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論文

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2012年4月 7日

プーチン再び 今後のロシアと日ロ関係 対外文化協会での講演

3月13日、日本対外文化協会の催しで講演したのを、協会の方でテープ起こしをしていただいた。協会のご厚意でそれをここに掲載させていただく。
この講演から既に3週間経っているが、その間の変化は次の諸点である。

①「プーチン大統領」の就任式は5月7日である。
とは言え、大統領選から1カ月たった今、新政権の布陣はまだ固まっていない。だから政策も打ち出されていない。様子が少しおかしい。多分、プーチンは自分の右腕、セーチン第一副首相をクレムリンに連れて行きたいが、クレムリンのポストは既にうまっていて(セルゲイ・イワノフ大統領府長官とボロージン第一副長官。後者はプーチンの大統領選を勝利に導いた功労者である)、そこを無理にはめようとすると争いが起こる―そんな構図になっているのではないか。
このもやもやした状態が長く続くと、社会の閉塞感、停滞感はふたたび強まる。そして反政府勢力も勢いを盛り返す。

②地方のトリアッチ、ヤロスラヴリの市長選で、与党「統一」の候補が敗れた。だがこれは、別に反政府勢力・民主化勢力が地方で狼煙を上げたわけではない。
地方の利権を独占する「統一」系候補が地元の反感を受けて敗れただけで、反中央政府、反プーチンというわけではない。

③新政党の結成要件の緩和が進んでいるが、これも民主化のためというより、むしろ逆の方向だろう。と言うのは、年末には地方選が諸方で行われ、与党「統一」の苦戦が予想されるので、野党を無数に乱立させて票の食い合いをさせ、その中で「統一」の地位を保持しようという魂胆があると指摘されているからだ。
事態はまるで、議会開設と憲法の制定を求めて騒ぐ世論を、皇帝と政府がのらりくらりとかわしていたロシア帝国の20世紀初頭に戻った感がある。チェーホフの頃の。不毛な堂々巡りをしている。

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      「プーチン再び 今後のロシアと日ロ関係」
                          3月13日
                          日本対外文化協会

 きょうは勉強会のような感じで、大統領選挙が終わったばかりのロシアについてお話したいと思います。
 私の肩書きなんですが、いろいろなものをやめて「ブロガー」にしようと思っているんです。(笑)それは最近ロシアでもブロガーといった肩書きがはやっていて、この前の反政府集会の立役者ナヴァルヌイもブロガーで通っていますので、私が日本のブロガーと言えば、そのうち諸方から連絡をとって来るのではないかと思うので、そうします。

◇ロシア大統領選挙

 大統領選挙について、ちょっと数字だけ復習したいと思います。プーチンは支持率が下がったといいますけども、そんなに落ちていないんです。とくに2000年に初めて大統領になった時の得票率は52.94%ですから、今回の63%強というのはそれほど低くない。ただ2004年と2008年の大統領選に比べれば、10%位下がっております。そして地方毎の特徴なのですが、あまり精緻な議論はできないとしても、今回のプーチンの得票率より5%以上、上下に乖離している州を見た場合、プーチンを強く支持した地区はチュコト、ケメロボ、チュメニ、バシキル、タタール、サラトフ、タンボフの各地方、州、そしてダゲスタン、チェチェンに至っては99.76%の高支持率であります。チェチェンというのは、開票をろくにせずに前から予定されていた数字を中央に送ってくると、私の友人が言っておりました。

 プーチンの得票率が低かったのは沿海地方、ハバロフスク、サハリン、マガダンという極東地区で、平均58.6%以下という数字でした。それから同じく弱いのはイルクーツク、ノボシビルスク、オムスク、トムスクのシベリア諸州。クラスノヤルスクは大体平均並み。ですからシベリア――オレンブルクも含めて、そして極東が弱いというのが特徴です。モスクワは46.95%とずっと低く、実際の数字はもっと低い可能性があると思います。それからモスクワ近郊のウラジーミル、オリョールも低い、そういうことであります。

 また西の方のカレリア、カリーニングラードも低いのです、サンクトペテルブルクは大都市でインテリが多く、モスクワほどではないにしても低いということです。国外における得票率はまだ開票が済んでいないのかも知れませんが、未発表です。海外在住者のプーチン支持は低いのではないかと思います。

◇反政府集会の状況と背景

 今回の反政府集会の状況ですが、最近ロシアで反政府集会が頻繁に展開したということが驚きをもって報道されています。しかしこの25年間において、こういった出来事ははじめてではないのです。それでも、これだけ反政府集会が開かれた背景について、いくつか列挙してみたいと思います。

 その一番目としては、あまり皆さんおっしゃらないのですが、メドベージェフ時代にマスコミの自主規制が緩んだということがかなり大きいと思います。プーチン大統領第2期の時にマスコミに対する締め付けがずい分強くなって、マスコミが自主規制を強めていました。当時はテレビなんか面白くなくなって、ほとんどバラエティー番組とか音楽番組が主体で、ニュースも毒にも薬にもならないものになってつまらなかったのですが、メドベージェフ大統領がリベラルな姿勢を取ったことで、少しマスコミが大胆になってきたことがあると思います。

 それからIT、ブログによるソーシャル・サービスが最大限に活用されて、今回の事態の背景の一つになったのだと思います。ロシアでのブログは、むしろ日本よりも政治的な力を持っていると思います。
 そのITの状況ですが、インタファクス通信によりますと、人口の48%がインターネットを使っていると言っています。ちょっと多すぎるのではないかと思いますが、それから同じく昨年の「ヴェードモスチ」によれば、フェースブックは昨年10月末現在で640万人、ツィッター250万人で、これは実態に合っているという感じがします。

 もっと面白いことは、1月9日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」に出ていたのですが、そのネットを使って政治募金が始まったということです。これまでは反政府集会などをやる時には、ベレゾフスキーとかグシンスキーであるとか反政府のオリガルヒがお金を出さないと、なかなか集会も出来なかったのですが、今回ブロガーとして有名になったナヴァルヌイは、一年前から独自でインターネットで集金しているんです。今回の集会に目がけても、インターネットで5000名以上から計約13万ドル相当の醵金を得たわけです。これは大体1千万円くらいですかね。12月24日の集会では、舞台を設えてその背景には大スクリーンを張り、大音響のマイクを据えて行いました。資金を自分たちで集めることが出来るようになったことは、ロシアの政治において本当に画期的なことだと思います。ただこれはすぐつぶされるだろうと思います。2月の末には税務当局が、ナヴァルヌイの口座がある銀行に手入れを行っています。

それでも、ロシアでのITの自由度は中国を上回っており、今のところさしたる規制も行われていません。You Tubeとかフェースブック、ツィッターなどが日本以上に活用されています。これはコネで生きているロシア社会に、非常にピッタリだと思います。ご案内のとおりロシア人というのはいつも私用の電話を掛けまくって、コネを確かめ合っている社会なんですけど、それがインターネットや携帯メールでできるようになったのですから、少しは仕事の効率が上がったと思います。

