なターミナルもあるが、ソウルからの飛行機は古いターミナルに横付けになった。天井は低く、パスコントロールのブースもバラックのようで、以前の台湾が非常時の臨時国家であったことを思わせる。そして、韓国や中国本土ほど、「国家」をいやというほど前面に押し出そうとはしないのだ。だが韓国も台湾も、アメリカほどではないにしても、パスコンを通り過ぎるまでにはロシアなみの時間がかかる。
(3)台北の郊外は丘が多く、その間を川が何筋も流れ、ちょうど伊豆か群馬のひなびた温泉街のような風情を漂わせる。そして台北は落ち着いた街だ。ここにはAggressiveでない中国文化がある。少しごみごみしていて、その中に室内野球場がそびえていたり、ミュージカル「鐘楼怪人」(ノートルダムのせむし男)のポスターが下がっていたりする。東洋と西洋、伝統と現代が渾然一体となっていて、こうした過密さは上海と同じだ。
  ソウルではほとんど見なかったバイクが、台北では多い。ベトナムやインドほどの数ではないし、随分しゃれたバイクだが総じて東南アジアに近づいた感じがする。タクシーのラジオは日本の演歌を流しているが、中国のメロディーのようにのどかで屈託が無く、こぶしがなくなっている。
  権威主義的でいかめしいところは、現在の台北の政府には全く感じられない。外交部幹部の女性に言わせると、「台湾は平和そのもの。テロリストも来ないのよ。」ということだそうだ。この日は、北京の人民代議員大会で反国家分裂法案が上程されたのだが、外交部にも緊張した様子は見えなかった。
(4)故宮博物館は現在大修理中で、所蔵物のほんの一部しか展示していない。それでも、弥勒菩薩は現在のような布袋ではなく、昔はやせて瞑想的な像だったこと、日本の学者が日本人は以前からマルチメディア的発想に強かったことを証明するために持ち出す絵双紙の類は、中国にもあったこと、徳利もお猪口も中国にあるが、趣味は韓国のものの方が日本に近いことなどを発見するのには十分な展示があった。そして、これら展示を見ていく日本人の老年世代のツアー・グループは、なぜか中国の文物に対して卑屈な姿勢を示していた。
(5)台北では、現在世界一の高さ508メートルを誇る高層ビル「台北101」が店開きしたばかりだった。低層階のショッピング・センターには日本食、日本の書籍、日本の文房具、日本のファッションのプレゼンスが大きく、その様はソウルとは比べものにならない。
  高さ400メートルのところにある展望階へのエレベーターは満員だった。上り出すとすぐ中は暗くなり、おきまりの「宇宙の」金属音が響いて天井には青く星座が映し出される。10秒ほど星座を眺めていると、エレベーターは382メートルの89階に到達する。つまり巡航速度は時速60Kmほどなのだ。このビルのデザインは中国風で、上海に建設中の森ビルとそっくりだが、完成するとこの上海の方が世界一の高さになるらしい。

