Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2011年11月 6日

ユーラシア情勢の動向 8月から10月

1.パキスタン
(1)パキスタンは、「ビン・ラーディンをこれまで匿っていたのではないか」という米国の冷たい目に耐えかね、活発な外交を展開した。要人によるロシア、中国訪問は先回紹介したが、その後ペルシア湾口近くのグアダル港を中国に海軍基地として提供すると公言してそれを中国側に公に断られたりして、まともに取り合ってもらえていない感がある。

あげくには、7月下旬、新疆地方で起きたテロ事件につき中国政府が、犯人のウィグル人はパキスタンで訓練を受けたと主張したため、31日にはパキスタンの軍諜報ISIの幹部が北京に赴き釈明する騒ぎになった[i]。テロリストの養成は、パキスタン外交に一種の力を与えてきたが、時には自らにバックファイヤーする。

(2)他方パキスタン側が、あたかもビン・ラーディン殺害への報復であるかのように、CIA要員87名への査証発給を遅らせたり、国内のCIA協力者を逮捕する態度に出た時、アメリカの堪忍袋の緒は切れた。パキスタンへの軍事援助を8億ドル削減する姿勢を明らかにしたのである。アフガニスタンからの米軍、ISAF軍撤退においても、陸上経路での搬出はパキスタンよりも主として中央アジア・ロシア領経由で行う方向で、関係国との交渉が進展中である[ii]。

このような圧力に対してパキスタン側は折れ、7月中旬にはISIの長官シュージャ・パシャが訪米[iii]、87名のCIA要員へのビザ供与を約し、「CIA要員は、パキスタン政府と調整することなしにパキスタン領内を自由に動ける」とのことで合意した。ほぼ同時に米国からは中央軍司令部のメッティス将軍、ISAFの新司令官アレン、ペトレウスCIA新長官がパキスタンを訪問して今後の協力について話合った。ビン・ラーディン殺害をめぐる米・パキスタン間の摩擦はこれで一応、手打ちが行われたようだ。しかし米国は、これまでにも増して、パキスタン政府には慎重に対応していくことだろう。

2.イラン
 4月以来続いたハメネイ最高指導者とアフマディネジャド大統領の間の権力闘争は、前者の勝利で片がついたとされる。後者は2012年の総選挙、2013年の大統領選挙を通じて自勢力をさらに広げようとして守旧派の反撃を受け、目下のところかつての手兵であった革命防衛隊すらもハメネイ側に奪われたようで、アフマディネジャド大統領は目下レームダック化していると言われる。 

3.トルコ
 トルコのオスマン族発祥の地は中央アジアであり、トルコ系人種(テュルク)は新疆、シベリア地方にまで分布する。しかもオスマン帝国は、第一次世界大戦後崩壊するまでは、バルカンから中近東に及ぶ広大な地域を支配するイスラム帝国の盟主であった。

トルコは現在、穏健イスラムのエルドアン首相の下に年間9%近くの経済成長を達成、6月12日に実施された総選挙で550議席中327議席を獲得し、選挙戦中暫し休止していた感のある活発な外交を再開し始めている。それは未だ、首脳、ダーヴトオール外相の人脈・手腕に多くを負うものであるが、東西の狭間で穏健な立場からバランスを取り、仲介を行える立場にあり、民主主義、市場経済にコミットしていることからも、日本にとっては有力な提携相手である。

4.ウクライナ――ロシアとの摩擦・中国の進出
(1)「ヤヌコーヴィチ大統領はロシア寄り」というのがこれまでの一般の評価だったが、最近ウクライナとロシアの間には摩擦要因が目立ち始めている。基本的には、2008年の世界金融危機で受けた被害をIMF融資で乗り切ろうとしているウクライナに、IMFは歳入構造の改善などの条件をつきつけており、これを実現するためにウクライナ政府はロシアからの天然ガス価格を大幅に下げる必要があるということがある。

この価格はユシェンコ政権時代にチモシェンコ首相がプーチン首相と交渉して決めた方式に基づくもので、原油価格にタイしているため、現在では西欧向けロシア天然ガス価格を大幅に上回るに至っている。これに対してロシアは、ウクライナにおける天然ガス関連設備をガスプロムに譲渡すること等を値下げの条件として、ヤヌコーヴィチ大統領と対立しているのである。

(2)ヤヌコーヴィチ率いる「地域党」が野党の時代には、米国との共同演習を中止させて票を稼いだが(2009年)、政権についた2010年にはこれを再開[iv]、本年2月にはラスムッセンNATO事務総長が来訪して「将来はNATOのMDにも加わる」ことを話し合った。

