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世界はこう変わる

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2011年11月 6日

ユーラシア情勢バロメーター 10月 概観

広いユーラシアではいつも何かが起こっていて、それが大国間のバランスを変えたり、大陸の別の地域に影響を与えたりする。だがロシア、中国、米国などいずれか一つの大国が恒常的に優勢になったり、劣勢になったりするわけでもない。経済活力で最も劣るロシアが後退を続けるという基本的トレンドに変わりはないのだが、だからと言ってユーラシアが中国に政治的にも経済的にも席巻されてしまうわけでもなく、緩慢なトレンドのなかで浮き沈みが生ずるという程度の話である。

プーチン大統領返り咲き

8~10月に起きたことで、今後数年のユーラシア情勢にとり最も重要なファクターは、プーチン大統領返り咲きの可能性が確かなものになったことだろう。ソ連崩壊後、旧ソ連諸国を集めたいくつかの国際組織が作られたが、NIS(新独立国家共同体)、CSTO(集団安全保障条約機構)等これら組織は、メドベジェフ大統領の下で求心力をとみに失っていた。9月3日にタジキスタンのドシャンベで開かれたNIS, CSTO首脳会合ではアゼルバイジャン、ベラルーシ及びウズベキスタン、三か国もの大統領が欠席した。同時に行われたCSTO傘下の共同軍事演習「センター2011」にも、ウズベキスタンは参加していない。

他方、プーチン首相が大統領に返り咲きの意向を明らかにした後開かれた、10月18日サンクト・ペテルブルクでのNIS首相級会合では、もともと12月の首脳会合で署名が予定されていた「自由貿易地帯」協定[i]がプーチン首相を中心に急拠署名される等、NISは求心力をやや回復した(但しウズベキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンは署名を12月の首脳会議まで保留)かに見える。

米国の活発な外交の意味

そしてギリシャ国債をめぐってのEU経済低迷は、ユーラシア西部方面における力のバランスをロシアにやや有利に傾けている。米国は10月11日の"Foreign Policy"誌でのクリントン国務長官論文にも明らかなように、イラク、アフガニスタンに一段落つけ、外交、軍事政策の重点を中近東とアジアに振り向けつつある。アフガニスタンから完全に撤退するかどうかは未定であるが、12月ボンでのアフガン復興会議も前にして、撤退開始に備えての動きが目立つ。9月30日から10月14日にかけてアフガニスタン問題米国特別代表のグロスマンがアブダビ、トルコ、タジキスタン、キルギス、カザフスタン、アフガニスタン、中国、ウズベキスタン、トルクメニスタン、インド、パキスタン、ドーハを歴訪[ii]。その後クリントン長官も10月中旬、アフガニスタン、パキスタン、タジキスタン、ウズベキスタンを歴訪して、ドイツ、アフガニスタンとともに始めた「新シルクロード構想」を積極的に売り込んでいる[iii]。これは12月5日ボンでのアフガン復興会議で大きく打ち出されるのだろう。また9月29日にはニューデリーで、35年ぶりにインド、パキスタンの貿易相協議が開かれたが(数百名の企業関係者が同席)[iv]、これもアフガニスタン情勢安定化のためにはインド・パキスタン関係の改善が必須であることから米国が推進した可能性がある。なお米国政府は今のところ、アフガニスタンとの関連で中央アジアをとらえているが、国内の論壇は次第に中国、ロシアを裏から牽制できるアフガン、中央アジアの地政学的意義に開眼し始めた兆候がある[v]。

特殊な役回りのパキスタン

米国のアフガニスタン介入が収拾局面に入るに従い、パキスタンが悪役として立ち現れる場面が増えている。パキスタンはもともとインドとカシミール地方を争っているため、その北に隣接するアフガニスタンを抑えておくことが至上課題であり、そのためにタリバンを国内で養成していたのだから、今になって米国と利害が対立する面が表面化しやすくなって当然なのである。

最近では米国のマレン統合参謀本部議長が、パキスタンはタリバンの一派であるハッカニ一派を支援しているとして、強い非難を公開の場で繰り返した。米国は、米国とカルザイ大統領が共に進めるタリバンとの和平交渉に、パキスタンが裏から介入してこれを複雑なものにしているだけでなく、タリバン(数派に分かれている)のなかの過激派が米国CIA要員等を何回も襲って殺害していることに腹に据えかねる思いでいる。