 それから、ソ連時代の「サミズダート」(サミズダートというのは反体制派がカーボン用紙で10部くらい刷った文書を社会にバラまいたのですけど)に代わって、ITがはるかに効率的なかたちで反政府派の主張を社会に行きわたらせることができるようになったことも、指摘しておかなければなりません。政府に批判的な人たちのツィッター・アカウントは、広く知られています。面白いのは匿名警官を名乗る「OMON Moscow」です。モスクワ機動隊の警官が匿名でツィッターをやっているようで、例えば12月10日の反政府集会では、この匿名警官がツィッターを打って「皆さんご心配なく、われわれ警官は何もしませんから、安心して暴力を振るわず集会を続けてください」というメッセージを送ったそうです。

 次に今回の反政府集会の背景の二番目ですが、これはマスコミで言われてように、ロシアに中間層が出来たということです。この中間層をベースにして市民社会が出来たということであります。ただ注意しなければいけないことがあります。それはソ連、ロシアの歴史においては、中産階級に類するものは、すでにブレジネフのころからあったということです。新しいことではないのです。それから、もう一つ注意しなければいけないのは、中間層、中流階級すべてが反政府で立ち上がっているのではないので、中間層を一つには括れないということです。

 中間層についてはいろんな数字がありますが、決定版というものはありません。例えば有名な社会学者のザスラフスカヤという人がいます。彼女は2年位前に、「ロシアの人口のうち支配層は対人口比1%で、富の50%を抑えている」と書いています。50%抑えていると言っても、例えば国営企業の財産はその社長にすべて属する、というような算定の仕方をするとそうなるのかもしれませんが、アメリカでは人口の1.0%でGDPの20%位を差配しています。

 ザスラフスカヤさんによると、中間層というものは11%います。彼女はそこでは中間層というのは定義していないのですが、彼女の書いているところから推測すれば、権力と富は支配層ほどは持てないけれども、オビニオン形成能力を持った者という風に聞こえます。これが11%いると彼女は言っています。ですから今回の反政府集会の基盤を成したのは、この11%の人口ではないかと思います。

 三番目は「勤労者層」で、これもいわゆる中産階級に属すると思うんです。エンジニアとか教師たちなんですが、この中には公務員、准公務員が多く含まれており、これが人口の50%いると言う風に彼女は定義しています。残りの30%が非熟練労働者、失業者、貧困層、年金生活者さらに身障者です。

 今回の反政府集会に加わったのは中間層である、という見方の根拠ですが、ロシアの世論調査センター「レヴァダ」が発表した、12月24日の集会に関する数字ですが、参加者の46%が知識層となっています。どうやって知識層であると分別したのかですが、現地で個々に質問してその答えをまとめたということです。多分あなたは大卒ですか、といった形で聞いたのではないかと思います。

 それからもう一つのレヴァダの調査では反政府集会参加の60%が男性、56%が39歳以下、62%が大卒、79%がモスクワ出張者ということで、彼らが支持するのは41%がパルフョノフ。かれは、テレビの有名なパーソナリティーです。それから36%がナヴァルヌイ、35%がアクーニンを支持しています。政治家ではネムツォフとかヤブリンスキーといった人たちも集会に出ていたんですが、信ずる者はという設問に対する答えにはネムツォフの名前は出てこなくて、政治家では最高がウラジーミル・ルイシコフの18%であります。
 
 さらに同じような数字を上げますと、レヴァダの調査ですが、モスクワだけでなく全国の回答者の91%が、政府に対して不満を表明する権利を支持すると答えたそうです。しかしそのために集会に行く用意があるという人は15%のみでした。この中には保守層もいるので、「不満を持っている」91%の者すべてが中間層でリベラルということにはならないと思います。

 それから総選挙の開票し直しが必要、とする者が41%、必要なしとする者が46%ということで、社会は全く二つに分かれています。23%の者は、反政府集会の参加者は外国からお金をもらっていると信じている一方で、22%がそういうことはないということで、これも全く半々に分かれています。

◇中間層の分析

 次に中間層の分析ですが、中間層といっても一つではなく、中間層全部がリベラルではなく、反政府ではないということです。中間層の内、収入が1000ドルを超える世帯の半分以上が政府予算に依存する「公務員」で、わずか35%が金融・流通サービスなどの民間で雇われているのです。中間層というのは半分くらいは政府予算の世話になっているから、とても政府を批判するところではなく、ちょっと給料が上がれば黙るということであります。
 これに関してプーチン首相は2008年2月、ロシアの現状について発言し、「労働力の三分の一は予算から給料を得ている」と率直に語っています。これは日本と比べてはるかに多い公務員の率なんです。ですからいくら中間層といっても全部が反政府ではありません。

◇政治に対する閉塞感

 反政府集会の背景の一つに、国民の閉塞感があげられます。実際に最近モスクワに行ってみると、外部のわれわれもそのことを感じるのです。実態としてはいくつかの数字が示しています。2011年5月の「新時代」誌によると、この3年で125万人のロシア人が国外へ移住し、その多くは中産階級ということです。何をもって「移住」とするかという定義の問題はありますが、移住が増えているのは確かであります。例えば、モスクワ大学のビジネススクールで毎年教えておりますが、「卒業したあと、希望の職業は何か」ということを聞くと、以前は自分でベンチャーをやってみたいとか、民間企業で働きたいという人がいたんですが、一番最近のそれは、もう公務員になるか、国営企業に行くか、あとの残りの三分の一か、四分の一は、はっきりと「外国に行く」と言うんです。
 
 いくらビジネススクールで、マーケティングやアフターサービスなどいろんなことを習っても、ロシアでは不要なので、そういう閉塞感があります。他にも、この4年間メドベージェフ大統領の下で我慢してきたという意識があるのだと思います。メドベージェフは本当は自分の実力で大統領になった人ではない、だが生活がまあできるので、声を上げていない、という思いが感じられるのです。

 それから二番目は、先ほど申しあげたとおり、就職先が限られていて、自己実現ができないということです。これは学生にとっては大きいと思います。例えば、ビジネスプランを作らせると、以前でしたら、世界を相手にしたエンジニアリングの会社を作るんだとか、そういった気概のある学生もいたんですが、この頃はモスクワの街灯を全部LEDに代える入札をコネで勝ち取りLEDを中国から輸入する――、これがビジネスプランなんです。要するに何か右から左に動かして、それでビジネスをするということです。どこから物を買ってくるかというと、ほとんどがドイツか中国なんです。いくらLEDは日本でたくさん作っていると言っても全然相手にしないんですよ。

 製造業、例えば学校の制服を作る工場をつくるというプランを出してきた女子学生がいましたが、彼女たちに「何が問題か」と聞いたら、いい布地がない、ロシアにはいい糸が入ってこないからだ、良い染料もない、それから良いボタンがない、要するにサプライ・チェーンがないという問題をあげました。これは構造的な問題です。そういったことが、閉塞感の原因であろうと思います。

◇反政府集会の立役者

 集会の話に戻しますと、立役者としてパルフョーノフ、ナヴァーリヌイ、アクーニン、さらにウダリツォフの名があげられます。パルフョーノフはテレビのパーソナリティーで、独立テレビで名をあげた人物だと記憶しています。二番目がナヴァーリヌイで、弁護士出身のブロガーです。三番目が作家のアクーニン、これは日本語の悪人からきているんです。彼は日本文学の専門家でもありますから。次のウダリツォフは共産党の跳ね上がりの若手ですが、共産党からちょっと離れたところに身をおく過激派の人です。彼は家柄はいいんですが、この4人の中でもっとも真剣に活動してきた人で、数回投獄されています。もっとも大統領選挙では、共産党の老世代の書記長ジュガーノフの支持に回ってしまいましたが。

