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論文

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2009年9月19日

中央アジア情勢メモ 09 6

2009年6月周辺の中央アジア情勢

概要
6月の中央アジア各国の国内情勢に大きな変化はなかった。対外関係での主要な動きは次の通りである。
1.欧米の対中央アジア関心の増大
オバマ政権がアフガニスタン平定を政策重点にしているため、これに隣接する中央アジアに対する欧米の関心が増大している。
IMFのストロスカーン専務理事は、6月に中央アジアを歴訪した。
また米国のTime誌は、中央アジア特集を行った。

2.欧米側の動き
(1)キルギスのマナス空軍基地を、米軍が引き続き使うことで合意が成立した。
(2)6月末アスタナで、NATOと中央アジアの間のEuro-Atlantic Partnership Council第1回会合が開かれた。NATO拡大の動きにはロシアが神経質なのだが、デホプスフェッヘルNATO事務総長は、「(ロシアと)張り合うつもりはない。中央アジア諸国自身に決めさせればいい」と述べた。

3.ロシア側の動き
(1)6月17日に上海協力機構(SCO)首脳会議がロシアのエカテリンブルクで行われた。アフガニスタン、パキスタン首脳がゲストとして出席。パキスタンのザルダリ大統領は、SCOに「加盟したい」と明確に述べた。メドベジェフ大統領はパキスタン、アフガニスタン両大統領と別途、3者首脳会談を行ってポイントを稼いだ。
今回はSCO首脳会議の直後、第1回G20首脳会議(ブラジルのルラ大統領も、この数時間のためにロシア中央のエカテリンブルクまで飛んできた)も開かれた。
今回SCO首脳会議ではめぼしい進展もなく、「SCOは伸び悩み」「SCOはこれで限界」との趣旨の報道が多く見られた。
(2)6月14日モスクワで集団安全保障条約機構(CSTO)の首脳会議が開かれた(経済支援を求めてEU側に傾き、対ロ関係を悪化させているベラルーシは不参加)
CSTOは冷戦時代のワルシャワ条約機構の小型版を狙ったものだが、いっこうに整備が進んでいない。危機対応即応部隊というのがあるのだが、名前だけで集まったことも演習したこともない。
そこでこの6月の首脳会議でロシアは、この即応部隊に空挺師団も加え、さらにモスクワに統合司令部を作る合意を達成しようとしていた。この数か月、そのようなロシアのもくろみに対するウズベキスタンの抵抗があらわになっていたが、今次首脳会議でそれはカリモフ大統領自身によって表明された。同大統領だけは今回首脳会議での合意文書に署名せず、①このような集団部隊には、参加したい作戦にだけ参加する、②加盟国の領内で作戦する場合はその国の法律の枠内ですること、③展開決定はコンセンサスで行うこと、④加盟国間の紛争では使わないこと、⑤ロシアによる統合的司令には疑義があること、を留保の理由としてあげたらしい。
カリモフ大統領の言っていることは当然のことで、③、④など、ロシアの嫌うNATOでも守られている原則だ。
(3)6月9日モスクワで、「欧州経済共同体」の首脳会議が開かれた。これはロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンがメンバーの組織で、アルメニアはオブザーバー、ウズベキスタンは出席を停止している。この会議では、ロシアを頭とする「反危機基金」(早口言葉ではない)(100億ドル)が作られ、うち75億ドルをロシアが拠出して年末までに稼働することが合意された(これは下記のように、既に2月に表明されたこと)。

4.中央アジア全体について
(1)6月末、ジェネーブでUNDPが主宰して、中央アジア諸国における核燃料廃棄物集積場の整備問題を話し合うフォーラムが開かれた。キルギス、タジキスタン、カザフスタン、ウズベキスタンが、自国内集積場の整備に対して国際協力を呼びかけた。
ウラン資源の豊かな中央アジアは冷戦時代にはソ連核物質の主要生産場の一つであり、今でも8.1億トンの廃棄物があると推測されている。テロリストがdirty bombを作る原料にするかもしれないし、河川の汚染などを通じて住民の健康も損ねる。実際、中央アジアの河川は放射能値が高めなのだ。
この問題は、日本のODAの対象としてもいいなと思っていたら、7月には、キルギスの集積所改修のためにEUと欧州経済共同体が4200万ドル支出する、という報道があった。
(2)ロシアの経済危機で、ロシアへの出稼ぎ者からの仕送りが急減した。ロシア中央銀行によれば、出稼ぎ送金額は2008年第3四半期から第4にかけて30%、さらに2009年1~4月に25%減少したので、1年で半分近くに減少した。

