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日本安全保障

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2015年11月 3日

日本の総理は何しに中央アジアに

(これは、11月3日付日本語版Newsweekに掲載された記事の原稿です)

今、安倍総理の中央アジア訪問が佳境にある。でもなぜ、今中央アジアに行かねばならぬのか? 中国が席巻するのを防ぐためか?
20世紀初め、英国の地政学者マッキンダーは言った。中央アジアはユーラシアの心臓部、ここを制するものはユーラシア全体を制すると。その頃、ロシア帝国はインド洋への南下を策し、それを止めようとする英国との間で、中央アジアでの覇を争った。これを「グレート・ゲーム」と言う。今ここは、中ロ米間の新たなグレート・ゲームの対象になっている、と言われるのだが・・・。

中国が席巻?

実際を見てみよう。中央アジア、特に南半分はアム河、シル河に挟まれたメソポタミヤのような農耕地帯で、ペルシャ諸王朝の重要部分として古い歴史を持つ。だがその後19世紀ロシア帝国、ついでソ連の支配下に入り、1991年ソ連の崩壊とともに独立した中央アジア五カ国は今、人口は合わせて6700万人弱 、GDPは3400億ドル弱 (うちカザフスタン、トルクメニスタンは原油・天然ガス輸出への依存度が高い)、しかも内陸にあるため輸出、輸入とも輸送費のハンディがある。そして政治には中世以来の権威主義、経済にはソ連時代の集権制が根強く残る。

今、中央アジア諸国は、中国マネーに惹かれる。習近平国家主席の下、中国は「一帯一路」を標榜し、シルクロード基金(資本金400億ドル)やアジア・インフラ投資銀行AIIB(資本金1000億ドル)を作って、何でも融資してやるぞとの構えを見せる。中央アジアを旧ソ連の中で残された数少ない勢力圏と考えるロシアも、当初この中国に抵抗したものの、3月にはAIIBに参加を表明、中国マネーをむしろ利用する方向に転じた。
しかし中国は歴史上、中央アジアを支配したことはない。ジンギスカンは残虐な征服をしたが、彼はモンゴル人である。中央アジアは中国に文化的親近感を持たず、エリートの間ではロシア語や、ロシアへの留学が相変わらず幅を効かせる。

そしてタジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタンが国境を接するアフガニスタンでは、タリバン勢力が近づいている。ロシアはタジキスタンに1個師団の兵力を保持しているし、集団安全保障条約機構と称する仕組みの中で、緊急に展開できる空挺軍も持っており、中央アジア諸国にとっては、最後の頼みの綱になる。

だから中国がやっていることは、一昔前の日本の「小切手外交」にも似て、今回のように中国が経済不振に陥ると行き詰る。「カネの切れ目が縁の切れ目」になりかねないのである。中央アジア横断鉄道建設構想のような大風呂敷も、中央アジア諸国間の不和などのあおりを受けて、いっこうに進んでいない。

中央アジアの独立性・一体性――それは日本の利益

現代の中央アジアはユーラシアの心臓部ではないし、日本の死命を制するところでもない。しかし中央アジアはロシアの下腹、中国の裏庭に相当する位置にあり、そこに独立した大きな勢力があると、日本にとって大事な相手になるだろう。それに、中央アジア5カ国が独立して以来、日本は一貫して関係を築いてきた。これまでに4000億円強のODA(多くは借款)を供与して、道路や橋や工場などのインフラを作り、日本語教育も奨励してきた。旧ソ連地域全体で日本語弁論大会をすると、中央アジアの若者たちが上位を独占する。そして、日本人が歴代総裁を務めるアジア開発銀行は、日本を上回るインフラ融資をこの地域にしてきた。重点対象のウズベキスタンだけでも、これまでに40億ドル強の融資をしているのである。

というわけで、今回安倍総理が中央アジアでやっているのは、中央アジア諸国の発展を助け、この5カ国が独立性をますます強化、そしてできればASEANのような緩い結合体として一つの声で大国にも物申すことができるようになる手助けをする、ということなのだと思う。中央アジア諸国は独立国家である。彼らがいずれの大国にも依存し過ぎることがないように、日本はオプションを提供する。

ここで日本は、ロシアや中国に向きになって対抗しようと思わない方がいい。そんな必要は全くないし、中国が西方に目を向けるのは歓迎だ。AIIBやシルクロード基金と日本のJICAが協調融資することだってあるだろう。日本のODAでロシア製トラクターを購入して中央アジアに供与したこともあるのだ。ロシア製品は安いし頑丈だし、中央アジア諸国の農民が使い慣れ、修理体制があるからだ。

中央アジア諸国の独立性、一体性を促進する。それは中央アジア諸国自身の利益、そしてそのまま日本の利益。両者の利益は一致している。

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