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世界はこう変わる

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2011年5月22日

中東民主化運動の裏

チュニジア、エジプト、シリアなど、「中東民主化運動」をこれまで見ていて感ずるのは、CNNの報道などもどこか真相をついてないな、「民主化」とか「ツウィッターの力」とか、美しい言葉をひねくりまわすだけで終わっているな、ということ。そして「アメリカの意向は」とか「英国の利害は」とか、国があたかも一人の個人であるかのようなことを言ってはばからない。

だけれどアインシュタインの「相対性の原理」じゃないが、社会というものはどこでも一筋縄じゃ割り切れない。
例えば、欧米諸国のNPOに注目してみよう。NPO――アメリカの60年代、急速に増えたものだ。若者たちの理想主義も背景にしているが、もっと散文的なことを言うと、若者たちの就職対策の一環でもある。アメリカのNPOは今でも、その予算の半分近くを、政府からの助成金にあおいでいるはずだ。半分公務員のようなものだ。

アメリカに住んでいると、1年に2~3回、ありとあらゆるNPOからfund-raising letter、要するに寄付の要請が舞い込む。前年度の業績を列挙して、「これだけやったのだから、今年も寄付してください」と書いてある。アメリカでは寄付するとそれが税控除に使える枠が大きいので、寄付することが自分自身の得になったりするのだが、それでも業績のないNPOに寄付する気は起らない。

さて、僕がウズベキスタンに在勤していた数年前のこと。ここでも、アメリカのNPOが多数活動していた。その中には共和党や民主党の資金で動くものもあって、民主主義の効用を宣伝したり、民主主義の実現の仕方を教えていたものだ。「民主主義を実現すれば、いい社会ができる」と。

非常に良いことをやっている・・・確かにそのとおり。だが独りよがりのところがある。というのは、ヨーロッパの民主主義というものは、16世紀から始まった経済発展の最終的な成果物であって、一朝一夕でできたものではないからだ。別の言葉で言えば、ヨーロッパは最初から民主主義であったわけではない。発展したから民主主義になれたので、民主主義だったから発展したわけではないのだ。

今回の中東民主化運動でも、その背後では欧米のNPOが活動しているようだ。昨日CNNを見ていたら、長年シリアで民主化運動をやっているというアメリカNPOの代表が出てきて、「シリアの民主化運動をアメリカのマスコミは十分カバーしていない。これだけの弾圧が行われているのに、アメリカ政府の対応は生ぬるい」といった趣旨を強調していた。そこで僕は、やっぱりと思った次第。

中央アジアや中近東のように経済・社会がまた熟していないところで民主主義をやろうとすると、それは資産の奪い合いで終わることになりやすい。民主主義が混乱を導くのだ。だから、アメリカのNPOがやっていることは、現地のアメリカ大使にしてみれば迷惑なことかもしれない。迷惑でも、共和党や民主党の影がちらつくものだから、何も言えないでいる。

そこから言えることは、中東や中央アジアにおいて、安易に「アメリカの意向は」とか言うべきではない、ということだ。アメリカにもいろいろactorがあって、別々の方向に動いているのだから。言うのだったら、「アメリカ国務省は」、「ホワイト・ハウスは」、あるいは「アメリカのNPOは」などと言うべきだ。アメリカも英国もフランスも、一つではない。

もちろん、中東というパズルは、NPOという一つの因子だけで解けるものではない。NPOは触媒のようなもので、一度化学反応を起こした後は、どこかに消えてしまう。

「民主主義」というようなイデオロギーも役割を果たすが、「集会に出れば1日10ドル」というような金銭的な工作も重要だ。中央アジアのキルギスも「民主化運動」でよく政権を替えるが、集会に出てくる青年、農民達は「日雇い」であることが多い。

そしてキルギスの場合、そうした運動の背後には利権獲得を狙う者がうごめいている。中央アジアとか中東のように、富の規模が小さく、しかも偏在しているところでは、政治というものは必ず利権闘争に結び付くのだ。そこでは民衆は彼らの野心のために利用され、1週間だけ国の主権者になったような錯覚を与えられたあと、捨てられるのだ。

マスコミも、そこらへんは重々承知のはずだ。どうしてちゃんと報道しないのだろう?

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