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世界はこう変わる

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2010年4月10日

インドをめぐる国際関係――うわさと本音と

昨年12月、デリーでの学会に出たときの印象についてはもう書いたが、会議の後インド外務省傘下の国際情勢協会(World Affairs Council)などで何人かの専門家と会って、インドの国際関係についてかねて疑問に思っていたいくつかのことを聞いた結果についてはまだだった。
やっと時間もできたので、記録に残しておく。このブログの、「5年ぶりのデリー。発展の諸相」http://www.japan-world-trends.com/ja/cat-1/post_423.phpと合わせてお読みいただきたい。

インドと言えば、「台頭する中国を牽制するために、豪州などとともに東アジア首脳会議に入れろ」とか、「いや、中国はパキスタン、ネパール、スリランカなどに手を回し、インドを既に包囲している」とか、「オバマ政権のインド軽視は問題だ。このままではインドはロシアに歩み寄ってしまう」、または「インドと中国の国境情勢がきなくさい。このままでは軍事衝突必至だ」とか、あるいはロシアの方からは「これからのユーラシアはロシア・中国・インドの三大国で仕切るから、米国やNATOは手を出すな」というような、いろいろの議論がかまびすしい。みんなインドを自分の都合のいいように解釈し、自分の都合で使いたい。そこで今回は、それらの思惑の「歩留まり」をさぐってみたのだ。

インドの、まあ最高レベルの、それも若手の専門家達と話してみた結果は、「よく調べてるよ。よく知ってるよ。これなら大丈夫。あまり目先の変化に一々惑わされず、悠揚迫らない考え方をしているな」というものだった。まあ喧々諤々の論争に陥りやすいインド人だから、情勢の変化に対応して外交路線を調整しようとしても、議論百出でまとまらないということもあるだろうが。

印中関係について言うと、インドは中国の生命線を抑えている。つまり、中国が石油、LNGを中近東、アフリカから運ぶインド洋をその海軍力で抑えているのだ。このファクターは大きい。中国がペルシャ湾口にも近いパキスタンのグワダラ港に利権を持っていたり、グワダラまで新疆から陸路で行くことができたり、はたまた中国がスリランカと関係を促進したと言っても、蚊が止まったくらいにしか感じていないのだろう。

年長の外交官には民族主義的考えを強く持つ者が多く、中国に対する敵愾心を如実に示す者もいるが、若手の間では国家、民族、国境といった近世西欧が生み出した概念にとらわれて紛争を起こすことは時代遅れだと感ずる者も増えていた。

中国について
(1)ある専門家との対話を、脚色も加えて再現してみよう。
「インドは今や中国によって包囲されるようになってしまったという見方がありますが」と僕が聞いたのに対して、彼はにっこり笑って言った。
「インド洋がありますよ。」
「(僕)それでも、ミャンマーに近いアンダマン諸島のひとつの島には中国軍のレーダー施設があるという報道がありますが」
「アンダマン諸島はインドの統治下にあるのですが」
「(僕)・・・・・・・・・・」
インドはね、パキスタン以外には真の脅威を感じていないのです。ネパールの政権には毛沢東主義者がいて、彼らがかつて中国の支援を受けていたのも確かですが、インド軍にはグルカ(ネパール人)連隊があります。インド国内の毛沢東主義者については、中国との関係はわからないのです」

「(僕)印中国境情勢が緊張している、という見方については?」
「印中間には戦略的パートナーシップの関係があります(2005年4月温家宝首相がインドを訪問、両国は共同声明で"strategic and cooperative partnership for peace and prosperity"を築いていくことで合意している)。そして、反テロでも協力しています。確かにインドは最近、対中国境地方に軍隊を増派し、インフラも建設していますが、中国との国境紛争については、紛争解決メカニズムがあるのです。」

「(僕)中国との関係が悪くないなら、ロシアが言うように印中露三国でユーラシアの安全保障を仕切ることができるのではないですか?」
「ロシアの言う印中露三国協力は、反米同盟的色彩を持っています。それに、今の中印関係ではそのような協力はとてもあり得ない話です」

(2)上の懇談が終わってみると、World Affairs Councilの大きなホールで、インド・中国・ロシアの専門家が集まった「印中露対話」が始まっていた。この地球では、完全な対立関係や完全な友好関係というのは滅多にない。対立は静かに進行して、ある日偶発的事件によって突然火を噴く、というようなことが多い。

(3)デリー、ニューデリーには地下鉄がもう随分あるが、今でも方々で路線の延長工事が進行している。日本から円借款も出ている。工事現場の覆いにはChina Railwayの大きな字があった。中国が建設を落札したのかもしれない。日印中協力というわけだ。

