Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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2014年6月29日

メルマガ「文明の万華鏡」第26号を発刊しました

メール・マガジン(有料)「文明の万華鏡」第26号を発刊致しました。

右の目次は次のとおりです。今月号から料金を半額、毎号300円強に致しましたので、この機会に是非「まぐまぐ」社から定期購読予約をお願いします。

(目次)
イラク情勢の意味するもの

アフガニスタンをめぐる状況

中国乱心

ウクライナ――プーチンにとっての危険性


水野和夫氏の資本主義黄昏論について


――企業が動かしていく経済はいつまで――

今月の随筆
近頃可笑しかった広告の数々


ご参考までに最初の記事、「イラク情勢の意味するもの」を下にペースト致します。


イラク情勢の意味するもの

この2週間ほど世界のマスコミは、イラクでISISとか言う新手のイスラム過激派がバグダード目指して突然攻め上がり出したことに釘付けになっている。米軍が去った後の南ベトナムで1975年、ベトコンが一気に攻勢を強め、サイゴンまで一気に制圧してしまった時を思い出す。あの時は、ベトナム撤退を決めたニクソン大統領はウォーターゲート事件で既に辞任した後だったので、撤退の責任を問われることはなかったが、今回オバマ大統領は中間選挙を前にして、イラク撤退の責任を問われるまずい立場に置かれた。真剣に対応して見せるしかない。但し、昨日のテレビ・インタビューを見ていると、「現地で様々な勢力が相争っているのでは、米軍が介入しても意味がない」ということをはっきりと、しかし割と力なく言っている。

それならば、300名もの米軍人顧問をイラクに派遣しなければいいのだが。300名でものごとが動くとは思わないし、彼らがやられたら目も当てられないことになる。1993年ソマリアで、国連とともに活動していた米軍兵士が18名殺されたことで、米国世論は内向きとなり、ほぼ同時に激化しつつあったボスニア内戦に対しては、国内激論の末1995年末になって初めて軍を派遣できたことが思い出される。

それはそれとして米国は、今回のイラクの事態を、軍隊よりも国際的「談合」で収拾しようとするのでないか。どういう談合が可能だろうか? それを考えるには、イラクで急速に勢力を伸ばしたISISとかいう過激派の背後に何者がいるのかが、重要なカギを握っているだろう。そして、それが何者なのかは、どのマスコミもはっきり言わない。ひどいと思う。

今まで明らかになっている諸事実を突き合わせると、このISISの背後にはサウジ・アラビアがいるだろう。イランを天敵視するサウジ王家が、イランと徒党を組むシリアをまず落とそうとして、反アサド勢力を支援したことは周知の事実となっている。それを「担当」したのは、総合情報庁長官のバンダル王子(2005年まで22年間にわたって在米大使を務め、ブッシュ一家からは家族ぐるみの深い信頼を受けていた)である。彼はシリアに米軍を引き込もうとしてオバマに拒まれ、オバマのサウジ訪問直後の4月中旬には解任されてしまう。そしてその前後から、王室内でバンダル王子とは対立する立場にあるナエフ内相親子を中心として、「シリアで過激派勢力に加わって活動している者達」への弾圧が強まる。ナエフ内相は既に2013年12月には「アル・カイダのテロリスト」約1000名に死刑を宣告したことを発表しているし、5月6日には「シリアでアル・カイダを支援していたイスラム過激派」60名余の逮捕を発表している。

つまりバンダル王子の失脚で、シリアのイスラム過激派への支援が滞った、それで彼らの一部がイラクに生活の場を求めたのが、今回のISIS騒動ではないだろうか? これがバンダル王子の個人的な支援を得ているのか(アブドラ国王が89歳と高齢であるため、王室内での後継争いが進行中である。バンダル王子については6月初め、毒を盛られて米国で治療中との報道が流されている)、それともサウジ王室主流の密かな支援を得ているのか、それはわからない。

それがどうであれ、今回のISIS騒ぎは、イラクを2つ、あるいは3つに分裂させることになるかもしれない。マリキ首相等シーア派が確保する東部(油田が集中)、ISISとスンニー派住民が牛耳る西部、そして北西部のクルド族支配地域(有望油田が集中)である。東部は同じシーア派のイランと提携、残りの二つはサウジ、トルコ、エジプトと提携する、そうやって中東の力のバランスを均衡させる、米国は、湾岸諸国における米軍の関与を減らす――こういう構図である。その上で、米国がイランとの敵対関係をやめると、イランそしてクルドの原油が世界に大量に出てくることになるだろう。イスラエル一国が割を食う。ただそのイスラエルの沖合でも天然ガス大鉱床が発見されたので、イスラエルも余裕が出てくるかもしれない。2020年代半ばには、毎年200億~300億ドルを天然ガス輸出で得ることができると皮算用しているようだ。


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