内政
(1)アイデンティティーの問題
 ●「国民党は台湾を、あたかも植民地であるかのように一党独裁で統治していた。今でも、台湾住民の国家意識は混乱している。」
 ●「本省人と外省人の人口比は85:15程度である。しかし、戸籍制度が改正されて以来、『外省人』として届け出る者が少なくなったことを勘案しなければならない。また、台湾を本省人と外省人に二分して考えるのは、単純に過ぎるアプローチである。本省人も、外省人も様々な者がいる。」(A)
(2)政党の支持基盤
 ●「現在の与党・民進党は1986年、野党として出発したが、これは米国民主党の後押しを受けていたのである。そして主要な資金源は当初、自営業者や中小企業であった。その他の資金源は、国民党に握られていた。その後、李登輝が国民党を割った際、大資本家は国民党から離反した。」
 ●「台湾南部は、全土人口の75%を占めるが、本省人が多いため、国民党から長年不利な扱いを受けていた。そのため現在では、民進党の地盤になっている。南部の本省人は反中的なので、中国も彼らを懐柔するために、『台湾から野菜を購入してもいい』などという飴を見せる」。
 ●「台湾南部の本省人は福建省南部の特殊な言語を使っており、本省人にやや遅れてやってきた客家(注:広西省、広東省、福建省の境界の山地出身の華僑。勤労精神に富むことで知られ、東南アジアにも広く分布している。シンガポールのリークアンユー、タイのタクシン首相も客家系統である)、台湾原住民はなかなか仲間に入れなかった。客家は国民党支持者が多く、中には李登輝のように有力者になった者も多い。因みに、陳水扁・総統、呂秀蓮・副総統及び謝長廷・行政院長(首相)も客家である。但し陳総統は客家語をしゃべれない。民進党は客家及び台湾原住民を支持層に引き込むために『族群事務部』を設置した。」
●「青年層は民進党支持が多いが、投票率が低い。国民党は日本の自民党と同じく、農村部に強い。専業農家は少なくなっているのだが、農協組織等を国民党が握っているためである」
●「国民党を支持しているのは外省人だけではなく、本省人のうち自由業、軍人等、国民党政権から利益を得てきた中産階級も支持している。国民党の命運のためには、次の党首が非常に重要である。台北の市長は、青年層に人気がある。」
(3)戦後体制の見直し
 ●「台湾は、革命ーーー多くの企業が国営企業であったのを民営化するという経済的・政治的問題に加え、台湾は中国の一部ではなく『台湾』なのだという新しいアイデンティティの確立ーーーにも等しいことを政党政治を維持したまま実現してきた。」
 ●「陳総統は、『独立』実現のための憲法改正に個人的にコミットしているわけではなく、選挙での票稼ぎに利用したのである」
(4)政党の離合集散
 ●「(李登輝・前総統は2000年、総統三選出馬を辞退するとともに国民党からとびでて「台湾独立連盟」を結成し、総統選における国民党敗北の主因となったが)国民党脱退の理由は、台湾の独立推進、政治・経済改革の一層の推進のため、というイデオロギー的なものに加え、もともと国民党が嫌いだったのだ。彼の家系は国民党以前に台湾にやってきた客家であり、国民党からは本省人懐柔のために利用されていたのだ。彼自身は、国民党は大きすぎ保守的だと言って前々から嫌悪感を表明していた。」
 ●「(その後李登輝は民進党と連立してきたが、昨年12月の議会選挙で多数を得られなかった民進党の陳総統は、国民党系の親民党・宋党首に接近した。宋党首は以前から台湾独立派とは対極の立場にあることから、李登輝の立場が相対化した)確かに、陳総統・李登輝関係は、陳・宋接近の後、難しくなった。しかし、政治においてはこのような政党の離合集散は当たり前のことであり、陳・李関係も改善しつつある。また李登輝・前総統は南部で人気があり、その役割は依然として大きいものがある。」
 ●「憲法改正で国会議員の数が半減し、小選挙区制(現在は中選挙区制)になると、弱小政党、つまり台湾団結連盟と親民党が最も割を食う。総じて、国民党に有利な結果となろう。南部と北部の対立は、より先鋭な形で議会で露呈するだろう。」

経済
(1)民営化
 ●「国民党が台湾に来た時、地元の地主や企業家を無視して諸々の改革を実行しやすい立場にあった。これにより、農地改革等が実現した。しかし経済は国、あるいは国民党の手に利権が集中された。その利権に参加できなかった者達が中小企業を興した。80年代には金融市場自由化が行われ、銀行の設立条件が緩和された。しかし、当初は資本金の不足が目立った。」
 ●「工業も多くが公営だった。現在でもその名残は石油精製、砂糖、造船、塩(民進党系が社長になった)に残っている。」
(2)現状
 ●「米国でのITバブル破裂により、失業率は一時5%に達した。今でも、失業率は新卒者(頻繁に転職する者が多いため)及び年長者の間で高い。」
 ●「工業は(中国に流出して)空洞化している。しかし、経済の構造改革の必要性に教育が追いついていけない。サービス部門はGDPの67%程に達しているが、青年、女性が多く雇用されている。」
 ●「これまで年金は軍人と官僚のみが対象で、一般国民のための公的年金はやっと本年導入される。人口の高齢化は、問題になっていない。2004年、65歳以上の者は全人口の9%に過ぎなかった。しかし、出生率は1,1で、日本より低い。因みに香港は0,9、韓国は1,1である。」
 ●「累積公的債務はGDPの34%相当だが、急速に増加している。税負担がGDPの13%程度にしかならないが、これでは低すぎる。但し公営企業からの国庫収入等を合わせると、GDPの20%程度に達するだろう。」
 ●「台湾の通貨元は、中国元と異なりフロート制であり、円と似た動きを示す。最近ではレートが上昇している。台湾は電子産業が盛んだが、部品の供給は日本、韓国に依存している。台湾では、韓国よりも中小企業が多いが、GDP及び輸出におけるそのシェアは減少しており、大きな問題となっている。中国本土に流出した企業も多い」●「銀行は、韓国のものより強い。一時ITバブル崩壊で不良債権が増加したが、それも今では資産の数%程度にまで低下した。台湾の銀行は慎重な貸し出しを行っているのである。」

