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論文

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2015年7月24日

ユーラシアを理解するために 9 中央アジア地域関連の国際組織 国際機関

(7)中央アジア地域関連の国際組織・国際機関
(a)上海協力機構
上海協力機構(SCO)は、加盟国が面積的にはユーラシア大陸の多くをカバーするため、一部の外部専門家は過大に評価してきた。2000年頃までは弱小国の集まりと見られていたが、中国の力の急伸によってSCOへの評価も高いものとなったのである。しかし実際には、中央アジア諸国はSCOを通じてロシア、中国に統治されているわけではない。SCOは中央アジアをめぐって存在する多数の多数国間枠組み のうちの一つに過ぎず、その中ではロシアと中国の間の主導権争いが強まって、益々空洞化の傾向を強めているのが現実である。

・SCOの加盟国はロシア、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、オブザーバーはモンゴル、インド、パキスタン、イラン、アフガニスタン、対話パートナーはベラルーシ、スリランカ、トルコ、客員参加にトルクメニスタン、CIS、ASEANがある。

・2001年9月11日ニューヨークでの集団テロ事件を契機に、米国はアフガニスタンで戦争を開始、ウズベキスタン、キルギスに中継拠点を置くに至った。当時カリモフ大統領はプーチン大統領に電話で協議し、その了承を得ているのであるが 、2002年末にはバルト三国へのNATO拡大が具体化したこと、2003年グルジアでの「バラ革命」に始まってウクライナ、キルギスと「レジーム・チェンジ」が続いたことによって、ロシアと中央アジア諸国、そして中国は、米国による策動で政権を倒されることを極度に警戒するようになり、SCOを米国の干渉に対抗するための砦と位置づけるようになった。そして2005年には「SCOの枠内で」中ロが大規模な共同軍事演習を行い(以降、基本的に隔年で実施されている)、2007年にはSCO加盟6カ国による初の合同軍事演習「平和への使命」を実施した。

・当初、ロシアはSCOを軍事同盟化することをはかったようで、2007年の共同軍事演習に当たってはこれをロシア主導の軍事同盟であるCSTO(後出)と共同で実施することを提案、中国に拒否されたようである 。中国は自軍の独立性を維持したいようで 、SCO傘下での共同軍事演習への参加の規模は、その時々の対米関係の緊密度に反比例している感もある。そして中国はこの共同軍事演習を、自国軍の新装備を実験、誇示する場としても利用している。2010年カザフスタンでのSCO共同軍事演習において中国軍は、精密誘導兵器を用いた他、空中給油までやってみせた 。なお、ウズベキスタンは上記SCO共同軍事演習に部隊を送っていない。

・こうして、安全保障問題におけるSCOの役割は、曖昧なまま推移してきた。中国が、ロシアに主導権を取られるのを嫌がっていること、中ロの間で米国との関係の寒暖周期がなかなか合わず、一方が米国と対立している時に他方は協調を強めているようなことが多いので(例えば2000年代前半、ロシアは米国と対立基調を強めたが、高度成長下の中国は米国との協調を追及していた)、そうなるのであろう。但し、反テロ問題で協力することについては明確な合意がある 。しかしこれも、各国諜報機関同士の情報開示を必要とするものであるので、実効はあがっていないであろう。

・SCOのもう一つの柱である経済開発についても、中ロ間の足の引っ張り合いが目立ち、実効的な開発体制・計画は作られていない。ロシアはエネルギー資源開発以外には協力能力を欠く一方、中国は低利融資を二国間ベースで提供してはインフラ、工場を建設することに注力、SCOにおいては体裁を繕うだけで実効性のない提案を繰り返すばかりなので、SCOベースでの協力は進まないのである。

・そして中ロはSCOで、相手の提案をつぶすことが多い。例えば中国はこの数年、「SCO開発銀行」の設置を提案しているが、ロシアは同国主導の「ユーラシア開発銀行」の延長としてなら受けるという立場で、中国案を葬ってきている。またロシアがインフラ案件のフィージビリティ調査資金を賄う特別勘定を設けることを提案したのに対し、中国はこれを換骨奪胎してSCOのためのIMF的なものとすることを提案、100億ドルの拠出を約している 。

