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論文

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2008年1月13日

ロシア情勢メモ(07,12~)

(随分さぼったが、12月以降のロシア情勢であまり報道されていないことを書いておく。情報源はロシア、第三国の報道)

★新大統領の外交日程
モスクワの外国大使館が今、熱心に取材しているのは、5月初めに就任する新大統領の外交日程だろう。いつどこで自分の国の首脳とロシアの新大統領が会談できるかは、その国の対ロ外交の要諦だからだ。

で、報道ではこういうことだ。
○年に2回のEU・ロシア・サミットは、いつもは春だが、今年は6月にシベリアの石油産地のハンティ・マンシスクでやるのだそうだ。
○そして5~6月にはモスクワで、ロシアと中央アジア等の間の「経済共同体」であるEEC,同じく安全保障組織であるCSTOのサミット。

○6月にはサンクト・ペテルブルクで、福田総理も出たダヴォス世界経済会議のロシア版であるところの「経済フォーラム」があり、プーチン(首相?)が出席をもう今から予定しているのだそうだ。彼と話がしたい人はペテルブルクに行きましょう。

○そして7月にはもちろん洞爺湖サミットがある。新大統領はそこで世界の外交の檜舞台に初登場だ。北方領土問題解決で前向きの発言を期待しよう。

★大統領はメドベジェフで決まり?
07年を通して大統領候補としての支持率は10%もなかったメドベジェフ第一副首相。プーチン大統領に「指名」された途端、その数字は数倍に跳ね上がった。このままならほぼ当確。

だが3月2日の選挙日までまだ40日強もある。07年秋に噴出した大統領側近間の内紛が収まったということはまだ聞こえてこない。だから、すんなり大統領選まで推移するかはわからない。1月ドイツのFocus誌は、「プーチンはメドベジェフに大統領警護局のSPをつけた。FSBを信頼していないということだ。セーチン大統領府副長官は完全に窓際に追いやられるだろう。プーチンはセーチンをモスクワの外に追い出そうとさえした。セーチンはプーチンに逆らってズプコフを大統領にしようとしたからだ。」と書いている。

また米国のロシア専門家オスルンド(スウェーデン出身)は、プーチンに捨てられようとしているシロビキがクーデターを起こす可能性にまで言及している。彼らがプーチンに対して「キレている」証左としてオスルンドは、プーチン大統領の個人的不正蓄財をめぐる情報が11月末インターネットで急に流された(つまり検閲でつぶされなかった)ことを指摘している。

★メドベジェフ大統領候補の親友達(07,12,19 Russiaprofile, Graham Stack)
メドベジェフはサンクト・ペテルブルク大学法学部卒だが、その同級生の殆どは法曹界に進出しており、政治の経験を持つ者は少ない。彼らの性向はリベラルだが、法律至上主義的(つまり「法匪」)になりやすい由。
彼らはペレストロイカ初期の1987年に卒業している。一番リベラルだった世代だ。今は、モスクワのリベラル系の「高等経済アカデミー」(ソ連崩壊後チュバイス達の若手テクノクラートが中心になって作った大学。ナビウリナ経済発展貿易相もここで教えていた)法学部に集まっている由。下にいうイワノフが学部長、ドロスドフが部長代理なのだそうだ。イワノフがこれまでもプーチンの横で最もテレビに出ているそうで、最速で昇進の可能性があると言われている由。

○イリヤ・エリセエフ:
05年ガスプロム銀行副頭取。

○アントン・イワノフ:
親友。04年ガスプロムメディアの第一副社長。TNT,NTV(注:両方ともテレビ局)取締役。
05年最高仲裁裁判所長官。

○ミハイル・クロトフ
賞ももらった法学者。05年イワノフの後に、ガスプロム・メディア副社長に短期間就任。05年、憲法裁判所における大統領代表に。

○ウラジミル・アリソフ(Alisov)
04年、ガスプロムレギオンガス(地方)の法務部長。

○コンスタンチン・チュイチェンコ
KGBに入る。01年ガスプロム法務部次長。04年ガスプロム・メディアの監査役。04年ロスウクルエネルゴの3人の社長の一人に。05年シブネフチの監査役。