5.アフガニスタンをめぐる動き
(1)アフガニスタンでは、これまで安定していた北部にタリバン勢力が浸透し始めたとの報道がある。またこれまでパキスタンとの国境バジリスタンに潜んでいた「イスラム解放運動」分子がタジキスタンに入り込みつつあるとの報道がある。5月末にキルギス・ウズベキスタン国境で哨所を襲撃したのは、彼らであろう。
その中で、アフガニスタン北東部に集中して存在するウズベク系住民を束ねることのできる実力者、ドストム将軍が、カルザイ大統領の不興を避けて長期滞在していたトルコからアフガニスタンに戻ってくる動きが報道された。これはタリバン浸透に対抗するためと言うよりは、8月の大統領選挙を前にして、カルザイ大統領とドストム将軍が再び提携を強めたことを背景しているようだ。もっとも、ドストム将軍は2001年北部のクンドゥースで起きたパシュトン族大虐殺に関与したとされているので、カルザイがドストム・カードを引きこむとパシュトゥーン族の票が離れる。そんなこんなで、7月中旬になっても、ドストムは亡命先のアンカラに家族ぐるみ滞在したままのようだ。
(2)面白いのは、ロシアがパキスタン(これまで中国と親密な関係にある)、そしてアフガニスタンのパシュトゥン・タリバン勢力の一部とわたりをつけ始めた、との報道が見られたことだ。5月にムシャラフ前大統領が「私的に」モスクワを訪問してプーチン首相と会談し、6月中旬にはロシア・パキスタン・アフガニスタン三国首脳会談、6月末にはカヤニ・パキスタン軍参謀長が訪ロするなどの動きがあった。
ロシアは中央アジア、アフガニスタンで中国に抜かれるのが嫌なのだろうし、アフガニスタン問題で何か前進を斡旋することで、米国に貸しを作ろうとしているのだろう。
だがパシュトゥーン、パキスタンとの接近は、中央アジア諸国の反発を招く可能性がある。

以下、注目するべき報道を拾っていきたい。

ウズベキスタン
★6月11日、政府系通信社ジャホンは、オバマ大統領のカイロ演説を高く評価した。この演説は、米国とイスラム地域との「新しい始まり」だとする。「現実的なアプローチ」だとか、「民主主義、法の支配、言論・宗教の自由は我々全てに重要なものだ。自分だけの価値観を他民族に押しつけるのは逆効果だ」などの言葉が報道に見られる。
ウズベキスタンの最近の向米傾向を反映したものだ。
★ウズベキスタンとタジキスタンとの関係は、その上下が激しい。今は関係良好な局面か。
即ち2月中旬、実力者のアジモフ副首相が7年ぶりにタジクに赴き、経済協力委員会を開いた。ウズベキスタンは止めていた電力供給を再開するのに対してタジキスタンは、シル河のKairakum貯水池から3月末までは放水しないことを約した。
2月25日カリモフ大統領はトルクメニスタンのベルディムハメドフ大統領とタシケントで会ったあと、「水の問題をあまりドラマタイズするべきでない」と述べており、水の問題でのロシアの介入を嫌っているのではないかと喧伝された。
いずれにしても、5月タジキスタンの水害でウズベキスタンは他のいずれの国にも先駆けて救援物資を送っており、今のところ関係は良好のようだ。

カザフスタン
★油価上昇にもかかわらず、カザフスタンの経済は回復を見せていない。金融面で「第二の(金づまりの)波」が来るのではないかとの恐怖感が残っている。
他方、外国から資金を借りて商売してきた地元銀行に比べ、HSBCなど外銀は有利な状況にある。個人預金にも進出して資産を増やしている。
★経済がこうした状況にあるためか、カザフスタンは最近ロシアにずいぶん気を使っている。

