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世界はこう変わる

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2008年11月15日

「プーチン大統領」返り咲き?

●11月5日の年次教書でメドベジェフ大統領が、「大統領任期をこれまでの4年から6年に延長するための憲法改正」を提案したことは、モスクワで大きな反響を呼び起こしている。

「すわ、憲法を改正した上でメドベジェフが早期に辞任して前倒しの大統領選挙をやり、それにプーチンが出馬して当選、そこから2期の合計12年間勤めることになるのだ」という観測が多い。

●既に憲法改正のための法案は議会に提出され(ものすごく手回しがいい)、もしかすると今週中には採択されてしまう情勢だ。ロシアは非常に機敏な統治ができて、上に立っている者にはこたえられないだろうが、英国のタイムズ紙はその社説で、これは恥を知らない措置でロシアの将来に害をなす、と書いている。

●メドベジェフもプーチンも内外のマスコミから質問攻め(いつ大統領選をやるんだとか、プーチンが大統領に返り咲くのか等)にあっているが、両者とも尻尾をつかませない。
彼らが当面のロシア政局をどう運んでいくつもりなのか、両者の回答ぶりからはまだわからないということだ。

●ロシアの内部ソースを引用して、「プーチンはまだ返り咲きを決心していない。いずれにしてもプーチンは二流・三流の国の要人と会談したり(失礼な物の言い方で。まさか日本は・・・)、方々で挨拶ばかりしているような空疎な仕事はやりたくない。重要な決定だけ作っていたい」(Stratfor)のだそうだが、これはまた無理な注文で、力のある人には皆群がるし、是非自分達の催しにやってきて挨拶してほしいものなのだ。

●リベラルな評論家(前議員)ウラジーミル・ルイシコフは、「政権は、景気が悪化して社会状態が悪くなる前に、憲法を改正しておきたかったのだ」と論評している。

確かに、11月10日イグナチエフ中央銀行総裁がルーブルの変動幅拡大を容認する発言をしたために、市場ではルーブル売り姿勢が強まった。
次の日の11日、中央銀行は1日だけで70億ドル分の介入をしてルーブルを買い支え、この介入額はその前の週全体の分に相当したのだそうだから半端じゃない。もっともその御蔭もあって、ルーブルはそれほど下落していない。

だがルーブルはこれからも下落圧力を抱えたままで推移するだろうし、ルーブルが下がればインフレとなって社会情勢は悪化するだろうから、上記のルイシコフ氏の発言ももっともなのだ。

●大統領任期延長については、別の(能天気の)解釈も可能だ。
「ロシアは今、国家統治体制を『メドベジェフ用に』模様替えしようとしている。
5日の教書でメドベジェフ自身が言ったように、①議会に野党を増やし、②地方の自治権限を高め、③全国における与党の力を高める等の一環として、と言うか、それらのすべての土台である大統領権力を4年に1度選挙の洗礼を浴びるような脆いものではなく、6年ないし2期12年という安定したものとしよう、という深謀遠慮なのかもしれないのだ」という解釈。

だが、政治は人。いかなる立派なアイデアも、具体的な人間として具象化されると、「せっかく憲法を改正したのなら、早く大統領選挙をやって、国を安定した基盤に乗せるべきだ。今は経済危機だし」などという議論が沸き起こり、皆私心を秘めてやれプーチン支持、やれメドベジェフ擁護というふうに分かれて、争い始めるかもしれない。

●そして、メドベジェフの「教書」では、地方統治においても与党の地位を強化することが謳われているが、これでは、政権党である「統一」の力が一層強くなり、政府と与党が合体していたソ連時代に回帰することになりかねない。プーチン首相は「統一」の党首でもあるので、そうなると共産党書記長が首相も兼ねるという最強の形態になるのだ。

プーチンやメドベジェフが「いや、そうではない。民主的にやらねばいけない」と思っていても、そしてそう発言したとしても、ソ連時代のことしか覚えていないエリート達が、自分の保身や栄達のことも考えて他ならぬプーチン、あるいはメドベジェフを担いでどんどんBack to the pastというシナリオも十分ありえるのだ。
Copyright ©08.11 河東哲夫

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