○ヴァレリア・アダモヴァ
03年、ガスプロムの化学部門Siburの法務部次長。

○エレーナ・ヴァリャヴィナ:
88年卒業。05年イワノフに請われて最高仲裁裁判所副長官に。Dmitry Fursovがこれを批判。

○イーゴリ・ドロスドフ(Drosdov):
99年卒。グレフ補佐官から仲裁裁判所官房長へ。

○アレクサンドル・コノヴァロフ:
ピーテル法学部を92年卒だが、検察人脈。
05年 バシコルトスタン検事長になり、ブラゴヴェシェンスクでの警察暴力事件、地方要人による石油利権を捜査。NGOから高い評価。
その後、キリエンコをついで沿ヴォルガ地区大統領特別代表に。

(年上だが同じ法学部を1985年卒業したコザク・地域発展相も、メドベジェフに近いと言われる。有能で廉潔という評判の男)

メドベジェフがプーチン大統領に「指名」された時の経緯はまだわからない。諸説がある。自分の利権保持のためにボスのプーチンの力を残したくてしょうがない、と言われているセーチン大統領府副長官は(本当にそうなのかどうかは確認していない)、一匹狼でプーチンにも近いセルゲイ・イワノフ第一副首相が大統領になるのだけは避けたかったといわれており、そのためやれズプコフ首相をかついだとか、いやグルイズロフ国会議長を推していたとか、諸説入り乱れている。そしてプーチンによる「指名」の直前には、与党「統一」内部では「セルゲイ・イワノフが指名される」という観測がほとんど確信を持って語られていたらしい。

いろいろ情報をあわせると、メドベジェフはセーチンでもしぶしぶ受け入れざるを得ない妥協候補だったのかもしれない。もっとも両者は90年代前半、サンクト・ペテルブルク市役所のプーチン対外経済関係局長の下、同じ廊下に部屋を並べて働いていた仲ではあるのだが(セーチンは汚れ仕事、メドベジェフは法律顧問的存在。メドベジェフの部屋は廊下のはずれ。セーチンのは中央のプーチン部長の隣)。

★メドベジェフ大統領、プーチン首相のコンビが実現した場合、強力な政治ができるかというとそれはわからない。後述するように、経済を担当する「プーチン首相」はインフレや貿易黒字の減少などの問題に直面することになるし、たとえ両名の仲は良くとも、大統領府と首相府(これも大きな建物に大人数を抱えているのだ)の役人の仕事の90%は互いの権限争いに浪費されることになろう、という観測もあって(大いにあり得る)、どうなるかはわからない。

★プーチン大統領所有の株?
昨年末、ベルコフスキーという政治専門家がラジオで「プーチンはスルグートネフチ株の37%、ガスプロム株の4,5%、Gunvor社の75%をコントロールしている」と言ったことが12月、モスクワの外国記者の間で急速に関心を呼んだらしい。Gunvorはスイスの民間会社だが、ロスネフチの石油を扱っているようで、だとしたらシベリアに収監されてしまった「石油王」ホドルコフスキーのやっていたことと同じになるとして、国民の間でもこのうわさは急速に広がっている、と言う。
ただプーチン大統領の名誉のために言うならば、日本の財務大臣も任期中は以前の専売会社だかの株の政府所有分の「所有者」になっているのだそうで(帳簿上だけの話)、プーチン大統領が噂とおりのことをしているとしてもこんなことなのでしょうね。

★プーチンは昨年12月のベラルーシ訪問で何を話してきたのか?
12月10日にメドベージェフを「指名」したプーチン大統領は、14日ベラルーシを訪問した。ズプコフ首相達を引き連れた大々的な訪問の割りには、ルカシェンコ大統領が空港で送迎しなかったことや、さしたる成果が見えないことが話題になっている。
一部専門家によれば、プーチンは新連邦条約案を持参。それによれば両国は連邦を作り、09年に大統領選挙をすることになっていた由。ところがそれにルカシェンコが立候補すると彼が勝つ可能性があるので、プーチン大統領は彼とさしで4時間話し合い出馬しない確約を得ようとした、というのだ。

だがこれはおそらく、真実を隠すための煙幕だろう。おそらく、米国がポーランドとチェコに配備しようとしているミサイル防御装置に対抗するため、ベラルーシに短距離核ミサイルでも配備する話を進めたのではないか。今回唯一のめぼしい成果はロシアからベラルーシへの天然ガス輸出価格の合意だけであり、昨年と同じ西欧向け価格の67%とする、というベラルーシにとって好条件の合意なのに、ロシアは更に15億ドルものローンを何故か約束したからだ。07年8月、スリコフ・ロシア大使は、ベラルーシに戦術核を配備する可能性に言及している。