 その他今回の集会に加わったのは、右から左まであらゆる人たちで、その大多数は大卒の知識層なんです。ただ、この運動の特色としては、特定の指導者がいなかったということで、結局最後まで指導者不在で糾弾、抗議、ガス抜きにとどまったということです。ゴルバチョフ時代に例えれば、グラスノスチの段階でとどまったということであります。

 ここに上げた立役者のうちウダリツォフを除いて、パルフョーノフもナヴァーリヌイもアクーニンも12月24日の集会が終わった後は、ロシアは1月10日の旧正月まで大体休みますから、それにならって3人とも全部外国で休暇をとっているのです。本来なら反政府運動の組織に向けてモスクワに残り、いろいろやらなければならないのに、ナヴァーリヌイの場合はメキシコで休暇を過ごしているんですね。なんでメキシコなのかよく分かりません。トロツキーを真似したかも知れませんが(笑)、パルフョーノフは黒海方面で休暇です。アクーニンは大体フランスに本居を構えているはずですし、そういうわけで皆さん真剣じゃないんですね。

 因みに元財務大臣のクドリンがメドベージェフと口論して辞めましたが、12月10日か24日のどちらか忘れましたが集会に出てきたんですが、聴衆からブーイングをくらっているんです。クドリンは反政府の連中と政府側の間で仲介をやろうとするふりをしたのですけれど、大衆から信用されなかったということであります。

◇ロシアのインテリは白けている

 ゴルバチョフのグラースノスチ、ペレストロイカに、ソ連の知識人は本当に熱狂しました。そして1980年代末にはエリツィンを支持する街頭運動も盛んになり、その後も数回民主化運動の波が繰り返しています。しかしそれはいずれも失敗し、どれも悲劇か喜劇で終わったために、ロシアのインテリは民主化運動というものに対して中々本気になれないところがあります。

 エリツィン支持、改革支持が何に終わったかと言うと、2年間で6000%のハイパー・インフレと国の崩壊でした。1993年頃には、モスクワの銀座通りに相当するトベリスカヤ通りで、マイナス15度の寒い中、約2キロにわたって毎日老人、老女が歩道に立ち、使った靴下とか長靴を手に下げて売っては、牛乳一箱を買って家に帰り、黒パンを牛乳にひたして夕食を済ませるという事態が起こりました。

 また拙速な民営化は大統領と議会の間で利権争いを招き、1993年10月軍隊が議会ビルに閉じこもる議会派を戦車砲で攻撃するという事件が起こりました。この時、オスタンキノ。テレビ局が襲撃され、テレビが消えてしまい、市民に不安を与えたのです。その時、ロシア・テレビの解説員で、後に会長になったスワニーゼさんが、地下にある秘密のスタジオから放送を再開したのです。それを見た学生たちはおーっと言って歓声を上げました。自由が守られた、という感じでした。ところがそれがどうなったかと言うと、1996年の大統領選でエリツィンは苦戦の末、舞台に上がって踊るパフォーマンスまで見せたのですが、疲れが生じ心臓発作をおこしたわけです。
 
 このようにロシアの場合、民主化運動が悲劇か喜劇で終わってしまうのには、いくつかの原因があると思います。西側の新聞は、プーチンの独裁・圧政があるからそうなるのだと言います。私はそれには全然賛成しません。二番目は政治家の勢力争いがあって、いつまでもものごとが決まらないからダメなんだと。日本もそうですけど、ロシアの場合ちょっとちがうんではないかと思います。三番目は私が賛成する説なんですが、大衆が分配を性急に求める圧力が強過ぎるからだということです。四番目は同じくインテリが結果を性急に求めすぎるためだということです。インテリが求めているのは自由だけではないので、ヨーロッパ並みの豊かな生活を同時に求めているわけで、そっちの方が彼らにとってはむしろ大事なのです。

 それはインテリのエゴイズムなので、しかもインテリの場合、決してまとまらない。自分が一番頭がいいと思っている人たちばかりだから、ダメなんです。多分西欧的な「近代化」を経ていない、ロシアの歴史が根本原因であろうと思われます。

 「カラマーゾフの兄弟」の「大審問官」の章を、昔の日本の学生はよく読んでいました。これは要するに「大衆というのはパンがあればいいのであって、自由なとどうでもいいんだ」ということをスペインの教会の大審問官が言うと、キリストが大審問官の額にに黙ってキスして出ていったということです。ご苦労さん、赦すよ、ということです。この大審問官はプーチンを想起させるのですが、要するに大衆は自由よりは一刻も早くパンが欲しいということだと思います。私はこれを「大衆の罠」、「歴史の罠」と名付けたいと思います。

◇今回の事態の背景

 レヴァダの2007年11月の世論調査によると――この頃ロシアの経済は石油でもっとも繁栄している時で、リーマンショックで崩れる一年前ですが――、「計画経済で分配してくれる方がいい」と答えた人が、10年前から比べると11%増えて52%、それから「私的所有権と市場に基づく経済がいい」が10%減って29%、次に「民主主義と個人の自由が冒されても、秩序の方が重要」と答えた人が69%います。ですからこういった大衆の声を反映し、これに乗って政治をしているのがプーチンです、彼自身も大衆の罠、社会の罠にはまっているのです。

 つまり、社会の大勢は保守化していると思うんです。一つの現われとして昨年12月の下院選挙の結果ですが、与党「統一ロシア」は大負けしましたけれども、統一以外の政党、自由民主党、公正党、共産党、それに統一ロシアこの4つの政党の票を全部合わせてみれば、前回の総選挙より得票率は少し高まっているのです。なぜそういうことを申し上げるかというと、ロシアの議会の野党、共産党も自由民主党も公正党も全部、準与党、あるいは社会の保守層の声を汲んでいる政党ですから、保守と分類していいでしょう。こうして社会の大勢が保守的な中で、先ほど申しあげた10%強のリベラル層がいくら騒いだところで、結局落ち着くところは保守的な人と衝突して、自分たちに対する弾圧を招くか、リベラル派が無気力になって逃避、外国移住をするかのどちらかの結末しかないでしょう。

「密室政治」への反発

 今回の事態の直接の伏線は、9月24日の統一ロシアの党大会の時にプーチンさんが大統領選に出ることを議論もなしに公表したことにあると思います。これは政治のやり方として非常にまずかった。なぜまずかったかというと、統一ロシアへの支持率がここ数年大きく低下していたことがあります。

 与党統一ロシアの党大会をテレビで見ていますと、ソ連時代の最高会議のような、あるいはもっとひどい全体主義的な形で行われており、それだけでロシアのインテリは反発を感じています。統一というのは昔のソ連共産党と同じで、社会の中の偉い役人とかそういったものが全部入っているのですが、最近は統一の名前を使っていい思いをしようという人たちが出てきたわけです。例えば、大学の学部長クラスとかを、能力のない学者が統一の名前を利用して取り始めたのです。ですから統一に対する恨みが大きくなっています。
 