パキスタンはテロ、軍事力において、広域的な役割を果たしているようだ。7月に新疆地方カシガルの当局者が、地場で起きているテロ事件にはパキスタンで訓練されたテロリストが加わっているとの非難を公にしたあと[vi]、7月31日にはパキスタンの諜報機関ISIの幹部が北京を訪れ釈明したものと思われる[vii]。8月31日にはザルダリ大統領が新疆のウルムチとカシガルを訪問して、現地関係者の不安解消に努めた[viii]。他方4月には、サウジアラビアで「アラブの春」的騒擾事件が起きればパキスタンは2個師団を送る用意がある、そしてバーレーン平定のためには軍のOBを千名送る用意があるとの報道が流れた[ix]。これは以前から経済援助を得ているサウジアラビアに求められて断れなかったもののようである。

その「アラブの春」であるが、コーカサス諸国、中央アジア諸国ではアラブと同じく権威主義、利権体質が強いにもかかわらず、同様の現象が生ずる兆候は見えない。中央集権の計画経済下にあったこれら諸国では、国民の政府に対する依存意識が消えないのだろうし、一部の国は「民主化運動」を展開する米国等のNGOを締め出しているので、騒動に火がつきにくいということもあろう。10月のカダフィ殺害の映像はインターネット等でこれら諸国にも強烈な衝撃を与えたに違いないのだが、政権の側からの反応のようなものは未だうかがわれない。

トルコ、イランの後退

なお8~10月は、中央アジア地域における2次リーグ的存在のトルコ、イランの双方とも、その外交に停滞が見られた時期であった。トルコはダフトウール外相の主導下、これまでのEU加盟を懇願するだけの外交から、中東の盟主(もともとはオスマン帝国である)としての地位の回復を目指して著しい成果をあげてきた。エアドアン首相もイスラエルとの対立的言辞を強め、9月半ばにエジプトを訪問した際には英雄扱いされている。

だが破綻は絶頂で訪れるもの。9月19日にニューヨークで行われたクリントン国務長官とダフトウール外相の会談でクリントン長官は、「トルコもイスラエルも米国の同盟国」だとして、イスラエルとの関係を改善するよう求めた[x]。また10月にはクルド人の武力闘争が強まったため(9月にはイスラエルがクルド人組織のPKKと欧州で会談を予定、との報道が流れ、ダフトウール外相が反発を示した経緯があった)、10月24日には戦車、航空機等、本格的な兵力をイラク北部のクルド人居住地域へ越境侵入させた。そのような情勢のなかでエアドアン首相は、10月中旬に予定されていたカザフスタン訪問を延期したのである。7月29日には総参謀長と三軍参謀長が一斉に辞表を提出して、政府への不満を明確化させてもいる[xi]。与党「公正発展党」は6月12日の総選挙で勝利したのも束の間、好事魔多しの状況となっている。

他方イランでは、ハメネイ最高指導者が数カ月続いた暗闘に勝ちぬき、アフマディネジャド大統領を自分の風下に置くことに成功したようであり、大統領の権威に空洞化が目立つ。

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[i] プーチン首相は、「多くの商品の輸出・輸入関税を廃止するもの。WTOの規定にも合致している」と説明している。

アゼルバイジャン、ウズベキスタン、トルクメニスタンは返答を留保した。

この「自由貿易地帯」は、EUとの協力協定を結びたいがためにロシア主導の関税同盟に入ろうとしないウクライナを、自陣営にも引き留めておくための窮余の策とも見える。

[ii] タジキスタン、ウズベキスタンでは、ドイツのシュタイナー・アフガン問題特別代表と連れだって歴訪、先方首脳とも連れだって会談しているようである。

[iii] 9月21日には国連総会の場で、クリントン長官、ドイツのウェスターウェレ外相とアフガニスタンのラスール外相が一堂に会して、新シルクロード構想に関する大臣会合を開いている。アフガニスタンとその周辺を包括する経済開発に焦点をしぼったものであり、27カ国の外相あるいは高官、国際機関の代表が出席している。

[iv] 米国務省資料。

[v] 8月1日、サムエル・チャラプとアレクサンドロス・ピーターセンはwww.americanprogress.org掲載の論文で、米国は中央アジアを「ロシアの領域」と見なすのをやめ、中国に対するバランスを構築できる場所ととらえて長期的に関与していくべきことを唱えている。

[vi] 8月31日、 The Times of India

[vii] 8月2日 AP

[viii] 8月31日、The Times of India

[ix] http://www.wnd.com/?pageId=284429

[x] 同日配布の国務省資料。

[xi] http://www.keeptalkinggreece.com/2011/07/29/turkey-in-crisis-chief-of-general-staff-top-military-submit-resignation/

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