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日本安全保障

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2016年7月 4日

日本の核の傘をよくするために

(これは6月28日付Newsweek誌に掲載された記事の原稿です)

7日付けウォールストリートジャーナル紙は、米国がその核兵器を日韓とそれぞれ共同運用しようという案を打ち出した。日本では、オバマ大統領の広島訪問で核問題はけりがついたということなのか、この記事は話題にもならない。だがこれを書いたのは、国防省のシンクタンク、戦略予算評価センターの研究員で、同じ趣旨の長い報告書はセンターのウェブサイトでも公表されている。大統領候補のドナルド・トランプが日本に核武装を認める、認めないの空しい議論よりも、こちらの方は「真打」なのだ。これから日米政府間で真剣に検討されていくことだろう。

日本をめぐる核の脅威は増大している。中国の核ミサイルは秘密のベールに包まれているが、日本に対して使用できる中距離ミサイルを五十基前後は持っているものと推定されている 。そして北朝鮮の核ミサイル保有は、既成の事実となりつつあるし、ロシアも先般シリアで初めて使用した射程千五百キロ もの巡航ミサイルに核弾頭をつけて極東に配備すれば、地域に脅威を与えることになる。

核の脅威に対しては、「抑止力」(先方に核を使う気にさせないための備え)を持たなければならない。核兵器を持たない日本の場合、米軍に日本に代わって核抑止、つまり「核の傘」を日本にさしかけていてもらわないといけない。

ところが最近では、この「核の傘」がどうも透けて見える。北朝鮮のミサイルが米国にも届くということになると、米国は自分が核攻撃を受けるリスクを冒してでも、日本に核の傘をさしかけていてくれるのか、中国が軍備を増強し、米軍を西太平洋から締め出したら、日本に核の傘が届かなくなるのでないか、というわけである。

それに加えて、冷戦後、米軍は太平洋の米軍艦艇に装備したトマホーク巡航ミサイルから核弾頭を取り外し、それを本国に引き上げてしまった。米国の核の傘の骨は、グァムに配備された核兵器くらいになってしまったのである 。米本土や戦略原潜に配備、装備した戦略核ミサイルを使えばいいと思うかもしれないが、これを発射でもしようものなら、ロシア、中国がそれを自国に向けられたものと見なして対抗措置を取る可能性があって、日本向けの傘としては使えない。
米国の核の傘には骨がない――平和主義が強い日本では、このことは議論されないが、韓国の世論は強い危機感を持っている。「米国は、イスラエル、インド、パキスタンの核保有は是認して、韓国の懸念は放置している」というのである。

そこで、冒頭に引用した記事は、面白いことを提案している。ドイツの例にならえ、と言うのである。冷戦時代、西ドイツはソ連・東独軍が押し寄せてくる悪夢に脅かされていた。当時筆者は西ドイツで勤務していたが、「ソ連軍は侵入開始後、1週間で大西洋岸まで到達する」という見積もりが真剣に語られていた時代である。そこで米軍は核弾頭を西独(ベルギー、イタリア等にも配備)に配備、これを西独軍と共同で運用することにしたのである。つまり、ソ連軍が押し寄せてどうしようもなくなった時、西独軍、あるいは米軍がこの核弾頭をソ連軍の鼻先でさく裂させることを片方に提案、双方それで行くと決めたら実際に使用する、というのである。

この核弾頭は冷戦後の今もドイツに二十基ほど保持されていて、ドイツはその使用の共同決定権(dual keyと称する)を持っている。今の時代、自国領で核兵器を使用する決定などできるはずはないが、ロシアが約二千発もの戦術核弾頭を保持していると見られる現状では 、「抑止力」として持っているにしくはないのだ。

日本の核武装を認めることなく、核保有に等しい抑止力を持たせる――そのためには、このdual key方式は有効である。但し日本の場合、本土に核兵器を持ち込むわけにはいかない。そこでこの記事の筆者は、グアムに配備されている米軍核兵器を日米、米韓間で共同運用することを提案しているのである。非核論者にとっては容認できないものだろうが、日本の方を向いている核ミサイルがなくならない間は必要だし、現実的なアプローチだと思う。
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