また2012年6月のSCO首脳会議で中国は、SCOを自由貿易地帯とすることを提唱したが、これはプーチン大統領の「ユーラシア経済連合」構想に真っ向から挑戦するものとなるので(ユーラシア経済連合は中国を除外している)、ロシアの容れるところとなっていない 。これらの点で中ロ間の合意ができなかったために、2012年6月のSCO首脳会議は「SCO発展中長期戦略」を作成することができず、「SCO発展戦略の基本方向」を暫定的に採択するにとどまったのである 。

・以上の如く、SCOは体制固め、性格規定に失敗しているうちに勢いを失い、中ロ間の主導権争いばかりが目立つ状況になっている。この数年、SCOがマスコミで話題にされるのは、年1回の首脳会議の時だけである。中ロ間の主導権争いは、加盟国拡大をめぐるやり取りに典型的に表れている。ロシアは中国の力を減殺するために、中国に対抗して中央アジアへの影響力拡大を策するインドを加盟国にしたがっている。中国はこれをつぶすために、パキスタンがインドと同時にSCO加盟することを強力に推している。インドとパキスタンは潜在敵国同士なので、両国が共にSCOに加盟することはあり得ない 。そこを読んで中国は、インドを排斥しておくためにパキスタンを推しているのである。

・中国は、アジア開発銀行の後押しも得て、中央アジア諸国との経済関係緊密化のための独自のフォーラムも持っている。ウルムチでは毎年見本市を開いている他、モンゴルも加えて「中央アジア地域経済協力商工発展フォーラム」を随時開いている。第1回は2006年、第2回は2010年であった。

・日米欧においては、SCOの役割を過大評価し、「中央アジアとの関係を進めるためにはSCOと関係を樹立する必要がある」とする論者がいる。これは中央アジアがロシアの植民地であった頃の思考を受け継いだもので、現実に合っていない。「フランスとの関係を増進するためには、まず米国及びNATO本部との関係を増進しなければならない」という議論が成り立たないのと同じく、中央アジア諸国との関係を推進するにはSCO、あるいは中ロの納得を得なければならないことはない。中央アジア諸国は独立国で、彼らはSCO、あるいは中ロとは別個に日本、欧米諸国との関係を進めることができるし、現にそうしているのである。別にSCOを敵視、軽視する必要はないし、日本政府はSCO事務局とも交流をしているが、それ以上のことをする意味はないということである。

(b)CSTO(集団安全保障条約機構)
・CSTOはユーラシア大陸においては、NATO以外に存在する集団軍事取決めとして唯一のものである。冷戦時代、NATOに対峙する存在としてソ連が主導するワルシャワ条約機構があったのだが、ソ連崩壊後はその断片を集めてCSTOが作られている。しかしその加盟国はロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの6カ国に過ぎず(ワルシャワ条約機構はソ連、東欧諸国から成っていた)、アゼルバイジャン、グルジアは1999年これから脱退している。そしてNATOが「欧州連合軍」 及びその最高司令部機構と司令官(アメリカ欧州軍司令官が兼任)を有しているのに比べると、CSTOはロシアとその他加盟国の間のせめぎ合い――ロシアは統合性を強化して圏内における主導権を握りたいのに対して加盟国は抵抗し、必要性が生じた時のみロシア軍を利用しようとする――によって、その発展は遅々としており、統合運用態勢も有していない 。2012年にはウズベキスタンが、CSTOによる加盟国への内政干渉の可能性を嫌って「参加を停止」している 。CSTOは年に3回程、共同演習は行っているものの、実戦に臨んだ経験はない。従ってCSTOは、ユーラシア大陸に多数存在する国際的枠組みの中では活動(会合、演習)は比較的活発であるものの、政治的・軍事的に影響力を発揮するには至っていない。但し、本年5月には設立条約署名が予定されている「ユーラシア経済連合」がEUに範を取っていることに鑑みると、プーチン大統領の脳裏ではCSTOはEUにとってのNATOと同等の意味を持つべきものなのであろう。

・米国はCSTOをワルシャワ条約機構の後継者として警戒し、CSTOが国際的に認知されないよう努めている 。このため、CSTOはNATOとの対話を進めようとしているも、成功しないでいる (NATOはロシアとの対話は進めている)。他方、CSTOは国際的認知を得るため国連にも接近し、ここでは一定の成功を見ている。例えば2012年10月には国連事務局の平和維持活動局とCSTO事務局との間で「相互理解に関する覚書」が署名されている。これは2008年9月、国連事務局とNATO事務局の間で「協力関係に関する共同宣言」が署名されたのを受けて、CSTOが強力に運動した結果である。

