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日本安全保障

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2017年9月14日

軍のシビリアン・コントロール 日米中露でそれぞれ問題

(これは、8月23日「まぐまぐ」社から発行のメルマガ「文明の万華鏡」第64号の一部です)

軍のシビリアン・コントロールーー武力を持った軍人が自分の国の政治に介入する等を防ぐこと――、面白いことに軌を一にして日米中露で問題が生じている。

日本では、言わずと知れた例の稲田・防衛相の末期、南スーダンに出ていた自衛隊PKOの日誌に「戦闘」が起きたと書いてあったのを、同女が知らなかったと言い張った時、「知っていたはずだ。報告したのだから」という趣旨のリークが行われ、それが彼女の辞任につながったことがある。

このリークを誰がやったのか、いくつか説があるのだが、その中に、自分だけしわ寄せ処分を受けて不満な陸上自衛隊の制服幹部がリークしたのだという説がある。もしそうだとしても、その制服幹部の気持ちはよくわかるし、稲田はもっと前に自発的にやめるべきだったと思うのだが、もし自衛隊の制服がリークをして大臣を引きずりおろしたのであれば、これは悪しき前例で、再発しないようにしないといけない。

と言うのは、こういうことがあると政治家がびびってしまい、防衛相を任命する時には自衛隊制服組の内々の了承を取るような、悪しき慣行を成立させかねないからだ。そうなると、陸軍大臣を決められずに組閣が流れた、戦前の繰り返しになる。

現在の小野寺大臣は最高の選択で、そんな心配はない。しかし、制服が政治ポストの任命を左右するようなことがないように、制度上の手を打っておかないといけない。それはリークする者を厳しく罰するような姑息なことではなく、今回制服組の不満を招いた、防衛省に溜まっているもろもろの澱を除いておくのだ。そのためには、まず大臣には常識のある、利己的でない人物をつけること、次に防衛省内部の文官と制服の間の壁を取り除くことが必要だろう。

それはどういうことかと言うと、米国防省では文官と制服が入り混じって仕事をしているのだが、日本の防衛省では内局と言って、人事、予算、運用、国会対応、マスコミ対応などを、公務員試験を受けて入って来た文官が専管している。文官は国会で追及されることを最も嫌うので、何か問題が起きると東電と同じで隠蔽、あるいは制服に責任を押し付けて、制服の怒りを買うことがある。

両者の壁を取り払うには、制服組にも国会対応などを下積みの時代から経験を積ませるとか(彼らは外務省に出向するとみごとにこれらの事務をこなしているのだから)、文官も数年は幕僚や部隊に配属して兵力運用・兵站の実際を経験させるとか、そういうことが必要だろう。

こういう改革は、今の小野寺大臣のように衆望一致した人が大臣をやっている間にやるべきだ。これから自衛隊の重要性はますます上がるし、自主防衛の場面も増えてくる。文官統制の仕組みを洗い直し、文官・制服が一丸になって事に当たれる体制を作って欲しい。

米国では、㋇中旬、トランプが白人至上主義者の肩を持つような発言をしたことに対し、陸軍・海軍・空軍・海兵隊すべての幹部がほぼ一斉に、自分達のところでは人種を公平に扱っているという声明を出した。実質的に大統領の発言を否定するようなことを高位の軍人が公言する――こんなことはマッカーサーがトルーマン大統領に楯突いて以来(マッカーサーはそれで解任されているが)、ついぞなかったことだ。本当の意味での文官統制が確立されている米軍で、珍しいことだ。

米政権は今や首席補佐官、NSC安全保障問題担当補佐官、そして国防相とも、現役の軍人である。これは米国史上珍しいと言うか、初めてのことなのだ。トランプを批判したい気持ちはわかるし賛成だが、それを公言するということだと(公言しないと部隊の中の人種関係がおかしくなるという問題もあるのだろうが)、米国も、例えばタイで軍人がいつまでも政権に居座っているのを批判しづらくなってくる。

政権は、危機の時は実力集団を権力の基盤に据えたがる。文革の時毛沢東は人民解放軍を、プーチンは旧KGB勢力を権力の基盤にし、統治のための手足として使ったが、トランプもこうした権威主義諸国の仲間入りをするのだろうか?

なおロシアでは、プーチン大統領が15日、Vladimir Vasilyev下院与党院内総務に対して、これまで伸ばしてきた国防費の削減を明言した。原油価格が低迷しているので、仕方ない。ロシアの国防費はこの数年で倍増し、公定レートでは日本の国防費の約2倍に至ったが、ピークに達したのだ。半年後に迫る大統領選を前に、大統領は大砲よりバターを選択して見せたのだろう。

これは大きなことだ。ロシアではソ連の時と違って、大衆消費社会が到来しているので、民衆も簡単には軍国主義への回帰を認めないだろうと思っていたが、その通りになった。これは、シビリアン・コントロールの問題とは少し違うが。

中国では、あまり表面には出てこないが、習近平による陸軍の抑え込みがまだ未完に見える。そもそも、習近平が党総書記に就任したばかりの時、彼に対抗した野心家の薄熙来を陸軍トップの徐才厚、郭伯雄等が支援していたとして粛清したのが発端で、その後海軍、空軍増強のしわ寄せを陸軍に集中、400万の兵力を200万に削減したのだから、不満が出ないはずがない。そして陸軍OB達は待遇への不満で、これまでデモを繰り返している。

不良債権の増大と並んで、陸軍へのコントロール維持は、習近平政権のアキレス腱だろう。
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