両岸関係と台湾のアイデンティティー
(1)アイデンティティーの問題
 ●「台湾が苦労して民主国家になってみたら西側から捨てられた、みたいな感じなの。普通の国に育っているつもりでいたのが、大きくなってみるとアイデンティティーがわからない。以前は、『中華民国』という名称には中国が眉をしかめたものだけれど、今では『台湾』と言うよりむしろましだ、みたいになっちゃって。私たちは自分の国を何と呼んだらいいのかしら? 『台北』? やめてよ。 私たちのことを、もっと認めてほしい。特にヨーロッパに声を大にして訴えたい。あの人達、中国との商売のことしか考えてないんだから。」
●「民主主義はいつもナショナリズムと結びつく。これは、民主主義のジレンマだ。台湾にとっては、Status quo の維持が最も望ましいのだが。しかし、台湾独立連盟の李・党首・前総統も、実はリアリストなのです。彼は、総統を辞任した後、台湾独立を主張し始めたのです」
●「台湾市民の95-98%が、Status quoの維持を望んでいます。この数字はもう長期にわたって変わりません。台湾市民は中国は自分たちに圧力をかけていると感じており、中国を嫌っているのです。92年の世論調査では、自分を「台湾人」と感じている者は全体の20%のみでしたが、2000年の調査では40%の者が自分を「台湾人」、20%の者のみが自分を「中国人」として捉えているのです。」
 ●「『独立』という旗印は、捨てる必要がない。中国の『大中華』思想に対抗するために使える。それに国民党の保守派が、世論がすっかり大陸との統合を忘れてしまったことに、危機感を持っており、『独立』の旗印を利用しようとしている。
 しかし、民進党は軽々に独立宣言はしない。『台湾は既に独立している』と言っているだけで十分だ。」
(2)台湾の対中投資は安全か?
 ●「対中投資は止められない。それに中国は5年間免税などの優遇措置を打ち出してくる。中国の元が切り上がるという期待感もある。」
 ●「中国の中央政府には、特に台湾からの投資の利益を守ってくれる有力者はいない。商業上の紛争は地元の裁判所に訴えるが、小企業は力不足である。しかし、地元経済を振興したい地方政府は通常、台湾からの投資にも協力的であり、大企業であれば協力しやすい。台湾はWTOのメンバーではあるが、WTOは海外投資の権利保障には有効ではない。中国が海外からの投資をそれほど必要としなくなると、台湾からの投資も地位が不安定になるかもしれない。」
 ●「中国への外国直接投資は、香港が43%、米国が9%、台湾が7%、ヴァージンアイランドが6%、日本が3%等である。このうち香港、ヴァージンアイランドのかなりの部分が実際は台湾マネーであることに鑑みれば、台湾はおそらく1位であろう。台湾銀行の推定では、これまでに約1,000億ドルを中国に投資している。」
 ●「戦前のせつ江財閥を通じて、台湾、香港は浅からぬ関係にある。国民党とともに、自動車、繊維等、多くのせつ江財閥系企業が台湾に来た。」
(3)反国家分裂法
 ●「まだ全文は入手していない。インターネットで入手したものを見る限り、若干トーンダウンしたところが見られる。中国政府はワシントンに何度も人を送って本法案について説明し、邪な意図は持っていないことを強調したらしい。いずれにせよ、これは昨年総選挙の際の台湾側動きに対する中国からの遅れた反応であり、特に中国の軍部をなだめるためのものでもあろう。」
 ●「米国の潜水艦、早期警戒機等の武器(約200億ドル)を購入するための特別予算が、野党の反対で通らないでいるが、反国家分裂法がこれに如何なる影響を与えるかはまだわからない。」
 ●「本件法は、米国武器購入に有利に作用するのではないか。かと言え、野党も満額を認めるとは思えず、若干減額して採択されるのではないか」
(4)今後の中国との関係・中国情勢見通し
 ●「これまで中国政府とのリエゾンを務めてきた辜振甫・海峡交流基金理事長が本年早々死去したが、その後任は未だ決まっていない。これは総統マターである。」
 ●「今後10-12年で、中国軍は強大になろう。しかしそうなれば、台湾以外の地域も中国を脅威に感ずるようになるだろうし、台湾自身も米国から兵器を購入していけばあと20年程度は中国との間の軍事バランスを維持することができる」
 ●「中国政府・党の軍に対するコントロールは十分ではなく、軍は独立王国のような様相を呈している」
 ●「中国は、民主化が不可能な国だ。少なくとも今後20年間、地方レベルでの選挙は導入されるにしても、共産党独裁は続けるであろう。経済が発展して人々のマインドが変わることによって、やっと40年後くらいにはなんとかなっているか、といった感じだ」