キルギス
★6月23日、バキーエフ大統領は、マナス基地の米軍使用継続につき合意が成立したことを発表した。米国が払う賃貸料は、これまでの1,700万ドルから6,000万ドルに上げられた。
ロシアのメドベジェフ大統領がこの合意を歓迎し、「マナスは軍事基地ではなくなる。物資のトランジット用の空港ということであり、米国軍人の数は減る。しかも、彼らは訴追免除等の特権を持たない」と述べた。あたかも、ロシアの了承があったから、米国がマナスに残れるのだということを強調したいかのようだ。
★経済の縮小は続いている。本年1~4月のGDPは前年同期比で16.6%減少した。5月1日現在、公的債務は23億ドルで、GDPの半分に相当する。そのうち58.6%は国際機関に対する債務で、大口は世界銀行、アジア開発銀行、ロシア、日本、IMF。

タジキスタン
★6月17日、サリホフ元内務大臣が横領で逮捕される直前、自殺した。検察出身で大統領府勤務の後、2006年内相となり、本年1月解任されていた。
さらに7月には故郷のダビルダルで隠居していたミルジョエフ元緊急事態相が、政府軍に武器引き渡しを強制され、銃撃戦の末死亡した。ラフモン大統領が旧野党勢力への締め付けを強める中、ミルジョエフの周辺に不満分子が集まりだしていたのが原因のようだ。この人は、秋野国連政務官が殺される直前に会った、当時の野戦司令官だ。感無量。銃撃戦のあと、5名のチェチェン人が逮捕されている。
★メドベジェフ・ロシア大統領は8月中旬にタジキスタンを公式訪問の予定である。
もともと5月の予定だったのが、サントゥーダ・ダム発電所へのロシア融資などをめぐるごたごたで遅れていた。

トルクメニスタン
★4月初めにガスプロムがトルクメニスタンの天然ガス輸入を突然止めて以来、両国の間では交渉が続いている。トルクメニスタンの輸出額の84%に相当する毎月10億ドルの収入が失われている。GDPは300億ドルである。
6月15日にはミルレル・ガスプロム社長が来訪してベルディムハメドフ大統領と会談したが、解決していない。ガスプロムは第二4半期のガス引き取り量を80%減らすか、価格を下げるかを提案しているもよう。
★トルクメニスタン側は大分あわてているように見える。ベルディムハメドフ大統領は外相を急遽ワシントンに派遣して、自分の訪米を至急にアレンジさせようとした。
但し7月初めベルディムハメドフ大統領の誕生日にメドベジェフ・ロシア大統領が電話をしてきた際に、前者は後者を9月のカザン-アシハバド・ラリーを見物に誘っており、これが合意の締切日になるかもしれない。
★6月末、李克強・中国副首相が来訪した。彼は、30億ドルの融資で南ヨロタン・ガス田開発の協定を結んだ(細部未詳)。これは、これまでトルクメン側がコミットを避けてきたもの。09年中に稼働の予定で、パイプラインで年間300億立米出せる由。
この外、李副首相は中国向け化学肥料工場の建設に3億ドルの融資を供与すると発表し、建設現場に赴いてそこの中国労働者に、「工期を守って完成する」よう発破をかけている。
彼はそのほか、ガラス工場への融資も約束、中国への留学生も90名に増やした。
いかにも中国的な果敢な外交である。

上海協力機構(SCO)首脳会議
★会議の場で中国の胡錦涛主席は、中央アジア諸国に100億ドルの借款を供与する意図を表明した。中国はこのところ毎年、同種の表明を繰り返している。前年表明のうちまだ実行されていないものに、新しい金額を上積みして発表しているのだろう。
ロシアも負けていない。2月に「地域基金」(ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンのため)に75億ドルを拠出している。
★会議での場でメドベジェフ・ロシア大統領は、「我々の間の貿易では我々の通貨を使おう」と言ったし、ナザルバエフ・カザフスタン大統領は、「SCOの統一通貨があってもいいではないか。統一通貨を作る検討を始めよう」という提案をした。
 だが両者とも口先だけで、実行への動きは見られない。

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