(3)8月11日ヤヌコーヴィチ大統領はソチで休暇中のメドベジェフ大統領を訪問して話し合ったが、係争問題については何も解決できなかった。ロシアは12月に総選挙、ウクライナは12年10月の総選挙を前にして、双方とも下手な譲歩はしにくい。この冬には、2009年と同じ「ガス代金を払わない」「払わないならガスを止める」という乱暴な「ガス戦争」が繰り返される可能性も指摘されている。

(4)そのような中6月18日に胡錦涛・中国国家主席が10年ぶりにウクライナを訪問、年内に鉄道建設等35億ドル相当の案件に融資を行うことを約束した。中国が初めて保有する空母「ヴァリャーグ」はウクライナが中国に売却したものであり、ウクライナはソ連時代の兵器生産地として今でもアントノフ輸送機、短距離ミサイル等を中国に売却できる立場にある。中国のウクライナに対する関心は、気まぐれではない。


5.バルト諸国
(1)バルト諸国は歴史・文化的には完全に西欧に属し、ソ連崩壊後はEU、NATOに加盟したが、ロシア系人口を多数抱え(リトアニアを除く)、エネルギー資源を中心にロシアの経済利権が再拡大する情勢にある。

(2)この時期に目立ったのは、リトアニアにおけるエネルギー問題である。リトアニア・ガス社は、ロシアのガスプロムとドイツのルールガスが株の37%づつ、リトアニア政府が18%を有しているようだが、リトアニア政府はロシアから出ている同社会長ゴルベフ(KGB出身、プーチン首相の学友と言われる)に離職を勧告、6月には議会がEU規則に合わせる形で「天然ガスの供給者と配給者は同一であってはならない」とする法律を採択し、パイプライン網をガスプロムから剥奪する構えを見せている。

(3)またリトアニアにはかつてイグナリナ原発があり電力輸出もしていたが、EU側からの圧力で閉鎖している。ロシアは隣接のカリーニングラード、あるいはベラルーシに原発を建設して電力をリトアニアにも輸出することを策しているが、その建設の動きは遅々としている。その中でリトアニアは自国北東部ビサギナスに原発を作るのを急ぎ、韓国電力公社に発注していたが、これが急遽受注を取り下げたため、7月には日立・GEに優先交渉権を与えた。日立にとっては海外で初めての原発プラント建設で、130万kW級の改良型沸騰水型原子炉を提案している由。

6.ベラルーシ
(1)ベラルーシは昨年末の大統領選挙前後、野党を弾圧したとして、西側から制裁措置を受けている。また大統領選挙前のばらまき政策がたたって、通貨を大幅に切り下げる経済危機に直面、ロシアから輸入するエネルギー・電力料金を払え、払わない、払わないなら資産を寄こせ的な、いつもの騒動を起こしている。

面白いのはそこにも中国が乗り出してきたことで、6月14日には中国輸出入銀行が道路建設などの資金として10億ドルの融資を供与することで合意している。他方ロシアはその1週間後、8億ドルをユーラシア経済共同体を通じて融資することをベラルーシに伝えている。中国のために、ロシアもベラルーシに対する交渉上の立場を弱められている感がある。

(2)なおベラルーシは8月から、集団安全保障条約機構の議長国になった。8月12日カザフスタンのアスタナで行われた非公式首脳会議でルカシェンコ大統領は早速司会を行い、事後の記者説明もこなしている。ロシアや欧米と対立しては、次の瞬間には何事もなかったかのように振る舞うことで大国を競り合わせ、そこから最大限のメリットを引き出す外交に長けている。

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[i] 8月2日付 Zpress.kg

[ii] 7月11日付ロシア・コメルサント紙

[iii] 7月21日付ロシア・コメルサント紙

[iv] 本年6月中旬の共同演習で米国はイージス艦モントレーを黒海に送り、「MD能力を有するイージス艦の黒海配備は有事の時だけということで合意したはず」というロシアの抗議を招いている。

コメント

投稿者: 関 淑子 | 2011年11月16日 11:47

米国ではBody of Knowledge-BOKを様々な産業で創っています。多種多様な技術・知識・ビジネス・ノウハウを統合体系化して、パッケージとしての新しい価値を創造し、新産業を創出することが目的です。
ところで、PECCがAPECで培ったBOKがTPPで役立つと言ってますよ。

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