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世界はこう変わる

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2014年4月12日

西半球世界史の縮図・Warburg家の歴史

(これは、「まぐまぐ」社から発行しているメール・マガジン「文明の万華鏡」最新号からの抜粋です。全文は「文明の万華鏡」をご覧ください)

世界には、Warburgの名がつく銀行がいくつかある。これはユダヤ系のWarburg家の一族が関与するグローバルなコンツェルンだ。一族のPaul Warburgは20世紀初頭にドイツ・オランダのウォーバーグ商会幹部として米国に移ってきて、当時最大の投資銀行、クーン・レーブ商会(日ロ戦争のために日本の国債を買い上げてくれたジェイコブ・シフは同商会代表)と提携して根を生やし、その僅か9年後の1910年には、米国の中央銀行であるFRB設立の主要な発起人となる。1921年には、ニューヨークの外交問題評議会("Foreign Affairs"の発行元)の初代会長にもなった。

しかしWarburg家が面白いのは、中世ヴェニスの銀行にまでその起源をさかのぼれることである。中世ヴェニスはシルクロードの物資が流れ込む東ローマ帝国の首都コンスタンチノープルと西欧を結ぶ結節点、アルプス越えで西欧に入る通商路(ローマ時代の軍道も利用されている)の出発点であった。

従って、ヴェニスには銀行業が発達する。ユダヤ人には利子を取ることが許されて(中世は今のイスラムと同じく、キリスト教信者も利子を取ることが禁じられていた)、地中海商圏に広がる親族のネットワークを生かして金融業に励む(後にヴェニスでは、ユダヤ人は銀行業から閉め出されるのだが)。だから、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」でシャイロックのようなユダヤ人銀行家が出てくるのである。

ヴェニスの有力銀行家の中にDel Bancoという苗字の(「銀行屋」という苗字だから好い加減なものだ)ユダヤ人一族がいて、1513年にヴェニス政府から利子を取ってカネを貸すことを認められている(このあたり、ウィキペディアから)。その後ヴェニスの銀行業から閉め出されると、一族は欧州を流れて16世紀、ドイツのWarburgに落ち着き、Warburgの苗字を名乗る。

Warburgはケルンとライプツィッヒの中間あたり、つまりドイツ北部のほぼ真ん中にある、交通の結節点、中世に隆盛を極めたハンザ同盟のハンブルク、ブレーメンとヴェニスを結ぶ通商路の途上にあった。15世紀のあたりで地中海の商圏とバルト海地域の商圏が結合するのだが、これを海路で結び付けて大儲けしたのがオランダ、陸路で結び付けて大儲けしたのがWarburg家、フッガー、ヴェルザー等の財閥ということになるだろう。

つまりヴェニス(言ってみればローマ帝国の富の残映だ)の資本は次第にドイツ、スペイン、オランダ、次に英国、またその次に米国へと移動して、それぞれの隆盛を演出するのだが、その尖兵にはヴェニス出身の銀行家やユダヤ人銀行家がいて、その一人にWarburg家があるということなのだ。

その600年余の長い歴史において、Warburg家の人達は歴史に翻弄される。ハンブルクの郊外、アルトナに住居を構えていたのだが、アルトナと言えばサルトルの演劇「アルトナの幽閉者」の映画を偶然見たことを思い出す。これは、戦時中捕虜を虐待した心の傷に耐えかねて発狂した、ドイツ人有力実業者の息子の話しなのだが、心の傷と言えば、このアルトナに住んでいただろう、一族のMax Warburgに言及しないわけにはいかない。

彼は、ナチ政権の下で中央銀行政策委員を務めると同時に、大化学企業I.G.Farbenの取締役ともなっていた。このI.G.Farbenはナチの台頭を資金的に助け、毒ガス室用のガスも生産していた。これ故に、「ユダヤ人がユダヤ人虐殺を見逃していた」という風評が今も後を絶たないのである。しかし実際にはドイツのWarburg家の殆どはMaxも含めて1938年までには米国あるいは英国に移転し、アルトナに残った二人の従兄弟(従姉妹?)、母親、そして娘2名は1940年、収容所で殺されている。これは、大変な心の葛藤をMaxに残したことだろう。彼の息子Ericは戦後ドイツに戻っている。

これは、600年にわたる大河ドラマだ。それも欧州、米国をまたにかけて。ユダヤ人の関わるドラマと言えば、日ロ戦争で日本に多額の融資をした後、南満州鉄道の利権を要求して日本政府に断られた米国の鉄道王ハリマンと、彼の野望の後日譚が日中戦争や太平洋戦争につながり、戦後米国の航空貨物会社フライング・タイガーの設立にまでつながっている、という話しもそうだ。だがそれは、次号にまわす。

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