 ですから12月の下院選挙では、統一が大負けするのではないかと言われはじめていたわけです。それにもかかわらず9月24日の党大会で、プーチンが統一ロシアの大統領候補として出馬を表明したのは、状況把握のまずさ、選択のまずさを露呈しています。一体なぜこういうことをしたのか分かりませんが、もしかすれば自分が統一の大統領候補になれば、統一に対する支持率が高まり、それで12月の下院選で統一が少しは良くなるだろうと思ったのか、それとも大統領選挙に出馬を表明せずに12月の下院選挙の後まで待つということにすると、12月の下院選挙では統一は大負けしますから、そうしますとプーチンは取っ掛かりを失ってしまうだろうと思ったのかも知れません。

 それは仕方がないとしても、広報がまずかったのです。プーチンとメドベジェフの2人がテレビカメラの前で、「こうなることは4年前に2人の間で話し合ったことがある」と言ったんですよ。ここまであからさまに言われると、多くのロシア人は、この4年間実力で大統領になったのではないメドベージェフに従うふりをしてきたわれわれは一体何だったのかと思い、そのコケにされたという怒りがずい分広がりました。その空気は10月、11月と続いていたわけです。12月4日の総選挙の開票結果がいい加減だったということで、炎が燃え上がったということです。

◇ロシアにおける「政治工学」

 次にロシアにおける政治工学について、私の体験をお話しますと、私は1974年年5月のメーデーの時、赤の広場を行進したのです。当時外務省の研修員としてモスクワ大学にいましたから、道路脇でモスクワ大学生の一隊を見つけて途中から加わったのです。ちょっと怖かったのですが、後ろのロシア人の学生たちは私のことを、こいつは誰だ、多分サベツキーだと話していました。サベツキーというのは「ソ連人」という意味で、ロシア人ではない有色人種という軽蔑を込めた意味で、おそらく中央アジア出身者と思われて誰何されなかったのでしょう。そして赤の広場のレーニン廟の前を、行進したのです。テレビで見ていますと大衆だけが行進しているように見えますけれど、実際は大衆は多数の一列縦隊にされ、その間は警官隊によってサンドイッチにされているんです。警官隊がはさんでいる中を一列縦隊が通って行くわけです。これがテレビで見ていると分からないのですが、これが大衆の支持を演出する政治工学の一つでした。
 
 もう一つ現代の体験は、2008年の大統領選挙の時、私は投票できる寸前までいったんです。それは友達が投票に行かないかというので、行く行くと言って投票所までついて行ったわけです。日本の投票所もそうなんですが、投票所への入場規制はないんですね。しかも、日本のように入場券を確かめるようなこともなく、友人は(一人分の)投票用紙をもらったわけです。友達がお前が投票箱に入れるかと言うので(スキャン方式ですが)、やろうとすれば投票用紙に書くことすらできたわけです。しかしさすがにそこまでやると外交旅券を持っていませんし、持っていたらもっとヤバイからやりませんでした。(笑)

 というわけで、ロシアの投票所は監督がゆるく、いろいろ面白い話があります。ある西側の記者が投票所に張り込んでいると、締め切り間際の夕刻になってバスが着くのです。バスから多数の老人たちが下りてきて、伸びをして「ああ疲れた、きょうは3回目の投票だ」と言ったそうです。そして「まだお金をもらっていないんだよ」と。

 それから今回の隠れたファクターなんですけど、プーチンはたしか1年前に顔が変わった時があり、皆不思議に思っていました。多分目尻のしわを伸ばそうと思って整形したら、眼が横に伸びちゃってモンゴル人のような、ロシア人がきらいなアジアの吊り上った眼になってしまったのです。ですから今回の選挙では、プーチンはロシアの国民になじみのない政治家になっていたという可能性もあるんです。最後にはテレビで、新しい顔が浸透したでしょうが。

◇これからどうなる?ーまず来し方を振り返ると

 大統領選挙戦では、プーチン個人による運動になって、与党の統一ロシアは前面に出ませんでした。昨年の5月か6月につくられた統一の外郭団体の「人民戦線」ですら、今回の選挙では名前が出ませんでした。ですから今回の大統領選挙はプーチン個人によって行われた選挙といった感じであって、プーチンは傷ついたというけれども、逆に強くなったかも知れません。では、これからどうなるかということですですが、それを考える前にちょっと過去を振り返って整理してみたいと思います。

 91年暮れにソ連が崩壊して、92年1月1日に価格が自由化され、2年間で6000%のハイパーインフレになりました。これは価格が60倍になるということですから、1000万円預金があったとしても30万円位になり、貯蓄はゼロになります。そこでロシアの大衆は市場経済と民主主義というものを悪者にしてしまったわけです。

93年から民営化が拙速に進められ、これによってオリガークが誕生しました。民営化は大変な利権を生みますから、エリツィン大統領と議会の間で闘争が起きました。ロシア議会が民営化について少し発言権を得ようとしたんだろうと思います。これが93年10月の議会攻撃になったのだと思います。その後96年の大統領選挙になるわけですが、この時はエリツィンは本当に危なかったのですが、集会で踊ってみせたりして、心臓発作で倒れたにもかかわらず、再選されたわけです。しかし、本当はジュガーノフ共産党書記長に負けていたんではないかという声もあります。

 その後ロシアは短期国債を大量に発行して、ロシアの経済は表面的には大きく伸びました。それが98年8月のデフォルトになって、ルーブルは3.5分の一に下落しました。当時私はモスクワにいましたが、計算してみるとロシアのGDPが10兆円位になったことを覚えています。いまロシアのGDPは150兆円位になっていますから、大変なものであります。98年当時は給料遅配、それから企業間のバーター取引といったことが広まっていました。この時と現在を比べて一体何が違うかというと、結局石油が高くなったということしか思い浮かびません。

 さらに話を続けますと、プーチンは1999年8月ステパーシンに代わって首相になったわけです。当時、ステパーシンはやるべきことをやらなかったから代えられたのだということを言った男がいました。9月にモスクワなどでアパートが破壊され、それがチェチェンのテロリストの仕業だとされて、チェチェン戦争がはじまります。ロシア軍の最高司令官は大統領なんですが、なぜかプーチン首相が最高司令官の顔をして作戦を指揮した格好をして人気が急上昇するわけです。そしてその人気が消えないうちに12月プーチンに権力が禅譲されます。ですからベレゾフスキーなんかに言わせればモスクワのアパート撃破は仕組まれたことだと言うわけです。ひどい見方で、当局はもちろん否定しています。
 
 2000年5月プーチンは大統領になります。ここで忘れていけないのは、プーチン大統領というと強い政治家といわれ、その強い政治家がまた復帰すると言われますけど、じっさいには彼は非常に不安定なスタートを切ったわけです。ロシア社会全般からは軽視されていました。その中で8月には原子力潜水艦のクールスク号が沈没するという事故が起きました。そしてその数週間後には世界最高のモスクワのオスタンキノテレビ塔が火災を起こします。ですから非常に不安定なスタートを切ったということは忘れてはいけないわけです。これを挽回できたということは、今回も挽回できるかもしれないということです
 
 プーチンは大統領時代何をやったかというと、まず経済改革のために一連の法制改革を進め、全国の法律も再び統一したわけです。一方でベレゾフスキーやグシンスキーの弾圧など統制を強化したわけで、だんだん社会に恐怖がよみがえってきて、マスコミは自主規制をはじめるようになったわけです。

