Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
ChineseEnglishRussian

世界はこう変わる

Automatic Translation to English
Automatic Translation to English
2020年11月27日

RCEP調印で、東アジアは中国の経済圏になるのか

(これは25日発行のメルマガ「文明の万華鏡」第103号の一部です)

 11月15日、長年の懸案であったRCEP(東アジア地域包括的経済連携協定)の調印が行われた。これは、WTOのグローバルな関税・投資等取り決めが、インドや中国の抵抗で一層の自由化に進めない中、先進国はTPP等自由化度の大きいマルチ、あるいはバイの自由貿易協定をネットワーク化しつつあるのだが、これでは中国を初め東アジアの多くの国が入れないということで、日本や中国が中心となって進めてきた「あなたもできる自由化」協定なのだ。ASEAN加盟10カ国と、そのFTAパートナー5カ国(オーストラリア、中国、日本、ニュージーランド、韓国)が原加盟国となっている。日本等はインドも入れるべく努力してきたが、インドは国内産業保護の立場からこれに加わっていない。

米国がTPPに入っていない中でRCEPが結ばれたことで、東アジアが中国に取り込まれてしまうかのように言うメディアが多い。「世界経済のウン10%を占める経済圏の誕生」という類の報道だ。

 しかしこれは、どこそこの地域を自分の勢力圏として囲い込むという、子供じみた話にはならない。RCEPは、加盟国同士でしか貿易をしない、というものにはならないのだ。加盟国同士では輸入関税を下げるとか、その他の貿易制限を縮小することはするのだが、その自由化度はTPPにはるかに及ばない「なんちゃったってFTA」なのだ。

具体的にどういうことになるかと言うと、例えば日本企業の場合、中国との貿易ではRCEPの定める関税率などを利用することができるが、豪州との貿易ではTPPの定める、RCEPよりはるかに譲許度の高い関税率等を使うことになるし、TPPにもRCEPにも入っていない米国との貿易ではWTOとか2019年10月締結の日米貿易協定に定める条件(RCEPよりははるかに自由度が高い)、EUとの間では2018年に締結した日本・EU経済連携協定の条件が主として適用されるということになる。

ややこしくて仕方ないが、コンピューターの発達した現代ならば、税関でも処理できるだろうし、そもそもWTOがグローバルに定めている関税率はもう十分低いので、自由貿易協定がなければ天が落ちてくるというような話ではない。

 繰り返すと、RCEPというのは、自由化度が低い「なんちゃったって」自由貿易協定で、中国を仲間はずれにしないため、日本は多多ますます弁ずで入っている、という性質のものなのだ。他にも日中韓自由貿易協定を結ぶ話があって、話はまだ死んではいない。

 日本政府はTPPと日米貿易協定に軸足を置きつつ、他の協定についての交渉も進める、という、昔だったら考えられない柔軟な対応をしてきていて(それだけ政府内部の決済手続き等が合理化されているのだ)、これからの焦点は米国のTPP再加盟、あるいは日米貿易協定第二弾ということなのだ。グローバルでは、トランプの間止まっていた米欧自由貿易協定という大物の交渉が始まることだろう。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.japan-world-trends.com/cgi-bin/mtja/mt-tb.cgi/4044