経済
(疲れたので断片情報だけ)
★対外債務の増加
08.1 インターファクスによれば、07,1~07,9に対外債務累積額は38,7%増え、4,309億ドルになった由。GDPの半分だ。でもまだ返済に差し支えることはない。

★インフレ
○ナビウリナ経済発展貿易相は、07年インフレが予想を4%も超えて12%になったことを深刻な問題と見る。彼女は、食品が16%、非食品が6,6%、サービスが13%上昇したと推測。但し穀物輸出税引き上げ等により、11,12月のインフレ率は10月より半減した由。
○ナビウリナ大臣は、VATを売上税に代えたり、固定資産税を導入する可能性に言及しているので、日本企業の方もご用心。

★中国を抜くロシア
07,12 12月発表のゴールドマン・サックスのGrowth Environment Scoreによると、ロシアは中国を初めて僅かに抜く。携帯、PCの普及度、政治的安定(中国より安定しているということ)、腐敗(中国より腐敗していないということ)で抜いた。外国からの直接投資額でも、初めて中国を抜いたらしい。おめでとうございます。
★貿易黒字、昨年より縮小(経済発展貿易省系シンクタンク)
07年の貿易黒字予測は1,300億ドルで、ピークだった昨年より7%減。
11月ウラル原油は90ドルを超えたのだが(対前年63%増。ということは、同じくらい急激な低下も簡単に起こるということで、そうなったらロシアは貿易赤字になるということ。但し石油の輸出絶対量も対前年12%増えている。)。
○11月の輸入は230億ドルで、対前年比40%増。食品、特に砂糖輸入は対前年11月比で4倍(砂糖は自宅の庭の果物をジャムにしたり、密造ウォトカを作るのに使われる)。外車は11月、16万台輸入され、対前年11月比58%増。

★経済諸分野実績
○鉱工業:
加工業が落ちたのは、食品工業、中間財・投資財。化学・建材も設備リストラ中のため。タービン、建築機会、鉄道車両も落ちる。
しかし石油上昇、国営企業のインフラ大投資、年末インフレによる駆け込み需要で支えられる。

○投資:
ゴム・プラスチック、電器、建材、自動車が伸びている。公営企業による大投資が数字を挙げている。
農業投資は全体の30分の1以下だが、06,07年とも40%以上の伸び。
投資用の資金(1~9月)は19%が利益から、20%が減価償却から、10%が銀行融資、19%が予算(うち中央が6%のみ)から。

○インフレ:
食料品は11月1,9%上昇。上昇は野菜、果実に波及。ガソリンが久しぶりに上昇。11月に2,3%。これは続くだろう。
非食料品は11月に0,9%。サービスは0,6%。
12月前半、CPIは0,7%上昇⇒年間で12%強。

○消費:
非食品消費財の消費、11月は記録的伸びで19,8%増(対前年)。
消費者ローン、9月に落ちたが、10月には回復し、増加分だけでも市民の現金収入の6,6%に相当。
実質所得は落ちていない。11月には10,5%伸びている(対前年)。10月に年金インデクセーションが開始したことも影響。

★安定化基金
07,12 パンキン財務省債務部長は、「08,2の制度改革以後も、National Wealth FundはAA以上のソブリン債権にしか投資しない」と述べた。
ロシアの政府系ファンドが欧米・日本の企業を買いあさることが懸念されているが、そのようなことは同部長は考えていない。ただ、これからどうなるかはわからない。

★サブプライムの影響
一言で言えば、年末に向けて影響もひとまず収まったというところ。
一時、西側資本市場での借金条件が厳しくなって、ロシア国内での消費者ローンの規模が縮小したが、それも回復している。11月財務省がナノテク基金、開発銀行、国民生活基金(National Wealth Fund)に6,400億ルーブル(1,300、2,400,1,800の順)を移転したことで急転したのだ。
この資金は1ヶ月中銀に滞留していたが、12月末には中銀における民間銀行口座預金は460億ルーブル増え(対11月)、サブプライム後の流動性不足の問題は一応解決された。

ただその代わりにインフレ圧力が高まっているし(だから市民は消費を急ぎ、賃金が年間30~40%も伸びているのに、貯蓄しない)、1月15~17日にかけてロシア株式市場は急落した。それに07年第一四半期の実績がよすぎたため、08年第一四半期は苦労するだろう。

「見せ掛けのユーフォリアはあと少しで終わるかもしれない。」というのが、僕の読んだシンクタンク・レポートの懸念するところ。

コメント

投稿者: ミーシャ | 2008年1月28日 18:07

このサイト、すごく面白いね。

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