・旧ソ連諸国は、互いに紛争要因を抱えている場合が散見され、これもCSTOの拡大を妨げる要因となっている。例えばアルメニアとアゼルバイジャンはナゴルノ・カラバフ地方の支配権をめぐって軍事対立を続け、これは1999年アゼルバイジャンのCSTO脱退につながった。モルドヴァは国内に、半独立的地位を有する沿ドニエストル地区を抱えている。ここにはロシア系住民が集住し、ロシア軍が駐留している。CSTOでは更に、加盟国の間にも対立要因が存在している。例えばベラルーシとキルギスは、ベラルーシがキルギス前大統領のバキーエフ(クーデターで国外に脱出)を保護していることで対立している 。ウズベキスタンは前述の如くCSTOへの参加を「停止」しているが、別にロシアと対立しているわけではなく、アフガニスタンからのNATO軍撤退もにらみつつ、ロシアと二国間での軍事協力を進めている。更に、CISの国防相会合への出席は続けている。これにはCSTOを脱退したアゼルバイジャン、永世中立国であるためCSTOには加盟していないトルクメニスタンも参加している 。

・なお、ロシア空軍はキルギスの首都ビシケク近郊のカント空港を基地として使用し、戦闘機数機を置いているが、これをCSTO部隊のために大幅に増強する動きがある 。付近には米軍がアフガニスタンとのトランジット用に使用するマナス空港があるが、カントの兵力は米軍に対抗するというよりも、アフガニスタンで展開し得ること、また至近の中国・新疆地方に対する抑えとなり得るため、注目する必要がある。

(c)自由貿易地帯・関税同盟・単一経済空間・ユーラシア経済連合
・プーチン大統領はかねて、「ソ連崩壊は20世紀最大の地政学的惨禍」(2000年大統領就任の際のスピーチ)で多くの政治的・経済的困難をロシア及び旧ソ連諸国にもたらしたとの認識を持っており、ソ連復活は時代遅れの考え方だが経済を中心に旧ソ連諸国の統合を進めたいと考えている。このためプーチンは「国土収集家」と揶揄されることもある。

・ロシアは経済・技術力が劣っているため、外国との大規模商談では大統領、首相が前面に出る。石油ガス開発というロシアの十八番でさえ、商業ベースでの話に委ねていれば西側メジャーに席巻されてしまいかねない。それは、石油大国のカザフスタンで如実に起きている。またWTOのドーハ・ラウンドが進んでいないために、世界市場がFTAの網の目によってブロック化されつつある中、ロシアは裸である。

・このような要因によって、プーチン大統領は「2015年までに『ユーラシア経済連合』を立ち上げる」ことを重点的政策とするに至った。2011年10月3日、プーチン(当時は首相)はかつてのソ連政府機関紙「イズベスチヤ」に「ユーラシアのための新しい統合計画」と題する論文を寄稿して、自分が大統領になったら「ユーラシア連合」を立ち上げる、この「超国家的機関」は世界の極の一つになる、欧州とアジアの間の架け橋になる、民主主義と市場経済を奉じ、旧ソ連諸国だけでなくどの国も加盟でき、リスボンからウラジオストックまでをカバーする、とぶち上げた。
現在ではリスボンまでカバーするというプロパガンダ的要素は脱落し、本年5月までにユーラシア経済連合を立ち上げる条約をロシア・カザフスタン・ベラルーシ間で結ぶことが至上課題となっている。

・カザフスタン、ベラルーシは、右5月締結を目標にロシア当局が露骨な圧力をかけてくることに不満を表明している 。しかし右三国は既に関税同盟、「単一経済空間」という協力体制にあるので、三国でだけならばユーラシア経済連合を名だけでも立ち上げることは恐らくできるだろう。しかし、そうしてみたところでCIS(独立国家共同体)、ユーラシア経済共同体等々、ソ連崩壊の廃墟を幽霊の如くさまようだけの名ばかりの(事務局はあるし、首脳会議も開くのだが)国際組織になる可能性大である。

・関税同盟、「単一経済空間」は、そのような名ばかりの国際組織・取決めの中では、比較的実体を備えたものである。関税同盟は2010年7月、ロシア、ベラルーシ、カザフスタンの間で発足している。三国間の関税を原則的に無税とし、域外には共通関税率を適用するというものである。ロシアはその後2012年7月WTOに加盟しているが、この関税同盟は他のFTAと同じくWTOに反するものではない。