(4)ダライ・ラマがデリー北部に亡命しているが、彼の周囲のチベット人青年たちが中国に対して過激化すると、インドにとっては扱いが難しくなってくるだろう。

対米ロビー能力が強いインド
(1)今、通り相場になっているのは、「オバマ政権はインドには冷たい。ブッシュ政権はインドの核保有を認めて関係を促進したが、オバマはそうではない」ということである。
インドの専門家の間でも、そのことを気にする者はあった。例えば昨年11月14日にオバマが早稲田大学でやった、アジア政策についての大演説でインドへの言及がなかったことを指摘する等である。また、その直後のオバマの訪中では、インドとパキスタンの間で係争問題となっているカシミール問題の平和解決の必要性を指摘するところがあったが(共同声明にはそのような箇所はない。但しインドとパキスタンの間の関係促進を求めてはいる)、これは米中の間で議論してほしい問題ではないので、米側に公式に抗議したとのことだった。

(2)オバマがインドに対して中国に対するより一段低い対応をしているのは、事実のように見える。たとえば09年11月中旬にオバマ大統領が中国を公式訪問したあと、11月末にはシン首相の方から訪米している。もっとも、かつてブッシュ大統領がインドを訪問しているから、今度はインドの方から米国を公式訪問する番だったのでもあるが。

米国がアフガニスタンで作戦している間はパキスタンの協力が不可欠だからパキスタンと敵対するインドへの対応を控えているのだ、という説明も可能だが、ではブッシュ政権は両方ともうまくこなしていたではないかという疑問が起こる。
まあ、核廃絶を標榜するオバマ大統領だから、核拡散の口火を切ったインドに最初から好い顔はしにくいのだろう。

(3)それでも、「米国にはインド人が200万人もいて、ユダヤ人に次ぐロビー勢力なのです」と言う者もいて、自信もある。だからオバマ政権の対インド姿勢にあたふたとしている、という印象は受けなかった。

アフガニスタンにインドは12億ドル援助をコミット
(1)アフガニスタンではパキスタン、中国の翳が濃いために、インドは手を縛られている。そのあたりをある専門家はこう表現した。
「インドにとって、自分の地域での利害が米国と一致したのは、ブッシュ政権の時が初めてなのです。しかし米国は、アフガニスタン作戦でパキスタンの諜報に完全に依存しています。ですから、インドはアフガニスタンの安全保障については参予させてもらえないのです。たとえ参予できたとしても、インドが入れば中国もアフガニスタンに入ってくるでしょう。2001年まで、中国はタリバンと良い関係にあったのです。アフガニスタンの通信設備は、当時中国が作ったものです。しかしバーミャンの大仏爆破の頃から中国とタリバンは関係が薄くなって、今はわかりません」

(2)それでも、インドはアフガンに12億ドルをコミットし、300人を常駐させている。「インドがアフガニスタンに何もしないから、オバマがインドに冷たいのだ」という、西側一部の解釈は正しくない。そんなことを言えば、中国も似たようなものだ。

(3)中期的将来、米国にとってアフガニスタンが主要な関心対象でなくなった場合、中国・パキスタンvs.インド・米の地政学的構図がこの地域に現出する可能性はあるだろう。

誰も意識しないが、インドとイランは悪くない関係
ある専門家は言った。「インドはイランと関係がいいのです。但しイランの核開発問題を除いてね」。

イランはインドとともに、パキスタンに隣接する国家だ。パキスタンと同じイスラムだとは言っても、宗派の異なるスンニーとシーアだ。そしてイランは西方からアフガニスタンに隣接し、アフガニスタンの西部をその影響下におさめている。

だから、インドが「イランとは関係が悪くない」と言うとき、それは特別の響きを有する。
インド人の支配階層はアーリア系だが、アーリア人はもともと中央アジアで発生し、イランを経てインドに入った者と、中央アジアから直接インドに入った者とに分かれるのだそうで、イランには人種的な親近感もあるのだろう(それは、パキスタンでも同じだろうが)。

上海協力機構(SCO)に関心はあっても、中国が入れてくれないインド
(1)インドは、SCOにオブザーバーとしての資格を持っている。だが、「加盟申請はしない。中国が招いてくれない限り(ということは、中国が反対しているということだ)。ロシアは、インドの加盟を支持してくれているのだが。09年6月ロシアのエカテリンブルクで行われたSCO首脳会議では、同時にBRICS首脳会議も開かれたのでシン首相が赴いた」ということのようだ。

(2)だがインドは、SCOとの関係がこのままでいいとは思っていない。専門家の一人は言った。「どこかの国が、SCOの改組を提唱するべきだ。ASEANのように、SCOを中央アジアを中心とする組織に作りかえ、この地域に関心国を持つ国すべての加盟を認めるようにするのだ。そのようにすれば、中央アジア諸国にとっても選択の可能性が広がるだろう。APECのようにするのです」。もっとも、APECにインドは入っていないのだが。

日本への期待と失望
インドは独立した当時から、日本には特別の思いを持っていた。だが大国とは思っていない。外交的には米国の意向に従う国だと思っている。
そして、インドが核実験をするたびに日本が批判をしてきたことの理由が腑に落ちない。自分の政策に反対されたことの恨みしか残っていない。

そしてまた、アジア開発銀行にインドが要請していた、対中国境地方のインフラ建設プロジェクトへの融資案件が、昨年秋理事会で却下されたことも、日本への失望をかきたてた。「アジア開発銀行の理事会で、日本は当初支持していたのに、2回目の審議で反対に回った」というのが、インド側の理解のようだ。

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