 それでもロシアの情勢は基本的に安定したわけではないんで、(みんな忘れていますけど)2005年5月モスクワで大停電が起こったわけです。この頃は丁度グルジアとかウクライナ、キルギスで相次いで革命騒ぎがあった直後です。「チューリップ革命」といわれたキルギスの革命は2005年4月です。ロシアの経済は相変わらず良くなかったので、国内でもモスクワで「カラー革命」が起きるのではないかという論調が賑わったのです。ですからロシアが良くなったのは本当につい最近であります
 
 2004年くらいから石油が急騰をはじめ、ロシアの経済は急上昇をはじめます。そして2007年、2008年にかけてロシアのGDPはドル・ベースで行きますと2000年の7倍になっていますから、世界に例を見ない経済成長だと思います。

◇「幸せになったソ連」

 2005年のモスクワは、まだ危機感が残っていました。しかし2007年にモスクワに行ってみますと本当に幸せいっぱいといった感じで、例えていうと、昔の恋人が一時不幸になったが、その後幸せになったのを見たような感じがしたんですが(笑)それが昔と全然メンタリティーが変わっていないんです。「ソ連的」な人間なんです。私は、「幸せになったソ連」と名付けました。

 力が戻るとロシア人は早速ソ連的に奢って、世界に対して発言をはじめたいということで、ルーブルを国際通貨にするということを言い始めたわけです。その中で2007年2月ミュンヘンでの世界安全保障シンポジウムでプーチンがこわもてのスピーチを行ったのです。西側のマスコミはこれを反動的なスピーチだと決めつけていますが、プーチンが言ったことは、「NATOを旧ソ連諸国に拡大する等、ロシアをバカにするな。ロシアを尊敬してくれ」ということに尽きると思います。
 
 それまでソ連崩壊後中止していた周辺諸国に対する偵察飛行を再開し始め、日本に対してもソ連の爆撃機が偵察に来るようになったわけです。そしてそのおごりにおごった頂点が2008年8月のグルジア戦争であって、勝ったロシアがますます威張りはじめると思ったまさにその時、9月のリーマン金融危機ですっかりその倨傲がくじかれたということです。

◇歴史の罠

 先ほど歴史の罠ということを申しましたが、改めてロシアという国を考えて見ます。ロシアは今どういう歴史の段階にあるかということについての、私なりの仮説であります。17世紀のヨーロッパは重商主義の時代でありました。重商主義というのは、豊かになろうとすれば、誰かを襲って誰かを貧乏にしないと豊かになれないという、ゼロサムの世界です。当時は農業生産が基本で、富の量がそれほど増えませんから、重商主義になるわけです。そんな中にあってヨーロッパ諸国というのは、国家を強くして税金を取り上げ、兵隊を徴募し、それによって戦争をし植民地を獲得すると国家モデルを作り上げました。アフリカとアメリカ大陸を結びつけて、奴隷を主要商品とする三角貿易もやりました。奴隷は大体一人200万円位で売れたという記録が残っており、数百万人を取引して大変な資本蓄積をやったのです。ですから強い国家になって植民地を獲得して、市場を獲得し、そこに物を売りつけて産業革命を実現したということだろうと思います。

 産業革命をやりますと中産階級ができるもんですから、中産階級が権利を求めて民主化が行われます。つまり政党も中産階級の票を欲しいもんですから、投票権を拡大しますし、社会福祉でもって票を買おうとするんです。そうすると社会全体がポピュリズムになって財政が破綻する、こういう過程を欧米や日本はたどってきたと思います。

 この中でロシアはどこにいるか、やはりまだ国家を強くする段階にあるんだと思います。ロシアの場合、シベリアに植民したんですが、シベリアは非常に貧しい土地柄で、人口も少ないし、その土地からはまだ金も石油も採れず、毛皮しかとれなかったんです。奴隷もいなかったということです。その後ロシアでは産業革命も行われそうになったんですけれど、革命後の社会主義の計画経済のため、消費社会を築くことには失敗しました。消費財を自分で作らない国の富の規模は限定されます。したがってロシアは基本的には、ゼロサムの世界にいると思います。

 現在のインドは産業革命、つまり大々的な工業化の一歩手前にいると思います。中国はそれをすぎたところで、これから民主化と福祉をやらねばなりませんが、基本的にはプラスサムの世界にいると思います。日本はギリシャと共に、ポピュリズムと財政赤字の先端を走っているのです。ですから別の言葉で言えば、トレーニンという専門家が最近の「ロシア新戦略」(作品社)という本で書いていますけれど、ロシアには近代以前とポストモダンはあるけれども近代はないということです。近代というのは産業革命のことです。
産業革命はどういう過程を経たかというと、一番目が繊維産業、それから鉄道、重工業、これは繊維産業よりはるかに多い資本が必要になりますから、株式会社を自由化することによって鉄道建設と重工業を推進したわけです。鉄道は鉄をたくさん必要とするから重工業ができるということです。

 それから第二次大戦前後のアメリカでは郊外電車をつくってその周辺に住宅をたくさん開発し、そこで電気冷蔵庫で食品を保管するなど電化生活を楽しみ、自動車でマーケットに買いに行くという、ものすごくお金のかかる生活様式を発明したので、経済の規模は数百倍に膨らんだと思います。産業革命の次の段階は、サービスとITです。ロシアはこのうちどの段階にいるかというと、やはり重工業化が終わったあたりにいると思います。共産主義の下では重工業化はやり易かったのですが、計画経済では消費財は生産できないということです。なぜなら、人間の嗜好、需要は計画できないからです。

◇現下のロシアの力

 プーチンが大統領に復帰することによって日ロ関係はどうなるかということについてです。今回プーチンが朝日新聞の若宮氏の質問に答えての発言についていろいろ議論がありますが、誰が何をどう言ってその真意はどうだと仲間内で議論している間にどんどん時間が経ち、状況も変わって、その人の考えていることも変わって行くのですから、やはり交渉や外交をやるならば、相手の力がどうであって、相手がおかれている政治的な状況がどうであるかということをまず調べることが大事だと思います。ということで現下のロシアの力というものを少し棚卸ししてみたいと思います。

 基本的な問題がいくつかあり、この20年間で、ロシアの力は本質的に向上したのかどうかが、まず問題です。対米関係、対NATO関係、対CIS関係、アジアでの地位、そして軍事力などいろいろありますが、一番大事なことは経済力なんです。これが変わったかどうかということです。やはり結論からいうとロシア経済の本質は変わっていないと思うんです。石油価格次第という体質は変わっておりません。

 他方、ロシア経済は、数字上はまだ大きくなるでしょう。数年前、北海道大学の田畑伸一郎教授といっしょに研究した中で、2020年のロシア経済はどうなるかということを田畑先生が計算したんですが、その時ロシアの経済というのは石油価格と連動するところが非常に大きいんで、その傾向を引っ張っていくと2020年にはロシアはGDPで世界の4位になることもあり得るという結論が出ました。私ははじめそんなことはありえないだろうと思ったのですが、資本というものは一旦手に入れますと増殖していきますから、そうなり得るんですね。ただドルで数えた数字はそうでも、その時の本当のロシアの力というものは、その数字ほどのことはないだろうと思います。