・しかし経済を政府が直接運営していた旧社会主義諸国の間では今でも、経済は政治が動かすべきものとなっている。「関税同盟を作りたい」という政治家の意志があれば、細部は決まっておらずとも発足し、その後数々の問題が露呈して機能停止してしまうのである。また関税だけでは不十分なのであり、規格・規制の違いで輸出入が進まないことが指摘されている 。

・この関税同盟で露呈した問題としては、ロシア・ベラルーシ間ではロシアから提供される原油・天然ガスの価格問題がある。ロシアは輸出税なしで原油をベラルーシに輸出していたのだが、ベラルーシはこれを国内の精油所・化学工場で製品化、高い付加価値をつけてEUに輸出した。そこでロシアは、輸出量をベラルーシの内需分に限定するべく、一時は供給を止めてベラルーシに圧力をかけたのである。

・ロシア・カザフスタン間では、関税同盟結成まではほぼ無税でカザフスタンが輸入していた外国製自動車が、ロシアの保護的関税に合わせられてしまい、カザフ国内での販売価格が上がる問題が発生している。中国から輸入している消費財の価格も上がってしまった 。
・カザフスタンは石油大国であるが、精製能力が足りないために、ガソリン等の石油製品をロシア、中国から輸入している。ところが、石油製品は関税同盟の対象外とされていたため、ロシアはカザフスタンへのガソリン輸出に高い輸出税をかけている 。
・またカザフスタンは目下、WTO加盟交渉を行っているが、EUはカザフスタンに航空機、自動車、農業機械等に対する優遇関税を要求している。関税同盟を逆用し、まずカザフスタンに低率で輸出した上でロシアに無税で再輸出してやろうという算段であり、カザフスタンとしては飲めない要求である。つまり関税同盟に入ってしまったが故に、カザフスタンはWTOに入りにくくなってしまったのである 。以上から、カザフスタンにおいては関税同盟からの脱退を主張する運動もあるが 、カザフスタンでは全体として親露傾向が強いため、力を得るには至っていない。

・ロシアは、キルギスにも関税同盟に入るよう、強い圧力をかけているが、キルギスは今のところこれをかわしている。経済力に乏しいキルギスの国民は前述の通り、約80万人もの者が隣の新疆地方で安価な消費財を買い付けてはこれを旧ソ連諸国に転売することで口銭を稼いでいるのだが、関税同盟に入るとこのビジネス・モデルが成り立たなくなるからである。従ってキルギスは、近い将来関税同盟に入るという口約束だけで、ロシアから輸出税なしの石油製品供給を受けている。大国の足元を見た、巧みな小国外交である。キルギスの隣国タジキスタンも関税同盟に入るようロシアの圧力を受けているが、逃げている。そのためにロシアからはガソリン輸出価格を引き上げられることもあるが、隣国キルギスがロシアから無税で輸入しているガソリンの横流しを受けて生き延びている 。

・関税同盟は2012年、「単一経済圏」に昇格した。EU委員会をまねた「超国家的機関」ユーラシア経済評議会を発足させ、経済取引自由化を関税だけでなく人間、カネの移動の自由化にまで及ぼすとともに、マクロ政策の調整、独占禁止、基準認証等の規制・規格統一などを実現する触れこみとなっている。これはユーラシア経済連合結成の準備段階のようなものだが、活動の実態については報道がない。恐らく役人の作った「作文」が飛び交い、実効性・総合性を持ったものにはなっていないだろう。

・そしてこの関税同盟、単一経済圏に入りたくない旧ソ連国のために、「自由貿易圏」なるものが作られている。これは2011年署名されたもので、旧ソ連圏内の緩いFTAである。旧ソ連諸国のうちバルト三国、トルクメニスタン、アゼルバイジャンを除く諸国が署名ずみである。しかし、その実態は不明である。おそらく国毎に多くの例外措置が設けられ、政治的合意が入り組み、税関では税吏の恣意と腐敗がまかり通っていることだろう。

・米国は、旧ソ連を再統合しようとするロシアの動きに神経質であるが 、日本としては「ロシアとその他諸国の間の合意を見守る」との姿勢を取ることが最も良いものと思われる。合意ができてもどうせ骨抜きのものとなるし、合意ができればできたで、中国に対するカウンター・バランスとして作用するからである。
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