Japan and World Trends [日本語] 日本では自分だけの殻にこもっているのが、一番心地いい。これが個人主義だと、我々は思っています。でも、日本には皆で議論するべきことがまだ沢山あります。そして日本、アジアの将来を、世界中の人々と話し合っていかなければなりません。このブログは、日本語、英語、中国語、ロシア語でディベートができる、世界で唯一のサイトです。世界中のオピニオン・メーカー達との議論をお楽しみください。
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世界はこう変わる

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2007年1月14日

今年のアジア

―――協力充実へ地道な努力の年―――
(この原稿は東アジア協力評議会のサイト「百家争鳴」に掲載したものです。
http://www.ceac.jp/cgi/m-bbs/
                                                        河東哲夫
ヨットをしていると、風向きが不定になる時が一番危ないと言われています。その伝で行くと、今年のアジアは嵐ではないものの風向きがやや不安定になる時かと思っています。

米国では既に次の大統領選挙が迫っていますし、中国では内政上最も重要なイベントである共産党大会があって、恐らく胡錦涛体制がほぼ完全に確立されることになるでしょう。上海の党ボスが逮捕される等、胡体制にとっての「異分子」を無力化する作業が今進められていますが、その間胡政権は足をすくわれるのを避けるため、対日関係でも慎重気味に対処してくるのではないでしょうか? 今年は盧溝橋事件、南京虐殺事件から70周年です。胡政権の方から右事件をプレーアップしてくる可能性は低いと思いますが、米国では南京虐殺事件の映画を作る動きも消えていないようですから、注意が必要です。
 
12月には韓国で大統領選挙、台湾で立法院の選挙があります。双方とも、東アジアの情勢に大きな影響を与える大イベントです。そして北朝鮮の核開発問題も、大きなイシューとして引き続き残っています。そして、これまではASEANの発展、民主化の象徴のように僕も思っていたタイで、風向きが乱れてきています。この国では経済が発展して軍人達もおとなしくなったかと思っていたら、利権争いも含めて相変わらず内政に密接に関与していることが暴露されてしまいました。そして、国内の安定は老齢の国王によって維持されている。果たして今年、民主政治に円滑に復帰し得るか、注目しています。
 
そんなこんなで、「東アジア共同体」についての議論は、今年少し盛り下がるのではないかと思っています。もともとかなり将来の話で、前向きの目標として山の上に旗印がひるがえっていることが最も重要、みたいな話しだと思います。これを目標として、その基盤を着実に整備する努力を続けるのが今年、ということになるのではないでしょうか。
 
日本はアジアについては、いいスタートを切りました。安倍総理が日程上無理をしてまで、延期されたASEANプラス首脳会議及び東アジア首脳会議に早期出席したことは、歓迎されるべきことと思います。「アジア・ゲートウェイ構想」などの新しい対アジア・イニシャティブの実行、アジア諸国との国際金融面での協力の一層の促進、経済連携協定(EPA)、自由貿易協定(FTA)の締結、東南アジアの物流を大きく促進するハイウェーの建設支援等、今年日本がアジアでやるべきことは膨大であり、しかも言葉だけではない実のあることです。

なお、政府が憲法九条改正を提起するのであれば、これが戦後アジアの秩序を再編したいとの意図からではなく、むしろ平和と安定の維持に貢献しやすい体制を組みたいが故であることを、これからアジア諸国に説明していかなければなりません。

コメント

投稿者: 勝又 俊介 | 2007年1月17日 13:42

「情勢が安定している状態」というのも、それはそれでどこか不気味なニュアンスがあって、次なる不安定要因を見過ごしているか、見ないことにしているか、そうしたなかで、マグマがどんどん成長してしまっている場合もあるのではないかと思います。
そういう意味では、アジアの各国が、好むと好まざるとに関わらず、現状をかなりさらけ出して、課題をテーブルのうえにのせている状態は健全とも言え、今後の方向性を具体的に議論する素地ができあがりつつあるのではないでしょうか。

中国に関して言えば、河東先生のおっしゃるように、胡錦涛体制確立の流れをつくるなかで、70年前およびその前後の様々な悲劇をプレーアップすることはないとしても、どうしても気になってしまうのは、テレビメディアをはじめとする、大衆カルチャーの動向だったりもします。
中国のNHKとも言うべき中国中央電視台をはじめ、各省の省名を冠する地方の中核電視台では、戦時中を題材にしたドラマが今なお制作・放映されておりますが、こうした作品をどう描くかなどひとつをとってみても、政治のベースとなる世論形成に果たすメディアの影響力も、無視できないものであると考えます。

「東アジア共同体」構想についても、日本の憲法改正論議と相まってしまうと、各国にどれだけ説明しても、真意を受け取ってもらえるかどうかは少なからず困難があるかと思いますし、各国側に、受け取りたくても受け取れない状況
が存在することもあることでしょう。
ただ、後ろ向きの話になってしまっては元も子もないですし、明るく、前向きなテンションでの活発な議論を期待したいところです。

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