 まず国内はインフレに悩まされるでしょう。われわれのような外国人にとっては、とてもモスクワには居ずらくなります。いくらロシアがGDPで4位であっても、モスクワではホテルの値段が一泊1000ドルくらいになっているでしょう。普通のロシア人にとっても生活は厳しいものになると思います。ルーブルのレートがどんどん上がりますから、国内の生産ができなくなるんです。今でも耐久消費財のほとんどが輸入品になってくる。いくらルーブルが高いといっても、それはロシアの市民には割高であるわけです。ですからドルベースで世界4位といっても、それは上げ底の世界4位であって世界に投影できる力は限られているでしょう。ましてや、石油価格が伸びを止めれば、ロシア経済は大きな問題に直面するでしょう。

 昨年9月15日付独立新聞が書いているようにロシアの国家歳入の45~48%が石油ガスの関連税、18~20%が輸入関税であるということであります。ですから石油価格が下がってくると、ロシアは直ちに財政赤字になっていろんな政策ができなくなります。

 そんな悪口ばかり言っていないで、ロシアだつて市場経済はできるんではないかということをおっしゃられる方もおられると思いますが、これがまた先ほど申したように非常にむずかしいと思います。ロシアのビジネススクールでは、西側の企業経営のいろんなやり方を勉強していますが、ロシアの中でいくら勉強しても実際に使えないので意味がないのです。例えば資金が足りないという問題があります、なぜ足りないかというと、ロシアの中では石油ガスへの投資が一番収益性が高いので、石油ガスには資金が行くんですが、一般の製造業にはお金はいかないんです。ロシアの国内では製造業をやってもあまり儲からないということが分かっていますから、どんどん外国に投資してしまうわけです。

 それから経営のスキルが足りないですね、とくに足りないのは中間管理層が致命的に不足していると思います。日本の企業と比べるとそれは本当に際立っているんで、日本の企業は中間管理層で持っていると思うんですが、ロシアの中間管理層はただ社長の一挙手一投足を見ているだけであって、社長に取り入ることで昇進をはかるという人が多いですから、ロシアの企業というのは社長とその取り巻き3、4人だけが実権を握っていて、その他には情報さえも十分まわってきません。それに、サプライ・チェーンが不足している。もっと決定的なのはルーブルが高くて国内生産の競争力が失われているということがあると思います。

 次に、この20年で対米、対NATO関係が改善されたかということですが、基本的には改善されたと思います。ただ改善されたのはロシアの軍事力がもう脅威でなくなったということが大きいと思うんですが、現在ロシアとアメリカの間ではリセットということが行われていますけれど、これは基本的にはアメリカの経済力が低下している間、少しロシアをつつくことはやめようという、それだけの話に近いところがある。

 米ロ関係が脆弱なことは、米中関係に比べると本当にはっきりしているんで、米中関係は摩擦が多いのですが、相互に経済で依存しているので決して大崩れはないのです。現在の米ロ関係は現在でも経済関係はほぼ不在であるということが、非常に大きいと思います。その米ロを結びつけているものは、皮肉な言い方をすれば、アメリカがロシアの核ミサイルを脅威ととらえているから、ロシアの相手をしているんだということが言えると思います。ただ多分WTOにロシアが入るでしょうから、これからロシアの下院で批准が行われますから、もしロシアの野党がそこで何か政府に仕掛けようとすれば、WTOの加盟も少し遅れると思います。WTOの加盟はロシアの外交にとっても、われわれにとっても大きな要因だろうと思います。他方、TPPはロシアが入っていないので、ロシアにとって不利な材料です。

 軍事力については核戦力、通常戦力ともアメリカが有利であります。ただ最近、ロシアの軍事専門家の小泉悠.という若い人が「軍事研究」に書いていましたが、ロシアの核弾頭の数の減少が止まったようです。ソ連時代の核ミサイルが退役して核弾頭数が急減していたのですが、新規生産でこれに歯止めがかかったということで、これは新しい要因でしょう。通常戦力では、ロシアはNATOに対して相変わらず劣っていると思います。

 現在ミサイル・ディフェンスの問題でアメリカとロシアが摩擦を起こしていますが、5月末にNATO・ロシアの首脳会議が予定されており、G8の首脳会議と相次いで行われると思いますので、このNATOとの首脳会議にプーチン大統領が応ずるかどうかというのが一つの見所だろうと思います(注:3月末、プーチンはG8首脳会議にのみ出席することが明らかとなった)。ただプーチン大統領がこれに出席しなかったからといっても、そんな大したことはないんで、アメリカに行ってオバマ大統領と会談するでしょうから......。あとEUは相変わらずロシアの最大の貿易相手です。ただ、一つの国としては、中国の方がロシア最大の貿易相手国になりました。

◇対CIS関係

 次に、旧ソ連諸国CISにおけるロシアの力についてですが、これについては天気予報みたいなものであって、或る日は晴れて、或る日は曇るんであまり話しても仕方がないんですが、基本的にはソ連が分裂した勢いというのが宇宙のビッグバンみたいに続いていて、その遠心傾向が続いているんだろうと思います。他方プーチンは前から、土地を集める者「ソビラーチェリ・ゼムリー」という綽名を持っていて、エリツィン時代に失われたソ連の国土をまた集める意欲を持っている人なんです。

 そこで、現状をかいつまんで申し上げますと、ロシアの力がちょつと優勢気味になってきたというのがベラルーシで、ルカシエンコ大統領はこれまでEUとロシアの間で二股をかけ両方からお金を引き出して、非常にうまい外交をやっていたのですが、ついにそこから落ちて、結局今はロシアに依存せざるを得ない状況になっています。ルカシェンコ大統領は野党弾圧をEUに咎められ、関係を大きく低下させています。彼はロシアの支援を引き出すために、ガス関係の資産をガスプロムに差し出さざるを得ませんでした。

 ウクライナですが、ティモシェンコ元首相は現在牢屋に入れられておりますから、それによってEUとの関係も停滞しているんです。他方、ヤヌコビッチ大統領はロシアからのガスの輸入価格を下げることが一番大きな課題なんです。それをやらないとIMFから救済資金をもらえないのです。ところがEUとの関係が悪いままでは、ガス価格の引き下げをロシアに迫るだけの力はウクライナにありません。

 ロシアの天然ガスを欧州に輸出するパイプラインはウクライナ国内を通っていますので、ウクライナはそのガスパイプラインを閉めるぞと脅かすことができたのですが、ロシアの方はバルト海を通るノルトストリームというパイブラインを作ってしまいました。これはポーランドの沖を通ってドイツに入るパイプラインで、ロシアからドイツに直結するパイプラインが出来たわけで、ウクライナの立場はものすごく悪くなっているのです。
 
 カザフスタンですが、この国はこれまで賢い外交というか等距離外交、すべての国と良好な関係を結ぶという外交をやってきたわけです。しかしカザフスタンの外交は最近ちょっと失速気味で、多分ナザルバエフ大統領が74歳になっていますから、後継者問題等もあるのかもしれません。もう一つは昨年12月16日にカザフタン西部の石油企業の労働者が賃金を払えと暴動を起こし、警官隊と衝突して当局の発表では20人近い人が殺されているわけです。もっと多いという説もありますが、そういうわけでナザルバエフ大統領は最近とみに静かになったということがあります。

 キルギスはこの前初めて、革命ではなく選挙で大統領が代わったのですが、基本的にはロシアに対する弱い立場にあります。アタンバエフという新しい大統領はこの前モスクワに行って、キルギス族は昔シベリアからカスピ海まで持っていたのだと啖呵をきっていますけど、基本的には弱い関係は変わっていないと思います。
 