華僑と台湾
 ●「華僑は、その程度はまちまちだが東南アジア各国に溶け込んでおり、現在では世代上の転機の時期でもある。米国での日系2世、3世の関係でも想定してもらえばいい。華僑にとって、中国はただ懐かしいだけの存在である。華僑が中国、あるいは台湾の特定の思惑の下に動く、ということはない」
●「タイは自国の安定に自信があるのか、華僑にも寛容だった。そのためかえって華僑は現地に融和し、前の総理も華僑出身だったが中国語はできなかった。
 マレイシア、インドネシアは現地人を優先する排他的政策をとったため、華僑をかえって結束させることになり、彼らは団体を作って政治にも発言するに至っている。」
 ●「ASEAN諸国における華僑は大きな要因ではあるが、彼らには中国人であることを忘れて欲しい。現地に溶け込んで欲しい。
  ASEAN諸国においては、台湾は中国と華僑の奪い合いをしてきた。台湾は香港とも提携し、『世界客属総会』を立ち上げ、秘密結社的に相互扶助を行っていた時代もある。当時の華僑には、国民党の支持者が多かったのである。台湾は、華僑にパスポートも出していたのである。しかし、『大中華』を念頭に、すべての華僑を出身地に関係なく面倒見ることは、民進党の党是に反する。
  中国は、ASEANの華僑を自由に操れるところまではいっていない。『世界客属懇親会』開催のような形で声をかければ華僑は参加するが、それも旧世代が中心になっている。」
 ●「ASEANにも客家が分布しているが、台湾の客家との交流は少ない。台湾の客家はあまり豊かでなく、南部の者は中国本土に米を輸出したり、北部の者は山地で茶とか楠を栽培して輸出している。陳総統は福建省の詔安県出身の客家だが、客家語は話せない。
  インドネシアの客家は貧困であり、カリマンタンに集中している。鉱山労働者に食料品を供給しており、今では台湾の農村に嫁入りする者も多い」

対日関係
 ●「米国にとって、台湾は中国の力の伸張を抑えるためのかっこうのバランサーなのであろう。しかも、中国海軍が外洋に出るのを抑えることができる地理的位置にある。
 日本にとっても、台湾は同じような意味を持っているのだと推測している。ある日本人学者は、台湾との関係を『Silent alliance』なのだ、と言った。」
●「日本は台湾にとって、最大の輸入相手である。」
 (注:交流協会は外務省、経済産業省の共管となっており、交流協会の在台北事務所の次席は経済産業省からの出向者である)
 ●「台湾から日本への観光客は100万人を突破したが、日本からの観光客はそれほどでもない。中年、老年の方々が多い」

対米関係
 ●「米国は台湾を必要としている。しかし、台湾が「独立」することは、中国との関係を危うくするので、望んでいない。他方、中国にとっては、南方からのシーレーンの安全を確保するためにも、台湾は是非欲しいところである。」
 ●「米国で台湾の肩を持ってくれるのは、American Enterprise Institute, Brookings Institute, Heritage Foundation等で、議会等で使っているロビーストは国民党時代と同じである。」
 ●「日本と米国が台湾の安全を保障していてくれるのは、有り難い。感謝する。しかし、そのために台湾はがんじがらめになってしまった。」

「東アジア共同体」的発想への態度
 ●地域的自由貿易協定への関心
「台湾はベトナムでは投資国No.1,フィリピンではNo.2であり、ASEAN地域では重要なプレイヤーになっている。だから米国、日本も含めてこれら諸国とFTAを結びたいのだが、中国に止められている。WTO加盟も推進したい。中国の台湾からの輸入は部品類が多いので、台湾からの輸入品への関税率を下げることは中国自身の利益にもなる」
 ●「APEC諸国からはLNG,石油、木材等を輸入しており、随分投資もした。」
 ●「台湾はAPECのメンバーだが、ARFのメンバーではない。北朝鮮はARFのメンバーなのに。台湾はせめてARFのオブザーバーになりたい。」
 ●「東アジアにOSCEのような組織を作ることについては、豪州のエバンス外相も言及したことがある。」
 ●「台湾はARFのメンバーではないが、ARFが強化されてシー・レーンの安全保障や信頼醸成措置が集団で行われることになれば、喜ばしいと思う。しかし、そのようなやり方に中国が乗ってくるかどうか。そのようなものを作る場合、台湾問題は対象とするのか? もしうまくいくなら、台湾をせめてオブザーバーにしてくれたらと思う。」                               (了)

コメント

投稿者: 伊原通夫 | 2007年10月16日 13:27

河東さん、台湾に記事 とても役に立ちました。
12月に台北に家内と行きます。彫刻の取り付けに
行きます。お元気で
ボストンの伊原です。

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