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日本安全保障

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2012年7月10日

政治家主導はどこへ行ったのか 原発問題

最近、もと役人の人たちから原発、エネルギー政策の話を相次いで聞く機会があったので、感想を書いておく。

原発のリスクをもっと教えてほしい
まず、原発については100%の安全はあり得ない、と彼らは言う。しかし原発以外に中東原油への過度の依存を(安価に)解消できる手段はないので、国民は原発のリスクを自覚したうえで付き合って欲しい――彼らの言うことは、そういうように聞こえる。
ところが、その「リスク」とはどのくらいのものなのか、彼らは何も教えてくれない。最悪の場合には居住地から着の身着のままで避難したり、言葉もできない外国に移住したりしなければいけないのではないか?
そしてどこかのテロリスト・グループが原発を襲撃して電源、水源を破壊し、メルトダウンが起きて、その時風速10メートルの北風が吹いていたら放射能はどのくらいの強さでどのくらいの範囲に及ぶのか、その場合首都圏や関西の都市圏の千万以上もの人々が短時間で避難できるのか、もしかするとどうしようもない事態が生ずるのがわかっているから公表しないのか、等々がわからない。

CO2の呪縛
福島原発事故を受けて、今新しいエネルギー計画が練られているわけだが、「電力料金を上げず、CO2も出さず」という条件に縛られ過ぎている。電力料金を上げずに原発を大量に代替するには、石炭発電が最も手っ取り早いのだが(太陽発電や風力発電が騒がれているが、これらによる発電量は不安定なものだ)、「石炭は後れたもの。技術先進国日本にはふさわしくないし、CO2を出し過ぎる」という観念に縛られて、十分な注意をはらってもらえない。先進国でも豪州や米国のように石炭発電に多くを依存している国もあるし、現代の石炭発電はそれこそ先端技術の塊になっていて、CO2の排出量は天然ガスによる発電とさして変わらないものになっているのに。

そしてもっと重要なことは、東日本大地震のような大災害があり得る日本なのだし、GDP1単位あたりのCO2排出量は先進国でも最低レベルにある日本なのだから、2013年以降も京都議定書を延長する場合には、一方的に留保条件をつけて削減義務を軽減すればいいではないか。CO2削減義務にこだわり過ぎて原発しかないと言うのは、何か本末転倒ではないか。それに目下進んでいる研究によって、光合成を人工的に(安価に)起こすことができるようになれば、CO2は光合成工場で炭水化物と酸素に分離することができる。

テロ対策が不十分
原発の安全性について今行われている議論は、地震、津波への対応に限られている。それは、想像性の欠如だ。たとえばテロリストのグループが機関銃やバズーカ砲で武装して押しかけてくると、「止まれ、止まらねば撃つぞ!」では自分が撃たれてしまう。彼らに原発の電源系、水源系を破壊されたらどうするのか?
さらに最近流行の「サイバー・テロ」、つまり原発のコンピューターに外部から入り込んで原発に偽の命令を発して壊したりするテロ、に対して、十分な防護策はあるのだろうか?

日本社会というシステムに内在する問題
今行われていることは、これら諸点についての検討や対策が不十分なまま、「企業が高い電力料金を嫌って海外へ逃げ出さないように」、原発をしゃにむに維持、再開しようとしていることだ。役人は自分の所掌範囲で責任を問われないほどに対策を講ずるのだが、もし「想定外の事態」が生じた場合には誰も責任を取るものがいなくなる。

こうした役人的な、「個々の部署では任務を果たしているが、全体を合わせると誤った方向に進んでいる」場合、それを正すべきは政治家なのだが、民主党政権は「政治家主導」と言いながら、経済産業省と財務省にかぎっては、それは反対であるらしい。こうしてできた「官僚のはずみ車」というのは恐ろしいもので、一度決めるともう誰が何と言おうが、どんな危険があろうが、ごろごろと転がっていってしまう。真珠湾開戦の決定のようなものだ。

考慮に入れられていない新エネルギー源
石炭発電が十分考慮の対象になっていないことは既に述べたが、十分どころかまったく考慮されていない有望技術もある。それは天然ガスや太陽電池で水素を作り、燃料電池に貯蔵して電気を取り出し利用する技術体系のことだ。こちらの方が天然ガスを燃やして発電するより効率的であるならば、自動車燃料や家庭用電力は燃料電池で賄うことになるだろう。

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