 あとタジキスタンですが、タジキスタンも基本的にはロシアに対して劣勢にあると思います。なぜかというとアフガニスタンでタリバンが盛り返した場合、それに対する防衛を安心して委ねられるのはロシア軍だけだろうからです。ただタジキスタンはそのロシア軍からお金をとろうとしたところが偉いところで、日本は米軍基地にたいして思いやり予算を払っていますけど、ラフモン大統領は思いやり予算をタジキスタンに払えとロシアに要求しているのです。最近キルギスも同じようなことをやって、ロシアからお金をせしめているんです。

 一方でロシアが劣勢という国があります。例えば最近面白い現象がいくつかあります。モルドバ共和国の中に沿ドニエストルという、ロシア人が治めている自治区があります。そこで大統領選挙が行われたんですが、クレムリンが推した大統領候補が負けたわけです。またグルジアのアプハジア共和国の中でも同じようなことが起きたわけです。それから南オセチアでもロシアが推す大統領候補が負けたんです。それよりももっと深刻なのは、ウズベキスタンがいろんなことでロシアに対して抵抗するということです。例えば集団安全保障条約機構に早期展開軍と名付ける国際軍をつくろうとロシアが言っているのですが、これに対してウズベキスタンは強硬に反対しているわけです。またトルクメニスタンは天然ガスを中国に売ることによって、ロシアに対する依存から脱するという状況にあります。

 それからユーラシアのいろんな国際組織、上海協力機構、集団安全保障条約機構などはどうなっているかということですが、これはちょっと停滞気味だと思います。いろんな理由があって、例えば上海協力機構の場合、昨年8月、本来であれば中国とロシアを中心にして反テロの共同軍事演習が行われるはずだったんです。これが行われなかった。これに関していろんな報道がありますが、中国が海軍の共同演習をロシアに持ちかけたのですが、結局共同演習は成立しなかったのです(注・近く実施されるもよう)。これは日本にとっても非常な大きなことだと思います。

 それから上海協力機構、集団安全保障条約機構、これに加えてさらにいろんな国際組織があります。その実効性はどのくらいかということなんですが、一つには関税同盟というのが2年前の7月に発足しましたが、これにはベラルーシとロシアとカザフスタンのみが入っています。一応とくに問題が起きたという報道はありませんが、これをベースにして、2012年1月1日から単一経済空間というものに移行しています。名前も変わり、内容も変わり、関税同盟というのは物だけですけど、今度は人とお金の移動が自由になるという、そういう触れ込みであります。

 この関税同盟や単一経済空間に入りたくないという国があって、例えばウクライナですけど、そういった国々のために自由貿易地帯というものがつくられております。これは昨年12月に調印されましたが、ウズベキスタンとアゼルバイジャン、トルクメニスタンはまだ署名しておりません。

 単一経済空間ですがこのために「ユーラシア経済委員会」というものが発足しております。このユーラシア委員会というのは、EU委員会にならって超国家的な機構になることを目指しています。

 しかし、一方でもっと大きな傘となる「ユーラシア連合」の創設の計画が進められています。それは昨年12月4日付のイズベスチヤ紙にプーチンが発表したことです。それによれば、既存のいろんな国際組織を全部まとめて、2015年位までに設立したいということです。そしてこのユーラシア連合はEUと連携して、リスボンからウラジオストクまでカバーするような取り決めにしたいということを言っています。しかし中央アジア諸国など旧ソ連邦諸国に言わせれば、これはロシアによるロシアのための超国家的構想であって、あまり気乗りしないということのようです。以上が、旧ソ連圏における「ロシアの力」なんです。

 次にアジアにおけるロシアの力をどう評価するかということです。ロシアはアジアが大事だと言っており、例えば(先にご紹介した)トレーニンさんの本では、「アジアは重要だ。昔ローマ帝国がコンスタンチンノーブルに首都を移したように、ロシアもウラジオストクに首都を移すべきだ」ということを書いています。それほどアジアは大事であるはずなんですが、2011年11月の東アジア首脳会議をメドベージェフ大統領はあっさりコケにしているんです。アメリカが東アジア首脳会議に入ったから、ロシアも入れたということですが、それまでロシアは数年にわたって、この東アジア首脳会議に入りたいと大変な運動をしていたのですが、それをあっさり袖にしたわけです。

 そういうことによって、アジアではロシアにどういうパートナーがいるかというと、結局中国しかないという状況です。ロシアにとって危険なほど、中国依存になっていると思います。なぜ危険かというと、中国の力のほうが極東ロシアよりはるかに大きくなっていますし、中国とロシアの間は一筋縄ではいかない微妙な関係にあるからです。

 昨年9月にプーチン首相が中国に行き、いろいろな経済関係の合意をやりましたが、プーチン首相自身が微妙な発言をしているんです。それは2月24日サロフという軍事都市、核爆弾をはじて作った都市なんですが、ここでイワショフという旧軍人の質問に対して答えているわけです。イワショフさんが言ったのは「アメリカのミサイル・ディフェンス、これはロシアの脅威になるんで対抗手段の開発を急がなければならない。中国といっしょにロシア版MDを開発することは考えられないのか」と質問したわけです。そしたらプーチンの答えは「あなたは中国と同盟しろと言うのですか」です。イワショフさんは中国と同盟ということはひと言も言っていないのにです。プーチンは、「アメリカとヨーロッパは一枚岩ではない。NATOは軍事同盟というより政治ブロックで、ロシアも欧州と同じような政治ブロックを作ることができるんだ」ということを言っています。そして中国とは軍事技術開発の協力をしているが、注意しながら続けていきたいと言っています。この発言のあと、プーチンはすぐインドとロシアの間の軍事協力について三倍くらい長い発言をしているんです。

◇シベリア・極東におけるロシアの力

 シベリアと極東におけるロシアの位置付けということですが、シベリアの人口は2千万で、ロシア全体の人口の7分の一で少ないです。そしてシベリアはどの都市と経済関係を結ぶにせよ運賃が高くつくという問題があります。極東ロシアは、それよりも未開発です。極東は人口600万で、人口、GDPとも全国の約5%ですが、産業構造は製造業が弱いということです。製造業のほとんどは軍事関連だと思います。ただ日本にとってサハリンの石油、天然ガスは大きなファクターになっており、そこがシベリア地区と違うところです。

 シベリアは資源の宝庫で、西シベリアは石油・天然ガスが豊かです。東シベリアは石油・ガスは中くらいで非鉄金属の中心地です。またヤクート・サハ共和国は金、ダイヤ、石炭それに稀土類が豊富です。

 アジアにおけるロシアの資源ですが、石油・ガスはサハリン以外はアジアから遠いところにあり、太平洋岸までもってくるには金がかかるということです。サハリンのガスはすでに日本に来ていますが、シベリアの天然ガスを太平洋岸に持ってくるパイプラインはまだ出来ていないんです。中国にもありません。これが問題なんです。但しサハリンの天然ガスは日本の需要の10%を占めていますから、それだけでも非常に重要な品目になっていると思います。

◇軍事力と内政

 ロシアの軍事力はソ連の崩壊によって、とくに技術力が失われております。エンジニアがどんどんいなくなっているわけです。いまいるのは60歳以上とか30歳以下といわれて、その真ん中が抜けているのです。ですから新しい潜水艦による新型ミサイル発射にしても10回の実験のうち7回は失敗していますし、この前火星に向かって打ち上げた衛星も地球から抜け出せないという状況です。

