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世界はこう変わる

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2011年8月28日

失われた意味を求めて 第二話 国は人間の作ったもの。その中身は人間が決める

国というのは人間が作った人造物だ。中世のヨーロッパでは、今のフランスやドイツのような国はなくて、ハプスブルグ家とかカペー家とかの有力な豪族(「王」を名乗っていた)が征服や政略結婚でヨーロッパ全土に虫食いのような飛び地を持っていた。シェイクスピアの「マクベス」という劇では、王様のダンカンはいつも家来を連れて自分の版図を巡回しては、諸方の豪族の服従を確認して歩いていたのである。

その豪族たちが金に困って自分たちの武力を維持できなくなった時、版図全体の安全は王が抱える常備軍が守ることになった。農民を兵士に徴用すれば無料だろうが、彼らが畑仕事をしないと領主が困る。そのため、大きな長期の戦争には傭兵が用いられた。17世紀にはそれは、常備軍となっていく。大人数に給料を払うにはカネがかかるので、国王は役人の数を増やして全土から税金を集めさせ、その金で常備軍を養っては、領土を広げていった。19世紀になるとフランスのナポレオン皇帝は若者を強制的に徴兵する制度を作り、国を強力な戦争マシンに変えて、ロシアのモスクワにまで攻め込んだのである。

つまりヨーロッパの国家は、領域の民から血と汗(兵役と税金)を取り上げる装置、領土を拡張するための装置として作られた人造物であると言っていい。その後国家は、金持ちから税金を多めに取って困っている者たちに回す社会保障という制度を始めたので、みんなから頼りにされているが、もともと人造物だからいつなくなっても不思議でない。僕が住んでいたモスクワでは、ソ連という世界で2番目に大きな国家が1991年、あっけなく消滅していった。

国というものは、有無を言わせず税と兵士を徴収する怖い存在だし、社会保障にしても別にお偉方たちの根が優しいから我々にカネをくれるというわけでもない。19世紀、労働者たちも選挙権を与えられるようになると、彼らの票を得るために与党や野党が社会保障を次から次へと充実し始めたのである。

だから政府は、カネのあるところからないところへ、資金を流すポンプのようなものともなった。今日の日本では政府が、年間約200兆円もの金(GDPの半分に近い)を社会から吸い取っては足りないところに吐きだす、巨大な循環装置となっている。

国というものは、一つの大きな、感情のない装置である。よく「国のために死ぬる覚悟」などと言うが、よく考える必要がある。もし国という装置を差配しているのがほんの一握りの特権階級だったら、別にこれのために死ななくてもよかろう。但し、日本を他の国に占領・支配された結果、おいしい仕事はみな取られ、日本語では仕事もできないという状況になったら困るので、その時には僕も戦いに行くだろうが。

国というものがあるから、国境などというものをめぐって面子争いが起こりやすい。国がなければ、水利権や漁業権は境を接する村の間で話し合えばいいのだから、面子の問題は起こりにくい。だが日本人は、日本語を使い日本食を食べる、この日本と呼ばれている列島でしか生きていけないから、これを守るためにはやはり国が必要なのだが。

そして、日本を守るためには、今の日本政府や自衛隊の規模は時代遅れになってきた。世界ではアメリカや中国、インドのような多民族・大人口の国々がはばを利かすようになっているからだ。EUとかアメリカとか中国のような多民族統合体と渡りあっていくためには、日本も他の国々と提携して、自分の力を大きく見せないといけない。

1970年、僕が外務省に入った時の初任給は、たしか2万円強。当時のレートでは100ドルにもならなかった。それが今では15万円、2000ドル弱くらいだろう。暮らしが豊かになるにつれ国民は自分たちの権利を意識し、政治についての知識も得、自分たちで政治を動かしていきたいと思うようになる。

だから、「国」というものはわれわれにとって一体何なのか、要るのか要らないのか、要るのだったらどのようなことをわれわれは国にやってもらいたいのか、その代わりわれわれは政府にどのくらい支払わなければならないのかを、みんなで議論していくことが必要なのだ。特に今のような、世界の枠組みがひっくり返り、日本でも与党が交代して間もない時代には。

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