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日本安全保障

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2017年8月14日

NHKの沖縄返還交渉テレビドラマについて

(これは14日朝アップしたものの、冒頭日付の修正、そして末尾の文献表示修正のため、同日深夜差し替えたものです)
12日、NHKプレミアムで「返還交渉人」と題するドラマが放映された。これは千葉一夫という実在の外交官を主人公にしているものの、他の多くの外交官は仮名、しかも沖縄返還交渉の事実関係は脚色つきのものだった。

千葉一夫氏は、僕がモスクワ大学に研修で留学した1973年当時、日本大使館で総務担当の参事官をやっていた。このドラマで言えば、直言を上司に煙たがられてモスクワに左遷された、まさにその時期。挨拶しようと、(冬季だったもので)外套を着たまま彼の事務室に入ったら、「外套を着たままオフィスに入るとは何事か!」と怒鳴られたのを鮮明に覚えている。厳しい人で、その後本省に戻った彼のオフィスに入ろうとした事務官が恐怖のあまりその場で卒倒したとか、いろいろ逸話のある人。

しかし能力、手腕は抜群で、しかも使命感があった。外交はこうあらねばならぬ、だから外交官はこれこれこういうことをせねばならぬ、という強烈な使命感。それは自分自身にも課せられていたし、部下にも同じことを求めたから、部下たちはひーひー言ったわけ。

で、外交は一人でやるものでないので、そんなことはどうでもいいのだが、NHKドラマの問題点はまさにそこにあって、千葉さん一人を英雄視し、上司のほとんどを意気地なし、あるいは米国との対決回避・密約志向型と描いているのは単純化だ。返還交渉を進めたのは千葉さん一人だけでなく、前任の北米課長の枝村純郎氏、条約局にいた有馬龍夫氏を初め、何人もいたのである。枝村氏は「外交交渉回想」、有馬氏は「対欧米外交の追憶」という回顧録をそれぞれ出版しているので、当時のチーム日本の状況を知りたい人はそれを読まないといけない。

NHKはこのドラマで千葉さんを、日本人が持っているだろう理想の外交官像に重ねあわせて描いている。特に「毅然として主張するべきことを、自分より強い相手にも主張する」ということ。それは、千葉さんは確かにやっただろう。でも、そういうことを米国に対してやったのは彼だけではあるまい。モスクワでも日本の外交官は、ロシア側と北方領土問題について随分率直な言い合いをしてきた。
外交官の場合、主張するべきことを主張するのは当然、しかしそれが相手を動かさなければ意味がない。逆効果になってしまったら、それは外交官失格だ。

もう一つ、NHKのドラマが強調していたのは、千葉さんが沖縄にちょくちょく出向いて、連絡を絶やさなかったし、沖縄の人たちの目線からものごとを見てみようとしていたこと。これはその通りだと思う。でも、それも彼一人だけがそうなのではない。北方領土問題を担当するロシア課長にも、根室などとの往来を絶やさない者がいた。

ドラマで面白かったのは、1970年代の公務員住宅がかなり見事に再現されていたことで、この欧米標準ならスラムに相当するアパートを、千葉さんの相手の米国大使館公使夫妻が訪れてびっくりしている場面には笑ってしまった。質実剛健、武士は食わねど高楊枝という気持ちで、当時の外交官は意気軒昂にやっていた。
そういうバンカラ風は、藤田順三氏の「高卒でも大使になれた――私を変えた人生のその一瞬 」でも読むことができる。藤田氏が条約課に勤務していた時代、連日の徹夜勤務で、課員は机の上に新聞紙をかぶってごろ寝していた場面が出てくる。

まあ、そういうわけで、このNHKのドラマにはフィクションが随分入っているにしても、外交官を肯定的に描いているので、珍しいなと思って全部見てしまった次第。

もう一つ、もっと深刻なメッセージをNHKのドラマは伝えている。それは沖縄では、戦後の武力占領の結果が未だに残っているということ。そして沖縄の酒場で現地の人が、「自分達はものをくれる者には従ってきたんだ」と千葉さんに毒づく場面は、NHKとしては随分勇気のある台本だなと思った。

ドラマの中で米国の軍人が千葉さんに、「沖縄を返還しろと言ったって、それでアジアの平和を維持できると思っているのか!」と難詰する場面がある。米国の論理はこの点、今も変わらず、「日本を守り、アジアの平和を維持するためにやっているのだから」という論理で日本での自分の行動のすべてを正当化しようとする。

だからと言って、千葉さんのような外交官が100人出て、大声で米国に怒鳴ってもものごとは変わらないのだ。日本が独自防衛能力を強化するとともに、米軍が背後から襲われそうだったら集団自衛権を行使して相手を斬り伏せるようなこともできるようにしないと、米国に対する立場はよくならない。レープされたまま相手の情婦になってしまったような国のままでは、千葉さんのような外交官は宝の持ち腐れ。
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