 次に内政はどう展開するかということですが、いくつかのポイントがあります。反政府側がこれから何ができるか、何をするかということです。一昨日でしたか反政府の集会がありましたが、尻すぼみに終わったようです。きょう当たりのロシアのニュースをひっくり返してみても、本当につまらないニュースばかりで、活気が感じられません。もしかするとハネ上がりが暴力化するのか、それとも当局が暴力を演出して、それをリベラル派のせいにして弾圧するかということです。

 プーチンさんはそういうことを自らやらないでしょうから、プーチンの側近がプーチンのためと思ってそういうことを仕掛けて、かえってプーチンに迷惑をかけるかも知れません。普通からいえばプーチンがやろうとするのは、精密に的をしぼった締め付けです。社会全体の締め付けではなく、リベラル派を支持した放送局のアナウンサーであるとかそのシンパといった人たちに的をしぼって締め付けをやるかも知れません。そして改革のふりをして、その実政治・経済の保守化を進めるだろうとロシアの友人たちは皆言っています。

 それから実際に改革をやろうとしても多分うまくいかないんですよ。例えば、ゴルバチョフが機械分野をよくするといって機械分野に大量の予算を手当てしたんですけど、そのかなりの部分は官僚が別の品目に流用してしまったのです。外国の機械を一生懸命輸入したんですけど、梱包を開けることもせずそのまま野ざらしにした例もあったと聞いています。工場をつくる予算を手当てしていなかったからです。ということで、ゴルバチョフの考えた機械の近代化というのはできなかったのです。ですから今回も同じようなことが起こる可能性もあると思います。

 内政のポイントなんですが、プーチンが任期いっぱい務めるかという点です。これについて朝日新聞の若宮さんが参加されたG7の外国記者懇談会で、外国の記者があからさまに「前倒しの議会選挙をやるのか」と聞いたら、プーチンはキッパリと「ニェット・やらない」と言っています。

 それから与党の統一をどうするかという問題があります。ロシアの歴史において、与党が完全につぶされて別の与党に代わったということが1回あります。エリツィン大統領の時代、「わが家ロシア」という与党がありました。1999年12月の下院選挙の半年くらい前に、自主的にとりつぶしたのです。そして代わりに「統一ロシア」ができたわけです。そういうことが今回行われるかどうかです。ただそういうことをやりますと、当然選挙の前倒しのためにやるのだろうと皆思いますから、かえって自ら選挙を前倒しにしてしまう可能性があると思います。

 では1期だけで、任期末に誰かに禅譲するかということですが、これはこれからの情勢次第だろうと思います。もしプーチンは次はもうダメという風にエリートが思えば、プーチンに代われという圧力がかかると思いますが、その場合誰に代えるかということなんですけど、何人かのインテリはプロホロフがいいんじゃないかと言いはじめています。実際、プーチンに対抗する大統領候補だったプロホロフが、弾圧もされずに新しい政党を作るとか言っているというのは、当局に泳がされている可能性を示唆するものです。もっとも、彼の想定する新しい政党はどういうのかと言ったら、結局ソ連時代の翼賛政治そのものなんです。

 それから先ほど申しあげた側近のやりすぎがプーチンの足を引っ張らないかということです。例えば、テロであるとか、暗殺であるとかそういうことですね。また当面の人事で最も注目すべきことは、セーチン第一副首相とボロージン大統領府第一副長官の行方でしょう。

◇日ロ関係

 私はプーチンが大統領に復帰することは、北方領土問題にとって好材料であるとおもいますけれど、今すぐ話を始める、ということではないだろうと思います。他方プーチンを最初から拒否するとか批判するといったことも避けるべきです。

 北方領土問題とのからみで日本で話題に上る諸点について申し上げますと、ロシアは日本にとって「対中カード」にはならないでしょう。アジアにおけるロシアの力というのは弱すぎるからです。また日本は、「日本の技術と資金がロシアに対して持っている魅力」について、ちょっと過信があると思います。もう少し自分の実力を正確に評価してロシアと対すべきだと思います。他方、「頭を下げてエネルギー資源を売ってもらう」という発想はやめるべきです。ロシアは中国よりも日本、韓国、米国などに資源を売りたいからです。資源国というものは、資源を買ってくれる者がなければ生きていけないわけですから、需要国とは相身互いの関係にあるのです。
 
 それから、そんなこと言っていないで、せめて交渉だけでも始めたらいいじゃないかということも可能なんですけど、実際よく考えた場合、交渉をはじめた途端、日本のマスコミというのはニュースを要求しますから、進展と公開を要求しますから、交渉がむずかしくなっちゃうんです。領土問題というのは法的議論よりも政治的状況をつくりだす、つまり力関係を日本に有利にして、首脳間の信頼関係、国民の間の信頼関係、これがないといけないと思います。ですから仲間内の論争をするよりは「状況」をつくり出していくことが大事だろうと思います。

◇日ロ間の文化交流について

 今回の講演に当たって、今後の日ロ文化交流のあり方について何か話してほしいという注文がありましたので、レジュメに書いてきましたので読んでいただければと思います。
一番大事なことは日ロ双方の社会が多様化しており、若い世代も変わってきたということで、文化交流のあり方も変える必要があると思います。若い世代は小グループ化し、群れないのです。それから、若い世代だけで交流をしたいという気持ちが強いように思われます。ですから友好団体というものの運営もむずかしくなると思います。
要するに文化というのは、ポップとかマンガとかが注目されていますが、その本質は「生活感覚」の問題なので、双方の生活文化が相手の生活文化の一部となるような状況が一番理想的な交流だろうと思います。

 ロシア人は日本人のことを奇異でむずかしい人間だと思っているし、われわれ日本人はロシア人のことをいやな奴だと思っている人が多いから、そうじゃないんで、その双方の若者はいまオープンで自由です。それを活用していくべきだと思います。ですから手段としては軽く見えるものでも、非常に重要だと思います。

 あとは友好団体が活動を続けるためには、ITの活用を考えるべきだと思います。その場合年とった人はうしろに退く、まあ資金を出すんですね。例えば日本についてのロシア語サイトのポータルを作る。インターネットで日本のことを調べる人はこのサイトに行くと、日ロ交流のことは全部判る、とそういうものです。
結局文化交流というのは人の顔がないと広がりません。他方、常連のパーソナリティーというものを選ぶと、いくらITといっても結局小さなグループに固まってしまいます。マンネリ化を防ぐためには、いつもパーソナリティーを変える必要があります。それから官や団体は交流に介入しないということです。
以上で、今日のお話は終わらせていただきます。あとはご質問とご批判をうけたまわりたいと思います。(拍手)

以上

(なお、文中で引用されているドミートリー・トレーニンの新著"Post Imperium"は作品社から「ロシア新戦略――ユーラシアの大変動を読み解く」と題して、日本語訳が出版されています。
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%A2%E6%96%B0%E6%88%A6%E7%95%A5%E2%80%95%E2%80%95%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%82%A2%E3%81%AE%E5%A4%A7%E5%A4%89%E5%8B%95%E3%82%92%E8%AA%AD%E3%81%BF%E8%A7%A3%E3%81%8F-%E3%83%89%E3%83%9F%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%88%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%B3/dp/486182379X/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1333004363&sr=8-1 )

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