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世界はこう変わる

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2007年2月24日

また借金経済のロシア?

2007.2,24
河東哲夫

1998年までのロシアは国債を担保に西側で起債する借金経済を築き、98年8月のバブル崩壊を招いた。自分はその時アメリカで講演し、「ロシアは大変な借金マシーンとなった。いつかは崩れるだろう」と述べたが、ちょうどその日にロシアのバブルは崩壊した。
今また、ロシアの対外借り入れが急増している。98年8月の再現になるのか検証したい。

1.石油景気の中、ロシア政府は06年8月237億ドルの公的債務をパリ・クラブに前倒し返済した。
他方、ロシアの銀行は西側で短期資金を借り入れ、それをロシア国内で消費者金融に回してさやを稼いでいる。手数料等で騙して、実質50%の金利を取っているところもある。
しかしロシア市民は月賦とかデビット・カードに夢中で、消費に余念がない。銀行の消費者ローン残高はこの3年で、ゼロから350億ドルに増加した(ロイターズ)。
この他、企業M&A資金を海外で借り入れたり、これまでの債務の借り換えのために借り入れたりで、ロシアの対外債務は急増し、現在累積残額2874億ドルのうち4分の3は民間債務になっている。                

2.海外資本市場での起債、株式市場でのIPOの動きも盛んである。
ロンドンのシティは、相次ぐロシア企業のIPOに揺れている。日本の郵便貯金に相当するズベルバンクも、近くIPOで100億ドルを集める予定でいる。こうしてロシア政府、企業は年間収益をはるかに上回る資金を簡単に手に入れている。
シティでは、透明性に欠け政治性の強いロシアの企業に野放図にIPOさせることに対し、警戒の声も聞かれる(ガーディアン)。

3.他方、ロシア人自身の資本は長期の高金利を狙って海外に流出している。
06年第3四半期には120億ドルが流出したが、これは第2四半期の3倍で、昨年同期より13%多い(経済発展センター)。
ロシアはこれまで旧ソ連諸国を中心にM&Aを行ってきたが(05年までに累積で1200億ドル投資。但しヴァージン・アイランドからの1232億ドルのうちかなりの部分も、ロシアの資金と見られる)、今や関心は東欧、西欧の企業に移ってきている。2005年には西側で総額51億ドル、83件のM&Aを行った。06年上半期には総額33億ドル、57件に増えている(Vedomosti)。
BPやシェルがガスプロムやルークオイルの買収にあう可能性が、面白半分囁かれ出している。しかし、西欧の企業家はロシアを軽視し、自分の企業が吸収されてしまうリスクを過小評価している。

4.だが、98年に比べればロシア経済の懐は深く、以上の債務も今のところ問題ない。外貨準備は2700億ドルに達し、財政黒字を不胎化するため積み上げた「安定化基金」も06年11月1日には2049兆ルーブル、即ち765億ドル相当に上って、毎月60億ドルのペースで増えている(Mosnews.com)。
移行経済研究所は、原油価格が3年で1バレル25ドルに下がった場合でも、ロシアは安定化基金等でしのぐことができる、とのシミュレーションを発表した。

5.しかし不安要因は残る。
(1)1991年6月だったか、当時のパブロフ首相は国庫を点検してみたら外貨準備はほとんど残っていなかった、という爆弾発言を行って国を恐慌に陥れた。その再現はないのか?
(2)対外民間債務2150億ドルは、GDPの約20%、貿易黒字の約2倍に相当する。しかも、ロシアの銀行の規模は小さい。銀行融資残高はGDPの20%に過ぎず、西側の標準を大きく下回る。国内債権が不良資産化し、同時にルーブルが暴落したりすれば、対外返済能力に大きな問題が生じ、政府が迅速に公的資金を注入しなければ預金取り付け騒ぎ等も起きるだろう。
(3)石油・ガス価格がピークにあるこの時期に起債した債券を将来、借り替えるため再発行する際、石油・ガス価格が下落していると、負担が大きくなる。
(4)大々的な消費者金融が始まったばかりのロシアでは、消費者の信用調査システムが整っていない。

6.その他の不安要因
(1)06年の消費者物価上昇率は、ソ連崩壊後初めて10%を下回ったようだ。しかし経済発展センターの統計を見ると、06年1月から9月に鉱工業製品は15%、エネルギー資源採取価格は24%、国産電気製品は14%価格が上昇している。エネルギー生産国であろうとも、国際エネルギー価格の上昇は当然跳ね返る。
(2)消費ブームの中、輸入が輸出以上のテンポで伸びている。06年第3四半期の輸入は430億ドル、前年同期比で53%増と記録的な伸びを示している。これにより、輸入の伸びが輸出の伸びを初めて上回った(経済発展センター)。
あと数年でロシアの貿易収支はトントンになってしまう、と予測する向きもある。
(3)怖いことは、経済のネガティブな要因が選挙の年である07年(12月に総選挙)、08年(3月に大統領選挙)に集中する可能性があることだ。

コメント

投稿者: 勝又 俊介 | 2007年2月25日 16:35

一部の企業集団による国家資産の不当な私物化や、過度なインフレの放置など、経済政策においてあまりにも野放図だった前政権に比べて、プーチン政権が推し進める秩序・統制の強化は、経済運営においても、外資の大胆な導入やロシア資本の積極的海外進出へと結びつくことによって大きな成果を収めていると考えますし、今後のリスクについても、冷静に見極めたうえで、絶妙な舵取りをしていくのではないかと思っています。
むしろ、経済的な破綻の可能性よりも、「強いロシア」を追求した結果が、経済以外の側面において大きな亀裂を生じさせる可能性のほうが高いのではないかとも思います。いまだ落ちる気配のない高い支持率・求心力の強さの原因にもなっていると思われる「愛国主義への煽り」が、いびつなかたちで表面化していきはしないのか、火種は少しずつ増えてきているような気もするのですが、河東先生のご賢察を賜りたいところでございます。
今後のロシアの経済情勢については、マクロ的な視点もさることながら、民間レベル、とりわけ個人レベルの経済活動を注視していきたいと考えております。個人の「消費」動態の変化については、上記論文においても実状を教えていただきましたが、インフレの異常な進行や、財閥の不当な跋扈など、国家レベルの懸案事項に目を奪われていた国民が、そういった課題がある程度取り除かれ、新たな資本主義大国として急成長を遂げつつある状況下において、個人レベルの生活・労働環境にどんどん視点を深め、どのような経済のうねりを創り出していくのか、これらの要素は、政権全体の運営にも多大なるインパクトを与えていくことになるかと思います。
引き続きご教授のほど、何とぞ宜しくお願い申し上げます。


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