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北朝鮮

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2017年9月11日

米国を朝鮮半島からいびり出す、北朝鮮のICBM

(これは、8月29日付Newsweek誌日本語版に掲載された記事の原稿です)
 
北朝鮮のICBM開発は急テンポで進む。我々は、北朝鮮と言えば半分鎖国の国の中で、科学者達が銃殺の恐怖に怯えつつ必死で研究を進める国を想像するが、実際にはこの国は開かれていて、科学者、技術者はロシア、中国、ウクライナなどに留学、先進技術を自由に移入してきたのである。その結果作られる「北朝鮮のICBM」は、これまでのゲームのルールを一変し、北東アジアの政治地図を塗り替える。冷戦の残した最後の前線、南北朝鮮対立はいつの間にか溶融し、北東アジアは中世の唐王朝、北の契丹、半島の高句麗、新羅、そして日本さながら(今では米国が加わる)、諸勢力が相克・提携するバランス外交の場になっていくだろう。

なぜそうなるのか? 基本をふりかえってみる。まず北朝鮮が核ミサイル開発を進めるのは、韓国を共産化して再統一するためではなく、米国に政権をつぶされるのを防ぐためなのである。1989年ルーマニアのチャウシェスク大統領銃殺、2011年リビアの最高指導者カダフィ大佐惨殺の背後には米国がいる、自分は同じ目には絶対会いたくない――金正恩国務委員長はこう思っていることだろう。だから、金正恩はICBMで米国の手を封じた上で話し合いを強要し、1950年の朝鮮戦争について平和条約を調印、それによって北朝鮮国家と自分の安泰をはかりたいのである

これに対して、米国は何ができるか。米国はこれまでも北朝鮮の核開発を止めようとし、直接の交渉、六カ国会合を使っての交渉、国連による、あるいは独自の制裁、中国を使っての圧力行使等々を試みてきたが、北朝鮮は乗り越えてきた。そして今回、ICBM開発を見せつけたことで、北朝鮮は北東アジアのローカルな問題から、米国自身の問題となったのである。トランプ大統領は、ICBMが米国に来襲しかねない状況では、北朝鮮の処理をいつまでも中国に丸投げしているわけにいかない。

だが、米国は武力を使えまい。金正恩は影武者を何人も使っている上、常に居場所を変えているから、「除去」するのは至難の技。そして核・ミサイル開発施設も地下にあるものが多いから、米国もすべてを把握しているわけではない。一回の攻撃で北朝鮮を無力化しない限り、北朝鮮は韓国、日本の米軍基地に本格的な報復攻撃を加えて来るだろう。だから韓国は、米国に自重を呼びかける。

北朝鮮は韓国、日本だけでなく、米国をも脅す手段を手に入れたことで、「北朝鮮問題」の主導権を握った。各国はそのことに気が付いていないかのように、これまで通りのポーカー・ゲームを続ける。中国は、自分の足元で米国に勝手なまねはさせたくない。しかし北朝鮮の処理を自分に丸投げされても困る。北朝鮮との関係は、朝鮮戦争の時から実はそれほど緊密なわけではない。それでも何もできないと言うわけにはいかないので、何かやるふりをする。米国は、韓国との共同軍事演習を中止して 北朝鮮との平和条約締結交渉を始めれば、危機は回避できるのだが、そのことはなぜか言わない。まるで北朝鮮の指導者が精神異常で、急に米国にICBMを向けてきたのだという説明を国内で続けているので――実際には米韓が共同軍事演習をやるたびに北朝鮮が騒ぐ、というのが実態なのだが――、トランプが無策ぶりをいたずらに批判される羽目になっている。

ロシアは、これまで北朝鮮の核、ミサイル開発を大きく助け、最近では石油輸出も増やしていることには頬かむり。国連安保理で北朝鮮制裁が議題になるたび、自分の協力を北朝鮮、あるいは米国に高く売りつける。そして日本では、「北朝鮮のICBMが上空を通過する」はずの地域にパトリオット・ミサイルを慌てて移動してみせたり(ICBMの飛ぶ高空には届かない)、グァムに向かう北朝鮮のICBMを、集団自衛権を発動して撃墜するのは憲法9条違反かどうかについて例によって精緻な「神学論争」を繰り広げている。

このそれぞれに無責任なポーカー・ゲームを尻目に、歴史の舞台は確実に回り始めた。北朝鮮の核ミサイル問題解決を米世論に迫られる一方で、武力行使の手は縛られた米国にできることは、北朝鮮との話し合いしかないだろう。しかし、朝鮮戦争を正式に終わらせ、平和条約を結ぶこととすれば、米軍は韓国に居残る大義名分を失い、半島から出ていくこととなる

その時朝鮮半島では再統一への力学が働いて――一般に考えられているところとは正反対に、その時はむしろ北朝鮮の方が強い立場にあるだろうが――、朝鮮半島にロシア以上のGDPを持つ大国、それも核兵器を持ち、日本に敵意を持つ大国が誕生するのである。

米国の領土グァムに核ミサイルが飛んでくるかもしれないというのにゴルフ休暇を止めないトランプ大統領、核ミサイルと米、中、日の狭間で自分の立ち位置を定めかねている韓国の文在寅政権、そして加計学園問題で支持率が低下した安倍政権――立ちすくむ役者達をのせた舞台は回転を速めると後方に消えていく。

次なる幕は、北東アジア諸国の単なる見栄と意地の力比べ、歴史上の恨みの精算の場だ。中国の経済が大崩れしなければ、アジアは昔の中華圏復活の様相を強め、米国も中国のルールに従わざるを得なくなるだろう。日本、米国は、アジアがもたらす脅威と利益、その双方を見つめ直し、その上で同盟関係を再定義する作業を始めるべきだろう。日米双方とも一国だけでは、アジアでの脅威に対処し、利益を確保するのは難しい。
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